Dunk Like Lightning


第三章 雲に向かって


「どうしたの、三千代ちゃん!」
 電話口でりんごは面食らっている。
「うん・・・りんごちゃんにだけは言っておくね、あのね、バスケ部に留学してきた外人がね、湘北での友達、村山って子をひどいふりかたしたから、マネージャーのあたしが問い詰めたの。そしたらいきなりキスされて。だいじょうぶ、だいじょうぶだから。桜木先輩が助けてくれたし、赤木晴子先輩も優しくしてくれるし、彼は湘北にとって大切な戦力だし。」
「でも!」
「ごめんね、もうちょっとだけ愚痴聞いてて。」
「うん、うん!」
 しばらく話が続き、
「じゃあね。筒井君とはあれから、どう?」
「あはは・・・打倒湘北ってがんばってる。」
 ここでのろけない程度のデリカシーは流石のりんごにもある。
「りんごちゃんのお菓子が食べたいな・・・。」
「うん、明日会おうよ!卒業の時に三千代ちゃんが引っ越して以来会ってないしさ。一臣に手伝わせて、おいしいお菓子いっぱい持っていくね!」
「うん、楽しみにしてる。ホントにありがと。」

 今日は海南との練習試合。電車内で、湘北は座れなかったため恒例の1cm尻上げができない。
 で、花道が手すりにつかまり、膝をたたんで懸垂を始めた。
「オレハワンハンダ!」
 トムが対抗して片手懸垂を始める。
「ふん!」
 宮城が止めるが、意味もなく対抗が続いている。流川は立ったままドアに寄りかかって、寝ていた。
 海南大付属高に湘北が現れた瞬間、どよめきが走った。
「なんなんだ、あの二人は!」
「赤毛ザルのやつ、あんなに大きく」
「もう一人の2mは誰だ?見たことないぞ」
 桜木が清田を認め、
「野ザル!ずいぶんと小さくなったな。今日こそ去年の恨みはらあす!」
「背えばっかり伸びやがって・・・できるもんならやってみな、赤木のいない湘北なんて怖くも何ともないよ、だ!うきき」
「ゴリがいなくてもこの天才、桜木花道がいらあ!」
「うひひゃゃひゃ、それなら海南にはこの清田がいるよん!」
「おい、そろそろ試合が始まるぞ。おまえももう先輩なんだ、しゃんとしろ」
 新部長、神。
「今日はお手柔らかにお願いします、宮城さん」
「おう、そっちもな。いい試合にしようぜ!」

「あれ?このユニフォーム、ちょっときついけどいい香りがする。」
 元木がはにかみがちに
「バジルとタイム、ローズマリー、それに奮発してサンダルウッドのオイルをブレンドしたんです。」
「サンキュ!で、効能は?」
「気持ちを引き締めて集中させ、自信を持たせるようなブレンドです。」
「おお、何だかやる気が出てきたぞ。これならかぁてぇる!」
 単純な花道には強烈に効いている。
「いいかトム、絶対に負けるわけにはいかないんだ。」
「アタリマエダ、ジャップノチームニマケタラアメリカニカエレナイ」
「わかってるならいい。個人プレーで勝てるようならいいが・・・海南をなめるなよ!いいか、もし個人プレーをしたら負ける、そう思ったら、・・・チームプレイでもアメリカは本物、だろう?」
「アタリマエダ!」
「できないようなら即外す。キャプテンは俺だ!」
「Phew」
 唾を吐き捨てるトムを無視し、
「花道、流川、今回は初めから飛ばしてくぞ!」
「・・・・・・」
「おうよ、絶対に負けん!天才桜木が復帰したからにはな!」
「中田、高校バスケって奴を体で覚えろ。実力的にスタメンにしたが、海南相手にゃ十分も持たないだろう・・・ペース配分は考えるな、ぶっ倒れるまで全速でプレイしろ!後は俺達を信じろ。」
「はい!」
「いいですか、スタメンの勝負は始めの十分だけです。そこで彼らを圧倒し、それから順次オーダーを変更していきます。いいですね?」
「はい!」
「それでは行ってきなさい。」
「おおし!」

「清田、お前に流川を任せていいか?」
「おう、任せてくれ!俺だってこの一年遊んでたわけじゃない、それは神さん、あんたが一番よく知ってるはずだ!」
「ああ。武下さん、インサイドは頼みます。清田と上原のフォロー、そして桜木を押さえて点を取って行って下さい。そしてリバウンド。桜木は全国でも五指に入るリバウンダーですよ?」
 リバウンドが信頼できなければ3Pの威力は半減する。神中心の新チームにとって、一番恐ろしいのが桜木のRだ。
「任せろ!どんどんパス回してく、3P決めろよ!」
 落ち着いた表情の副キャプテン、武下が力強くうなずいた。
「OK.北島、宮城は頼む。あいつにスピードプレイをさせるなよ。牧さんと藤真さんが卒業した今、仙道に並んで宮城が神奈川No.1ガードと言われてる。そうか?」
「いや!」
 坊主頭の二年で新ポイントガード、北島が興奮気味に叫ぶ。
「そうだ、お前がNo.1だ。それを証明してこい!」
「おう!」
「上原、湘北には中田がいる。知ってるか?」
「はい!」
 茶発を短く刈り、大きな目を見開くと長身だが技術的にも高い、No.1ルーキー上原が闘志に燃えた。
「その目ならだいじょうぶ、存分に暴れてこい!」
「はあいっ!」
「湘北は強いぞ!心していけよ。常勝の二文字を忘れるな!」
「おうっ!」
 高頭監督が戻ってきて、
「いいか、お前ら・・・あの山王戦は見たろう?選抜も覚えているだろう?だが、勝つのはこの海南だ!」
「はい!」
「いい気迫だ。さあ勝ってこい!」
「はい!海南・・・・ファイオォシ!」

 そして試合開始。海南の体育館が揺れた。
「あの白人は?」
「留学生・・・まさか、前テレビで観た・・・・・・トム=キング!」
「マジかよ」
「それがどうした!こっちにはこの清田信長がいるんだ!」
「気にするな、おれたちのバスケをしよう」
「おう!」
 ジャンプボール。
 桜木が武下のはるか上でボールを弾き、宮城に。
「速攻!」
 鋭く、宮城から見てかなり高い北島を抜き、海南コートへ。
「パス!」
 右から走りこんだ花道がパスを要求。
「よし、行け!」
 声と同時に、左サイドの流川へパス。
「あーっ!」
 花道の声。流川は清田を抜き、シュートするが、わずかに後ろに突き出した手にブロックされた。
「リバン!」
「おう!リバウンド王、桜木!」
 花道がゴール下に体をねじ込み、鋭いジャンプでボールをつかみ、着地してすぐさまジャンプシュート。
 疾さと打点の高さでブロックは不可能、見事にそれがボードに弾み、リングを抜ける!
「なあにい!」
 清田が驚嘆する。去年のインターハイ予選での、全くジャンプシュートが入らなかったド素人のイメージが強いのである。
「どうだ!」
「ムキーッ」
 互いに歯噛みをして対抗意識をむき出しにする。
 ポイントガードの北島がドリブルし、ペネトレイトを図るが宮城にマークされる。
 そのまま、スリーポイントラインを回る。
「パアス!」
 清田が叫んだが、パスの対象は右コーナーの神。
 素早く、柔らかなフォームのシュートが飛んだ、かと思ったらそれがブロックされた。
「黄金ザル!」
 トムはボールを奪うとそのままドリブル、あっという間にガードを抜いて3Pシュート。一切の無駄なし、疾風のようなプレイ。
「リバン!」
 が、その必要もなくボールはリングを抜けた。5:0
「HA!」
 舌を出したまま、中指を立てて腕をクロス、振り下ろす得意のポーズ。
「チクショウ!」
 清田がむきになった。
「花道、ナイススクリーンアウトだ。」
 宮城が花道の肩を叩いた。ゴール下でリバウンドの準備をしていたのだ。
 次には海南の速攻、神の3Pを警戒して開いた所から清田が突っ込み、流川のブロックをかわしてフェイダウエイジャンプショット、それがきれいにリングをくぐった。
「ふう、何とか1ゴール入ったか」
 高頭監督が息をつく。
 宮城が冷静に切り込み、素早く流川にパス。流川は半拍ずらしてターン、清田の手を抜けた!上原のヘルプに視線のフェイクから足の間を通して左手にボールを、そこから右手にドリブルで移しながらターンしてシュート、それが異常に速い。ボールはリングに弾んだが、花道がディフェンスリバウンドを奪って押し込んだ。
「やーいへたくそ!この天才のフォローを見たか!」
「どあほう」
 と言いつつ、流川はものすごく悔しそうだ。
 今度は清田-神のライン、と見せて195cmの上原が切り込み、必死でブロックした中田を吹き飛ばすようにダンク、さらにディフェンスファウルでバスケットカウントワンスロー。
「くそうっ!」
 中田が叫んだ。緊張がほぐれたか、本来の動きが戻る。
「ドンマイ、取り返そうぜ。」
 フリースローは外れた。
 今度は始めからトムにロングパス、そしてほとんどトム一人で速攻。
「クソッ・・・ジャップノブンザイデウルサイ!」
 ターンと見せかけた動きから神と上原、二人のマークをすり抜けてボールを抱えて一歩、二歩、そして滞空時間の長いジャンプからふわりとレイアップ。
 花道と清田がリバウンドを争うが、ボールはそのままリングを抜けた。
「うおーっ!」
 観客の歓声が上がる。
 そして海南の反撃。巧みなパスワークで清田ー上原ー神と回し、そのまま清田へ。そのシュートを流川が止める、と見えた瞬間、神にバックパス、そのまま3Pが決まる。去年牧とのコンビで湘北を倒した、中から外のコンビネーションは健在である。
 高頭監督がガッツポーズ。始めからリードされ、持ち前の烈しい闘志をむき出しにしている。
「負けてたまるか、反撃だ!」
 呼応して清田の闘志が弾け、花道とぶつかる。
 湘北は今度は花道にロングパス、パスフェイクで武下を飛ばせ、ミドルレンジから打点の高いシュートを決めた。
「慌てるな!」
「武下さん!」
 速攻を止め、花道が清田と武下のパスラインに回り込む、が上原がさらにその間に割り込み、ボールを奪ってシュート。それを流川がブロックしたが、清田がそのボールを取ってシュート。
「リバン!」
 上原、武下の二人と花道が押し合い、花道がフェイクをかわされて押し出されるが、跳ねたボールをトムがキャッチした。
「パス!」
 宮城が叫んだが、舌を出してドリブル。
 神が止めようと追いすがる。そこを体の後ろを通してボールを回し、これ以上行けないと見て足を止め、ピポットをとりながらガードを抜こうとする。
「こいつはパスしねえ、全員で潰せ!」
 清田が叫んで右に回り込む。そして武下が正面をふさぐ、
「無理だ、出せ!」
 そこで奇跡が起きたかに見えた。
 一旦清田にボールを渡し、次の瞬間奪い返して包囲を出、即座にシュート!
 それがリングを通ったと同時にホイッスル、しかも3P!14:7
「バスケットカウントワンスロー!」
 満員が息をのむ。
「GOOOOOOOOOOOOAMERICA!!」
 叫びに清田と花道が震えた。
「レベルが違うのか」
 高頭監督が呆然とする。
 フリースローも無造作に決め、舌を出して敵味方問わず全員を挑発する。15:7
 怒りに燃える清田がトムにつっかかり、抜いてダンクとみせてブロックをよけるパス、それもトムがたたき落してカウンター!が、花道がゴール下に入る前に打ってしまった3Pが外れ、リバウンドを奪った北島が一気にロングパス、神がフリーの3Pを決めた。
「やはりきれいなフォームですね。トムにもそれほど劣っていない、やはり今年もあれには苦しめられそうですね、先生」
「そうですね。他の選手もアウトサイドがよくなってきています。うちの狭いディフェンスではかなり苦しいですよ」
 安西監督はまだ落ち着き払っている。
 流川がボールを回し、シュートと見せて中田にパス。
 中田が丁寧にリズムにのり、突然ターンしながらパスフェイク、目覚ましい速さのドライブで上原のディフェンスをすり抜け、レイアップでデビューを飾った。
 それで悔しがった上原が清田のパスを受け、流川と桜木がスクリーンされていたこともあり、中田を飛ばせてタイミングを外すと打点の高いジャンプシュート。それは外れ、リバウンドを中田に取られたがパスをスティール、息づまる1on1の末上原が高さでねじ込んだ。
 次には宮城がボールを持ち、ドリブルとパスを警戒してガードが引いた、その瞬間に3P!それが見事に通る。
「なにぃ?宮城に外はなかったはずだ」
「おれも去年と同じじゃねえよ」
 驚いた海南からスティール、今度は左右から攻め上げ、流川がダンクシュートを決めた。清田と花道が悔しがるのはいつもの事。
 かなり湘北ペースで押し、湘北23-海南18で、トムの個人プレーが裏目に出て流れが海南に傾きかけた、そこで安西先生がメンバーチェンジ。中田がかなり疲労していた事もある。
「桜木君、宮城君、お願いしますよ。」
「おう、任せろ!行くぞ」
 花道は言って風馬と元木の背中を叩く。
「角田君、インサイドのフォローお願いします。個人練習の成果、見せて下さいね。流川君も少し休んでいて下さい。風馬君、元木君、海南相手には何もできないでしょうが、学べるものは多いはずです。落ちついて。」
 海南も少しオーダーを変更。機動力重視にしている。
 ギャラリーも含めて桜木と元木の巨大さに衝撃が走った。204cmと207cm、周囲から頭が半分出ている。
 試合再開、いきなり宮城が花道にパス、パスを受けた花道が角田のスクリーンを活かしたミドルシュート。
「リバン!」
 角田が清田に押されるが、花道が強引に取り、素早いジャンプで上原と武下の壁を越え、激しいダンク。25:18
「元木、あれがおめえの仕事だ。ダンクまでは無理にしなくていいが、とにかく体を生かして、敵を締め出して外れたボールを取る。去年、同じく初心者だった花道にもできたそうだぜ?」
「でも桜木先輩は天才ですから、僕には・・・」
 元木が声を落とす。
「ばあか、おめえにはその上背があるじゃねえか。それに今日までリバウンドの練習、してきたろ?」
 宮城が尻を叩き、
「ドリブルやパスの技量は・・・確かに去年の桜木の進歩は超人的に早かったが、君らは全くの白紙だった桜木と違って小中学時代の体育、真面目にやってたろ? それに、お前は経験者に近いんじゃないか?単なる技術はあの頃の桜木より上だよ」
 角田も励ましに加わる。
 そこで海南の反撃。速攻、清田がとっさに守ろうとした元木の上からダンクシュート。ファウルも取られてバスケットカウントワンスロー。フリースローも決め、成長をアピールする。
「バカゼロ!」
「元木、ナイスファイトだ。風馬、今度はおめえが行ってみろ。レイアップは覚えたろ?」
「やってみッス!」
 といいざま、いきなりダッシュ。
 100m11秒を切るスピードに衝撃が走る。そこに、正確な宮城のロングパス。
「行けっ!花道、リバン!」
 ボールが風馬の左手に吸い込まれ、そのままドリブル。結構スムーズで、フェイクがなかったことがフェイクになって神がとっさに反応できず、そのままゴール下に。得意のオールコートディフェンスの広さがあだになった。
 ほとんどフリーで風馬が跳び、シュート・・・緊張のためか外れるが、花道が高いタップでフォローした。
 風馬は、追いついていた花道の俊足にこそ驚嘆していた。
「元木、どうした?」
「え?」
 元木は今、ほぼ完全に回りが見えなくなっている。足も小刻みに震えており、ちょっと使い物になる状態ではない。反面風馬は興奮が過ぎて試合の流れが読めていないが、仕方ないだろう。
「言ったろ、リバウンドがおめえの役目だ。とにかくゴールの下に走る、邪魔を押しのけて落ちてきそうな所で待つ、ボールが来たら飛んで取り、パスする。それだけでいい!何も考えんな、花道ほどじゃなくていいが、獣に戻れよ。」
「誰が獣だって、リョーちん?」
「おめーだよ、おめーは・・・ほんのちょっ---とルールが本能に侵入し始めた獣だな」
「ひゃひゃひゃ、それうまい!座布団一枚!」
 清田に花道がつかみかかろうとし、角田と宮城に止められた。

 海南が上原と神にボールを集め、初心者を抜く戦略に出た。
 初心者のミスやファウルもあってあっという間に逆転、さらに点差をつけられ、前半も残り5分、湘北32-海南41まで突き放されていた。
 そして神の3P。
「リバン!」
 晴子の声のためか、元木がやっと動いた。上原とかなり激しくポジションを奪い合い、リングに当たって花道と武下が弾いたボールをつかみ、抱え込んだ。
「パス!」
 宮城が声をかけるが、北島が間に回り込む、
「こっちだ!」
 風馬はその瞬間フリーだった。
 パスを受けたと同時に花道と宮城、角田がうまく動いて・・・花道は単に本能で動いただけなのだが・・・ディフェンスを分断、その隙に一瞬で風馬が駆け込み、レイアップ、それが見事に通った!
「い・・・い・・・いやったあっ!」
 激しくこぶしを突き上げてガッツポーズ、宮城と花道の手を叩き、角田に頭をなでられ、そして元木に抱きついた。元木は一瞬嫌がったが、背中を花道と宮城に叩かれ
「ゼロ、この天才の名指導のかいがあったな!」
「ナイスリバウンド!おめえのリバウンドが向こうの攻撃を止めてこっちの得点、四点をむしり取ったんだよ!」
 その声にやっと我に返って、万歳した。視線の先にいる晴子の笑顔で、さらに笑顔が増幅される。
「これがチームで得点するってやつか・・・転向してよかった・・・」
 風馬が感動をかみしめる。
 そこでやっと安西がメンバーチェンジ。
「流川君、取り返してきて下さい。」
 流川は無言でうなずき、元木と交代してコートに飛び出す。風馬は安田と交代、三井引退後、春の練習試合で大和台を圧倒したスターティングメンバーに。
 そこからはお待ちかねの流川ショー!清田のディフェンスも成長していたが、流川はそれ以上に成長していたのだ。
 無造作なスティールからガードを貫くようなレイアップ、ダンクと見せてボールを抱えるように清田のディフェンスを抜け、着地寸前リングの横から放り上げるようなシュート、パスと見せかけて的確な3Pシュート、ドリブルで抜いたと思った北島の逆からボールを弾き、そのままドリブルして、押さえられる前の疾すぎるジャンプシュート・・・・・・・・・
 時に桜木への鋭いアシストも交え・・・以前は単に信頼性がなかったからパスしなかったに過ぎない、シュートの成功率が向上した花道には感情を表に出すことなく時々パスしている・・・ほとんど一人で海南を圧倒。
 最後はディフェンスを切り裂くような流川のアリウープで湘北46-海南47まで追いつき、前半終了。

 高頭監督は怒ったなどと言うものではない。
「お前ら・・・海南がここまでなめられていいと思ってるのか?初心者の練習台にされたんだぞ!」
「いえ!」
「ならすることは分かっているな。」
「はい、勝つことです!」
「お前らはそれだけの練習をしてきたはずだ、自信をもって行ってこい!」
「はいっ!」

「いい感じです。トム君、後半は離されない限り君に任せます。」
「フッ」
 待ってました、と言わんばかりの笑み。
「後半、始めはトム君を中心に安田君、潮崎君、角田君、桜木君で始めます。他の皆さんは休んでいて下さい。特に一年の皆さん、よく見ていて下さいね。今年の海南も、去年と同じかそれ以上に強いですよ。」
 トムを除いた全員、特に花道はものすごく不満気であった。

 試合再開、ジャンプボールを花道が安田に。
 安田がなんとかトムにパスしようとするが、三人がかりのマークで手が出ない。が、残りが手薄なのをいいことに桜木が派手なオープニングダンク!逆転、歓声が上がる。
 海南は返そうと一気に散開。
 大きくパスを回してトムのいるサイドからボールを離しての攻撃、流石にトムもカットできない。
 潮崎が抜かれると清田にパス、と見せかけて花道をスクリーン、そのまま武下がシュート。
 ディフェンスに回った海南はオールコートでトムを封じ、同時に桜木を清田が厳しくマークし始めた。
「くそう、どけ野猿!」
「やかましい、赤毛ザル!おめえをゴールにゃ近づけねえ。」
「邪魔だ!」
 言い合っている間にパスをインターセプト、そのまま神が3Pを決めた。
「Damn!」
 そして反撃しようとするが、結局初めからパスができず、ボールをフロントコートに運ぶ事ができない。トムはちょくちょくマークを外し、フリーになるのだが・・・。
 湘北がゴールできない時間が続く。
「チクショウ、NBAジャゾーンディフェンスはハンソクナンダ!」
「ここは日本だよ、この馬鹿!」
 清田の挑発に怒り、抜いて一気にゴール下まで駆け込む。
「パス!」
 叫んだが、安田がボールを奪われてカウンターを決められた。
「コノヘタクソドモ!」
 ちょうど、赤木のワンマンチームと言われた頃の湘北のように、トムはマークの厳しさにほとんど何もできない状態になる。そうなると海南は圧倒的な強さを見せはじめた。
 花道が散発的なスラムダンクで反撃するが、それ以前にガード陣を分断してボールを攻撃に回させない為、彼にもどうする事もできない。安田や潮崎も努力は重ねていたのだが、海南に通用するレベルではなかった。
 後半再開後7分、湘北50-海南61・・・11点差がついた所で安西先生がタイムアウト、交代を指示。
「アメリカでも同じでしょう、チームメイトを信じない限り」
「ジャップのチームメイト?ハッ、ジョウダンジャナイ!アメリカ、オレガイタチーム、コンナチーム100テンサデカテル・・・」
 だがトムもかなり消耗、ファウルも三になっている。
「しばらく頭を冷やしていなさい。チームプレイをする決心がついたら出て下さい。宮城君、桜木君、流川君、中田君、風馬君、ここから反撃するのはかなり厳しいでしょう。風馬君を出すのはスピードで向こうのガード陣を分断する為です。海南の戦法は北島君が的確にボールを回し、清田君と武下君、そして上原君の強力なフロントラインと神君の3P、外と中両方から点を取ることです。清田君もミドルレンジが入るようになり、危険地域が広がっていますね。防御に回ると得意のフルコートディフェンスでパスを出させず、カウンターでリズムを崩していきます。」
「じゃあどうしろと?こっちにはトムを外した以上、流川とオレしか3Pを打てるのはいないし、どっちもまだ神やトム、三井さんみたいな絶対の信頼性は」
 感情的になりかけた宮城を、安西が目でなだめて
「そう、だから攻撃の時には何より、ボールを中に持ってくることです。風馬君と宮城君、二人のスピードでガード陣をかき回して下さい。そして防御の時には桜木君と流川君、中田君でリバウンドを押さえ、神君のリズムを少しでも狂わせて下さい。同時に神君には風馬君をつけます。」
「ウッス!」
「どんどんパス出すからな、走り回ってろよ。まだ行けるな?」
 風馬に緊張が走る。
「外はリズムを崩すため程度にし、確実に中から。」
「よし、行くぞ!」

 試合再開、早速風馬がダッシュした。その動きに北島が目を盗まれた、その瞬間に宮城が抜いてすぐさま花道にパス。
 花道はやや外からシュートし、
「自らとーる!」
 叫びざま走り込み、誰よりも高いジャンプで外れたボールを手にし、走りこんでいた風馬にパスした。
「くれ!」
 流川がボールを要求、パス。
 花道の悲鳴をよそに(ちゃんと目に焼き付けてはいる)清田に正面から突っ込み、左にターンと見せかけて右からダッシュ、素早いレイアップを決めた。52:61
「キャーッ!」
「キャーッキャーッ!」
 流川親衛隊のラインダンスが始まる。
「よし、ここを守って流れを変えるぞ!」
「一本しっかり取ろう!」
 計画通り、風馬が神を追いかけ回している。
 神に去年の嫌な思い出が甦った。素人のはずの花道に、その抜群の運動量でかき回された・・・。しかもこの風馬疾風、敏捷性はともかくスピードだけなら去年の花道と同等かそれ以上・・・。
 清田のシュートを花道がブロック、そのまま宮城にロングパス。
 風馬が走りこんだのがフェイントになり、宮城が決めた。
「よし!」
手を打ち合う。
「どんどん走ってけよ!」
「キッツいッスね」
 言いつつも風馬の顔は笑っている。
 北島のパスから清田へつながり、そのままシュートと見せて神にパスしようと、そのコースを花道がふさぎ、その隙に流川がボールを奪った。
「速攻!」
 風馬と花道が一気にダッシュ、流川は短いドリブルで清田を抜き、花道と見せて風馬に優しいバウンドパス。
 受けとってそのまま突っ込み、フリーでレイアップ!見事に決まった。
「ナイスパス!」
「5点差、いける!」
「コラルカワ、何でおれにパスしねえ!」
「よせ、パスコースが読まれてたんだ。ディフェンス!」
 宮城が号令し、清田からボールを受けた北島にプレッシャーをかける。ポイントガードを止めれば速攻はできない、その分攻撃力は半減する。
辛うじて横から神がパスを受け取り、そのままドリブルで走り込み、風馬を抜いて3Pを撃った。
「リバン!」
 だがゴールにも届かない、大きく外して床を跳ねる、そのボールに花道が跳びついた。
 清田もほぼ同時に跳びつき、床で取っ組み合いに近い奪い合い・・・ヘルドボールでジャンプボールに回る。そうなるとジャンプ力も清田以上なのに身長で圧倒する花道にかなうわけがなく、ボールを受けた中田が鋭いレイアップ。
「ナイスファイトだ清田!」
 神の声で海南の応援団が反応、ここはいいキャプテンだ。
 だが試合の流れを大きく変えるには至らず、宮城のスティールから流川が体の後ろを通すドリブル、そして横からのシュート。かと言って流川をマークすると中田の、やや強引で地味だが正確な得点力が活きてくる。
「クソ!」
 中学校時代のライバル、上原が悔しさに歯噛みしていた。

ここから一進一退、やや流れでは湘北有利で進んでいたが、着々と得点を加えていた中田と、神をマークし続けていた風馬の疲れがひどくなってきた。海南がタイムアウトを取ったのを機に、安西先生が交代を決断する。
「トム君、残り十分チームプレイをしてくれますね?」
「・・・・・・・・・OK、カツ!」
「元木君、ゴール下にいてリバウンドとパスワークを助けてください。3秒ルールにも気をつけて。」
「は、はい!」
「しゃんとしろ、俺の代わりだ。」
 中田が元木の肩を叩き、晴子が
「がんばってね!どのオイル使えばいい?」
 と全員の両肩に、元木が示したラベンダーオイルを一滴ずつ塗る。ついでにとばかりにベンチ全員にも。
 この励ましが主に流川に向いている、体に触れたことで興奮しているのも流川、元木にはそれが分かっているのだがやる気がでたようだ。
 花道は始めから自分に向いた言葉と行為だとしか考えていない。のぼせ上がるのがラベンダーの鎮静効果で安定し、闘志に満ちる。
「よし、行くぞ!」
 円陣を組み、声を掛け合う。
「湘北・・・・・・ファイオオシ!」
 両チームが飛び出す。現在湘北65対海南69、四点差。
「あいつにボールをもたせるな、潰せ!」
 トムを警戒するディフェンス陣、それを鋭いドリブルで崩した宮城がパス。
 それで潰そうとした、トムがそこを抜け、シュートフェイクから短いドリブル、そして流川に鋭いパス。
「あーっ!」
 そのタイミングと正確さはまさに針の穴を通すよう、受けて流川が台形(フリースローレーン)の中ほどからジャンプシュートを決めた。
「よし!」
「コレガアメリカノチームプレイダ、No.2(シューティングガード)ノヤクワリグライワカッテル」
 トムは周囲の目を見ずに、さっさとディフェンスに回る。
 海南が驚いている。
「ボックスワン!北島、トムを押さえろ!」
「くそう・・・黙らせてやる!」
 清田のダンク、それを元木と花道が高いブロック!ボールが弾けて宙に舞い、
「リバウンド!」
 元木がボールに跳びつき、つかむとすぐ身長を活かし、武下の上から流川にパス。
「速攻!」
 宮城にパス、と見せてシュート。桜木が走りこんでゾーンが形成される前に外れたボールを取り、ねじ込むようなジャンプシュートが決まった。同点!
「チクショウなんなんだ、桜木は・・・」
「桜木の成長は計算していたが、ここまでとは!予選でどうなるか思いやられる」
「あの得点感覚は・・・去年の赤木以上かも・・・」
 高頭監督が我慢できず、立ち上がった。
「何やってるんだ、あんな急造ツインタワーに止められるな!」
 怒鳴った高頭監督の脳裏には、『ツインタワー』がリフレインしていた。
 それが野次馬や湘北ベンチでNBAを見ていた者にも伝わる。
「ツインタワー!ツインタワー!」
「ツインタワーって何だ?」
 桜木の爆弾発言にトムがこけ、ベンチの中田がスポーツドリンクを吹いた。
「99年NBAチャンピオン、サンアントニオスパーズ、ティム=ダンカン&ディビッド=ロビンソンの最強コンビですよ!」
「Without Knowing NBA,Unbelievable!」
「優勝、ね・・・なら今年の夏、そいつらもおれが倒してやる!」
 トムは頭からコートに突っ伏して頭を抱えて震え、中田は座っているパイプ椅子ごとひっくり返った。
 こけたのは海南もである。
「あ、あ、あ、あほかあいつは!」
 清田が笑い転げている。
 流川がかすかにうなずいた。
 身の程知らずのどあほうではあるが、花道の底抜けの闘志は共感できる。
 NBAチャンピオンと試合ができるかどうかはともかく、絶対に勝てるはずがない、と思い込むことはしたくないのだ。
「清田!!なぜ笑う?誰が相手でも初めから勝てるはずがないと思いこむな!去年なぜ湘北が山王に勝ったのか、考えてみろ!お前はそこまでか!」
 高頭監督が同じ思いか、怒鳴りつけた。
「・・・・・・その意気よ、ガンバってツインタワー!」
 晴子の声に桜木が燃え上がり、元木も静かに闘志を燃やした。
「湘北のツインタワーなんかに負けるか、吹き飛ばしてやる!」
 上原が叫びざま、大きくダンクをしかけたがそれを花道がブロック、ボールを元木が取った。
 宮城にパス、かなりの速さでゴールに向かって駆けながら、元木は冷静にゲームを見つめていた。
「宮城キャプテン、ぼくがボールを受けます。高い所から皆さんに回したほうが有利では?」
「ああ、わかった。攻撃の時にはあの台形の先にある円、そこにいてこっちを向いてろ。そしてボールを受けたら後ろを向いてパス、そしてすぐゴール下に駆け込め。トラベリングや3秒は気にするな、リバウンド頼む!」
「はい!」
 その指示は忠実に実行された。
「何ぃ!」
 ボックスワンのゾーン、その城の真ん前に巨大な灯台が立ったのだ。しかもそれが初心者!
「くそ、なめやがって」
「元木、こっちを向いてパスを受けろ!」
「スティールだ上原!」
 その時、右から走りこんでいた花道が宮城からボールを受けた。
「潰せ!」
 とゾーンを組んでいた武下が走り寄る、その隙に宮城に返し、宮城は3Pに見せかけて元木にパス。
「くれ!」
 流川にパスすると作戦通りにゴール下に駆け込む、流川は脚の間を通すドリブルで清田を牽制、フェイダウエイシュート!リングを通ったからリバウンドの必要もなし。71:69
「くそう・・・これ以上やらせるか、」
 清田が武上からパスを受け、すぐに神に返した。
「リバン!」
 トムが反応する前、3Pシュートが決まる。パスワークの速さと組み立ての上手さ、動きの無駄のなさとスタミナはさすがに王者海南である。
「クソッ!」
「速攻!」
 宮城が鋭く切り込み、右から上がってきたトムにパス、それを神が鋭いスティール。トムがドリブルをさせずに取り返し、元木にロングパス、すぐにリターンを受けてゴール下に駆け込む。レイアップを清田が高いブロックをした、それを空中でかわして左に持ち替え、華麗なダンク。
「GOOOOO!」
 ガッツポーズ、だがスキンシップは取らなかった。
「ナイスパス!」
 むしろ湘北ベンチが驚いていた。
「ほとんど初心者なのにこれほど冷静な判断ができるなんて。去年の桜木花道なんてずっとダンクダンクで、パスする事なんて考えてなかったのに」
 呆れる彩子に安西先生が微笑みかける。
「身長よりむしろ、あの頭の切れと冷静さのほうが貴重なのかもしれないですね、彼は。」
 悔しがる海南が足を活かし、湘北の速攻を封じる作戦にでる。
「もう一度流れを引き戻す!ここで頑張れ!」
 高頭監督の号令のもと、海南の誇りをかけたプレイで巻返していった。
 体力の差、控えの層の厚さもここで出てきている。
 神の3Pが、清田のシュートが、ツインタワーを貫通する。
「流川先輩、外お願いします。リバウンドは任せてください」
 元木の指示を聞いた流川が外を中心に攻め始め、更に成長したスリーポイントを連続でゴールに突き刺した。
「清田!」
 高頭の指示で清田が流川を張り、トライアングルツーに。去年と逆の展開だ。
「頼むぞ、武下、上原。なんとかツインタワーを押さえてくれ」
「これで大分楽になったぜ、ゼロ!どんどん回せ!」
 花道が広がって小さくなったインサイドのディフェンスを切り裂き、宮城のアシストでアリウープを決め、元木の高さを活かした頭上から頭上のパスで得点を重ねていく。
 それを警戒したらトム、流川、そして宮城が3Pシュートと直接攻撃、両方で攻め込んでくる。ロングシューターをマークする神と清田も、パスが宮城と元木のどちらから来るか、二重に警戒して疲労が激しい。
 ただ、ディフェンスでは元木の未熟さもあり、中からの攻撃とフリースローで点を取られている。リバウンドはツインタワーに加え、流川とトムも駆け込んでくるので湘北が大きく有利、そのため神にあまりボールを回せなくなっているが。
「ディフェンス!」
 残り三分、湘北83対海南78で、ついに花道の代わりに清田を押し倒した元木が五ファウル、退場を宣告された。
「・・・・・・・・すみません・・・・」
「何言ってんだ、生意気な事しやがって」
 花道もファウル四つ、ここで花道が退場したらチームにとって損失が大きいと判断して、察した宮城は背筋がゾッとした。
「凄かったよ!」
「来年、いや今年の夏ツインタワーの活躍が見られるかも知れませんね。」
 湘北、最後のタイムアウト。
「さあ中田君、残り三分行ってきてください。」
「はい!元木、お前の代わりだ。ベストを尽くす!」
「さあここで、最後の時間です。差はないものと考えて、積極的に攻撃してください。ベンチを含め、自分たちの力を信じて。」

「ファインプレイだ清田、ツインタワーを崩せたな」
「ああ、あんなのちょろいぜ。」
 強気に叫ぶ清田も分かっている・・・止められたのは悔しいが、もう切り替えている。
「どうだ、返せそうか?」
「はい!」
「ちょろいぜ、海南にはこの清田信長がいるんだ!湘北なんかに負けるか!」
 高頭監督にはこの清田の強気が頼もしく見えた。
「だからって無茶な攻撃はするなよ。基本を守れ。向こうは中田を出して来るだろうが、この土壇場では精神的に苦しいだろう。集中的に攻めてファウルをもらっていけ。」
「はい、任せてください」
「よし、行ってこい!」

 試合再開。
 始めから海南が全力で押し込んできた。特にディフェンスには気迫がこもり、宮城が攻めあぐんでいる。
 トムが走り込んでボールを手渡しパスで受け取り、武下を抜いて十秒ぎりぎりで中田にパス。
「よし!」
 笑顔で、今度は柔らかく受けた中田は厳しいディフェンスに苦しみながら、シュート!と見せて流川にパス。
「潰せ!」
 その瞬間流川がトムにパスした。
 3Pシュート、だがディフェンスでわずかに
「リバウンド!」
 花道が鋭くゴール下にダッシュ。それを武下が阻む。
 流川を必死で清田が止める。 
 地面にバウンドするボール、それを上原が拾い、武下にパスした。
「くそう!」
「パアス!」
 清田が疲れを見せず、鋭いダッシュ。それを流川が阻んで、ボールを奪おうとした、そこを神に、それをスティール!
「そう何度もさせるか」
 流川が言い残してドリブル、ゴールの右側からダンクシュートのジャンプ、屏風のような三人のブロックを裏から・・・かいくぐると見せかけ、針の穴から花道へパス!
 次の瞬間、屏風によりかかるようなダンクがゴールを揺らした。
「やったあ!」
「油断しないで!」
 全員から汗が滴っている。ベンチとコート、いや会場全体に一体感ができてきた。
 海南がしぶとい追い上げを見せる。
 清田が一気に切り込んで、華麗なシュートを見せた。
「くそ・・・・・・」
 流川が目に入った汗をぬぐう。
 宮城がパスコースをふさがれ、焦りもあって3P、だが
「リバン!」
 声に合わせて桜木が、流川がゴール下に肉薄する。
「取らせるか!」
 上原と花道が激しく押し合う。
 花道が跳んでボールに触れ、そして跳ね上がるのを上原が弾き、清田が拾ってゴールにたたき込んだ。この土壇場でのスーパープレイ、全国二位の実力をみせつけている。
「うらあ!」
 雄叫びを上げる。
 流川が無言で突っ込み、トムに見もしないパス。
 ディフェンスを抜いて取り、すぐさま3Pシュート、それがゴールを貫いた。
「よっし!」
「くそ、なんて奴だこんな状況で・・・・・・」
 トムの冷静なスーパープレイに観客が息をのむ。
 だが神のミドルシュートが決まり、海南の気力の強さと勝利への執念がひしひしと伝わってくる。88:84
「シツコイチームダ」
「つええ」
 焦ったのか、それとも気迫に押されたのか、中田がパスミス!
 そこを清田が速攻、武下が丁寧なランニングシュートを決めた。6
「さすがにこんな場になると強いですね。」
「まずいわ・・・・・・」
 残り時間一分。
「逆転するぞ!」
 清田が声をかけ、流川を厳しくマークする。そこで宮城の花道に対するパスを北島がスティール!
 トムが北島と神のパスコースをふさぎ、ボールを弾いた。
 それを清田が拾って武下にパス。
「時間がない!」
「焦るな!後40秒ある、この一本大事に行こう」
 武下が落ち着いたドリブル。じっくりディフェンスを切り崩す。
「3P気をつけて!」
 彩子の声に宮城が反応、そこを突くように切り込む。
 清田が流川をスクリーンして、そのまま武下が切り込もうとした、それを中田が横から走り込み、弾き飛ばした。
「オフェンス!」
 5ファウル、退場。中田が頭を抱え、無念げに手を上げる。
「すまん」
「いいって、よく止めた!」
 そして風馬に交代する。
「緊張するな、残り三十秒も中盤の三十秒も同じ三十秒だ。」
「4人も仲間がいる、独りのフィールドに比べりゃ心強いッス」
 海南のフリースロー・・・一本目が入り、二本目はリングに当たる。
「リバウンド!」
 花道が飛び込んでキャッチ、宮城が北島にふさがれた瞬間、風馬にパス!
「行けっ!」
 風馬は大きく前にボールを出し、そのまま猛烈なダッシュで追いつくと、すくうように流川にパスした。
「させるか!」
 ジャンプシュートを清田が打ち落とす、
「ジャップ!」
 トムがそれを取って、一瞬後退してから逆に踏み出して武下を抜き、レイアップをかけた、だがそれが北島と武下が止めて
「神!」
 大きなバックパス。
「フリーだっ!」
 声のない悲鳴、だがそのボールを流川がカットしていた。
「うわあっ!」
 ぐちゃぐちゃの攻防。神が取り返そうと攻め、横から武下が叩いて奪い、清田にパス・・・清田が花道を抜き、ダブルクラッチに近いレイアップが決まった。湘北88-海南89、
「逆転だぁっ!」
 絶望と衝撃。海南の応援団が沸き立つ。残り時間は十秒ない!
「!」
 声もなく宮城がトムにパスを出す、そしてトムの素早いドリブル、残り五秒、シュートと見せかけて流川にパス。
 二人の攻防がスローモーションに・・・
「うわああああああっ!」
 雄叫びを上げて清田のブロック、だがシュートはフェイク!ボールはゴールの横に飛び、空中で取った花道がつかむと烈しいダンク、同時に試合終了のホイッスル。
 全員息をのんで審判を見つめ・・・湘北が沸き返った。
 ガッツポーズをしながら花道がリングから飛び降りる。
 そして、海南は悔しさに沈み込んだ。

「いやったあっ!」
 晴子が花道と流川を同時に抱きしめる。
「フウ、ヨワイチームダ」
 トムが肩をすくめる。
 中田が崩れ落ち、
「これが海南か、なんて強さだ・・・・・・」
 風馬は放心状態。
「勝った・・・・・・の・・・・・・」
「これが試合・・・・・・これが勝負・・・」
 元木もかなりショックを受けている。
 彩子が息をつき、宮城の手を握ってからスコアをまとめる。
「さあ集合だ」
 宮城が全員を集め、整列、礼。

「安西先生、いい勉強をさせていただきました。」
「それはこちらのいうことですよ。最後の追い上げ、すばらしかったです。」
「インターハイ予選で。」
「その時に勝つのはうちだ、宮城君。」

「あれ、何だこれ?」
 海南のロッカールームに遮光ガラスの、小指の先ほどの瓶が置いてあった。
「酒かなんかか?」
 清田が開けて匂いをかぎ、顔をしかめた。
「メモがついてるぞ・・・・・・いい経験をありがとうございました、ラベンダー+セージ+ネロリの香りで気持ちを落ち着けて元気を出してください。湘北高校一年元木齢、生意気なことを」
 握りこぶしで悔しさをかみしめつつ、苦笑が出てくる。
「このお礼はインターハイ予選でしてやるさ。今度こそ勝つ!」
「おう!」
「清田、最後の追い上げはよく頑張った。凄いぞ!」
「でも負けは負けっすよ」
 清田が切なげに天井を見上げた。
「上原、お前もよくやったよ。」
 武下が励ましたが、
「いえ、中田に完敗しました。あいつの得点を押さえていれば」
 と悔しがるばかり。神がその腕に元木がくれた、中蓋の工夫で一滴ずつ出る瓶からオイルを出してぽん、とつけてやる。穏やかな香りが漂い、鎮静効果で気分が安らぐ。そして初めて、ほっと息をついた。
「本当に効くな、これ」
「すまん、おれがリバウンド取られてなかったら」
 と武下も神に声をかけた。
 神が悔しげに微笑み、
「ああ。あのトムがチームに上手く溶け込み、それにあの初心者たちが上達したら更に強くなるな、湘北は。相当練習しないと勝てないよな」
 とつぶやき、
「予選では勝つぞ!そのためには湘北の倍、練習だ!」
「おうっ!」
 半ば悲鳴のような怒号が走った。

 大和台高校は北野監督が、
「おいおまえら、神奈川の陵南との練習試合、決めてきたで。」
「うおっ!」
「確か練習試合やインターハイの予選で、湘北とは因縁が深いとこだよな。」
「そうだ、ある意味挑戦権争奪戦と考えろ。絶対勝つぞ!」
「おお!」
 ということで練習に燃えていた。
「筒井、チェックが甘いぞ!そんなことじゃ流川のドライブは止められない!あいつにはまずボールを持たせちゃいけないんだ!」
「はい!」
「竜次、竜也、もう少し走りこもうぜ。このスピードじゃ宮城と流川の分断は無理だ。あいつらのスピードとクイックネスはとてつもないぞ。」
「そうだな、もう二十本いくか。」
「・・・・・・・・・ああ!」
「うげ・・・」
「いいぞ哲太!そのディフェンスなら抜かれないよ。」
「おう!」
「もう一本!」
「ファイト!」
「どうした、桜木のパワーはこんなもんじゃない、ただ押し合っているだけで体力を奪われ、気を抜くと一気に持っていかれるんだ!そこから鋼のバネみたいなジャンプ、よほどしっかり押さえていないと確実にやられるぞ!」
「はい!」
「何度でも来い!」
「ナイッシュ!」
「よし、男子集合!」
「だあ〜」
「疲れた・・・」
「三途の川が見えるよ」
「スマン、おれも足腰が立たない。座ったままで行こう、神奈川の陵南との練習試合は来週、5月8日の土曜日だ。大変だが、試合でどんどんオーダー変えていく。一年にとってもチャンスだし、二、三年にとっては実力の見せ所だ。がんばろうぜ!」
「ウッス!」
「よし、解散!」
「さて、もう百本いくか・・・」
「高月先輩、井上先輩、ターンしてキャッチ、すぐセットでのスリーを練習したいんですが、パスとディフェンスやってくれませんか?」
「OK、行くぞ!」
 とまたしばらく練習が続き、
「一臣、どう?」
 と家で差し入れを作って持ってきたりんごが顔を出す頃、やっと切り上げる。それがない頃には延々と練習が続いてしまい、無理がたまって、かえって効率が悪かったりしたのだ。
「差し入れでぇす!女子部の皆さんもどうぞ!」
「おっ、待ってました!」
「今日は何だ、筒井?」
「ハーブティーのプリンとアイスココアです。」
「いつも凝るわね・・・」
「まあこいつにもいい練習ですよ。衛生にだけは気をつけろよ」
「ひどぉい一臣、昔とは違うもん!十分気をつけてるし・・・」
「はいはい、のろけは帰り道にごゆっくりどうぞ。」
「帰ってから、部屋でもじゃないの?」
「途中の公園とか」
「ない!」
「ははははは・・・」
「竜也くん、もう練習は終わりにして帰りましょ!」
「・・・わかりましたよ」
 ふてくされた顔で竜也がボールを片付け、帰り支度をする。彼は案外女子に人気があるのだ。一臣は彼女持ちなので、でもあるが。
「七緒主将!ちっとも入っていませんよ、もうあがりましょう。無理をしてフォームを崩したら元も子もないです。」
「あ、ああそうだね。」
 と気の抜けたように練習を切り上げる七緒に、皆がちょっと心配気味。

「三千代ちゃん、こっちこっち!」
「りんごちゃん、久しぶり!ごめんね、ほとんど休みがなくって。でもよかったの?」
「いいの、一臣はバスケ部仲間とバスケを観に行くって。」
 今回は、りんごが忌憚なく三千代に会えるよう、一臣が気を遣ったのだ。
 中学からの親友同士、しばらくお久のショッピングを楽しみ、
「三千代ちゃん、そろそろおなか空かない?今日はちょっと奮発してお寿司でも食べよう!」
 と、りんごが誘った。
「いいね。」
「ここ、とってもおいしいんだよ!か・・・」
「無理しなくていいよ、気にしないで。筒井くんが教えてくれた店なの?」
「・・・」
「入ろう!」
 と{江戸前寿司魚住}と書かれた寿司屋に入ると、2mを越える長身の見習いが注文を取る。客も妙に巨体ばかりの店だ。
「でっかいね・・・」
「そうね・・・・・・。桜木先輩くらいあるかな?」
「ふうん。でも元木って新入生はもっと高いんでしょ?」
 その会話に、カウンターにいた長身の二人組が反応した。外見年齢三十歳位だが、よく見ると肌の張りなどから十代と思える。
 浅黒いほうが
「君たち湘北?」
「あ、はい」
「あたしはそのライバル校です!」
 高くてゴツイ顔立ちのほうが
「新入生だな。湘北バスケ部前キャプテン、赤木だ」
 三千代がびっくりして
「あ、初めまして!湘北の新マネージャー、松岡三千代です。赤木先輩のお噂はかねがねうかがっております!」
「そんなに恐れ入らなくていい。皆はどうしてる?」
「ちょっと問題児が入って大変ですけど、がんばっています。」
「問題児?」
「うん、アメリカから湘北に留学してきた、トムって奴!女ぐせは悪いは、ジャップにパスが回せるか!って個人プレイばっかりするわ、」
「技術的には、流川先輩でさえ圧倒されることがあるくらいなんですけど」
「何ぃ!」
「それは本当か!」
「信じられないな、あの仙道とも互角だった流川が・・・・」
「アメリカと日本の差か・・・・」
 いつのまにか、あの巨体の見習いも自然に話に加わっている。
「そうなったら、今度こそ全国制覇も夢じゃないかもな、赤木。」
「ああ、あいつらならやってくれると信じてるがね。」
「と言っても、海南だって負けちゃいないぜ!」
「陵南だって仙道がいる!彦一も成長したし、そう簡単に外人なんぞに負けたりはしないさ」
「ああ、面白そうだな・・・」
「俺達も燃えてきたぜ、練習したいな・・・スマン、魚住」
「気にするな。完全燃焼できた・・・俺にとって、こっちも夢だ」
「でも、見てみたいな、そいつら・・・・・・・・・」
 牧が寿司をつまみながら
「それに桜木や流川がどれだけ成長したか、だな。どうだ、松岡マネージャー?」
「ええ、凄いですよ。この間の、海南との練習試合、桜木先輩は18リバウンド7ブロック、ダンク4本35得点!」
「何ぃ!!」
「で、流川先輩が28得点でした。でも流川先輩は初心者の新入生に出番を与えるため、出たり入ったりでしたから・・・。」
「恐ろしい話だな」
 魚住がお絞りを交換し、三千代とりんごに注文以上の寿司を持ってきて、
「お待たせしました。俺のおごりだ、遠慮なくやってくれ!」
「あ、ありがとうございます!」
「で、そのトムって奴はどんな問題児なんだ?」
「え、その・・・」
「まあいい、後で彩子にでも聞いてみる。どの道、部外者に湘北の恥を話したことは黙っていてくれて正解だからな」
 三千代がほっとする。
「何を言ってるんだ赤木、湘北の恥なら俺達は散々見てる。」
「そうだ、今更何を気にすることがある?水臭いぞ。」
 赤木は落ち込んでしまった。
「携帯があるだろうから、どうせなら今聞いてみたらどうだ?」
「そうだな。」
 と、赤木が電話をかけた。

 その日、珍しく練習が休みだった花道は宮城と彩子、そして晴子たち三人組、洋平を始め桜木軍団もいっしょにNBAの来日試合を見に行っていた。
 花道がデート、と浮かれまくり、そして邪魔の大軍にいらいらしていることは言うまでもない。
 なお、藤井の告白は忘れていたに近い。花道はそれを考える暇がないし、藤井が何か言おうとしてもタイミングが合わないのだ。
 その試合開始前、たまたま花道の隣に座った、小学生にさえ見える女子に皆が驚いた。
「桜木さん!」
「弁当くれたちっちゃい子!」
「麻生の岡川りえこ!?」
 藤井と、晴子までが少しきっという目でにらむ。
「湘北の桜木花道に宮城リョータ!ということは、流川様もいらっしゃるんですかあっ!」
 ゆきの一言に花道と晴子が怒りを見せる。
「あんな奴誰が連れてくるか!」
「あ、あなた流川くんの何ですか!」
 会員証を印篭か警察手帳のように出し、
「流川楓ファンクラブNo.482の村上ゆきです」
 ゆきと晴子が火花を散らし、藤井がりえこに一方的な敵意を飛ばして花道の隣を奪う。結局列はゆき、りえこ、藤井、花道、晴子、松井、彩子、宮城、桜木軍団の順になってしまった。
 何人かを除いて楽しく(花道が勝負を挑もうとして取り押さえられる一幕もあったが)観戦は済み、なんとなく連れだって某ファーストフード店の地下で食事中、彩子の携帯電話がスターウオーズのテーマ曲を奏でた。
 店の奥には他にも何人かの客がいる。あまり雰囲気はよくない。
「はい彩子、え、赤木先輩!」
「ゴリ!」
「お兄ちゃん?」
「ダンナ?」
「ええ、まあ・・・・トム?こまった奴で」
 桜木が携帯電話を奪い、
「まるっきりヘタクソの癖にパスは出さない、自分でばかり入れたがる、しかも女の子に・・・そんな奴に負けたルカワもルカワ」

「桜木か?」
 牧が赤木に問い掛けた。
 魚住は父親に怒られ、しぶしぶ配達に回っている。
「あん?じいか?久しぶりだな、」
「ああ。背中は大丈夫なのか?」
「この天才にあの程度の怪我、何てこたあない。今戦ればお前らも倒してやる!」
「それは楽しみだな、やってみるか?」
 二人連れの男がのれんをくぐり、口元に傷痕があるほうが強引に電話に話しかけた。
「ミッチー!?」
「三井!藤真まで!」
「おう赤木、久しぶりに見かけたからな。しかし信じられない奴だ、推薦が消えて正規受験で深体大に入っちまいやがって。」
「おまえこそ、選抜で強引に月大に認めさせやがったな。リーグが楽しみだ。藤真も元気か?」
「ああ。リーグで予選の借りは返す。牧とも今度こそ決着つけられるな。」
「おう。海南対翔陽の決戦ってとこか。」

「貸しなさい桜木花道、もしもし!」
「おう彩子か。なんかなあ、三井とかまで来ちまって、こっちじゃ一種の同窓会なんだ。」
「一体何が・・・・」
 話はなんとなく続く。
「そうだ、さっきも言ったが、今度俺達と練習試合やってみないか?どれだけ強くなったか、見てやる。宮城はどうだ?」
「いいっすネ、それ!」

「え、え、それって・・・」
「あたし達の立ち入れる話じゃないみたいよ。でもよかったじゃない、この先輩達が来ればそのトムって外人なんて、へこんじゃうわよ。あ、このタイすごくおいしい。」
「本当ね。」
 りんごと三千代は、盛り上がってしまった巨人達に囲まれてなんとなく肩身が狭い。おごりの寿司も見かけ以上に度胸のあるりんごはともかく、三千代には味も分からず、タダほど高いものはないという言葉を噛み締めている。
 バスケ音痴のりんごも、引っ越したばかりで神奈川高校バスケをあまり知らない三千代も正直ついていけない。
「でも、これって一種のドリームチームだな。」
「ああ、センターが赤木で」
 裏口でバイクが止まる音、そしてドアがきしむ音、
「俺も忘れるなよ!」
「おう、魚住も入るのか?」
「当たり前だ、外したら一生恨むぞ。いいなおやじ、いや親方」
「よし、Cが魚住で、三井はBだな」
「ガードは牧と藤真か、それだけでも恐ろしいコンビだな」
「全くだ。花形や長谷川にも声をかけていいか?」
「高砂たちも来たがると思う。」
「スタメン選びだけでも大変だな!」
「そうだな。」
「監督はどうする?大学のコーチにそこまでは頼めんぞ」
「そうだうち、いや陵南の田岡先生に頼んでみよう。情報収集にもなるから、快く承知してくれると思うが。」
「その手があるか。」
「もしこのドリームチームが去年実現してたら、確実に全国制覇できてたな」
「そうとは限らん。どこもかしこも本当に強かったからな。」
「牧もそう思うか?俺もなあ、正直そのチームでも山王を倒せたかよく分からん。はっきり言って、あの時のあのチームだから、そんな気がする。」
「うらやましいぜ、全国を知っているお前らが」
「魚住・・・・」

「とんでもないことになっちゃったわね・・・」
「ものすごい練習試合ですね。」
「ふっふっふっ、それくらいじゃないとこの桜木花道率いる湘北の相手はつとまりませんよ、ハルコさん」
「率いてねえよ。それに花道・・・それがどんなすごいチームか想像つくか?」
「この桜木花道を擁する湘北は無敵!たとえゴリとミッチーとボス猿とじいとホケツが束になっても」
 調子に乗ってそこまで言い、ふと警戒感を持った。
 いつのまにか八人ほどの、かなり崩れた服装の男達がこちらを囲んでいる。
「おうおう、店の真ん中でケータイ鳴らしてんじゃねえ!この店はケータイ禁止だよ」
「いい女が何人もいるな、一人くらいこっちに回せよ!」
「なんだあ?この馬鹿どもは」
 花道と宮城が腰を浮かす。りえことゆきがおびえ、花道達を頼る目で見た。
「お前ら、スポーツマンなんだろ?だとしたら暴力事件は起こせないよなあ・・・」
「無抵抗非服従って奴を見せてもらうか。二度とスポーツができなくなるまでサンドバック決定!てことだよカスども!」
「どうした桜木、宮城!」
「なんでもありません、ちょっとそこらの馬鹿どもが絡んできただけッス。ご心配なく、ダンナから引き継いだ湘北に傷は」
 そう言った宮城の頭に熱いコーヒーがかけられる。女子の悲鳴。
「どこにいるんだ!」
「横浜っす。」

「どうしたんだ、赤木!」
「あいつら、なんか絡まれてるらしい。横浜か、遠すぎる、何も出来ねえ!」
「信じてやれよ、後輩達を。」
「そうしたいのは山々だが・・・・・・前科が・・・・・・・・・・・」

「ほら立てよ、この赤頭」
 と一人の、唇にピアスをつけた男が花道に吐いた唾をカップが受け止め、そのまま氷とコーラごとその男の襟に流し込む。
「てめえ、何しやがる!」
 そこに、花道ほどではないが長身の、やや斜に構えた目つきの少年が立っていた。その横に同じく長身の、少し童顔の少年が。
「やっぱり、湘北の宮城に桜木花道!山王戦見たぜ。あんときゃ眠れなかった!」
「本当にすごかったですよ!」
「ほほう、サインかね。有名人は辛いね・・・」
 ゆきがふと驚き、
「あ!まさか、「デリシャス・タイム」の筒井一臣!」
「りえこちゃん、本当?」
「はい。」
 一臣は照れている・・・出演はりんごを助けるためで、彼自身はあまり有名人になりたくなかった。
「すっごーい!あのドラマも泣きました!」
 晴子もミーハーでは、ゆきに引けを取らない。
「あ、何がうまいんだ?」
 聞き返したのはもちろん花道。
「桜木くん、あの料理番組見てなかったの?」
「当たり前だ」
「てめえら、ふざけてんじゃねえぞ!」
 唇ピアスがポケットに手を突っ込み、バタフライナイフを抜こうとした・・・が、それを洋平が軽く叩くと刃は唇ピアスの手に食い込んだ。切れ味が甘かったのが幸いで、怪我はそれほどひどくないが。
「ぐあっ!」
「それを抜いた、ってことはもうどっちかが死ぬしかねえって事だぞ・・・半端な覚悟で抜くんじゃねえ!」
 洋平が凄むと、大楠が
「それ以前にバタフライなんて骨董品使ってんじゃねえ。ライナーロックが工場で作れて、タクティカルナイフが流行の時代にもう、コレクター以外にバタフライの価値はねえんだよ。」
「やっぱUSSOCOMだよな」
「あれ廃盤らしいぜ。格闘ならガーバーマークUだろ」
 と、なぜか目付きの悪いほうも乗る。
「フェアバン=サイクスダガーはもう古ぃよ、エマーソンコマンドーやベンチメイド=エリシュイッツデザインのニムラヴァス、マスターズオブディフェンスのディエター以外も優秀だぜ?」
「何言ってんだ、おれぁランドールとクーパー以外認めねえぞ」
 野間が怒ったように。
「いるんだよな、鍛造信者・・・」
「てめえら、ざけやがって・・・・・・廃部になりてえのかよ・・・」
「あいにくと俺らは部外者だ。」
 二人組が笑みを浮かべ、挑発する。
「ついでに俺達もな。」
 桜木軍団が立ち上がり、
「ゴリっか?洋平っす。ゴミ掃除は俺らが引き受けますんで、ご心配なく!」
「お前らに助けられるのは二度目だな」
 前回の張本人、三井が三度目だとつぶやいた。
「いいって、ほら行くぞ」

 3分もしないで帰って来た。
「・・・・ありがとう!」
 宮城が頭を下げるが、洋平はそれを止めて笑った。
「死者は出してねえ。行方不明者は出てるがね、根性なしども」
 と言う大楠の袖には切られた傷があった。
「それにしてもおまえら、やるじゃねえか」
 洋平が、無傷の助っ人二人に笑いかける。
「自己紹介がまだだったな。大和台高校の武上竜也、一年生。今年の夏、お前らを倒す男だ。」
「おい!失礼、同じく大和台一年の筒井一臣です。」

 寿司屋で、ほっとした赤木たち。会話を聞きつけたりんごが
「一臣?竜也くんも」
「え、知り合いなのか?」
 三千代が困惑気味に
「はい、彼女のBFとそのチームメートで、」
「そうか、助けられたようだな。よろしく伝えておいてくれ。」
「はい。っと失礼、一臣?竜也くん?あたし、野々原りんご!」
「え、なんであんたがそこに?一臣に回そうか?」
「話すと長くなるんだけどね・・・」
「さっき聞いたんだがな、湘北を倒すって。」
「ああ、あたしや一臣、竜也くん達が入った大和台高校が三月ごろ、なんか練習試合で湘北にぼろ負けしたそうです。それでバスケ部の先輩達がいっつも打倒湘北、って。一臣も染まっちゃって大変なんですよ。」
「そうか」
 赤木のほほに喜色が差した。三井が苦笑し、
「何か変な感じだな、弱小と言われた俺達湘北が目標にされるなんて・・・よくやったよ、赤木」
「お前も、そして小暮もだ。もしもし、ガンバレ、だが湘北は簡単に負けん!大和台バスケ部の皆にも伝えておいてくれ。」

「へえ、大和台の新入生か。」
 宮城が苦笑する。
「我が湘北に勝つ?不可能だ。この桜木花道がいる限り、湘北に敗北の二文字はない!精一杯がんばってくれたまえ、やられ役クン」
「ちょっと桜木くん、恩人に向かって」
「いいんだ。だが勝つのは俺達大和台だ!全国を楽しみにしてるぞ。俺の目標はあくまで全国制覇、湘北は通過点に過ぎないさ」
 竜也がにっと笑う。
「ああ、どんと来い!コートで存分にお礼はしてやる。手加減なしでな」
「生意気な、全国制覇はこの湘北だ!」
「楽しみにしています。必ず勝ち上がってきて下さい!」
 一臣が目を輝かせた。
「そうか、決着はインターハイの決勝、って事もありうるよな。」
 竜也が不敵に笑った。
「そうなったらすげえよな・・・ガンバレよ!さあてっと、俺達も負けちゃいられないな。食い終わったらそこらのコートで、腹ごなしの2on2でもするか?」
「おう!」
「はい!」
「あたし達も女子ですが全国経験者、入れてくれれば3on3になりますよ!」
 晴子たちの視線を気にもしないでゆきが言った。
「むろん、男子みたいに跳べないんだけど」
 りえこの言葉が晴子の胸を刺したことは、彼女は知らない。晴子も昔バスケットボールの選手だったが、兄とは容姿のみならず、運動能力でも似ても似つかなかったのだ。
 その点、女子離れしたジャンプ力をもつりえこは晴子にとって、あまりにもうらやましすぎる存在なのである。
「何言ってんだ、試合みたけどあのジャンプ、凄かったぞ!」
 花道の無造作な一言がとどめ。

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