Dunk Like Lightning


第四章 R's Return!


「トム?」
 竜也が何か思い出したようにつぶやいた。
「困った新入生で、大変なの。」
「どっかで聞いたことがある名前だな。トーマス=ジョン=キングって名前じゃないか?」
「知ってるんですか?」
「まあ有名なプレイヤーだし、それに・・・」
「それに?」
「知り合いのルームメートの弟だよ、多分」
「ええっ!」
「ま、それで困ったことがあったら・・・このメアドにメールしてくれ。コマンドはR!」
 彩子と宮城の間に喜色が走る。
「助かるよ。第一、松岡を泣かせた奴は許せないからね」
 一臣の失言にしらけた空気が漂い(約一人例外)、全員の目が好奇心とからかいの混じった目になり、一臣は硬直して青ざめた。始めに口を開いたのは彩子、
「一臣くん?それって・・・後でゆ〜っくり三千代ちゃんから聞いてみましょおうねぇ」
 真っ青を通り越して土気色、言葉も出ない。
「それにこの電話の向こうに、あなたの彼女、野々原りんごちゃんもいるのよね・・・ついでに三千代ちゃん本人も(はあと)」
 彩子の意地悪笑顔が強まる。
「いえ、その、松岡はある意味恩人で親友でもある存在ですから」
「どぉんな意味なのかな〜?」
 合掌。

 練習試合当日、ご存じ陵南高校体育館。
 大和台メンバーが到着し、
「おう茂一!元気かい」
 と北野監督が田岡監督を呼び捨てたことで驚きが走る。
「知り合いなのですか?」
「恩師だ。安西先生の同期。」
 と、複雑な表情で答えた。
「よう呼んでくれた。楽しくやろうで!」
「は、はい!本来ならこり、これ、こちらからうか、うきゃ、うかがうべきところをわざわざお呼び立てして、誠に申し訳ありません」
 安西先生の前以上の恐れ入りように、陵南メンバーから失笑が漏れる。
「正念場だ!」
 七緒主将は最近、根を詰め過ぎていてかなり憔悴しているが、雑念を振り払っている。
「相手は神奈川のベスト4、だが全国二位の海南と延長戦に持ち込み、湘北とも僅差だった。まぎれもなく全国レベルの強敵だ、気合入れろよ!」
「おうっ!」
「ああっ!」
「竜次、竜也、二人で仙道を押え込んでくれ。」
「ああ。」
「おれ一人でもいいぜ」
「インターハイ予選や選抜での福田の活躍、見たか?あれを封じるのは並じゃない。俺もできる限りがんばるし、卓巳も協力してくれ。インサイドに入れずに潰していく。仙道からの意外なパスに注意するぞ!」
「任せろ!」
「始めは攻めていく。一臣、インとアウト、両方からがんがん行ってくれ。ハイペースの速攻について行けよ?」
「はいっ!」
「ガキども、緊張は一瞬だ。早く試合勘取り戻せよ!スタメンでないメンバーも体はあっためとけ。緊張感抜くなよ!」
「っす!」
「よし、全力を尽くすぞ。」
「おう、準備できたか?ええ面構えや。攻撃の時にはとにかく早く散らばって、的を絞らせないことや。陵南のディフェンスは定評あるで。とにかく速攻、だれかゴール下に走り込んで外でパス散らして、3Pどんどん打っていくんや。中に入ったほうはリバウンドやで。で、タイミングが取れへん思たらすぐ中や。外-中-外、そのリズムを忘れなや。」
「はい!」
「さ、楽しんでくるんやで。」
「ラン&ガン!」

「仙道はまた遅刻か!すみません、もう少し待っていただけますか?」
「そのようです、電話したらもう出たそうですが・・・」
「全く、キャプテンの自覚があるのかないのか・・・・・」
 田岡の不機嫌をよそに試合の準備は進んでいた。
「いいかお前ら、今日の相手、大和台も打倒湘北を旗印にしているそうだ。練習試合とはいえ負けられんぞ。」
「おうっ!」

 仙道の到着を待って試合開始。
「この馬鹿、また寝坊か!目覚ましを二重にしろって言ったろ!その上何人もモーニングコールしたのに二度寝するとは・・・・」
「すんません。さあ、行くぞ!」
「はいっ!」
 今日はギャラリーに妙に女子が多い、
「やっぱり、「デリシャス・タイム」の筒井一臣くんよ!」
「きゃーっ、テレビの何倍もかっこいいわ!」
「あ、見て、向こうに野々原りんごちゃんもいる!」
「え、うそぉ!」
「ほんとほんと!きゃー、実物もかわいぃ!」

「・・・・・・すみません」
「気にするな、試合に集中していこう。」

 ジャンプボールは仙道と七緒、身長に勝る仙道が競り勝ち、素早く植草にタップした。それを卓巳がふさぎ、止めようとしたが福田がキャッチ、強引に突っ込んできた。
「なめるな!」
 卓巳がボールを奪おうと攻め、ターンを読んではたこうとする。だが福田もボールにしがみつき、もみ合った。
 ホイッスル、ヘルドボールがコールされる。両方の手がかかったボールはジャンプボールである。
「そんなのないだろ!おれが取ってたよ!」
 卓巳が審判に文句、テクニカルファウル直前に、竜次が蹴りを入れて黙らせた。
 ジャンプボール、身長178cmの卓巳は191cmの福田と比べると不利だが、卓巳のジャンプ力は海南の清田並みである。ほぼ互角、ポジションを奪った竜次にボールが渡った。
「行けっ!」
 凄まじいスピードのドリブル、その後を一臣と七緒が追う。ディフェンスがまだ甘い福田を抜きさり、素早くシュート!が、それを仙道がブロックした。しかしそれは一臣にとってパス同然、激しいオープニングダンクをたたき込んだ。
「いようっし!」
 今度は仙道がボールを手にし、巧みなパスワークでボールを進める。植草、越野とも息が合っており、新しくスタメンに入った相田彦一もしっかりとゲームを見てボールを回している。
「押さえろ!」
 一臣がローポストに入ろうとした福田を止める。が、仙道がノールックでパスしたのは一瞬ノーマークになった彦一。
 高い弾道がゴールを貫く。スリーポイントだ。
「よし!」
 一点先行された。
「よくやった、彦一!」
「練習のかいがあったな!」
「わいみたい背ぇ低いのは、練習しかあらへんし。やったるで!」
 その騒ぎを見つつ、七緒が認識を改める。一年にも陵南の強さが肌で感じられた。
「楽しもうぜ!」
 卓巳が声をかけ、竜次からパスを受け取って、すぐさま返しながらゴール下に駆け込んだ。
 竜次は素早く右にいた竜也にボールをパス、竜也は一度パスフェイクして、かなりスリーポイントラインからも遠かったがシュート。完璧なフォームから放たれたボールは、人質を抱えた犯人の頭を貫くようにゴールを撃ち抜いた。
「ヒット!」
 いつものポーズ。
「おっしゃ!」
「リバウンドしっかり、100%があると思わないで下さい!」
 一臣が冷静にアドバイス、すぐに駆け寄って立ちふさがり、仙道のドリブルを封じた。
「っ!」
 速攻を考えていた仙道はつまずき、レッグスルーで抜こうとしたが竜也がカバーした。
「一本じっくり!」
「止めぇ!ペースを狂わすんや!」
 北野監督の声、仙道にパスをさせないよう追いつめていく。
「2・・・1・・・」
 ホイッスル、十秒(ボールを受け取った攻撃側は十秒以内にボールをコートの相手半分側まで運ばなければならないバイオレーション)で大和台ボール。
「よっしゃ!」
「速攻!」
 一臣がゴール下に駆け込み、竜次からのパスを受けて、半歩福田を抜こうと、仙道が潰そうとしたその瞬間走りこんだ七緒に、目も向けないバックパス!
 一瞬のフリーを利用し、フリースローサークル付近でジャンプシュート、それが鮮やかに決まった。
「おしっ!」
 手応えをかみしめる七緒の肩を一臣が叩いた。
 福田が目をむいた。
「やるなあ、大和台」
 仙道が笑みを浮かべる。
「パスや!」
 彦一の声とVカットに竜也が反応した、その隙に越野のスクリーンを利用し、仙道がゴール下にいた福田にパス、福田はフェイクで一臣を抜き、フォローしようとした七緒をかわしてねじこんだ。
「よっしゃ!絶妙や」
 彦一が評論家に戻って喜んでいる。田岡が苦笑し、
「いいぞ!」
 褒められるのが大好きな福田が、笑顔に見えない笑顔を見せる。
 大和台の反撃、今度は竜次と見せて竜也がボールをコントロール、とんでもなく素早いドリブルでボールを進める。竜次が後ろから飛んでいく。そして一臣が前線に走った。
「止めるで!」
「ああ、ここで崩す!」
 彦一の叫びに越野が応え、竜也に追いつこうとする、その瞬間ペースを変えて抜く、と見せてパス。
 七緒はパスを受けると仙道を引き付け、
「頼む!」
 とジャンプして竜也に返す。竜也がそのまま植草を振り切るが、彦一が追いついていた。
「ちっ」
「そう好き勝手はさせへん、わいも宮城さんみたいに走って三井さんみたいに打つんや!」
 が、強引なジャンプで彦一を跳ばせ、その間に横からのパスが後ろの竜次に通っていた。一気にドリブルで突っ込み、
「止める!」
 越野がファウル、だがそれでも竜次が放ったボールはリングをくぐる。9:5
「バスケットカウントワンスロー!」
「あめえんだよ!」
 竜次の罵声もあり、観客が沸く。
 フリースローも決めた。
「あれが脅威だな、ポイントガードの高月が去年の海南の牧みたいなパワープレイをしてくる。それにセンターの七緒、パワーフォワードの筒井、スモールフォワードの河合のインサイドも強い。だがうかつに中を固めるとシューティングガード武上の3Pが射ち込まれる。」
「いえ、向こうの七緒と河合、高月も3Pまで打てます!」
「何!いや、弱気になるな!仙道を信じろ!」
 反撃はで仙道が直接、一臣と竜也二人抜きで、空中でパスフェイクを入れたレイアップ、見事にリングを抜けた。
「よし、そうだ!」
「くそう、何とかあいつを止めないと」
「そう熱くならないで下さい、バスケは何人で?」
「るせえ、一年坊主に言われたくねえ、あいつには負けたくねえんだ!」
 竜次が闘志をストレスに変え、一臣に当たってしまう。
「竜次、楽しくいこうで!」
 北野監督の声も興奮をあおるだけ。
「負けてたまるか!」
 雄叫びを上げて挑みかかる竜次から仙道が冷静にボールを奪い、鋭いパスを福田に、アリウープをアシストした。
「よっしゃ、絶妙や!」
「くそっ」
「次は止めるぜ!」
「ああ!」
 竜次と竜也がうなずき合い、卓巳のスローインから竜次の速攻。竜次の母校、名門本郷中以来の、脚でかきまわして一気に攻めるスタイルが、北野監督の指導で強化されている。
「散!」
 声と同時に一臣が中に駆け込み、他が大きく広がって走る。
 流石の仙道も4人全員をマークすることはできず、竜也を止めようとした。その隙に竜次が植草を抜いた七緒にパス、七緒がフリーで3Pシュート。それが見事にリングを抜ける。
「こいつはきつい・・・落ち着いて、自分のマークを止めよう。」
 仙道が声をかけ、
「そしてリバウンドだ!」
 越野が応えた。
 それを見て田岡監督がタイムアウトをやめる。
 陵南は攻めが慎重になり、しっかりと仙道、植草、越野とボールを回し始めた。
「くそ、」
 ダブルチームは無理なので、パスラインをふさぐタイプのマンツーマンで守ろうとするが、ディフェンスは日頃の練習不足からか、やや甘い。
 あっさりと越野から仙道へのリターンパスを通され、そのまま福田にパスが行って七緒が抜かれ、シュートを決められてしまった。
「ドンマイ、返しましょう!」
 一臣が励まし、竜次からのパスを前線に運んでまた散開。3Pシュート、と見せかけて七緒にパス、だがシュートが外れてリバウンドも仙道に取られ、カウンターを食らってしまった。
「まずいな」
 と一臣が北野監督にタイムアウトを要求。
「まだはええ、行くぞ!」
 竜也が竜次のスクリーンを借りて走り込み、ずばっと越野を抜いてレイアップを決めた。
「変だな、一年のほうがのびのびとプレイしている。」
 田岡監督がつぶやく。
 仙道が竜次を抜き、切り込んで福田にパス、それを一臣がファウルして止めた。
 そこで大和台がタイムアウトを取った。試合開始から五分経過、現在の得点は大和台15-陵南13。一応大和台ペースだ。
「一臣、ナイスや。」
「でも何故ここでタイムアウトなんだ!」
「頭冷やし、竜次。七緒もここんとこ、様子変やで。」
「おれは大丈夫です!」
 分っていない。七緒にいつもの、余裕とバスケを楽しむ姿勢が見られないのだ。竜次は仙道を止めようと焦りすぎている。
「んな強いチームとやれるんや、もっと楽しんでき。」
「ディフェンスのとき、きちんとリバウンドを取っていきましょう。カウンターが多いですよ。」

「どうだ、大和台は?」
 仙道がドリンクを飲みながら
「いや、強いよ。いいプレイヤーがそろっていて、もしコンディションがよかったらどうしようもないかもしれないっすね。」
「ああ、確かに強いが何かおかしい。こっちのリズムで、しっかりと引き離していこう。チームとしての成熟度は半年間、このメンバーで戦い抜いてきたうちのほうが上だ!自信を持て。こういったチーム相手だと流れをつかむのが勝負の分かれ目になる。流れをよく見ろよ。」
「はい!」

 そして試合再開直後、アクシデントが襲った。
 仙道を止めようとした竜次がバランスを崩し、足首をひねった。
「竜次!」
 卓巳が駆け寄る。
「どけ、まだやれる!」
 痛みをこらえ、目が殺気立っている。
 そこに鈍い音が響いた。卓巳が竜次を殴り飛ばし、
「落ち着け!仙道より前に自分に負けてどうするんだ。頭冷やしてろ!そんなお前はこれ以上見たくない」
 ショックを受けた竜次の代わりとして、哲太が出ることに。
「松浦、仙道はおれに任せてくれ。」
 言って竜也が深呼吸した。
「どんどん打ってけ。リバウンドは任せろ!」
 一臣が笑いかけ、卓巳に頭を軽くはたかれた。

「チャンスだ、あのポイントガードがいなくなった以上速攻が弱くなった。多分また出てくる、それまでに突き放しておけ!」
 田岡の読みが間違っていたことに気付くまで、さほど時間は必要なかった。

 信じられないほど鋭い動きで哲太が越野からボールを奪い、一気にシュート、と見せて一臣にパス。一臣は受け取った瞬間ゴールに走り込み、植草と福田を空中でかわして横からボールを放り込んだ。
「よし!」
「まだだ!」
 と植草のパスを封じた哲太が仙道に向けたパスをさせる。
 開けたのはわざと、逆にそこ以外にコースはなかった・・・ボールを手にした瞬間、竜也が神奈川ベスト5の「天才」仙道からボールをたたき落とす。
「何やて!」
 彦一の悲鳴、と同時に卓巳が倒れ込むようにボールを拾い、転がした。
 哲太がそれを拾い上げると、鋭い3Pシュート!高い弾道を描いたボールは一度リングにはね、大きく跳ね上がり、垂直にゴールを貫いた。卓巳が大声、
「よっし!」
 哲太の手を思いきりはたく。
「恐ろしいルーキーが集まったものだな・・・・・・」
 田岡監督が絶句する。
 ボールを受けた仙道の頬に、笑みが浮かんだ。
 竜也が仙道の目を見返し、不敵に笑い返す。
「行け!」
 竜次の声を聞いてか竜也が厳しく腰を落とし、仙道と1on1に。
「あれだけ腰が低かったら簡単には抜けへんなあ・・・仙道さん、パスや!」
 右にドリブルしようとした、それを無視するかのように竜也が一瞬引く。
 フェイクと看たから、それがずばり的中して足を戻した仙道を止める。
 仙道の視野が広くなり、パスコースを見始めた、
「パス!」
 越野の声、その瞬間仙道がドリブルで飛び出した。
「くそ!」
 竜也がそれを止めようとしたが、ゴールに背中を向けて円を描いてドリブル、振り向いてすぐさま上に投げ出すようなシュート、ふわりと上がったボールがリングを通り抜ける。竜也のブロックは5mm遅かった。
「ちっ!」
 竜也が小さく舌打ちしながらダッシュ、哲太からパスを受け取り、3Pと見せかけてドリブル。そのまま速攻、パスフェイクで越野を崩してジャンプ、ダンクがゴールを打ち抜いた。
「すげえ・・・・・・」
「アンビリーバブルや」
「焦るな!仙道、福田、自分たちのバスケをしろ!」
 田岡監督の声に答え、仙道が福田にパスした。それを即座に彦一に飛ばす。
 哲太が3Pを警戒して厳しくブロックしたが、小さなシュートフェイクから福田に返された。
 福田がそれを受け取り、大きなポンプフェイクで七緒を浮かせてゴールにねじ込んだ。22:17
 かつて海南を圧倒した得点力は更に成長しており、ディフェンスやリバウンドもかなりよくなっている。
 即座に哲太がスローイン、一臣が走っていた卓巳にロングパス。フリーでの3Pが高い弾道で飛び、ゴールを貫いた。
「よっしゃあ!」
 これ以上ない威嚇である。全員が3Pシュートから基本のドリブルシュートまで自在にこなす、高性能のオールラウンドプレイヤーであることを証明したのだから。
「チームとしてはこれ以上ないぐらいやっかいだぞ、これは・・・」
 田岡監督が焦りを見せ、タイムアウトを決断。
「なんてチームや」
 彦一が呆れた。
 竜也が仙道のドライブをファウルして止め、そこでタイムアウトと陵南のメンバーチェンジ。
 ポイントガードを植草から仙道にシフトし、植草と交代して去年、魚住の控えセンターだった菅平がパワーフォワード。センターは一応福田だが、むしろフォワードに近い。
 パスワークにおける仙道の力を最大限に活かすため、仙道にポイントガードをさせる。同時にリバウンドを強化し、3Pのリズムを狂わせようと、平均身長を上げる策だ。
「大和台は北野監督に代わって以来、ラン&ガンで徹底的に攻撃力を強化してる。北野監督がかつて指導していた、大阪の豊玉がそれに近いが」
「全然違いまっせ、カントク。豊玉の連中はみな性格最悪や!去年、南が流川さんの目ぇつぶした話聞いてるやろ!」
 豊玉に恨みのある彦一がつっこんだ。
「まあ今のところはフェアで紳士的なチームのようだがな、速攻と外中自在の強力オフェンスは共通だ。それを止めるのは簡単じゃないが、うちのディフェンスも全国クラスだ。パスワークを狂わせ、自滅させていこう。そしてリバウンドだ。菅平、向こうの筒井をきっちり押さえていけ。あの冷静なプレイはかなりの脅威だ。」
「はい!」
「よし、リズムを忘れるな!仙道、越野、多少外はくらってもいい、一年に仕事をさせるなよ。」
「はい。」

 試合再開、大和台25-陵南17。
 福田を七緒がブロックし、哲太にパス。
 陵南のディフェンスが素早く戻り、速攻が失敗したが哲太がしっかりとボールを回し始める。
「七緒主将!」
 声はフェイント、自分で切り込みながらコーナーに卓巳を回してパス、外れたのを一臣が取って竜也へ、3Pがネットを揺らす。28:17
「ヒット!」
「竜也!」
 一臣に言われるまでもなく、仙道と越野のガードラインを断ち切ろうと烈しいプレッシャーをかける。
 ドリブルで抜く、とそれを押さえようとして、彦一にパス!だがフリーと見えた彦一は哲太を抜ききれず、パスが取れずにターンオーバー。
「すまん、」
 仙道に謝られた彦一が唇をかみ、
「すんまへん!プレイで返しますよって」
 と哲太を追いつめた。
「くそ!」
 その後ろから走り込んだ一臣がスイッチ、哲太のスクリーンで福田をかわし、3P。わずかに外れ、リバウンドも仙道に奪われた。
「この一本はとる!」
 越野が叫んでボールを受け、前線に回していく。そこから斬り込むと見せかけ、仙道に。仙道はゴールに背を向けるように竜也と争い、竜也が取ったと思った瞬間横へのノールックパスが福田に。菅平が一臣をスクリーンして、福田がフリーのダンク。
「よし!」
 このプレイで流れが陵南に傾き、彦一の3Pと仙道、福田の積極的な攻撃でリズムを取られた。ポイントガードに回った仙道は得意のノールックパスの正確さは勿論だが、気を抜くと自分でも切り込んでくるため、マークしている竜也の負担は信じられないほど大きい。彼にとって、本物の圧力全てが初めてなのだ。
 素早い動きでボールをもらい、背の低さからガードの頭越しにとはいかないが、一瞬でもフリーにすると3Pを含めどこからでも的確なセットシュートを決める彦一も厄介だし、抜群の得点感覚をもつ福田も危険だ。
 また、ディフェンスの強さも際立っている。圧倒的な練習量が生む速さが、速攻のリズムを崩して仙道が上手い読みでカットする。
「流れを引き戻そう、二対三だ。どんどん走っていこう!速攻一本!」
 七緒が号令した。
 スピードがある哲太と竜也、卓巳が走り、ボールを回そうとするが、仙道と彦一の戻りが速い。
 だが卓巳が仙道をスクリーン気味に牽制、中の七緒→逆サイドの哲太と回してリターンを受け、ミドルレンジから得点した。
「ナイッシュ」
「自分で言うなよ」
 仙道が、少し悔しげに。
 哲太が越野を、手を大きく広げて中央付近に釘づけにする。
「生意気な一年だな・・・」
 越野の真剣な目。
「負けない!」
 哲太も真剣ににらみ返す。
 福田のスクリーンでボールを受けようとした仙道を、スイッチした竜也が押さえる。哲太が越野に抜かれるがリズムを狂わせ、その一瞬のぶれにつけこんで卓巳がパスカット。
「松浦!」
 ダッシュしていた哲太にパス、速攻。哲太は身長差を活かし、プレッシャーをかけてくる彦一の上からパスを竜也へ。
 だがそれを仙道がスティール!そのまま速攻で竜也のディフェンスを前に一瞬足を止め、小さなフェイクからのジャンプシュートで決めてしまった。
「よし!できるなら積極的に攻めろ」
 田岡監督が励ましていく。
「点の取り合いなら望む所だ、行くぞ!」
 竜也が哲太、と見せて卓巳にロングパス。
「3Pは打たすな!」
 田岡監督の声に応えるように3P・・・それはフェイク!フックパスが哲太に、そして菅平のディフェンスをかわした一臣が鋭いキャッチ&シュート。リングに当たって跳ね返ったが七緒がリバウンドを取り、またシュート。それは仙道のブロックでリングに跳ね返り、
「外出せ!」
 リバウンドを再び奪った七緒が外コーナーにいた哲太にパス、3Pが決まった。
「ええで、落ち着いてけ!」
「えらいシュートフォームや、よっぽど練習してんねんな」
 彦一が悔しがりつつ感心する。
 そこから互いに積極的な攻撃を重ね、得点を重ねていく。

 仙道が竜也と七緒のブロックでダンクをはばまれ、竜也からファウルまでもらいながらも、着地直前に放り上げたボールがバックボードで軌道修正、ゴールを通り抜けた。
 そこでタイムアウト。
「悪くないで。楽しいと思い、あれだけの選手とやりあえるんや。めったにあることやないで。竜次、行けるかい?」
「おう!」
 一年が笑顔を見せ合うが、七緒が少し不安げに体育館の二階を埋める観客を見回している。
「七緒、どうしたんや?集中し。」
「は、はいっ!」
「竜也、後半に備えて少し休んどくことや。ファウルもかさんどるし。」
「でもよく仙道を押さえてる!」
 疲れを隠せない竜也を、卓巳が労った。
「抜かれてるじゃねえか、まだ甘えよ」
 と毒つくのは竜次、
「おれが止めてやる」

 パスを受けた一臣がその場3Pと見せかけて一瞬停止、小さく足元で股下を通すドリブルをして、一気に突っ込んでレイアップを決めた。
「きゃーっ!」
「一臣くぅん!」
 ギャラリーの嬌声が上がる。
「なんやうちの女子は」
 彦一が呆れた。
 ディフェンスで竜次が仙道につく。あえて1on1、任せる形だ。
 竜次の精神が極限まで集中される。
 呼吸音とドリブルの音が、微妙な調和をなす。
 来る、空気の流れが、ドリブルの音が微妙に変化。
 仙道が左に踏み込み、強く踏み込んで右に抜けようとした。
 竜次は左に引っかかった振りをして体重を移し、ボールをすくいあげた。同時に七緒が陵南ゴールに猛ダッシュ。
 哲太がそれを拾い上げ、床近くでタタンとドリブル、シュートをフェイントにパス!
 卓巳がゴールに背を向けてパスをもらい、わずか一回のドリブルでリズムを作って、ターンしざまのジャンプシュートが見事にゴールを貫く。
「速いっ!」
「速いで!」
 田岡監督と彦一の悲鳴が上がる。
「よっしゃあ!」
 卓巳と竜次が抱き合い、哲太の右手を竜次が、左手を卓巳が打つ。
「仙道、何やっとるか!」
 田岡監督が我に返ってどなりつけた。エース仙道からのカウンターは陵南にとって痛すぎる。むしろ信仰に近いリーダーシップがあるのだ。
 それに応えるかのように、仙道がパスフェイクから彦一にパス、彦一はシュートフェイクで卓巳を飛ばせ、仙道にリターン。
 仙道はパスカットしようとして手が届かずに崩れた竜次を抜き去って切り抜け、自分で行くと見せて福田にノールックパス。七緒が無意識に近いスティールをしたのをすぐに叩き落とし、恐ろしく速いリズムで決めた。
 激しい仙道と竜次の1on1を中心にハイスコアゲームが展開。前半終了のブザーと同時、大和台59対陵南52から彦一の3Pがゴールを打ち抜き、4点差に追い上げた。

「やはりすごいな、仙道は」
 卓巳がため息をついた。
「まだ底まで引きずり出してねえぜ」
 竜也がぼやいた。力の底が見えない事が、休んでいる間客観的に仙道のプレイを見てわかってきたのだ。
 改めて想像を絶する化物と1on1をしていたことに気付き、押さえようもなく震えている。
「初めてだ、あんなやつ。流川以上かも」
 竜次が1.5リットルペットボトルからスポーツドリンクをらっぱ飲みし、深く息をついて力尽きたようにベンチに沈む。その肩を卓巳が叩いた。
「でもよく押さえてる。竜也も竜次も・・・」
「一臣、竜也、後半走れるまで休み。ファウルもあるしな。」
「・・・・・・あ?」
 竜也が半ば、朦朧と応えた。
 大活躍してきた竜也と一臣の疲労が激しい。
「い、行けます!」
「いいから休んでろ、水分補給もしっかりしてな。いざって時に頼むぞ。」
 卓巳が、また頭をぽんぽん。
「監督、後半は?」
「センター七緒、パワーフォワード黒田、スモールフォワード卓巳、シューティングガード哲太、ポイントガード竜次や。」
 一年入学前のスタメンに近い。
「仙道に潰されんよう、黒田と竜次の速さで速攻を取ってくで。攻め気を忘れな。」
「おうっ!」
「ディフェンスでは福田に注意やで。何があっても仙道との間を開けるんやない。」
「はい!」

「福田、スタミナは大丈夫か?きつい点の取り合いになる。お前にボールを集めるからな、三点取られたら四点取ってくれ。」
 かなりの無茶、だが福田が無言でうなずく。見かけによらず繊細でプライドの高い彼は期待され、褒められるのが何よりも嬉しい。
「仙道、福田と彦一をつないでやれ。そしてリバウンドだ。」
 仙道が珍しく瞑想するように集中している。
「絶対勝つ!」

「あとたった二十分しかないんや、めいっぱい楽しんでくるんやで。大好きなバスケットをな」
 北野監督がベンチも含めて全員の背中を叩き、送り出した。

 後半開始。
 いきなり仙道が福田へ、意表をついたアリウープパス。ドカン、と凄まじい音。
「よし!」
 陵南の声が収まらないうちに竜次が飛び出した。黒田と卓巳が劣らない高速で駆け込み、追いつこうとした仙道をかわした竜次が仙道のお株を奪うような、卓巳へのアリウープアシストパス。
「よっしゃあ!」
 やや元気を回復した一臣が声を張り上げた。
 陵南は今度、外から彦一がシュートして仙道がリバウンド、そして七緒をかわした福田に仙道が体の後ろからのパス。福田はしつこく上下にボールを振るようなフェイクを繰り返し、シュート。ボールはリングの前のほうに当たり、トーン、トン、トト・・・・・・コロンとリングを通り抜ける。
 そして返そうとした竜次から仙道がボールを奪う。集中が高まったのか、前半とも比較にならない、恐ろしく鋭い動きだ。
「くそっ!」
 そしてダッシュしていたディフェンス陣を分断し、決めると見せて七緒のブロックをくぐり、その瞬間フリーの福田にパス。
 鬼の形相で七緒がファウルしたにも関わらず、福田の鋭いジャンプシュートがリングに当たり、バックボードに跳ね返って吸い込まれた。同点、バスケットカウントワンスロー、しかも三連続ゴール!
「いいぞ、福田!」
 陵南応援団から福田コールが始まる。
 フリースローは外れ、今度は哲太が速攻、七緒にパスしたが3Pが外れる。だが黒田がリバウンドを取り、しっかりと決める。
 ここから互いに派手な攻撃の応酬になった。絶好調の福田ー仙道ー彦一のオフェンスラインに対し、スピードとシュートセンスで得点する黒田ー竜次ー卓巳の速攻。
 後半も半分近く、何か違和感が出てきた。
 前半面白いように入っていた大和台の3Pが、七緒を筆頭に入らなくなってきたのだ。
「なんかおかしいぞ、一臣に交代したほうがいいんじゃねえ?」
 竜也がつぶやく。福田の大量点もあり、大和台75-陵南78の陵南リード。
 七緒が福田のドライブを止めようとバランスを崩し、押し倒すように倒れ込んだ。
 無論ディフェンスファウル、四つめ!まだ時間がかなりあるため、退場を避けるため交代せざるを得ない。
「いいぞ、ナイスプレイだ福田!」
「福田!」
「七緒さん!」
 悲鳴と共に両チームが駆け寄る。
 福田がのそりと起き上がった。多少流血しているが、プレイに障るほどではない。
 七緒がなかなか起き上がってこない。
「七緒くん!」
 大和台女子の悲鳴。
「どうしたんだ!大丈夫か」
 田岡監督が心配し、担架の準備をさせる。
 その時、七緒は去年のインターハイ予選で、同じようなことがあったのを混濁した意識の下、フラッシュバックしていた。
 敵のシュートを防ぎ、頭に肘が当たって倒れた時、なぜかそこに麻生のりえこがいたのだ。
 彼女も試合を前にしているのに駆け寄り、マネージャーや女子部を無視するように呼びかけていた。
「チビ・・・・・・」 
 りえこを見たような気がして上半身を起こし、見回したがその小さい影はない。激しい痛みが肩を襲う。利き腕の左ではない事にほっとした。
「大丈夫ですか?」
 一臣が気遣っている。
「あ、ああ。あああ、四ファウルだったな、すまん。交代してください。あ、一臣、頼む・・・勝てよ。」
「何言ってんねん、」
 北野監督が七緒の頭に手をおいた。
「お前な、なに死にそな顔してプレイしてんねん。福田の顔、見てへんかったんかい?」
 言われてみると思い出す、福田の真剣な、これ以上楽しいことはない、と言いたげな生き生きした表情を。
「それにどこ見とんねん、向こうに失礼やろ。」
 そこまで読まれていたのか、と心臓を握り潰されるような羞恥と恐怖を感じ、顔を伏せた。センターを一臣と交代してプレイ再開、早速一臣がリバウンドを奪って竜次に。
「見とり」
 北野監督が一臣を指差す。そして二階のりんごを。
「一臣!」
 一臣がその声に合わせ、卓巳がシュートしたボールがリングに弾んだのを、仙道と菅平の壁を押しつぶすように空中でとらえ、片手でリングにたたき込んだ。
「りんご!」
 最高の笑顔でVサインを交換する。
「あの二人、ちらっと聞いたけどくっつくまですごく大変だったんだって。」
 応急処置をした妹尾舞が語りかけた。
「一臣くんって、りんごちゃんに昔からぞっこんで、料理もバスケもテレビに出たのもすべてりんごちゃんのためだったんだって。でもりんごちゃんって鈍感だったから、全然幼なじみの一臣くんの気持ちに気付かなくって、ずっと「デリシャス・タイム」のパートナー、ほらこの間、アカデミー賞候補にもなってるハリウッド大作「JFK Jr.〜アメリカの王子〜」の準主役もぎ取った、元アイドルの石坂真人、彼とつきあったりして、すごく苦しんだんだって。」
「え?」
 七緒には何故舞がそんな話をしているか、理解できない。
 そして哲太が一瞬の奇襲で仙道からボールを弾き、
「うそやっ!」
「すげーっ!」
「カウンター!」
 一気に走りこんでゴール直前、レイアップと見せて仙道を跳ばせ一臣に落とすようなパス、一臣の連続逆転ダンク!
 会場が燃え上がり、試合の流れが一気に大和台に傾いた、そこで仙道が竜次からスティール、走りこんで、一臣と卓巳の壁を斬り破り、上と見せて下からふわり、ダブルクラッチを決めた。79:80
「スコアボードを見るな。十点差を追い上げているような気持ちで、集中してプレイしよう。」
 仙道がかけた声が陵南の気分を切り替えさせる。
「一臣くん、その頃はただりんごちゃんの笑顔のため、それだけのためにがんばってたんだって。他には一切見返りを求めないで。すごいよね」
 リバウンドを取った一臣がインサイドに仙道を引き付け、外にいた卓巳にアシストパス。3Pが決まる。
「ふしぎなものね、ただひたすら一人の女の子を想う気持ちがあんなすごいプレイヤーを生み出し、逆に」
 七緒の目の前が暗くなった。
 打倒湘北のためにはむしろ邪魔だ、とりえこをあまりかまっていなかったこと、そのくせ噂で嫉妬にかられ、素直にりえこを求めずに悪感情を増幅させ、練習や試合にぶつけていたこと・・・。
 自分がそこまで弱かったこと。
 福田と仙道が三連続ダンクを狙った一臣をブロック。弾けたボールを卓巳が倒れながら奪い、転がりまわって植草とつかみ合う。激しい主導権争い。
 ジャンプボール・・・卓巳が高さではじき、一臣がシュートと見せて外へ、哲太が半歩切れこんでロングシュート。
 仙道が弾けたボールをつかむと竜也を強引に抜いて、切りこむと見せて一歩下がり、竜也を置いていってスリーポイント!それが通った瞬間、
「ヒット!」
 叫びざま大和台ベンチからスコアボードを竜也の真似・・・竜也の狙撃に対し、機関銃を腰だめに撃つポーズで掃射したものだ。
 大和台ベンチが、特にあてつけがましく真似された竜也が色めき立った。
「監督!」
「やってくれたな!」
「仙道!」
 だが北野監督は動じていない。
「信じぃ、ここでへたうつと一気に持ってかれるで。さすがに仙道や。自信もち!」
 竜次と仙道の1on1。引き絞られた弓のように、左右に小さなステップをしながら加速のタイミングを狙う竜次を、厳しく仙道が押え込んでいる。そこに隙を見出したのか、竜次が走ろうとしたがそれは罠!越野がボールを奪い、一気に切りこんだ。だがシュートが外れ、リバウンドを一臣が取るとパス。
 哲太が素早く戻ってインサイドに走りこんでいた卓巳に。
 卓巳が強引なシュートと見せてディフェンスを集め、外の哲太に戻して、その隙に逆コーナーに走り出た一臣が鋭くキャッチ&シュート、3Pがリングを撃ち抜いた!
「よっしゃあ!」
「うわあ!」
 陵南ベンチに悲鳴が上がった。
「落ちつけ!リバウンドだ」
 仙道の声に応えて田岡監督が越野と菅平を交代、身長にハンデのある彦一をシューティングガードに回してインサイドを強化する策に出た。
 そして仙道が一瞬心気、竜次を抜き去ってゴール下に肉薄、そのままシュートしたが一臣のブロックでわずかにそれ、
「リバウンド!」
 黒田を締め出した菅平が取って福田にパス、福田は一臣と1on1の末、強引に抜いて崩されながらシュート。リングにはね、中に転がり込む。福田は歓声を上げ、菅平と手を打ち合わせる。
「技術だけじゃない、力か」
「強引に執念で決める福田と、練習量で裏付けられた、きれいなフォームで決める筒井、どっちもすごい」
「まずい・・・リバウンドで負けると大和台は一気に苦しくなるわ」
 相田弥生のつぶやきに応えるように、大和台タイムアウト。
「踏ん張りどころや。仙道はここで力出してくる奴やで。」
「はい!」
「七緒!」
 北野監督の厳しい声が目を見て一転し、
「行けるやろ?リバウンドたのむで。」
 優しい確認に変わる。
「はい!」
「竜也、竜次とダブルチーム。何とか仙道を封じるんや。竜次、ここは外せへん。がんばり!」
「おう!」
 竜次の負担も大きかった。特に後半始めの五分、すさまじい集中力で仙道を押え込んでいたので消耗が激しく、危うく潰れる所だった。
「負けて、は、たまるか、俺だって、はぁ、奴と、同じ、去年の、ふ、インターハイ、予選、県、ベストファイブ」
「その意気ならまだ行けそうだな。」
「一年、坊が、先輩に、はぁ、生意気な、口、聞いてんじゃ、ぜえ、ねえ、」
 竜次が笑いながら竜也の頭を叩いた。
「哲太、よう支えた。終盤の踏ん張りどころで出てもらうで、休んどり。」
 哲太が濡れたタオルで汗をぬぐい、ポカリスエットをちびちびとすすっている。
「さ、楽しんできたらええ。バスケットは好きか?」
「はいっ!」

 田岡が落ち着いて全員の顔を見ている。
「疲れているのはわかってる。だが、練習試合と思うな!これはインターハイの準決勝、一足先に決勝進出した湘北が待ってる。頑張れ!」
「おう!」
「仙道、お前には代りがいない。水分補給はしっかりな。」
 無言で仙道が500mlペットボトルを干し、レモンの砂糖漬けと一緒に岩塩のかけらをかみ潰して、もう一本開けた。
「彦一、オフェンスとディフェンス、両方お前に負担をかける。走れよ」
「まかしとき!」
 彦一の汗はすごいが、まだ目は生き生きしている。
「福田、最後まで気を抜くなよ。」
 福田が無言でうなずき、立ちあがる。
「よし、」

「1.2.3.打倒湘北!」
 残り五分、両チームの掛け声がひとつになる。
 現在両チーム共に85点。すさまじいハイスコアの接戦だ。

 七緒がふとコートを見回す。九人全員に汗が張りつき、湯気が立ち上っている。
 ボールを見て、心の底からふつふつと何かが沸き上がってきた。
 視界がクリアーになり、逆にコート以外が見えなくなる。

 竜次が切り込み、卓巳にパス。そしていつも通り、走り込んだ七緒にパスした。七緒は菅平をかわしてターンしながら受け取り、鋭く後ろへの両手ダンクを決めた。
 手に鉄のリングの感触がはっきり残っている。そしてぶら下がって見ている光景が、何か懐かしいものに見えた。
「よし!」
 卓巳と竜次が飛び降りた七緒の背中を叩いた。
「行くぞ!」
 七緒が叫び、全員が応える。
「させるな!ファウルもらってコートから追い出せ!」
 田岡監督の声、だが果敢に走り、跳んで福田をブロック。
「竜也!」
 パスして竜也が鋭くダッシュする、それを彦一が阻もうとして竜也が竜次に渡し、仙道が潰そうとした瞬間にパス。
「シュート!」
 七緒が受け取って、一旦ボールをつき、ディフェンスの頭越しにスリーポイント!
 その瞬間、完全に音が消えた。見えたのはリングだけ。
 一臣を仙道が締め出したが、ボールは高い弾道を描き、ネットを揺らしもせずにリングを貫いた。
「おっしゃあ!」
「だめ押しか?」
「やったキャプテン!」
 両手を上げてガッツポーズをする、その七緒の耳にりえこの歓声が聞こえた気がした。だがそれも関係ないほど集中力が研ぎ澄まされ、ボールがネットを通る感触の楽しさに夢中だった。
 そこで陵南がタイムアウト。
「七緒が復活したな。やはり素晴らしいキャプテンだ。」
 仙道もかなり疲れていたが、楽しそうに笑っている。
「ふーっ、楽しいね・・・・・・こんなチームと戦れるんだから」
「そうやな」
 笑いが広がる。
「仙道をインサイドに戻す。仙道がいなければあの筒井、七緒、河合のフロントラインは止められない。植草、越野、ガードラインは頼むぞ。」
「はい!」
「勝つで!」
「おお!」

 北野監督の、タイムアウトでの言葉は一言だけだった。
「バスケットは好きか」
「ああっ!」
 竜次が哲太の肩を抱くように、
「おれもファウル四つだが後先考えずにやる。後は頼むぞ!」
「はい!」

 試合再開、残り三分!
 言葉通り、強引に竜次が仙道に突っかけたがファウルさえできずに抜かれ、止めようとした一臣の頭越しに片手ダンク。
「バスケットカウントワンスロー!」
 陵南ベンチが沸き立つ。
 フリースローを冷静に入れ、そのままオールコートで当たってくる。90:88
「なろ!」
 竜次が竜也のパスを受けると越野を抜いて一気にドリブル、ジャンプしてぶち当たる仙道の体を受けながら、しっかりとジャンプシュートを決めた。
 ホイッスル、
「ディフェンス!バスケットカウントワンスロー!」
 ガッツポーズ。
「返したぜ」
 と仙道を挑発し、フリースロー。
 一臣と七緒がゴールの左右にいる。
「頼む!」
 フリースローをわずかに外し、七緒が強引に体を押しこみ、リバウンドを取った。
「外!」
「つぶせ!」
 植草と越野が竜也を封じたが、パスの相手は竜次。
「させるか!」
 仙道が立ちはだかる、そこを大きくフック気味のパス。
「卓巳!」
 卓巳は受け取ったと同時にジャンプ、福田がブロックしようと跳んだ。
「高いっ!」
 だがボールから手を離していない、足を前後に開いて固定しながら落下、着地直前にボールを放った。それがリングに当たり、転がり込む!
「うおおおおおおおっ!」
 ガッツポーズと共に雄叫び。
「まだだっ!」
 カウンターを狙った越野から、竜也がボールを奪うと、即座に飛び込み、仙道を押し切ってダンク!
「ディフェンス!」
「うわあっ、ワンスローだ!」
「竜也!」
「よっしゃあ!」
 フリースローも正確に決め、バックボードを指で撃ち抜く。
 大和台97-陵南89、ここにきて大きく差が開いた。
「落ち着いて返すぞ!まだ時間はある」
 仙道が植草にパス、サイドライン沿いに、越野に回して布陣。
 走り込んできた仙道を竜也と竜次がダブルチーム、七緒が福田を押さえ込む。疲れが見えた一臣を抜き、彦一が仙道からのパスを受けて3Pを決めた。
「よし!」
 声をかけて竜次に必死のプレッシャーをかける。そして仙道がパスをスティール、突っ走ってダンクしようとジャンプ、
「させるかよぉ!」
 竜次が飛び込むようにブロック。
 ホイッスル、
「ディフェンス!」
 が、弾かれて仰向けに倒れこみながら、仙道の放ったボールはリングを抜けた!
 しかも、竜次退場。
「竜次、ナイスディフェンスだ!仙道もナイッシュ!」
 卓巳が拍手、その拍手が満場に伝わる。自他ともに人一倍厳しい竜次だが、この拍手と北野監督の笑顔、そしてプレイの満足感にほっとしていた。
「すまん、頼む!」
「ナイスファイト!」
 哲太が両頬を叩いて気合いを入れ、竜次と手を打ち合って飛び出す。
 仙道のフリースロー、リングに当って跳ね、外れた。
「うそや!」
「天才と言えども人間だ、あの双竜・・・高月竜次と武上竜也の、すさまじいプレッシャーの中でのプレイはそれだけ疲れる。仙道以外にあの二人を、ずっと独りで相手にできる者などいるか?」
 田岡監督が小声でつぶやいた。
 リバウンドを取った一臣が竜也へパス、そのまま竜也が仙道を抜こうとして越野にボールを弾かれ、哲太がボールを取り返して卓巳にパス!卓巳のシュートが外れ、リバウンドを七緒がとるが植草に奪い返される。残り一分、大和台97:陵南93!
 哲太が植草を、竜也が仙道を厳しくマークする。
 汗が滴り、キュッキュという足音が響く。
「植草!」
 竜也を抜きさり、仙道が植草のロングパスを受けてゴール下に走り込む、それを七緒が止めるが福田への目も向けない、体の後ろを通すパス、
「させるかあ!」
 吠えた一臣のブロックを手に受けながら、福田は空中で一拍置き、無理矢理ねじ込んだ。
「バスケットカウントワンスロー!」
「うおおおおおお福田!」
 会場が揺れた。
「フリースロー、これが入っても一点差や。だが」
 北野監督が警戒感を持つ。
「リバウンド!」
 声をかけ、哲太に目で指示を出す。
 福田がゆっくりとその場でドリブル、気分を落ち着けた。
 そして構え、投げる。
 柔らかい放物線を描いてリングに向かう。
 時間が止まったようだ、ただ独りを除いて。
 仙道が走り込み、リングに跳ねたボールをつかむと着地もせずに投げた。
 その先は彦一!
「これで逆転や!」
 スリーポイント、
 それが手から離れた瞬間、哲太が弾き飛ばした!
「くそう!」
 福田がそのボールを取ろうとする、一臣が弾いて七緒にパス、
「速攻!」
 叫びざまパス&ダッシュ。
 一臣がキャッチすると素早く走り込み、仙道のブロックをフェイクしてかわし、そして竜也がもう一度止めようとする仙道をスクリーンした瞬間、一臣がゴールを見つめて息をつき、スリーポイントシュート。
 ごく弱いスピンで、ボールが止まって見えた。
 高い弾道が何にも当たらず、リングを通り抜けてネットが微かに揺れる。
 それが試合終了の合図だった。

「いやったあ!」
 竜也が一臣にとびつき、突き飛ばした。それを七緒が抱き止め、三人でぴょんぴょんジャンプする。
 哲太をサンドイッチにしてベンチから走りでた竜次と卓巳が抱き合う。
 そして、仙道が一瞬顔を落とし、そして皆に笑顔を向けた。
「皆よくやった!すまん」
「すんまへん仙道さん、わいが、わいが・・・・・・」
 言葉にならずに泣き出した彦一の頭を仙道が抱きかかえた。
「よくやったよ、彦一」
「そうだ、よくやったぞ!」
 田岡監督も背中を叩き、惜しみない賞賛を送る。
「さあ集合だ!」

「大和台100-陵南95、」
「あ(りがとうございま)したあ!」
 汗と笑顔がコートを満たす。
「見事に負けたな。」
「ええ、こんなに悔しい負けは湘北戦以来です。」
 仙道の表情は晴れ晴れしている。
「でも楽しかったですよ」
 押さえ切れない笑顔が皆を満たす。
 その笑顔は大和台メンバーも同じ事。
「あ〜楽しかった!また戦りたいな」
「全くだ。竜次、足は大丈夫か?」
「主将こそ肩は?」
「ああ、大したことない。」
 一臣のところにりんごが駆け寄るのを見て、七緒がふと
「勝利の女神ってやつかな」
 つぶやく、
「女神は彼女だけじゃないさ」
 と、卓巳が如月まいからタオルを受け取り、彼女は真っ赤になって顔を伏せた。
「皆さん、差し入れでぇす!特製の天然海塩入り、ミントティーをベースにしたスポーツドリンク!よろしかったら陵南の皆様もどうぞ!」
 りんごの、皆テレビで聞き覚えのある声が響いた。

 遠くで北野監督と田岡監督が握手、
「いいチームになっとるやんけ。いけるで」
「北野先生、ありがとうございました、いい経験をさせていただいて」
「なにいってんねん、楽しかったで。」
「はい、自分もです」
「見苦しいところを見せたな。必ず全国に上がってこい!そこで改めて勝負だ」
 七緒が仙道と握手する。
「全国で会おうぜ。それまでにまた、徹底的に自分を鍛え直してくる。もう二度とおめえに、甘ちゃんの自分は見せねえ」
 言い捨てた竜次が仙道の手を軽くはたき、立ち去った。
 竜也の手を握った仙道が
「夏、楽しみにしてるぞ。」
「ああ、練習してくる。楽しかった!」
 互いに力を込める。
 彦一が哲太と握手、
「チェック不足でしたわ。これだけのチームがおるなんて」
「いい試合だったな。夏、全国で!」
 一臣が福田を見つけ、
「いい試合でした!元気を出してください。試合は勝ちましたが、個人的には負けたようです。全国までにもっと成長してきます。どうか予選、頑張ってください!」
 福田が無言で握手した。
 話を終えた北野監督がやってきて、
「バスケットは好きか?」
 大和台と陵南、全員の声が天に響いた。

 湘北メンバーが先輩達との練習試合を三日後に控えた祝日の日暮れ、練習の途中でトムが抜け出した。一人ですさまじい個人練習をしているか、それとも女をどこかで食っているかのどちらかである。
 主将の宮城はそれをかなり苦々しく思っていたが、個人練習自体は安西先生がしっかり基本中心のメニューを組み立てていることを知っているし、有無を言わせぬ実力もあるので、決定的なことが言えない。
 窓から、在校生ではないと思われる、かなり大人っぽい美女の肩を抱いて出かけるのが見えたが放置した。
「今度叩きのめしてやる」
 湘北の女子のほとんどは流川ファン(そのせいで湘北は、今や県で一番彼女ができにくい高校になってしまった)なので、トムは主に他校から狩っているらしい。
 間もなく悲鳴が上がった。
「チクショウ、もう見てられっっか!花道、行くぜ!」
「おうよ!」
「桜木君、暴力はだめよ!」
「ご心配なく、この平和主義者桜木に暴力の二文字はありません」
 平和主義者、と言ってもどこぞの白魔術都市の第一王位継承者のようにこぶしを握り締めている。
 その、足がふと止まった。悲鳴が男のと気付いて・・・。
 金髪の後ろ頭が見える。
 その向こうに、もう一つ金髪。
「トム?似てる・・・」
「カッコイイ・・・どっかの映画俳優みたい」
「アヤちゃん!」
 宮城がべそをかく。
「桜木さん!」
 竜也が声をかけた。
「おう、久しぶりだな。」
 答えた桜木に背を向け、トムがへたり込んでいる。その横にさきほどの美女・・・赤穂るか・・・が立っていた。
 が、雰囲気をがらりと変えて、都会的だが簡素で真面目な、上品で礼儀正しい優等生と言った感じである。
「チワっす。紹介します、某アイビーリーグの優等生で大学アメリカンフットボールのスター、ハックルベリー=マイケル=キングさん。」
 間違いなくトムの兄である。一目で分る。
「Why,Why you with Huck!」
「さあねえ〜」
 竜也が意地悪く微笑み、キザに一礼して美女の肩を抱くように去った。
 トムの兄、ハックが仁王立ちしてトムを見下ろしている。
「I said you'd better not hunt a girl like game,I'm always watchig you,You forgot it?」
「No,I've only」
 トムのおびえきった表情は見物だった。
「ニホンのみなさん、お騒ガセしました。コノ馬鹿にはよくイイきかせますノデ、どうか勘弁シテチームに受け入れてやってクダサイ。実力はアメリカでも結構アルので、マア使えると思いマス。」
 トムも一応、日常生活には極端な不便はない程度の日本語は使えるが、兄の日本語は完璧に近い。厳しく見てもCNNの特派員並み。
「ソレに、こいつのレイシストには深いワケがありまして。昔」
「STOP!PLE--EE--E--ASE!!!!!!」
「聞いてます、昨日差出人"R"のメールで」
 と笑いながら、何人かインターネットをしている者が手を挙げた。
「こいつ、実は中学校時代に、ガールフレンドに騙されて・・・カマほられそうになって、それ以来白人の女子に恐怖症もってて、だから日系などの女子の」
「ア・・・ァ・・・・・ア・・・・・・・・」
 トムが頭を抱え、体育館を爆笑がおおった。三千代が一番、涙まで流して笑い転げていた。

「大成功!」
 物陰で、久しぶりに竜也とさっきの美女、それに優しそうな印象の女子と怜悧な印象の男子が手を打ち鳴らす。
「本当に久しぶりね。里緒、連絡と手配サンキュ!」
「でもるか、すごい演技だったよ。ますます磨きがかかったんじゃない?」
「宝ε*楽学校予科生をなめないでよね。歌、演技、バレエ、日舞など全部基本からしっかり叩き直されてるんだから。」
「だいじょうぶなの?なんか英国パブリックスクールと旧陸軍と強制収容所と特殊部隊の訓練所を足したようなとこだ、って聞いた事があるんだけど」
「まあ、確かにすごく厳しいし、ばかばかしいしきたりも多いんだけど、それも伝統だし将来いい舞台人になるための修養でもあるし、まわりが皆凄い人ばっかりだし、充実してる。」
「学校というシステムで良質の舞台人を育成しつつ、天才を潰すことなく世に出すことができ、最高の花嫁修業と言われるほど全人的な教育もできる日本では希有のシステムだ。阪急の創始者、小林一三翁の凄さだな」
「でもお前、何をやったんだ?玲があの兄貴を連れてきた時、もうあいつ死にかけてたぞ」
「妬かない妬かない、それは女優のトップシークレットよ。」
 女は怖い、と玲と竜也が顔を見合わせた。
「玲もどうだ?いきなりアメリカの、それも一流大学に飛び級留学なんてびっくりしたぜ。」
「前から話はあった。チャンスだから乗った。」
「おやじさん、どうだ?」
「連絡はしているし、明日面会する。裁判にはもうしばらくかかりそうだ。」
 相変わらず冷徹な口調だが、昔に比べると人間的な暖かみが感じられる。
「竜也も情報収集にお膳立てまで、大活躍だったじゃない!」
「でもこれで、あいつがうまくチームにとけこんだら湘北、もっと強くなっちまうだろうな。でもそうじゃなきゃ、倒す張り合いがねえ!」
「でも運がよかったな、標的の兄が、玲のルームメートだったなんて。」
「ハックは優等生で、スポーツも万能だ。性格も厳しく敬謙だが人間性豊かで、いつも弟を心配していたから話が行った。」
「その反動もあるのかなあ・・・あいつも大変だったのね」
「一人でバスケ後進国の日本に放り込まれ、孤独と不安をアメリカの誇りを強調することでごまかそうとしていたんだろう。竜也、この間送ったトムとNBAに関するデータはダウンロードしたか?」
「ああ、サンキュな、玲。でも危なくメモリが飛ぶとこだったぜ」
「やっぱり玲がメールで細かく指示出してくれたからだよ、こんなにうまくいったの。Rs健在ね。」
 と里緒が微笑み、玲に寄り添った。
「とりあえず湘北の問題(バグ)、消去完了(デリート)」
「あとは湘北の、桜木花道の恋だが、それはおれたちがどうにかできることじゃねえ、時間と成り行きに任せたほうがいいな。さて、ついでだが大和台の問題だな。」
「竜也、作戦通り、明日桜木花道を連れ出す約束をしておいてくれ。残りは里緒が仕掛けておいた。」
「OK!じゃあこれから、作戦会議も兼ねて、久しぶりにメシにでも行くか!」
「途中でばらけてダブルデートにしたほうが・・・いいだろう」
 玲が珍しく、やや照れた表情で。
 里緒が真っ赤になるが、幸せそうに玲の肩に頬を寄せる。
 少し離れた竜也がるかの肩を抱き寄せ、照れつつささやく、
「今夜は寝かさないぜ」
「どれくらい成長したのかな?」
「こいつ」

 翌日、大和台高校バスケ部の練習が終わる頃、竜也が七緒に声をかけた。
「少し今日は外走りたいんすけど、ついてきて下さい。最近主将、追いつめられたような感じで、少し走ったほうがイイッスよ。」
「生意気な・・・よし、行くか。」
 300mほど走るうち、公園があった。
 バスケのゴールがある。
 竜也が公園に走り込み、困惑気味に七緒が追った。
「どうしたんだ、竜也?」
 そして、ゴール下の人影に凍り付いた。
 岡川りえこと・・・桜木花道。そして大和台女子の妹尾舞と如月まい、それに麻生女子の村上ゆきも。
「一体どういう事だ?これは」
 腕組みをしてにらみつけた。
「そう、りえこ・・・やはり噂通り桜木花道と」
 震える七緒の手にボールが飛んだ。
「主将、それだけ怒るって事は・・・まあ、ここは言葉よりバスケで会話しましょう。3on3、主将はあっち。」
 竜也はホイッスルをベンチから拾い、花道と舞&まいがゴール下を固めた。
「よく分らないな・・・まあいい、行くぞ!」
 闘志が燃え上がる。
 花道達も体は温まっており、素早くポジションを取った。
 七緒がまずゆきにパス。なんとなくりえこがまともに見られなかった。
「リバウンド!」
 叫びながら170cmの長身を生かし、ゆきがシュート!
「おう!」
 花道が赤木譲りのハエたたきで叩き落とすが、それをりえこがキャッチして目を七緒に向けた。
 体が勝手に動いた、としか言いようがない。ゴール下に走りこんでジャンプ、同時にりえこのパスが宙にいる七緒の手に・・・そのままアリウープ!花道の手をわずかにかわし、ゴールに叩きこんだ。
「やった!」
 手を打ちあわせるりえこと七緒、照れつつも手の汗が想いを伝え合う。
 逢えなかった焦り、感情のすれ違い、嫉妬・・・・・・そして求め合う気持ち、互いの尊敬と、バスケットに対する情熱。
「負けるか!」
 次には舞が素早いドリブルでりえこを引きずり回し、桜木にパス、と見せかけてまいに。
 ゆきがブロックしようと跳んだが、長身のゆき以上の打点の高さで3Pが決まった。
 元々キツネ族のまい、単純なジャンプ力はその気になれば5mを超える。卓巳とまいだけの秘密だし、人間の限界以上は出ないように自己催眠で封印しているが、身体能力が卓抜しているのは無論である。そして努力も人並み以上に重ねている。
「ナイッシュ!」
「噂の責任、だしね。」
「いいぞ、次一本止める!」
 花道の巨体が灯に照らされ、紅い火の山のようにそびえたつ。
 プレッシャーにゆきがひるんだ。
「行くよっ!」
「来い!」
 りえこがゆきからボールを奪うように、一気にゴール下に突っ込んだ。七緒も花道を押さえようとゴール下へ、だが圧倒的な圧力に後退する。
「なんてパワーだ」
「負けないで!」
 りえこが叫びながらシュート。
「リバウンド!」
 りえこが舞を押し込んでポジションを取り、花道と七緒が押し合っている隙に目覚しいジャンプでリバウンドを奪った。ゆきにパス、と見せて七緒に。
「うおおおおおっ!」
 吠えながら鋭く体重をかけて逆に抜けターン、勢いをつけて一気にダンク。
 ホイッスル、
「ディフェンス!」
 思わずりえこと抱き合ってしまう。二人の、そして全員の心が一つになっていることを実感する。
「あ〜あ、やってられないわね」
 ゆきが呆れた。
「そういうことか、お前ら・・・」
「そ。バスケっていう共通の言葉があるんだし、プレイしてればつまんない誤解なんて吹っ飛ぶ、って竜也くんが。」
「大和台の問題(バグ)、消去完了(デリート)!」
「この私が譲った恋、そう簡単に別れられちゃ困るのよ。」
 と舞が七緒の背を叩く。
「ごめんね、単純におしゃべりしてただけなの。桜木さんのほうも、あたしの名前も覚えてないし。」
 りえこがすまさなさそうに、そして嬉しそうに舌を出した。
「その通り!」
「いや、疑って悪かったよ。なかなか逢えなかったのもあるけど、完敗のショックで動揺してたんだ。」
「第一、桜木さんが好きなのはマネージャーの晴子さんでしょう?見え見えですよ。頑張って下さいね、上手くいけばライバルが一人減りますし」
 ゆきの指摘に花道が真っ赤になる。女子がかわいい、と失笑していた。
 ひとしきり笑って舞が笑い涙を押さえ、
「バスケって素敵ね。」
「大好きです。」
 花道がつぶやき、ボールを愛しそうに拾い上げて、素早く舞にパスした。
 彼も明後日は神奈川卒業生ドリームチームとの試合がある。
 リターンを受け、ターンで七緒を抜くと雲に跳び乗り、そして稲妻・・・

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