おっほい鯖総入れ替え四次 Fate/Zeroです。ドにわかです。 触媒も知名度もどこかに放り捨てます。フィクションの主人公級を中心に、ありえないサーヴァントばかり出ます。クラスとマスターの関係だけ残します。 この型月世界では『原作』がどれも、フィクションとしても存在してません。それがFate原作と矛盾していたら生暖かい目で許してください。 一本道ハッピーエンドむしろ抑止が心配レベルの予定。 文章がネット小説ではなく、時代小説に近いです。 以上不快な点があればブラウザバック。 >セイバー  森の奥深く。  結界に閉ざされた城というべき大邸宅の奥で、その儀式は行われた。  主催するのは衛宮切嗣。魔術師殺しと言われ、外道の魔術師を狩ってきた傭兵。魔術師としては異端なことに近代兵器も抵抗なく使う。  その傍らにいるのは、素晴らしい美貌の、白に近い銀髪で瞳の赤い女。その実はホムンクルスである。  この城を維持する貴族魔術師、アインツベルンによって鋳造されたもの。  彼女は、奇跡的に発掘されたものを手にしていた。  錆も傷もない、美しい鞘だった。  まさに伝説そのものの結晶。値をつけるなら、何兆円どころかアメリカの軍事費一年分でもその真の価値には及ばぬ。  現代人が美術品として作ったのであっても、ビル一つ買える価値はあろう。  黒髪で死んだような瞳をした衛宮切嗣は、それも拳銃と同じただの道具として見た。  そして何か思いつくと、儀式を始める。  術式そのものは簡素。呪文も比較的短い。  魔術の多くは、聖杯戦争そのものが担うからだ。  聖杯戦争……日本の冬木という霊地で60年に一度行われる、奇妙な魔術儀式である。  3つの名家によって行われるが、7人の魔術師を本来必要とする。  遠坂家が霊地を管理し、アインツベルンが聖杯の術式をおこない、マキリ……帰化して間桐となった……が、サーヴァントの令呪を担う。  サーヴァント。それがこの魔術儀式の核となる。  神ではないがそれに準じるような、伝説的な英雄たちの霊……英霊を、人間に近い特殊な使い魔として召喚するのだ。その能力はせいぜい超人の水準だが、それでも本気で暴れれば核兵器に匹敵する脅威となる者も多い。  さらに英雄の誇りをもつ英霊が、魔術が衰退したこの時代の魔術師にやすやすと従うはずもない……本来は。  それを従わせるのが、令呪。マスターに配分される、三度使える特殊な聖痕。巨大な魔力が装填され、サーヴァントにいかなる命令でもすることができる。 (令呪からもたらされる莫大な魔力を一度に用い、全力で戦え……)  でも、 (空間転移をおこなえ……)  でも、 (自害せよ)  でさえも。  令呪の力でサーヴァントを従えた魔術師が、サーヴァントが最後の一人になるまで殺し合う。  マスターが死んで適当な令呪を宿す者と再契約できなければ、魔力が切れたサーヴァントは消える。神秘の存在であるサーヴァントは刃や銃弾では殺せないが、神秘で神秘を打ち消す……きわめて強力な魔術や同じサーヴァントが使う宝具などでならば殺せる。そして死んだサーヴァントの膨大な魔力は聖杯に帰り、蓄積される。  それが六体分たまり、最後の一人が勝ち残ったときに聖杯は顕現し、勝者のいかなる願いもかなえる全能の存在となる。  その願いのために、七人の魔術師は殺し合うのだ。  最小限、神秘の隠匿という魔術師共通のルールだけは守らねばならぬとされ、魔術師とは敵である聖堂教会から監督も入ってはいる。  その令呪を輝かせつつ、衛宮切嗣は呪文を詠唱する。  大きな魔力を消費し、苦痛に耐えながら。  傍らの美しい妻すら犠牲にする覚悟を決めて。いかなる鬼畜外道の所業も行うと覚悟して。勝利のために。城の奥で眠る幼い娘のために。  悲願……  すさまじい魔力が凝縮した。  異変が起きた。本来は英霊、その伝承と魔術儀式をつなぐための触媒……  アインツベルンのすさまじい金と権力で手に入れた、アーサー王の「血を除く鞘」が、魔法陣から弾かれたのだ。  だが呪文は終わり、魔術儀式は完成している。  強大な魔力は渦巻き、人の形を成していく…… 「あんたがオレのマスターか?」  若い、大学生ぐらいの、黒髪に動きやすい作業服の男が強い目で切嗣を見据えた。 「……え?」  魔術師たちは、 (どんな間違いがあったんだ……)  と茫然とするしかなかった。  この鞘を触媒にしたのなら、呼ばれるのはアーサー王に決まっている、そのはずなのに。 「魔力のパスは感じる。あんたがマスターだな」 「お、おまえは」 「セイバーのサーヴァント、ってやつか。『アーカム』の『スプリガン』、御神苗優」 >バーサーカー  冬木に古くより住まう名家のひとつ、間桐家。  その地下蔵では、おぞましい悲鳴とともにおぞましい儀式が行われていた。おぞましい音がぎしぎしと漂い、おぞましい臭気と湿気がはびこっていた。  蟲。そこら中に、どんな昆虫図鑑にも、どんな生物図鑑にもあり得ぬ、甲殻や軟体の小動物が這いまわっている。  血の匂いがかすかにする。  体の半分が麻痺し崩れた白髪の男が、激しい苦痛に血の涙を流しながら、呪文を唱えていた。  切嗣や、すでに召喚を終えている教会の者が唱えた呪文とは、わずかにことなる。余計な一節が挿入されている。 「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」  バーサーカー……狂戦士。狂った逸話を持つ英霊を、狂ったまま召喚する。理性とひきかえに能力が向上する……魔力消費も激しくなるが。  弱い英霊を召喚しても戦い続けるために。強くはなるが寿命が縮む薬を打って戦い続けるような、後先を考えないことだ。  そうするしかなかった。  術者……間桐雁夜には、生命しか手持ちのチップがなかったのだ。  はじまりの御三家のひとつ、間桐家の主臓硯は狂っていた。不老不死にかぎりなく近い、人食いの虫の集合体だった。家族も含め他者の苦悶を喜びとし、不老不死の妄執だけにとらわれた悪霊だった。  雁夜と当主である兄、鶴野の母も、今は遊学している鶴野の息子、慎二の母も、男子を産んだら蟲の餌となった。最悪の拷問よりひどい苦痛、何千もの極悪囚人に輪姦されるよりもむごい凌辱、人間の糞尿をためたプールにもぐるよりおぞましい不潔、地獄より悲惨な生ののちに。  そんな狂った家から、雁夜は逃げて普通の人間の生活をしていた。  恋もあきらめた。愛する女をそんな地獄に落とすなど、 (できようはずがない……)  このことだ。  だが、逃げたことはより悲惨な結果を産んだ。愛した女、遠坂葵の娘……何度か遊んでいた美しく穢れない少女、遠坂桜が、間桐家の養女に迎えられたのだ。  魔術は一子相伝、姉の凛がいる以上、もう一人の子はほかの魔術師にゆだね養子に出すのが魔術師の常識。だから同じ始まりの御三家の一つに……魔術師としては常識的であろう。  間桐家に、子を持つ母親がいないということを考慮しなかった……相手のことを調査しなかった、という許しがたい怠慢あってのことだ。  雁夜に冷静な思考はない。愛する女の娘が、考えられる最悪の不幸に落ちた……その衝撃は、圧倒的な怒りになった。愛する女を奪われ、しかも彼女が不幸でいること……嫉妬は憎悪に、殺意に変わった。  雁夜は、自らの人生を捨てた。特高警察もゲシュタポもKGBも想像すらしたことがないような拷問を覚悟した。  聖杯戦争の駒として戦う……聖杯はくれてやる、ひきかえに桜を開放しろ。  それだけが、普通の人間でしかない雁夜にできる交渉だった。  耐えた。  最悪の虫歯の何千倍もの苦痛を。指先を真っ赤に焼いた針で貫く何百倍もの苦痛を。昔の最悪の部活で、一滴の水も許されず炎天下フルマラソンを走り切るよりひどい疲労を。何日も一睡もしないより激しい精神の負担を。  体内に蟲をうめこまれ、中から生きながら食われ続けた。寿命は使い果たされ、聖杯戦争の二週間持ちこたえれば奇跡といわれた。  気力だけだった。憎悪と復讐だけだった。  体内の蟲が、普通の魔術師が用いる魔術回路と同様の働きをする。宿主の血肉を食って魔力に変換し、サーヴァント召喚の魔術を可能にしている。  そして唱え終わった瞬間……すさまじい魔力、ずっと、 (これ以上の苦痛などありえない……)  と思っていた、さらにそれに倍する苦痛に身を焼かれながら、雁夜は見上げた。  長身の、鍛え抜かれた男。  竜のうろこを思わせる鎧を着て、片目には奇妙な、突起の多いメガネのようなものをかけている。  片方の肩から、背に負った長大な刀剣の柄が見えている。柄頭は竜の頭のような彫り物がある。  狂った英霊、名を名乗ることも話すこともないだろう。戦うだけだ……  だが、強いことはわかる。自分の命が今消えてもおかしくないほどに。  満足と苦痛に気絶しようとした雁夜の耳に、奇妙な音が聞こえた。  ヒイイイイイ……ン……  ジェット機のような。高速鉄道の最高速のような。  そして男の額に、輝きが生じた。直線によって構成された、竜の顔を思わせる文様。  バーサーカーの体が静かに輝きをまとう。 「ふん……出来損ないが、よい駒」  老人の姿をした臓硯が、静かにいったとき。 「バーサーカー、竜の騎士、バラン。なんだこの化物は、『ニフラム』」  バーサーカーが言葉を発した、ありえないことに。その身を覆った光が、風となり吹き荒れた。  臓硯が一瞬で消えていく。蟲の集合体である本体をむき出しにし、そのまま火炎放射器の炎を浴びた雪玉のように蒸発していく。  さらに光の風は広がる。今も幼い桜が凌辱と拷問に苦しむ蟲蔵に。屋敷のいたるところに。  雁夜の体内にも。 (やめろ!)  一瞬の喜びののちに、その結果に気づいた雁夜は叫んだ。  雁夜も。そして桜も。  中枢神経も、必須内臓も、いくつも蟲に食われている。蟲が神経や臓器の代行をしている。蟲を完全に浄化してしまったら、死ぬしかないのだ。  絶望の中消えていく意識。そこに、かすかな声が響いた。 『ベホマ』  すっと、苦痛が消える。身体が楽になる。一年ぶりの、安楽な眠りが訪れる。  絶望と悲しみに満ちた、いっそ永遠であればいい……そう考えることもできない、容赦のない眠りが。 「DRAGON QUEST ダイの大冒険」より。 「悪霊退散」と「治癒」両方ができるバーサーカーが条件。 孔雀も考えましたが、本編で治癒術使ってたのが思い出せず。 エルリックも竜の毒がありますがあれは薬というより猛毒で常人は死ぬ代物なので。 本作の英霊はバーサーカー経験がある者が多いです。 原作単行本のプロフィールは無視、まあDQ3全呪文と考えてます。 >ランサー  魔術師の学園、時計塔の若き教授。ロードの名。降霊科の神童。名門に生まれた、二重属性を持つ天才。  空前の栄光をあまたもつ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルドにとって、この儀式はとても簡単だった。  アレンジをいれることすらしてのけた。  かたわらの素晴らしい美女、政略結婚とはいえ婚約者でもあるソラウと、サーヴァントの魔力供給を分け合う契約さえ。  時計塔の無能な職員が貴重な聖遺物を誤配し、さらに逆恨みで学生がそれを持ち逃げするというつまづきにもめげなかった。完全であたりまえ、この世のすべてが自分の思い通りになって当然、という彼にとってはとても腹立たしいことだ。  簡単な儀式のはずだった。だが、負担はすさまじかった。ケイネスもソラウも、干からびて命を落とす寸前だった。  降霊科の教授として、どんな怪物を呼び出してしまったのかぞっとするほどだった。  聖杯戦争についての理解から想定した、何百倍も……本気で、 (間違えて、神霊を召喚してしまったのか、まさかこの私が……)  と思ったほどすさまじい魔力だった。  なんとか召喚を終えたとき。  そこにいたのは、日本人の有髪僧侶だった。若い男性であり、黒髪の柔和な男だった。精悍な武人、という雰囲気ではなく、特に地位ある者は本能的に軽侮してしまう印象だった。 「どういうことだ、東洋人は召喚できないはずだが」  ケイネスの額に怒りがこもる。 「あんたが拙僧のマスターですか?」 「誰だお前は!」 「ランサーのサーヴァント、か。裏高野、第九階中僧都、孔雀」  敵意をぶつけられたサーヴァントの青年は、最低限の礼儀だけは残しているが、 (めんどくさい……) (だめだこいつ)  という気配を濃厚に漂わせている。  ケイネスは講師としての経験で、それを敏感にとらえた。一見殊勝だが軽蔑混じりの反抗、それを見抜くのは慣れている。 「使い魔風情が、何だその態度は!で、貴様の望みはなんだ?何の望みがあって召喚に応えた?なぜ触媒に合うディルムッド・オディナではない?」  矢継ぎ早に攻め立てる声。 「望みは、ひどいことにならないこと。今回の聖杯戦争では、触媒と英霊の関係が完全に断たれている。あんた運がよかったよ。ディルムッドなんて召喚したら、そこの美人はそっちにいかれてただろ」  もう孔雀は、言葉の品も投げ捨ててソラウにあごをしゃくった。 「ば、ばかな」  ケイネスはもう怒りに爆発しそうだ。 「それで、ランサーという話だけど……槍は使えるの?」  ソラウが冷静に聞く。 「ああ。あれが宝具になっているようだな。恥ずかしいから嫌なんだが……」  孔雀は苦慮の表情をする。 「あれ?」 「*****」  孔雀が低い声で漏らした言葉に、ケイネスの表情が一変する。 「な……」 「とにかく、聖杯の奪い合いなんて大抵ろくなことにならない。生前もえらいことになった。魔王を復活させて世界が滅びたりしないように、慎重に」 「おまえはただの使い魔だ!命令に従い、私を勝利させればよいのだ!」  ケイネスが怒鳴るのに、孔雀はあきれかえった表情で、 「はいはい」  と首を振った。  孔雀は生前、バカな雇い主に対応するのは慣れている。そして彼らが、自滅していくのにも…… 「孔雀王」本体のみ。「退魔聖伝」など続編の設定は無視します。 ランサーとしては『ドラゴンボール』の孫悟空や『うしおととら』の蒼月潮も考えましたが…ケイネスと会話させるのが無理すぎて。 あと潮の長い生涯を終えてからの人格と、原作中のキャラが違いすぎて誰だお前状態になるのもファンから石を投げられそうですし。 >アーチャー  余裕をもって優雅たれ。  遠坂時臣は家訓を守りながら、不安におびえていた。  以前から齟齬はあった。協力者である言峰綺礼が以前に召喚したのは、ハサン・サッバーハではなかったのだ。聖杯戦争でアサシンとして召喚されるのは、歴代の山の翁ハサン・サッバーハの誰かだと決まっているのに。  最弱のアサシン。ステイタスはすべて最低値。 (自分もそのような、はずれを引いてしまうのでは……)  そんな不安があった。  そんなことになれば、貴族としての自分の沽券にかかわる。代々の先祖に顔向けできない。  触媒は最高のものを用意した。  大量の魔力を込めた、最上の宝石も用意した。  根源「」へ。遠坂家の悲願のため、勝利のためにすべてをしてきた。  魔力をこめた宝石を惜しみなく費やして魔法陣を描く。  強力な魔力をこめて、儀式が行われる。 「誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」  まぎれもなく、強力な魔力が集まる。並大抵ではない格の存在が手に取れる。  光が渦巻き、エーテルが人の肉の密度にまで高まり……  そこにいたのは、米軍の古びた戦闘服を着た、長髪の男だった。胸にはいくつも勲章の略綬が輝いている。肩の階級章は奇妙にも破かれている。 「米陸軍第……アーチャー、ジョン・ランボー」  そう言って敬礼する。  遠坂時臣は、もう家訓などどこかに投げ捨てて頭を抱えていた。  驚くほど長身の、やや薄い感じで耳にピアスをつけた白人男性……最弱のアサシンと、それに近い長身ですさまじい筋肉の神父……言峰綺礼がアーチャーを見た。  あらゆる敵との戦いを経験してきた綺礼にはわかる。目の前の男は、 (確かに生前、人間最強であったろう……) (生前の彼と、全力で戦っても勝てる可能性は低い……)  このことである。  なによりアーチャーの胸には議会名誉勲章……アメリカ軍最高の勲章の略綬が燦然と輝いているのだ。死後にせよ、生前にせよ、膨大なアメリカ軍人の中でもわずかしか受勲できない。どれほどの武功を立てたものか。  それ以外のパープルハートをはじめとする略綬も、すさまじいの一言だ。 (師は、ギルガメッシュなどよりはるかに勝利に資するアーチャーを引いたのだ。使いこなすことができさえすれば……)  綺礼は、勝利を求めていた。かつての自分であれば、戦いの中で『答え』を求めただろう。  自分は何か。なぜ自分はこうなのか。なぜ……どれほど信仰に、修行に、戦いに自らを痛めつけても、妻をめとり失っても得ることができない、自分の底なしの空虚を満たしてくれる『答え』を。  だが、アサシンによって変えられた今の自分は違う。  普通の人間なのだ。死にたくない。勝たなければ死ぬ、だから勝ちたい。勝って生きたい。  うまい酒を飲み、女を楽しみ、高い地位を得て認められる生活をしたい。引き取り父の瑠正に預けた娘に、呪われた資質がある……それでもその苦しみを最低限にし、幸せな女性としての生涯を与えたい。  かつての自分は、そんな自分を見ても信じることができないだろう。  そして、残っている戦士としての自分が告げる。自らの、最弱のアサシン。目の前の異端のアーチャー。よほどのことがなければ勝てる……むしろ、魔術師らしい魔術師にすぎる師、時臣こそが鎖の弱い環である、と。  その綺礼も、時臣も予想していなかった。自分の陣営に、もう一人サーヴァントが加わることは。 他には『マルドゥック・スクランブル』のバロットやボイルドも考えたのですが…使いこなせる自信がなく。 >キャスター  ある、普通の家はホラー映画のワンシーンと化していた。違いは濃厚な匂いと熱だ。  夫婦が惨殺され、男の子が一人縛られて、心が壊れた状態になっていた。  赤毛の青年がハイテンションに興奮しつつ、手元の古い本を何度も読み、人の血で魔法陣を描いている。  そして、遠坂時臣などが見れば嘲笑するほどぶざまに呪文を唱える。  普通なら、素質があるだけの人間が、いくら家伝の由緒ある書を用いたとしても、これほど間違いだらけの儀式をしても99%は何も起きない。0.99%ぐらいとんでもないものを召喚して自滅する可能性があるかもしれない。  だが、冬木の聖杯は不完全な儀式に応えた。ただし、聖杯の意図も無視したねじれた形で。  そこには、一人の女がいた。高校生ぐらい。長い髪。胸こそ控えめだが、かなりの美少女だ。 「あ、あんたが悪魔か?なら」  彼女は、静かに周囲を確認した。そして短い言葉をいくつか連ねる。 「……『眠り(スリーピング)』」  青年はふらりと崩れ、男の子は縛られたまま眠ってしまう。  彼女の動きに遅滞はなかった。恐ろしい速さで転がっている包丁を拾う。  眠気に耐えて崩れかける青年……日本各地で恐ろしい数の人を殺してきた連続殺人犯、雨生龍之介の尻穴に刃が叩きこまれる。正確に体内最大級の動脈を切断し、出血を外に開放する。  今致命傷を負った青年に劣らぬ、人殺しの経験がある手腕だ。  半ば眠ったまま、いかなる言葉も口にできず、死を味わうこともできず、龍之介は死んでいった。 「悪人に人権はない」  彼女はそう言うと、じっと聖杯のささやきに耳を凝らす。  そして男の子を縛る紐をほどき、包丁をその手に握らせた。 「この世界には警察ってものがあるのよね……こうしとけば、なんとかなるでしょ」  そう言うと、自分は霊体化して惨劇の場から立ち去る。  彼女はわかっていた。サーヴァントとして招かれた自分がマスターを殺せば、自分はほどなく消える……よほどの幸運がなければ。  自分の魔術で魔力を集めることはできる、だが誰か人と契約しなければ、現世にとどまり続けることはできない。  だがそれでも、悪人を生かしておくことはできなかった。  生前はそれを貫いてきた……半ば趣味でもあり、路銀調達の手段として。  さまようキャスターの幸運値は高かった。すこぶる高かった。  犯行現場から出てまもなく、道端で遊……争っている、ふたりの子供を見かけたのだ。  どちらも小学校に入るかどうかの幼さ。一人は黒髪の、金のかかった服を着た美少女。もう一人は赤毛の少年。  両方から、強い魔力を感じる。 「ねーそこのおじょうさんにぼうや、この天才美少女魔導士リナ・インバースのマスターになって聖杯戦争に勝って、好きな願いをかなえてみたくない?」  キャスター……リナ・インバースのとんでもない言葉に、当然少年はぽかんとした。  黒髪の少女は、びくっとして……怒鳴り始めた。 「あ、あんた、一般人の前でなに神秘を漏洩してるのよ!どうなってもしらな……あ」  と、自分が何をやらかしたかを自覚して、赤毛の少年を見た。 (しまった、一般人の前では一般の子供のように、……どうすればよかったのかな)  無論、魔法なんて信じるのは子供よ、と年上ぶってみるか、信じて興奮するふりをするか、黙って逃げるか……  そんなことを考えるより先に、気づいた。  目の前の女が人間ではなく、巨大な魔力で編まれた存在であることに。そして、 (何この子、どこかの魔術師の家の子じゃないの?すごい素質あるんだけど!)  このことも。 「さすがにわかったようね。この美少女には一目瞭然、こちらのおじょうさんはとんでもない素質に加えてこの世界のへんな魔術だけど手ほどきが始まってる、こっちのぼうやもかなりの素質を持ってる。  さーこのあたしが現世につながるため、この世界のおいしいごはんをたっぷり楽しむため、契約して」 「声が大きいのよあんたは!ってもう人払いの結界かけてるか、そつがないわね……そう、お父様が何か重大なことをしてる、それが聖杯戦争とかいうのは立ち聞きしたわ。お父様の助けになれるのなら……でもシロウはだめよ、こっちは一般人なんだから」 「それがねー、たしかにあんたは天才だけど、それだけでこの強大すぎる天才美少女魔導士を支えるのは無茶よ。ああ、このサーヴァントシステムとかいう下等魔術は解析済み、あーしてこーすれば二人の魔力で維持できるようになるから」 「……おれも魔法が使えるのか?」 「魔法ができたら大変よバカ」  黒髪の少女が言うのに、 「誰がバカだよ!バカっていうやつがバカだからケンカするなってマ……ごほ、母さんが言ってたぞ!」  赤毛の少年が言い返す。 「あの、そろそろ消えそうなので契約を……」  リナはちょっと消えそうになっている。 「わかったわ。ああ……そういうふうに……すごいわね。いい、あんた」  と、術式をキャスターから受け取った黒髪の少女は、赤毛の少年を振り返る。 「言っとくけど、魔術は死を許容するもの。とんでもなく痛い思いをたくさんすることになるわよ。それでもいいの?」 「ああ!きのうよんだ兄ちゃんのマンガでも、すごく痛い思いをして変身してたんだ!おれだってがんばる!」  とある並行時空で少年が長じてあんな無残な姿になったのは、大火事と養父のせいだけではない……生来の素質も、幼児期における実の家族の影響もあったのだ。それがなければあそこまでの惨状には普通ならないだろう。 「なら、いいわ……私は遠坂凛」 「おれ、あまみや士郎」  黒髪の少女と赤毛の少年が手を差し出す。その瞬間、二人の手の甲に赤い令呪が生じた。 「いたっ」  苦痛に士郎は顔をゆがめるが、ヒーロー願望で泣くのを押し殺した。凛はもう痛みは覚悟しており、笑った。 「よろしくね、あたしはリナ・インバース。キャスター。こう唱えて…… 『……告げる!」 「『告げる』」 「『つげる』」  凛と士郎が復唱する。 「『………… ……我に従え!ならばこの命運、汝が杖に預けよう……!』 「『我に従え!ならばこの命運、汝が杖に預けよう』」 「『われにしたがえ、ならばこのめいうん、なんじが杖にあずけよう!!!』」  巨大な魔力がふくれあがる。  凛は改めて、かたわらの少年の素質に驚いた。 「『キャスターの名にかけ誓いを受ける……あなたがたをあたしの主として認めよう、リンとシロウ』」  リナの言葉とともに、魔力のパスがつながり消えかけた姿が安定する。 「そうとわかったら、さっそくお父様のところに行かなくちゃ!これで絶対お父様は勝てる!あんたもついてきなさい!」 「あ、ああ、わかった!いてて……いた……」  慣れぬ苦痛にうめく士郎の手を引き、凛は遠坂邸に走ろうとして、一度預けられた禅城家に向かう。  母に知らせず父のところに直行するようなうっかりはしない。遠坂のうっかりは、もっと肝心なところで出るものだ。 『スレイヤーズ!』リナ・インバース。 士郎の実の家族は、龍之介の交流のない親戚、と本作独自設定。 新作が出るという話がありますが、反映させるつもりはないです。 >倉庫街  冬木港の、適度に人がいなくて頑丈なコンクリートの台地が広がる場。  そこには、サーヴァントが敵を呼び出すように気を放っていた。  笠をかぶり杖を手にした僧侶。  銀髪の美女を伴った、似合わない印象の青年。美女が妙に大きく長い荷物を担いでいるのが気になるところだ。  どちらも、違う敵も感じていた。  遠くの空中から、港ごと消し飛ばせる力で狙う者。  そして、物影から自分を狙う銃口と、監視装置。 「あなた……」 「サーヴァントだ。それ以上は名乗れない」  そういった僧が笠を外し、黒髪をさらす。自然体だが、隙がない。  銀髪の美女を背後にかばった青年は、何度かうろうろする。女はその後を従って歩き、やっとある時点で止まった。 (ここでいい?)  優はうなずくと、背中に手を回す。  右手に、長大なナイフが出現する。刃渡り40センチ近くのボウイナイフ……刀のように片辺だけの刃、峰が大きく削られて先端が鋭い刀身。鍔から柄頭まで、手袋も考慮した大ぶりの、ブラスナックルのような護拳(ガード)がついている。  順手で握り、だらりと手を垂らして自然体に立つ。  孔雀は懐から独鈷杵を取り出し、気を込める。両端から『気』の刃が伸びた。 「本気は出さないんだな」  優はそう言うと、静かに歩み寄る。 「そっちも手の内は出してないだろ」  ふわり……ゆっくりした歩きから、突然瞬間移動したように孔雀のやや後ろに出現した優が、脇腹をえぐろうとする。  それを独鈷が軽く受け流し、奇妙な形にした左手が優の首を狙う。手を開いてから、親指と小指の先端を合わせたような形。孔雀の爪を思わせる、裏高野独自の徒手武術。  転瞬……  超高速の打ち合いが始まり、また柔らかい日舞や能のような動きにかわる。 「見事だな」  静かに、豪傑が出現した。  一目ですさまじい英雄とわかる。十年後の遠坂凛が彼を召喚していれば、満足し勝利を確信するに違いない。干からびていなければの話だが。  背の巨大な刀剣。頑丈な鎧。額に輝く、竜の紋章。 「セイバー?まさ」  そう、アイリスフィールが口にしたのはむしろ当然だろう。 「言葉はいらない。一人ずつでも、まとめてでも、来い!」  衛宮切嗣は、死んでいた。  心臓は動いている。だが、完全に死を確信している。  どこを見回しても、見えるのは倉庫街で戦っているサーヴァントたちとアイリ。  そして手元の熱源感知器の画像。  だが、そんな情報はどうでもいい。戦場を歩いてきた直感が、 (逃げることもできない、絶対に死ぬ……) (もう死んだも同然……)  そう、すさまじい音をあげ続けているのだ。  後頭部に銃口が当たっているような。  まともに思考もできない。  銃に手をかけることもできない。  思考が回復したきっかけは、とんでもないことだった。  下半身が熱く、そして冷たい。 (大小ともに失禁した……)  そう自覚したことが、かえって冷静さを取り戻させた。  驚くべきことではない。最初の実戦で多くの新兵が失禁するのは、近代戦経験者の共通の秘密だ。自分も例外ではない。  だが、経験を積んだ自分が、まるで新兵のように…… (ああ、そうか。新兵なんだ。これの前では)  その方向を見るのが、怖くて仕方なかった。  だが、見た。  倉庫街全体を狙撃できる、その橋の上を……  昔の体験を思い出す。  短く言えば、敵はSASだった。圧倒的な腕の差を前に、死を覚悟していたら敵が勝手に撤退していた。その裏事情はのちに知ったが……  思考は次々と回る。  なぜセイバーは、唯々諾々とその本来の戦法とは違いすぎる、堂々と姿をさらして刃物を振り回す愚行を承知したのか。  切嗣はこう考えていた。魔術師は傲慢で近代兵器を嫌う、知ろうともしない愚か者。特にサーヴァントに単独行動スキルがないなら、魔術的な隠蔽だけで近くに出てくるだろう。それを近代装備で感知し、狙撃すればいい。サーヴァントよりマスターを狙うのがセオリー……  笑いたくなるぐらいのんきな思考だった。まったくのド素人だ。  のこのこガタガタ音を立てて狙撃銃を準備する、素人に毛が生えたような二流狙撃手もどきが銃を構えるのを、一流スナイパーが楽々と仕留める……そこをカウンタースナイプ、即座にアイリスフィールと再契約。  何のことはない。 (囮は、捨て駒は、自分だった……)  そう思えた。  セイバー・御神苗優を一目見た瞬間、衛宮切嗣はすさまじい嫌悪を隠し切れなかった。  見ればわかる、自分など足元にも及ばぬ凄腕の近代兵器使い……特殊部隊員・秘密工作員。  経験上、魔術に関わっていて近代兵器を使う人間は、最悪だ。  国益のためなら人類を滅ぼしてもかまわない、仕事なのだからと心底本気で言い切る、もちろんどんな裏切りも拷問虐殺も何のためらいもない、愛国心と理性だけの狂人。  金銭欲や名誉欲ならまだいいほう、普通は虐殺拷問強姦そのものの快楽に骨の髄まで汚染された鬼畜。  組織によって心を完全に書き換えられた、城のホムンクルスどころか熱画像感知器より人間性のない殺戮機械。  自分、衛宮切嗣はその中でも、最悪だ。自覚している。  だからこそ、強烈な近親憎悪を感じる。令呪で即座に自害させようとしたほど。 「れいじ」  言えなかった。その時間にはもう、セイバーの掌底がみぞおちに食いこんでいた。切嗣の胴体から息が叩き出される。  苦痛を振り払い、強化の魔術……などとやっている間に、セイバーは太極拳の起勢のような動作をして、右手をへそ、左拳を心臓に叩きつけていた。 「令呪は無効だ。無駄遣いはやめろ。寿命まで生きて、しっかり修業したんだ。朧を超えている自信はあるし、本物に魔術も学んだ。  このサーヴァントの肉体と術式を解析し、自分の気の流れを操作するぐらいできる」  セイバーの目に、切嗣はただ固まっていた。 (とんでもない怪物を解き放ってしまった……)  幼いころの悪夢すら思い返し、胸が張り裂ける思いをするほど。  縛りを失ったサーヴァントが何をするか…… (僕やアイリ、イリヤさえも拷問凌辱し、世界を滅ぼすかもしれない……)  最悪を覚悟した切嗣は、自由になったサーヴァントがインターネット接続環境と新聞と本を要求したのに、呆然とした。  特に新聞、できる限り多種多様な、さまざまな言語の。多種類の新聞を読み比べるのは、今も昔も最高の情報収集法だ。  それからの優は、気まぐれだった。  何日もいない時もあった。イリヤと遊んでいるときもあった。  切嗣が寝ていたベッドで、ふと気がついたら枕元に、どこで手に入れたのかH&K-MP5と、大量の普通とは違う9ミリ×19パラベラム弾が積み上げられていた。  調べてみれば特殊セラミック製の弾頭で、明らかに宝具。サーヴァントにも有効だろうし、普通の防弾チョッキは軽く貫通するものだった。  というより、MP5を置いたこと自体が、 「キャリコなど使うな素人が」  と言っているようなものだ。  数日に一度、いきなり押しかけてきて、 「訓練するぞ」  と切嗣にペイント弾を撃ってくる。当然切嗣は実銃で反撃するが、まったく相手にもしない。遊ばれているようなものだ。  しつこく、切嗣がこれまでどんな戦いをしたのか聞いてくることがあった。ひたすら無視するのに、精神をとことんすり減らした。  見透かされている。許されている。理解されている。圧倒的に上。  それがいやというほどわかっていた。  倉庫街では、三つ巴になろうとした中、また別の二人が出てきた。  二人、だろうか。  あまりの異常さに、下半身の不快も、謎の狙撃手の恐怖も忘れて切嗣はスコープをのぞき、目を疑った。  着ぐるみ。遊園地や広場で風船を配っているような。  ネズミとテディベアの中間のような、とても丸みが強いデザイン。 「ふも、ふも、ふもっふ」  という声が、アイリスフィールがつけているマイクから届く。  だが、切嗣は一瞬で戦闘に気持ちを切り替えた。  あれだけの容積、すべてが火器と防弾装備、あるいはパワードスーツであれば…… >ライダー  ウェイバー・ベルベットは高揚しきっていた。  渾身の論文を破かれ、怒り狂っていた時に聖遺物の誤配。  ケイネスを、時計塔を見返してやる……  ほとんど衝動で、遠い日本まで飛んできた。  経済的な基盤だけでも聖杯戦争は無謀だったが、それは現地在住の外国人一家に暗示をかけて解決した。  そしてニワトリの血で作った魔法陣の前で、呪文を唱えていた……  最高の触媒。勝利と栄光。師のほえ面。  だが、触媒は魔法陣から弾かれ、そして信じられないことが起きた。まあ普通に召喚が成功していても、驚くことには変わりないだろうが。  そこにいたのは、どう見てもアレクサンドロス三世ではない。高校生ぐらいの日本人男子。  鋭い目つきと剣呑な雰囲気。  それが、ぴしりと敬礼した。 「相良宗介。死亡時軍籍はありませんが、最終階級は軍曹。着任いたしました。ご命令を」 「……え?」 「ご命令を」 「……あ、ああおまえはライダーなんだな?」  ウェイバーは、軍隊そのままの宗介の態度に混乱していた。 「肯定(アファーマティブ)。現在自分はサーヴァントであり、霊的な体を持っております。  聖杯と称する脳直結型AIより知識が送られております。それを情報源として信頼するならば、現在の自分はライダーという階級を持っており、魔力によっていくつかの装備を調達することができます」 「ど、どんな宝具だ?」 「宝具、という言葉が意味不明であります。装備と呼称していただきたい」 「い、いや宝具は魔術の言葉で」  ろくに会話にならなかった。  それからは悲惨だった。  聖杯戦争についての説明を聞いた宗介は、ウェイバーにとんでもない生活習慣を押しつけた。  冬木に近い、かなり深い山まで一時間近く走る。  それで疲労困憊している状態で、エアガンと、宝具として出された『ボン太くん』、その付属の散弾銃の操作を訓練される。  単調な動きを、何千回も。  さらに疲れている足を引きずり、歩いて冬木市に帰ったら、コンビニによって公園でヨーグルトと砂糖を500グラムずつというとんでもない量食わされ、マルチビタミンミネラル剤を飲まされる。  そして帰って休んでまた食事、それから倒れるようにぐっすり眠ることになる。 「魔力は体力です。ならば今、上官殿……マスターは、少しでも体力を。少しでも運動し、タンパク質と脂肪と糖分を摂取し、睡眠を」  勝利のために。宗介は実に合理的に、ウェイバーにできることをさせていた。 (でも聖杯戦争は、こんなもんじゃないだろ……)  ウェイバーは全力で心の中で絶叫し続けていた。 「僕がマスターだぞ」  と叫んだ時も、こう諭されるだけだった。 「戦争では、士官学校を出たばかりで戦争を知らない少尉を、軍曹が指導するのは常であります。それを素直に聞き、責任を取り、決断するのも新任少尉の重要な仕事です。  自分は、聖杯がつこうと戦争ならば、専門家(プロフェッショナル)であります!」  倉庫街にまきちらされている破壊を察知した宗介は、まず適当な場所にいくつか罠を設営した。  ウェイバーを、『ボン太くん』を着たままそこにいさせて、霊体化して消えて……しばらくあちこちで何か作業をしてから戦場に出現した。  自分も『ボン太くん』を着て、戦場に出た。 「ふ、ふんも、ふんもふも、ふもっふ(な、なんでぼくがこんな姿で戦場に)」 「ふ、ふも、ふもふもふも、ふもふも、ふもっふ(自分には陣地作成スキルがなく、上官殿には自衛できるだけの魔術技術および軍事技術がなく、予備兵力もありません。自分が護衛するのが、もっとも安全であります)」  ……『ボン太くん』はボイスチェンジャーが故障しており、まともな言葉が出ない。だが相互であれば、ボイスチェンジャーからの翻訳AIで会話はできる。  ちょうどいい暗号にもなっている。  そう考えれば、とても優れた装備なのだが。だが、なぜか売れなかった。とことん売れなかった。  孔雀がバランに立ち向かう。巨大な直刀を抜いたバランが、一刀で独鈷ごと孔雀を吹き飛ばす。 「さすがだ」  そう、セイバーは孔雀とバラン両方に言う。  自分がそうしているように、この二人も遠くの狙撃手にしっかり警戒し、瞬時に反撃できるように注意しつつ戦っているのがわかる。 「やりにくいな、こんなところでは」  バランはくだらなそうに言い捨てた。 「この時代には、いくつもの勢力が銃を持って介入したがるのは常だな」  孔雀は生前を思い出していた。彼自身が銃を使うことはないが、裏高野には銃を使う近代戦部隊もある。戦闘中近代軍と戦うシチュエーションも想定して訓練されているし、近代兵器を使う組織や特殊部隊と戦った経験もある。  一瞬離れた孔雀とバラン。 「インドラヤ・ソバカ」 「ライデイン!」  短文呪文がほぼ同時に完成する。  すさまじい轟音と衝撃波……雷が二条、闇空にほとばしった。 「な……」  ケイネスは呆然としていた。降霊科の神童だからこそわかる。  二人の英霊が、どれほど恐ろしい存在か。  自分のランサーが使った術の方が理解可能だ。ただし、次元が違いすぎるが。 「か、インド神話の神霊を降ろし、一体化し、力を行使しただと……密教の法、心意口を用いて……」  帝釈天、仏教では天部で、その実はインド神話の最高神の一つインドラ。それを自分の体に降臨させ、使役し、しかも生きている。ありえない。むちゃくちゃだ。 「なぜキャスタークラスではなかったのだ」  とも思う。  その解析と自分の感情に夢中で、自分のサーヴァントの、 『今すぐ全力で逃げろ!ここはスナイパーだらけの地獄だ!』  という心話など聞いていなかった。  ……自分のサーヴァントが雷撃をかわしざま雷を放ったのが、遠くの橋であることの意味には気づいていなかった。  孔雀がマスターを、狙撃手の銃から守っていることなど。最強の礼装、自動防御機能がある『月霊髄液』を信じ切って。  学者としての思考、貴族の誇りを傷つけられた怒りに閉じこもって。  雷と同時に狙撃されるのを防ぐ、それは当然の事だ。 「あんた、何のつもりで戦ってるんだ?」  どこかに飛び出して銃弾を防いでいる孔雀を見送ったセイバーがバランに言った。 「え?」  アイリスフィールが惑う。 「殺す気ねーだろ」 「……敵を、そのマスターを知るには、剣を合わせるほかないからな。一人の幼児をゆだねられる魔術師を探している」  バランはそう言った。  二体の『ボン太くん』が出てきたのは、ちょうどその時だった。 ライダー候補としては孫悟空(ドラゴンボール)やエルリックも考えました。 でも悟空の食欲を考えると経済的に無理。エルリックはまったく制御できずに大惨事でしょう。 >茶番  宗介にとって、勝利の可能性は二つだけだった。  兵站も兵力も乏しい……ウェイバーは魔力も弱く、金もなく仲間もいない。防衛地形もない、マッケンジー家は魔術的にも、近代兵器からも無防備だ。 「敵マスターを狙撃する」 「敵サーヴァントの、残った全員が集まったときに、令呪を必要とする最大宝具で殲滅する」  前者は、冬木市全体に狙撃手の気配があるので断念。  後者のためには、情報収集が必要……多少のリスクは犯しても。  そのためにウェイバーにも宝具『ボン太くん』を着せた。  それで、少なくともライフル程度の狙撃から一撃は持ちこたえられる。魔術にもある程度の耐性があるだろう。  ちょっとした小細工もした。  セイバーなどは、『ボン太くん』の正体に惑っていた。  様々なパワードスーツとも戦っている。おそらく一種のパワードスーツだろう、と見当はつく。  問題は、その動きが機械的だ、ということだ。  マスターか。サーヴァントか。無人か。  サーヴァントが乗ったままAI操縦していれば、無人と思ってバカにした相手の隙をつくことができる。  また、生前の経験から別のシナリオも想定できてしまう。 (某米軍などが、人払いの結界を押しのける兵器を投入し、聖杯戦争自体に介入……)  このことだ。  彼の生前の経験では、ちょっとでも神秘的にすごいものが出たら、わらわらと各国の特殊部隊が集まるのがいつものことだった。  宗介はそれも読んでいる。  特に大きいバックがある敵の、情報関係に負担をかけることができる。組織内に軋轢をもたらしたり、虎の尾を踏むこともありうる。  ……実際問題、アーチャーからの警告を受けた教会側は、本当に世界中の軍や秘密組織、その他諸々がどこも動いていないか確認させられ、てんてこ舞いする羽目になった。 「どうするのだ?」  あまりそれらを気にしないバランが、優に呼び掛けた。 「……考えてても仕方ないか、それはマスターの仕事だ。疲れてるだろうしアンフェアだが、来いよ」 「なめてもらっては困る」  と、すさまじい速度で突進したバランの一撃。  優のナイフがしっかりと受け止める。剛力を食い止める圧倒的なパワー……  スコープ越しに見ている衛宮切嗣も、近くにいるライダーのマスターも瞠目した。 「ふも、ふもふも、ふもおっふ(あ、あれは?筋力が1ランクアップしたぞ)」 「ふもももふも、ふもふも、ふもふも、ふも、ふもっふ(自分が知らない技術による、機械的に筋力を増強する機能があると思われます。防弾能力も前提にすべきでしょう。強敵です)」  ダウンジャケットに見える服が、ふくれあがっている。  宝具化されたAM(アーマード・マッスル)スーツ。アーカムが古代技術で作ったスプリガン用高級兵器。  オリハルコンを利用した人工筋肉が内蔵され、強力な力を生身の腕を動かすのと同様に使うことができる。またライフル弾すら防ぐ強力な防弾着でもある。ついでに掌に対霊兵器も仕込まれている。  それが今は宝具化されている。 「ほう……人間の力ではないな。その短刀もオリハルコンか、この真魔剛竜剣と同じく」  バランが微笑む。  聞いていたケイネスが、オリハルコンの名に驚愕した。 「……だが、これを着てたらあんたには勝てねえな」  と、優はあえてAMスーツを消し、薄着になった。ナイフすら消す。呼吸を整える。 「賢明だな。より恐ろしくなった」  と、バランの額の紋章がひときわ強く輝く。 「いざ!」  バランはすさまじい剣を打ちこむ。優はふわりと、幻のように消えてバランの斜め後ろすぐそばに出現し、ふくらはぎを踏みにかかる。出現位置自体が、バランの両手両足を事実上封じている。 「う」  宗介が痛そうにまゆをひそめる。子供とプロスポーツ選手の体力差があっても、一発で無力化されかねない。  そこを強烈な、おそろしくコンパクトで無駄のない肘打ちが優を襲う……骨を折らせて首を獲る。  だが、優はふわりとそれも受け流し、バランの体重を崩しつつ関節技に入ろうとしている。そこをバランはトベルーラで浮いて、高速で電柱に優を叩きつけようとした。  優が柔らかく離れ、バランの大剣を無効とする密着状態を保ち、ふわりふわりと触れ続ける。  バランも、無駄なく対処している。しっかりと足腰を落とし、余計な反応をしない。特に重心を崩す牽制には引っかからず、極意に至った剣の基本を守っている。  それが、八卦掌系の非常にたちの悪い技の効果を最低限にしている。  地味だがかなりダメージを受けている。柔らかく深い『気』……浸透勁は、圧縮された暗黒闘気同様、竜の騎士にも届く。  しばらく、一見地味だが超々高等技術の応酬である戦いは続いた。優はあちこちから出血し、片腕が折れているが、バランのダメージも実は劣らない。  静かに二人が離れる。 「大したもんだ」  バランは無言でうなずき、屋根を見上げた。 「そこで隠れている少年に、そちらの兵士。降りてくる気はないか」  一方の答えは、一連射。そして完全に気配が消える。 (今の銃声はM60歩兵機関銃?ということは以前の米軍、技術的にはこちらが……いや、予断で判断するな。現代より技術水準の高い世界の英霊がいる。とんでもない兵器に乗った2050年の東南アジアゲリラかもしれない。本当は光線銃があるのにわざと旧式武器を使っているかもしれない)  切嗣はそう考えて、より警戒水準を引き上げた。というより、この聖杯戦争には危険というか絶望的な敵しかいない。  以前の自分なら、迷わず全部投げ出して撤退するところだ。だがそれが、傭兵として唯一まともな行動をとることが、絶対にできないのだ。  静かに、信じられないようなコンテナの隙間から一人の『ボン太くん』が出てくる。 「名乗りはよい。来い!」  バランの目に射すくめられながら、『ボン太くん』は突進した。  そして、すでに出ていた二体の『ボン太くん』の一方が脇から散弾銃を構え、撃つ。もう一方は別の物陰に隠れて、尻を道に突き出した。 (一見無様だが、最大装甲をこちらに向けている。こちらはAI操作か)  優はそう見た。  バランは散弾を大きくよけ、着地した瞬間に剣を振るう。別のところから放たれた矢を切り落とした。  その時。尻を向けたほうの『ボン太くん』の、尻から散弾銃の銃口が突き出て一発弾(スラッグ)がバランを襲う。 「む」  と強力なスラッグを切り払ったバラン、その瞬間突撃していた『ボン太くん』は止まり、ドラグノフ狙撃銃を構えて発砲した。  バランは切り払う動きのまま身を低くしており、弾は外れる。反撃しようとしたとき、尻から銃口を突き出した『ボン太くん』が爆発的に炎上する。  その隙に、襲いかかっていた『ボン太くん』はもう一体の『ボン太くん』とともに、海に飛びこんだ。  海中だけが、銃弾から安全……潜水仕様。  最初に出てきた二体の『ボン太くん』は、空の自動操縦とマスターのウェイバー。そして宗介は別の『ボン太くん』で隠れ、さらに事前に霊体化して仕掛け弓矢も準備し、その射線にバランを追いこんだ。  バランは静かにうなずいていた。 「あれが、あれだけだとは思わねーよな?」  優の言葉に、 「無論。生き残り戦い続けることに優れた、よい戦士だ」  バランが静かに言った。 「さて、もう解散にしようか。ここで高いところで高笑いする奴がいるかもしれないが」  優はそう言う。生前の敵が懐かしく思い出される。  離れたところで、「ナーガと一緒にするなーっ!」とキャスターが絶叫し、大呪文すら唱え始めていた。  時臣は幸いにも知らない。召喚しようとしたのが、それをやらかしかねない者だとは。  そしてギルガメッシュと、セイルーン王家第一王女が会わなかったことは、世界のために幸運だったろう。 「ああ」  答えたバランは霊体化した。感知した、冬木市を消し飛ばしかねない大呪文を防ぐつもりもある。  その間に優は、やや遠隔の治癒魔術で、傷は癒えている。  優はアイリスフィールのところに帰り……突き飛ばした。  数発の弾が行きすぎ、即座にセイバーの手に出現したライフルが、見当違いと見えるデリッククレーンを撃つ。  そしてアイリスフィールさえ、背中から機関銃……G3の機関銃バージョン、H&K-HK21を取り出し、優が左手のレーザーで照らすところを撃っている。すぐに二人の姿が白い霧に隠れる、優の煙幕弾。  ほんの二秒乱射、また霧を揺るがして、HK21についたアンダーバレル・グレネードランチャーが放たれ、夜空を照らす。照明弾、牽制。  発砲炎が上がった瞬間に別のところで爆発が起き、すぐにまた遠くのコンテナに着弾し爆発。遠隔操作の仕掛け迫撃砲が狙撃手をあぶりだす。  その隙に優は、小さなボールを投げてから別の方向に移動した。  ボールは撃ち抜かれるが、優たちは消える。逃走路には、切られた木の弓が転がっている。機械を使わない原始的な、それだけに見つけにくい罠があった。それを宗介が戦いの前に解除していた……優はそれも見ており、利用した。  アイリスフィールは用意されていた、防弾仕様のベンツに乗りこみ、撃たれながら全速に加速した。  RPG-7の弾頭が一瞬突き出されるが、着弾が牽制して発砲を許さない。  その間に、ケイネスを引きずるランサーも、切嗣も、久宇舞弥も、アイリスフィールも、言峰綺礼も必死で逃げていた。  名誉勲章生前受勲の特殊部隊員と、スプリガンが撃ち合う地獄絵図から…… >アサシン  倉庫街の戦いでもっとも活躍したのは、最弱のアサシンだった……言峰綺礼はそう思っている。アーチャーも同意した。他のサーヴァントも、裏事情を理解するだけの洞察力がある者は同意する。  衛宮切嗣も、のちに丁寧に戦況を分析し、そんな一番恐ろしい存在がいた、と理解した。  まったく理解していないのは、肝心の遠坂時臣と、傲慢に過ぎるケイネス、実力がないウェイバーや雁夜、子供たちだ。  アーチャーが遠くから狙撃手としての鋭い気をぶつけ、プレッシャーをかける。  アサシンが霊体化・気配遮断状態で歩く。あちこちに仕掛けられた銃などのところにいき、一瞬実体化して、遊底を操作する。撃ったりしないですぐに霊体化して、歩き去る。  アーチャーが、置いてある銃に罠がないか霊体化のまま確認している。  アサシンは作業を終えたら手元の乱数表を見て、次のところに向かう。  時々、マスターの綺礼から心話が入るので、その指示にも従う。  凄腕のスナイパーたちは、面白いように引っかかった。最初それをした目的は衛宮切嗣に対する嫌がらせだが、他にも近代兵器を知るサーヴァントがいたのでかなり有効だった。  あちこちで遊底操作音がする。そのたびに心が反応してしまう。雑踏の中でもその音を聞き落とさないからこそ、反応してしまうのだ。  そちらに射撃してしまうほど水準が低い者はいない。だが、少なくとも警戒し、心のリソースをごっそり食われる。  さらにその、遊底を操作するのが凄腕だったり、まったくの素人だったりする……それが疑心暗鬼を誘う。 (素人の気配をまねたプロではないか……)  そう思ってしまうと、それこそ超凄腕の狙撃手が何人もいるように感じてしまう。  自意識過剰な英雄ではなく素直に命令に従い、高い気配遮断スキルを持つアサシン。 (本人の戦闘能力など、皆無でもかまわない。最高の駒だ……)  綺礼の思考に、衛宮切嗣などは同意するだろう。彼が仮に、このアサシンとアーサー王どちらかを選べるなら、喜んでこの最弱のアサシンを選ぶだろう。  それだけではない。綺礼にとってこのアサシンの召喚は、救いだった。 「本当に良いのですか?」  聖杯戦争開戦よりかなり前のこと。医師の白衣を着た長身のアサシンは、同じく長身のマスターに語りかけた。 「ああ」 「選択肢はわかっていますね?あなたが選んだ選択肢は、自殺と同じですよ」 「ああ。  ひとつ、それをする。  ひとつ、自分が何かだけ忘れさせてもらう。  ひとつ、自分を受け入れて、生涯偽善を貫く。  ひとつ、自分を受け入れて、悪人となる。  ひとつ、今この場で破壊してもらう」 「はい。  もう一度、確認させてください。どんな常人も、あなたと大なり小なり変わりません。あなたは人間の、個性の幅の中にある、ある意味では普通の人間なのです。あなたと同じようにむなしさを抱え、自分は何かを問い、苦しみながら生きているのがすべての人間です。あなたは普通の、人間らしい人間なのです」  二人はしばらく沈黙した。アサシンは続ける。 「今の、英霊としての私は生前より能力が高い……生前では人格を完全に破壊するしかなかったのが、害のある部分だけを切除して常人として生かすことができます。乳房を完全に切除するのではなく、腫瘍だけを切除してシリコンを入れ温存するように。それでもその後のあなた、人工的に作られた常人であるあなたは、生涯自分が人工的であること、常人であること自体に苦しむことになるでしょう。常人は常人なりの悪をすることもあります。ナチスドイツの大半の者のように……ナチスドイツの遺産であるボクは、常人のほうがあなたよりずっと恐ろしい。善良な常人がやる悪の前では、悪に完全に身をゆだねたあなたにできる最大の悪など、子供のいたずらです。  また、あなたは自分が何だったか、『答え』を得たこと自体を忘れ、何度でも『答え』を追い続けることもできます。『答え』を追い続ける生涯も、それはそれで幸せでしょう。  また、あなたは自分を……多くの人の美を美と感じず、他者の苦痛を喜びとする生来の悪であることを自覚しつつ、生涯を喜びのない善行に捧げることが可能です。それに、あなたと同じようにサディズム性癖を抱え、それをサドマゾを含む買春で飼いならして平穏に生きている人は多数います。個人的にはそれをお勧めします。  そして、もう一つ。それを選ぶならばボクはあなたを殺したいですが、あなたには令呪がある……悪として悪の限りを尽くして生きることができます。  たまたま今のあなたは、悪行も行う組織に属している。組織にとっての利益を出し続ければ、悪の限りを尽くしつつ平穏に暮らすことも可能でしょう。拷問をもっぱら行うセクションに異動することもできるでしょう。  またその方が楽しければ、世界すべてを敵に回して悪の限りを尽くすこともできるでしょう。あなたは優れた人なのですから。  今この場での破壊は、医者としてできません。もとより、ヒポクラテスの誓いなど掲げる資格のない者ですが……自殺してくれと言うつもりもありません。言っておきます。たとえあなたが信奉している宗派の神学が許さなくても、ボクは、完全な悪人が悪行をせず生きていくことを許します。悪行をすれば、手が届くなら殺しますが……」  言峰綺礼が呼び出したのは、アサシンでありながらハサン・サッバーハではなかった。  奥森かずい。  心の医者を名乗る、最低限のステイタスしか持たない最弱のサーヴァントだった。  ナチスドイツに作られた、超能力のある暗殺者の英霊。  だが、有能な戦闘者である綺礼は失望した師とは違い、その能力を聞いて有用性をはっきり理解した。運用によっては最強。 (もし師を支える義務がなければ、確実に勝てる……)  と、確信できた。  戦士として見れば、このアサシンは現代を、法治社会とその裏を知り尽くす成熟した大人。人間を知り尽くした心の医者。人格破綻者であることが多い英雄より、よほど御しやすく有能だ。  そしてその能力、心の医者であり、心のアサシンでもある存在は、まるでレントゲンが発明された直後の医者のように『答え』と治療の機会を与えてくれた。  まさに、自分が必要としていた存在なのだ。  綺礼は、異常者であり異端者。生来絶対的な悪。他者の不幸を楽しむサディスト。 「……それが、不都合ですが真実です。あなたが求めた」 「ああ、私が求めた。誠実に伝えてくれた」 「進化心理学によれば、人類は邪悪なことを良心に邪魔されず行う存在を、必要としています。原始時代、百人前後の群れで狩猟採集生活を送っていたころには、他の人類の群れと戦うこともよくありました。  敵の乳児を皆殺しにして敵の女を生殖可能にし、拷問して隠した食糧の場所を聞き出す……生まれた赤子を口減らしに殺す……そんなことをできるメンバーも、必要とされたのです」 「……治してくれ。心の医者だというのなら、こんな人格を壊してくれ。おまえが生前育てた、大人の体を持つ幼子のようになってもいい」 「それは、今のあなたが自殺するのと変わりませんよ?」 「わかっている!令呪で命じることも……」  誠心誠意、インフォームド・コンセントを尽くしたアサシンは、耳のピアスを外した。  そして手を綺礼の頭にすっと当てた。 「さようなら」 「ああ、ありがとう」  こうして、ひとつの言峰綺礼は死に一人の凡人が生まれた。 『MIND ASSASSIN』奥森かずい。 アサシンとしては雪藤や松田(ブラック・エンジェルズ)も考えたんですが、雪藤だと即殺でキャスターとかぶります。 松田だったら警察学校の経験などがありえますが、知識不足。現実の警察学校が、綺礼のような超有能で客観的には完全無欠、ただし奥底が邪悪な人間を見抜き、有用で警察に害をなさない存在に改造する能力があるか、あるいは排除できるかは知らないので。 雪藤も、スポークで脳手術して記憶や人格を操作できたような覚えもありますが… >間桐家  桁外れに巨大な竜が、何かとんでもないことをしている……止められない。  全力防御。  気がついたら、激痛と重傷……そして一面の破壊。一つの大陸が完全に吹っ飛んでいる…… (核爆発?)  そう思った。核実験の爪痕を取材したこともある。  なぜ自分は生きているのか。しかも巨大な剣を杖に立ち、再び歩もうとしている。傷ついてはいるが巨大すぎる竜に、立ち向かおうとしている……なぜ?  召喚の翌日、もう昼過ぎ。  間桐雁夜が目覚めたのはベッドだった。  はっきりわかる……体をむしばむ蟲が駆逐され、魔力はもうほとんどない。  これまで常に感じていた激痛を、ほとんど感じていない。倦怠感と空腹ぐらいだ……空腹? (ばかな、ずっと固形物も食べられなくなっていたのに)  それほどひどい状態だったのが、今はひどいインフルエンザ+徹夜の肉体労働ぐらいだ。 「桜ちゃんっ!」  雁夜は守るべきものの事を思い出し、跳ね起きた。  考えられる、一番蓋然性が高い事態……臓硯が滅び自分が魔力を失ったら、その時点であの正気らしいバーサーカーは消滅。そして体内の蟲が暴走するか、浄化されるかした桜も死んでいる……  恐怖と絶望に駆られ、疲れた体に鞭打って雁夜は走った。  なぜその部屋を開けたのかわからない。桜の部屋には、桜がベッドで眠り、かたわらにあのサーヴァントがいた。 「あ……」  何も言わず、サーヴァントは雁夜を見た。  普通なら挨拶をするだろう。あまり普通の人らしい対応ではない。 「おまえ、バーサーカー……バラン、とか」 「まず、おまえは今、私のマスターではない。今の私のマスターは、この娘だ」 「な、なんでそんなひどいことを!」  殴りかかる雁夜、バランは一瞬で組み伏せ指一本動けないようにして、 「冷静に話を聞けるようになったら離す」  とだけ言った。かなりの時間暴れていた雁夜だが、そのうちなけなしの体力が尽きた。  そうなると、熟睡の効果が出る。 「……わかった、話を聞く」  バランの声は静かだった。 「この子を助けたい、というおまえの心は伝わった。  この子の経過を観察し、本当にあの化物が全滅したか確認するだけでも、現界を続ける必要があった。おまえが魔術の力を失ったため、そのままでいたら消えてしまう。  竜の騎士として、多くの前世の戦闘経験を継承している。あのような虫の集合体である怪物とも戦った経験がある。街の外に予備の蟲がいるかもしれない。とんでもなく遠くの地中に、卵が埋まっていて数年後に復活するかもしれない。魂も浄化したと思うが、絶対とは言い切れない。  お前には魔力がほとんどなかった。だから魔力があるこの子を使った。それだけだ」 「……」  反応を見て、バランが雁夜を解放する。  正しいことはわかる。感情は暴れているが。 「何があったか、何がしたいのか、話せ」  バーサーカーの言葉に、雁夜は話し始めた。とりとめのない話を。  途中で空腹になり、桜も起きたのでキッチンで薄い粥を作り、桜に食べさせ自分も食べた。  驚くほどうまかった。  心が壊れたような様子で従順に食べる桜には、心が痛んだ。  長い話を終えたころにはもう暗くなっている。また食べて眠った。  バランは、反省していた。  前世でも、息子と引き分けてからしばらく瞑想して、戦いと仕事で逃げていた思考に立ち向かっていた。  死んで現界してからの丸一日も、聖杯の支援も受け、さんざん生前を反省した。  一言でいえば、バカだった。世間知らずの猪武者だった。まあ人間界の常識など知る必要はなく、神々の兵器でしかなかったのだからある意味仕方なかったが。  王女と恋に落ちた時に、それがどういうことなのか調べなかった。考えなかった。人間社会を学ぼうとしなかった。  力を見せないことを選んだ。テラン王国に竜の騎士の伝承があることを調べて後ろ盾にするなど、考えもしなかった。  アルキード王国の宮廷内で、なにもしなかった。どうすればいいのか、経験豊富な者に聞くことを考えなかった。  その挙句に妻を死なせ、大量虐殺をしたのだからバカにもほどがある。  宮中に継承権競争者などの敵がいなかったため、何も考える必要のない姫君だったソアラにも、よい女官など……深い信頼関係があり、国のメンツなどよりソアラ自身の味方で、宮廷そのもの、あり得る陰謀がわかる頭脳もある……をつけていなかったアルキード王にも、責任はあったのだが……  バランが魔王軍に入ってからも。むしろ、クロコダインとハドラーに迷惑をかけていた。ザボエラやヒュンケルを活用できなかった。もっと考え、同僚や上司を理解し、彼らにもそれぞれの感情と利害があると考えていれば、もっと高い戦果を挙げることはできていただろう……そうなったら人間にとっては災難だが。  ダイの側に着いてからも、何も考えずに突撃しようとして、かつての同僚ヒュンケルにいさめられ、ダイ側の主要戦力の一人だった彼に大ダメージを与えた。  今思えば、ダイとともに決戦に挑む時もポップの戦力を理解し、切り札として連れていれば『黒の核晶』を消滅させることができた可能性もある。  せっかくの人の心……頭脳を、あまり使っていなかった。  かりそめの生とはいえ、今回は考えたい。  一人の子を幸せにする、という前マスターの目的を、成し遂げたい。  前世では、わが子を途中で一人にしてしまったのだから……  そう決意してしまえば、もともと知能指数自体はものすごく高い生物なのだ。  また、翌朝。雁夜は昨日より少し粥を濃くし、味もつけ、かなり多く食べた。桜にも食べさせ、そのまま寝かせる。  桜はまだ、人形のようだ。だが、言われるままに食べながら、反応はしている。心は凍っていても、からだが反応しているのだ。  サプリメントも飲み、飲ませた。  そしてまた、バランとの会話に戻る。 「雁夜、おまえの希望は、この娘には魔術とかかわらない、平凡な人間としての生涯を、と?」 「ああ」 「無理だな」  バランは岩のように、寒冷地の大鉄骨のように言った。 「なにっ!」 「感情を切り離してあるがままの現実を見る、戦いにはまずそれが必要だ。  この娘にはすさまじい魔術の素質がある。この世界では、それがあるだけでこの子を、実験材料やホルマリン漬けにしようとする勢力が多くあるようだ」  バランは鶴野も尋問し、いろいろと聞き出している。聖杯からも情報を得ている。 「う……じゃ、じゃあ……」 「私は、この世界につてもない。この世界の常識も知らない。前世を含めても、人間としての経験がほとんどない。私は強い、だから力押しで戦うしか知らない。  おまえが考えなければ。どうすればこの子を守れる人にゆだねられるか。私は二週間しかここにいられない。強大な魔王を倒せと言われれば簡単だ、だが今回果たすべき目的は、それとは違う」 「……おれには力がない。魔術師……だが、魔術師は最悪なんだ。ジジイ、それに桜ちゃんをジジイに渡した時臣……冷酷非情の怪物……」 「雁夜。私も生前、人間を憎んだ。人間はすべて悪だと思い、滅ぼそうとした。だが、愛した妻もその人間のひとりだ、と言われた……  個別に会って、触れ合ってみなければわからん。だが、私は武辺者、戦う以外に人と接する仕方など知らん……」 (いっそ片端から、アルキード王国の強者と試合をしていれば少しはましだったか……)  そう頭を抱えるバラン。 「多くの魔術師に接すれば、中にはまともなのもいるかもしれない。だが時間がない、二週間しかない。おれも、治してもらったとはいえ長生きはできないだろう」 「その通りだ。半年持てばいいほうだな」  バランは容赦なく不都合な事実を告げる。 「一月が半年になったんだ、ありがたい。多くの魔術師……そうだ、今は聖杯戦争。少なくとも七人の魔術師が、この冬木に集まっている」 「そうだな。彼らと戦うことで接し、よさそうな者をさがすことはできる」 「七人の中にいなくても、その誰かをつかまえて、知り合いを吐かせてもいいか……」  雁夜はさらに考えた。 「おれもルポライターの端くれだった、一年間失踪状態だが。情報を集めて分析することはできる……だが、魔術師の世界に知り合いなど……兄貴。少しは知り合いがいるかもしれない。  いや、一家の主が死んだときに、息子は事業相手や知り合いに連絡を取る……アドレス帳を探したりして。遺言状なんてあるわけがないが。  普通の人間として、できることをやってみる」 (あれほどの苦痛に耐えたんだ、なんだってできる)  雁夜はあらためて決意した。  彼はまだ知らない。普通の大人であること自体、正しく使えば聖杯戦争では大きな武器になることを。 >遠坂家  避難させていた妻子、妻の葵と娘の凛が遠坂家に、サーヴァントと見知らぬ少年を連れてきた。  凛が避難先で遊んでいたら、主殺しをしたサーヴァントに声をかけられた、という。一緒に遊んでいた少年とともに。  確かにその赤毛の少年も、一般人とは思えぬ魔力を持っている。  それから時臣も綺礼も忙しかった。  士郎の家族に暗示をかける。  サーヴァントから話を聞き、匿名で殺人を通報する……それならば神秘の漏洩にはならない、と確認したうえで。  マスター殺しをするサーヴァント、 (令呪で自害させる……)  ことも考えたが、状況を見れば理解はできる。  凛と、新しい弟子となった士郎も遠坂家に住まわせることにした。そうなると家事の手が回らないので、葵もそのまま残ることになる。  士郎の家族には旅行に行かせ、職場や学校の人には長期の忌引きと思わせた。  そして凛にも士郎にも、少しでも魔力量を増やすために時臣は魔術を教え始めた。  驚かされるのは、キャスターが指摘した士郎の特異な資質だ。  言峰綺礼は、アーチャーが要求する近代兵器の調達という仕事があった。狙撃銃、対戦車兵器、爆薬、雷管、その他。前歴があるし、教会の父も協力してくれるから可能ではあるが、忙しくはある。  それでアーチャーは、そこらのキャスターより固い要塞を作り上げている。  キャスターに陣地構築能力がなく、アーチャーにあるのは頭を抱えたくなる。が、綺礼でも、SASでも突破不可能と断言できるものができた。  並行して、時臣の説得を続けていた。 (自分とサーヴァントに任せて寝ていれば、一晩で終わる……)  このことだ。  魔術師の工房を高貫通力の大呪文や、物理的な壁を爆砕する対戦車兵器で打ち抜いて挑発。出てきたマスターを狙撃するか、サーヴァントをキャスターとアーチャーの十字砲火で束縛している間にアサシンがマスター殺し……  確実にすぐ終わる。  だが時臣は、 「聖杯戦争は、魔術師の栄誉ある決闘であり、何をしてもいい戦争ではない」  と魔術師の、 (たてまえ……)  にこだわり続ける。  倉庫街の戦いには何人も狙撃手がおり、前線に出ていたサーヴァントも優れた狙撃手になりえることも説明したが……あまり通じていない。  それよりも、士郎少年の奇妙な素質を解析することに夢中になっている。  その反面、異界の強力な魔術を体現するリナから魔術を学ぼうとはしないのだ……  時臣は知らない。世界を滅ぼしてもいいなら、リナに完全版のとある呪文を唱えさせれば別の世界ではあるが根源に直通で飛びこめることを。知ろうともしない。  また、リナがとんでもない量のおいしい食事を常に要求する。無論大富豪である時臣にとってはなんでもなかったが、煩わしくはある。  しばしば仕出し屋が出入りし、大パーティでもあるのかという食事を運びこむ。  あるいは、現代の普通の服に着替えたリナと葵が大食いチャレンジ店に入り、リナだけがとんでもない量を食べてしまう。  あっというまに、冬木市のチャレンジ店は制覇されてしまった。  ケーキバイキングで、凛と葵とキャスターがアインツベルン陣営の協力者と会って互いにそれと知らず意気投合したりもしたが、それは大したことではない。  遠坂家の混乱はそれだけではない。倉庫街の戦いが終わってしばらくして、匿名の手紙が来た……髪の色も瞳の色も変わり、人形のように無表情になった桜の写真と、魔術的に見て属性すらねじ曲げられた桜の毛髪。  さらに、間桐家の魔術に関する古文書も。  それ自体とんでもない価値があるものだが、それよりも内容に戦慄した。蟲を用いる『修行』……それは地獄絵図に他ならない。強姦と拷問……人類はもともとその二つについては桁外れの才能を投入する。だがその人間の限界を、オランウータンの葉屋根と巨大教会の大伽藍ぐらい突き抜けた代物だ。  おまけもあった。鶴野・雁夜兄弟の母、鶴野の妻、以前の代の女子の若すぎる死が記された戸籍謄本や住民票。それを見て考え総合すれば、何があったかは自明と言える。調査しなかった怠慢を自分でも責め、責められることになるが、それよりも今は……  魔術師としての義務にはうるさいものの、愛情深い父親には違いない遠坂時臣は、激怒した。  必ず、かの邪智暴虐な老人を除かねばならぬと決意した。 「行くぞみんな。桜を取り戻すんだ!!!!!」  もちろん凛も葵も大喜び。綺礼とともに留守番だが。  キャスターもアーチャーも、そしてアサシンも手紙を読み、表情はそれほど変わらないが内心怒り狂っているようだ。 「悪人に人権はない」リナ。  戦争は終わったと言っていながら、知り合っただけの相手が虐殺に巻きこまれたときに突貫したランボー。  そして兵器である自分を呪い平和に暮らしつつ、何人も悪を葬ったかずい。  サーヴァント三騎の大軍に宝石も全部持ち出して間桐邸に突撃したが、そこはほぼもぬけの殻だった。  ボロボロで頭を抱えた長男の鶴野しかいない。蟲も全滅しているようだ。  もっとも貴重な書物や宝物の多く、さらに財産の根本である実印や権利書まで持ち出され、桜も雁夜も、あの唯一サーヴァントらしいサーヴァントも行方不明だった。  ただし、桜の虐待の証拠は……下手人の証言も含めて山ほどあり、時臣の心労と罪悪感はひどくなった。召喚前の雁夜が望んだどんな復讐よりもひどいものがあるほど。  遠坂陣営の目的は、桜を探して確保することが最大になる。  ただし、それも長いことではなかった。まもなく癒着している聖堂教会から知らせが来た。  別の陣営から、 (柳洞寺の大聖杯についてしらべてみたが、なんだあれは……)  という手紙が届いた、と。  また、遠坂時臣はとても幸せと言えた。間桐家に突撃するきっかけとなった匿名の手紙は、自陣営のアサシンの知恵だと知らないのだから…… >冬木ハイアットホテル  冬木市最大最高級のホテル『冬木ハイアットホテル』で、大規模な爆弾テロが起きた。  屋上の一番上のヘリポートにばらまかれた多数の爆薬が、大爆発を起こしたのだ。  とんでもない金で最上階全部を借り切っているケイネスは、轟音と衝撃に圧倒され、怒りに身を震わせた。魔術師として軽蔑しきっていた、近代兵器の威力を目の当たりにしたのだ。それを認められないことが怒りの源泉だった。  死ぬほどではなかったが、衝撃は最上階に強く伝わり、窓ガラスもガラスでできた魔術器具もいくつか割れた。  とっさに、『ターミネーター2』のT-1000のように自在に動く水銀、月霊髄液で自分と婚約者のソラウをかばってしまうほど。  同居人であるサーヴァントの孔雀は、 (大したことはない……)  とばかりに、いぎたなくせんべいをかじっていた。  ケイネスは認めたくなかった。このサーヴァントが爆薬を受け取り、屋上に運んでおいていなければ、このホテル全体が崩壊していた。  そうなれば、自分とソラウは……月霊髄液で助かったかもしれないが、このホテルを三つほど買える金額の魔術用具の数々がすべて破壊されていただろう。  魔術戦の、戦闘継続能力が大いに低下する。 「許せん、卑怯な……誰がやったのだ!アインツベルンめ、衛宮切嗣とかいう魔術を道具扱いする汚らわしい傭兵を雇いおって!」 「彼とは限らない。できるサーヴァントが最低3人いる。倉庫街のナイフ使い、全体を見てた機関銃手、それにあの着ぐるみ」 「使い魔風情が、許可も得ずに余計なことをいうな!」  ケイネスは激しくサーヴァントにに怒りをぶちまけた。  爆薬を取り除いたのは孔雀ではない。さすがにそんな技術はない。  取り除いたのは、ウェイバー陣営のライダー、相良宗介だった。  もちろんホテルは閉鎖されることになり、ケイネスを含む客はみな金をもらって宿を移すことになる。それがまた煩わしい。  そして、同じ手を食らわないように、地面を選んでしまう自分自身にも怒りを感じる。近代の産物などに、自分の行動を左右されること自体が許せないのだ。  花火になってしまった爆発を見て、衛宮切嗣は失望しつつ紫煙をくゆらせていた。  だが、ある程度予想できていた。あの僧形のサーヴァントも、銃の存在を前提にした動きをしていた。ある時からは銃からマスターを守り、撤退させていた。爆発物処理技術があることも、ありえないわけではない。  もし彼ではないとすれば、誰だろう。自分のセイバーかもしれないが、アリバイはある。アイリスフィールを、つきっきりで護衛させ、別のところで買い物をさせていた。荷物持ちに憔悴した彼に、少し留飲は下がった。  ケイネスとは別の陣営だとしたら…… (秘密裏に同盟を組んだ、またはその陣営はケイネスに脱落してもらっては困る……)  それも考えられる。  まだ、どのサーヴァントがどの陣営かの情報は不足している。せいぜい、あの僧形がケイネスのサーヴァントと思われること、あとはアイリスフィールが遠坂邸の方角でものすごい大魔術の詠唱を感知したぐらいだ。  二人、まだ姿が見えていないサーヴァントもいる。ついでに着ぐるみは顔や背格好を見せていない。 (いや、ケイネス陣営が二体のサーヴァントを持っている可能性もある……)  そのことも考えた。  常に最悪を考える切嗣も、今起きていることはさすがに想像もつかなかった。  自分のサーヴァントが、別の監視システムで自分たちを監視し、別陣営のサーヴァントと連絡していたなどとは……  隠されていた機材で『ボン太くん』の通信波長を分析し、通信を送っていたのだ。 (冬木ハイアットホテルの爆破解体が準備されている。爆薬を解除できれば、多数の武器弾薬の隠し場所も知らせる)  と聞いた宗介は、慎重に確かめた末に実行した。優やランボーには劣るが、解体するに適した爆薬の設置場所を推定して解除するぐらいならやすやすとこなせる。  セイバー……御神苗優としては、自分の目的のためにもバランの目的のためにも、簡単にマスターに減ってもらっては困るのだ。  特に、聖杯が封印すべき危険物だった場合。無論優は切嗣が集めた各陣営の情報はのぞいている。今の切嗣が、つまり優がわかる範囲では、知識豊富な魔術師はこの聖杯戦争の関係者には三人……遠坂時臣、間桐臓硯、そしてロードの名を持つケイネス・エルメロイ・アーチボルト。  聖杯戦争『始まりの御三家』である遠坂・間桐は、世界より聖杯を選ぶ可能性がある。だから、簡単にはケイネスを失えないのだ。 「そうそう、この爆弾を処理してくれたサーヴァントから、マスターに伝言だ。 『聖杯の術式と、ここの霊地をよく調べてみてくれ、そう爆弾を警告した人が言っていた』  とな。爆弾を処理できるなら、そいつは同じように仕掛けることもできるのはわかるだろ?」 「ケイネス」  ソラウが声をかけるのに、さすがにケイネスは耳を傾けた。 「学者として、冬木の聖杯について少しでも知っておいて損はないでしょ?」  そう言われれば、惚れた弱みである。 「そ、その前にこのように卑怯なことをした、衛宮切嗣に誅を与えてからだ!」  やばい、ケイネスと孔雀のコンビが柳洞寺に行ってたらそれで終わってた……まあ優と孔雀にとってはそれがベストですが。 『サーヴァントがマスターそっちのけで癒着している』……望みがある英霊も、ヒャッハーメンタリティも騎士バカもいない、というか大惨事防止に生涯を尽くした人が多いのがこの聖杯戦争。 >アインツベルン城  倉庫街の戦いが終わって……臭いによる追跡を防止し、体を洗って着替えた……衛宮切嗣は戦いを丁寧に振り返り、分析していた。  その分析の結果、おそらくアサシンが暗躍していることも推測できた。切嗣はアサシンも、その指揮官も高く評価した。  出てきた問題。 (なぜアイリスフィールも重火器を持っていたか……) 「そ、その、セイバーが、少しでも生き延びられるよう、それに奇襲になるから、って」  アイリスフィールはすまなそうに言う。  ちなみに成人男性でもきつい重量と反動は、アインツベルン城で体力を調整してある。  確かに、アインツベルンのホムンクルスが近代兵器を使うなど、どの陣営の意表もつくだろう。初戦で出してしまったのは残念だが、全力を出さなければ生き延びられない事態だったことは理解できる。  だがその兵器はどこで手に入れたのか? 「セイバーに聞いてきてくれ」  聞いた結果は驚くべきものだった。 「前世で殲滅したネオナチの組織と、同じところを調べたらやはりいたので、叩いていろいろともらってきた。二個大隊規模の兵器を、冬木に運んである」  とのことだ。 「某いいおじさんの墓参りついでにな」  という意味不明な言葉もあったが。  切嗣としては忌々しかったが、予備武器の存在は心強い。  ケイネス爆殺が失敗した今想定されるのは、まずケイネス陣営の逆襲だろう。  もっとも魔術師らしい魔術師であるケイネスは脅威度は低いが、サーヴァントには実力があるようだ。  と思っていたら、真正面から来た。  面倒くさそうな有髪僧と、丁寧に見事な技量で結界を無力化しながら。 「アイリ」  切嗣の声に、 「おねがい、セイバー。できたらサーヴァントを引き離して、足止めして」 「はいよ」  と優は霊体化して消えた。  一瞬切嗣は目をむくが、すぐ理解する。 (あちこちに狙撃銃を隠しているのなら、霊体化して移動し、移動した先で銃を手にするのは合理的だ)  それはわかる。  ……ただ、長い年月戦い抜き、引退後アーカム幹部として長く世界を守り通した優と、せいぜい20歳前後まで闘いの日々で9年間引きこもっていた衛宮切嗣では、年季が違うのだ。  強い光が森の奥からケイネスを照らした直後、数十発の銃弾が襲った。  ケイネスは『月霊髄液』が防御し、サーヴァントである孔雀には神秘のない弾が効かない。  実は効く弾もあるが、それは切り札……切嗣も同様の戦法をとるので納得できた。  切嗣にとってはありがたいことだった。『月霊髄液』についての情報を得ることができた。  そして怒り狂ったケイネスが孔雀を発砲された方に差し向けたことで、主従を分断できた。  堂々と家名を名乗り、クレイモア対人地雷の、数百発に及び銃弾より速い鋼球を『月霊髄液』で防御したケイネスは、容赦なく切嗣を追いつめ……ようと、城に足を踏み入れた。  突然頭上から、金銀でできた豪華なシャンデリアが落ちてきた。  冷静なら気がついていたはずだ、 (この城の様式ならば、ここにこのシャンデリアは不適当。本来は大舞踏会室に置くべき……)  と。 「爆弾や銃弾ばかりでは、それに強い敵の可能性があるわ……質量兵器が通用する局面もあるかも」  アイリスフィールの……セイバーに言われての……提言に、切嗣も納得した。  優の、前世での育ての父である叔父はトラップの達人。優自身も凄腕だ。  何十キロもの金、銀、銅。それは水銀を主成分とする『月霊髄液』にとって絶対の弱点だった。  ケイネスは切断を命じてから、それに気がつく。気がついた時には手遅れだった。  アマルガム。水銀は鉄など以外、多くの金属と反応する。  水銀体温計は、飛行機には持ち込み厳禁だ……あのわずかな水銀が、何トンものアルミニウムを腐食したへんなものにしてしまい、当然空中分解をもたらす。  金銀とも反応し、水銀を蒸発させる金メッキは東大寺の大仏を、多数の犠牲者を出しながら「異国の神はきらきらし」とした。また南蛮わたりの灰吹き法は大久保長安の野望を支え、安土桃山から江戸初期の日本を世界有数の金銀生産国とした。銅とも反応する。  豪華で重いシャンデリアを切り刻み、受け止めた大量の水銀が、あっというまに水銀の性……低融点による流動性を失う。  錬金術の大家であるアインツベルンを、錬金術で最重要の金属、水銀で攻めたのが根本的な誤りと言える。 「やってくれたな、アインツベルンめ……」  冷静であれば、ケイネスにもわかるだろう。科学的に解き明かせる物質の性質、それを探求するのは魔術の重要な一部門である、錬金術の重要な側面でもあると。  だが、ケイネスは怒り狂っている。  何に怒り狂っているのか、見ることができない。 (思い通りにならない……)  が戦争の本質であること。ここは研究室ではなく戦争だということ。  研究者である自分が戦争にかかわったのが間違いだということ。  自分の、貴族の威光が通じないところがあること。貴族と魔術師の論理は世界の一部しか統べていないこと。  自分はごく狭い世界でしか一流ではないこと。学ぶべきことがまだあること。  何一つ認められないのだ。  もし認められるような柔軟さがあれば、令呪を費やして孔雀から裏高野の密法を学んで帰っているだろう。それだけで学者としては頂点のさらに上、科学者が異星人からワープエンジンの原理を学べるようなものだというのに…… 「で、ケイネスはどうだ?」 「あのおっさん、あまり期待しない方がいいぞ」  優と孔雀は、軽いお互い稽古程度に打ち合いながら、もっぱらしゃべっている。 「この攻め方みりゃまあわかる。この世界の魔術師って、みんな厄介な精神構造の民族みたいな感じで」 「そうそう。大金持ちと貴族のボンと学者バカの悪い面を合わせたようなやつらばっかりみたいだ。ちょっと苦労してなさすぎて、今から変わるのはかなり難しいだろうな」 「こりゃダンナも苦労しそうだよな……やっぱり子供を託せるのは、うちの切嗣かな?あの着ぐるみのマスターも、若すぎてまだ魔術師に染まり切ってないって話だけど」 「聖杯をどうにかできる学識がなー。あと金」 「金なら間桐のところにあるらしいな」 「うちはマスターがふたりというかケイネスが名家出身の婚約者を連れてる」 「そっちは見込みは?」 「うーん、どうかなあ……ケイネス以上の名家出身で、貴族根性はもっと強いから……」 「そりゃ困ったもんだ。金はありそうだけどな」 「そりゃあもう。あんなホテルワンフロア借り切るとか、あの大量の魔術関係の品はそれより何桁も上だけど」  こんな会話をマスターが聞いたら即令呪で自害させるだろう。 「おっと、案の定マスターが死にかけてるようだ。最後のチャンスってことで助けに行きたいんだが、言い訳がいるだろ?」 「ちょっと待て」  と、優が飛び離れて拳銃を抜き、数発見当違いの方向に発砲する。 「気配遮断はできるようだが、ならプロならどこに隠れるかを考えれば」 「まあそうだろうな。というわけで、これで言い訳にしろ。まあ、前世でこれを手に入れた時は、バサカって姉さんを殺そうとして自滅したから、あまり使いたくないんだが……」  孔雀の手に、すさまじい魔力とともに長い棒が生じる。穂先がかなり長い槍。  EX級の、規格外の対神宝具。 「じょう、だん……」  優が息を呑む。  ロンギヌスの槍。十字架にかけられたイエス・キリストを、ローマ帝国兵が貫いたという槍。キリストの血を吸った槍は、いかなる傷も癒し、ふさわしからぬ者が手にすれば焼き尽くしたり癒えない傷を与えたりする。  聖杯そのものに匹敵する、神秘の頂点。  見ただけで優は全速で逃げた。  ケイネスは多数の魔術礼装で呪文を簡略化し、強大な呪文を駆使して戦っていた……だが、そこに衛宮切嗣の、トンプソン・コンテンダーが一発の30-06弾を放った。  大型ライフル弾の攻撃力、並の魔術では防御できず、力を注いだ……それが致命傷になった。 『切って』『継ぐ』起源を持つ切嗣の肋骨を摘出してすりつぶし、魔術加工して封入した弾。弾数には限りがある。それは魔術回路を逆に侵食して切断、いいかげんに結びつける。電子回路を切断して、いいかげんに溶接したようにショートし、発火し、機能を失う。  とどめの銃弾を撃ちこもうとした切嗣だが、目の前に炎の帯。  不動明王呪を放った孔雀が、恐ろしい速さで飛んできた。  その手にある槍を一目見て、切嗣は即座に逃走を選んだ。  魔術師としては、ケイネスは再起が困難になる傷を負った。最大の魔術礼装ではなかった分、全身麻痺と再起不能ではなく、両足を失う程度ではあるが。孔雀の現界も辛いだろう。ソラウからの魔力供給があるから生きていられるが。  優の銃弾で牽制され、遠くからしか監視できなかったアサシンの目にも、孔雀の宝具の恐ろしさははっきりと見えた。  それどころではない遠坂時臣をよそに、言峰綺礼は衛宮・ケイネス両陣営をより警戒することになる。 >海岸 『あの倉庫街を支配していた機関銃手(マシンガナー)と、姿を見せたナイフ使いは、SASやNavySEALsなど世界トップクラスの特殊部隊一個小隊を一人で殲滅できるでしょう。生前、全人類で指折りであったことは疑いありません。  それを100とします。  普通の国で徴兵され、三年の兵役期間満了直前、うち一年ほど最前線で実戦を経験した、平均的な特技兵を30ほどとします。  自分は85ほど。トップクラスの特殊部隊で平凡な技量です。自分以上の腕の、特殊部隊でも図抜けた狙撃手を自分は何人か知っています。  ほか、倉庫街で確認した狙撃手が二名。指揮官と思われる者は70程度……二線級の特殊部隊や、通常部隊の狙撃手ならば務まる技量でした。もう一人55程度、精鋭部隊の下士官程度の者もいました。  また、出現と消滅を繰り返す、軍人ではないようですが有能な人間もいたようです。  戦闘技量においても、自分は敵の特に強い者に比べれば、劣っています』  海中用の通信機材で説明しながら、二体の着ぐるみが暗い海中を歩く。  戦いと関係ない会話はできない。ウェイバーは、何を話していいかわからなかった。とにかく今もかなり怖いのだ。  濁った夜の海底、視界はほぼゼロ。足元もドロドロでずるずる、さらに変なゴミに足をとられる。  防水・耐NBCで呼吸にも不自由がないが、冬の海水の容赦ない寒さは分厚い布を貫通して機内に浸透し、手や足の感覚がなくなる。  相良宗介は、いくつもの社会を見ている。  そして、とても皮肉な言い方をすれば……社会の最大の仕事は、12歳から22歳の男子という変な獣を、ちゃんとした群れの一員に改造することだ、とよく理解している。  ごく幼いころの実の両親との生活や、幼いころの暗殺者養成所はともかく。  アフガンゲリラ。『ミスリル』。そして日本の高校。  だからこそわかる。どこにでも、このかりそめの生でのマスター……ウェイバー・ベルベットのような、劣等感と誇大妄想でふくれあがった男子はいた。それを一人前の男にするのが、あらゆる社会の目的だ。  彼ほど取り返しのつかないことをしていれば、たいていは死ぬ。だが、生き残れば大きくなれる。  自分も、何度もとんでもない愚行をして奇跡的に生き残っている。 (カリーニン大佐のように……そして高校の教師たちのように)  戦場の先輩として、この未熟な子供を生き残らせ、一人前の男にしよう。  そう宗介が決意したのは、むしろ当然のことだった。  だが、マスターの受け答えを聞くと、少々薬が効きすぎたように見える。 (彼がリタイア……令呪で自害を命じても、それはそれで仕方ない)  とまで覚悟していた。  倉庫街から海に飛びこみ、かなり沖まで海中移動して、それから離れたところで上陸し宝具『ボン太くん』を解除し……ようとした宗介とウェイバーの二人の通信機から、声が響いた。 『そこの着ぐるみ。14.5ミリで狙っている。即刻武装解除しろ』  同時に、宗介機の足が撃ち抜かれる。  神秘を帯びた宝具にも通用する、神秘を帯びた徹甲弾。  宗介の片足も粉砕されている。  奇妙に抑えられた音を『ボン太くん』の高性能マイクがとらえたのは、その二秒後だった。  宗介にはわかっている、秒速約1000メートルの弾でタイムラグ二秒、音速との差を考えれば1キロメートルは離れている。それで正確な狙撃ができる腕。 「ふもっふ(マスター)」 『相互の通信も許さない。マスターが判断しろ』  容赦のない通信音声。  ウェイバーは、いきなり最大の決断をすることになった。令呪を使うか、それとも降伏するか、あるいは令呪なしで戦うか……  戦えるとは思えない。宗介機は片足を貫かれて倒れ、大量の血が流れている。上体は起こしているしパスはあるので生きてはいるようだが。  令呪を使う最大宝具は、説明は受けている。だが実感はできない。  震えがくる。 (戦場……)  実際に見てすらも実感できなかったそれが、はっきりわかる。  恐怖に全身が凍りつく。  ケイネスの侮蔑の目、破られた論文……そんなもの、百年前というか前世のようだ。  圧倒的な強者ににらみ据えられる、命が脅かされている。心底、普通の会話や授業とは違う、魂の底に実感される。  そうなると、倉庫街も思い出される。外部から操縦される『ボン太くん』の中で見た、限りなくサーヴァントらしい剣の豪傑がまき散らした迫力。有髪僧の無駄のない動きととんでもない魔術。  次に何が起きるかまったく予想できない、転換また転換の戦場。  自分のサーヴァントが、どれほどうまく罠を仕掛け先を読んでいたか。 (サーヴァントを、信じるか、自分を、信じるか……なにがある?)  いきなり、ウェイバーの『ボン太くん』の片耳が撃ち抜かれる。 『五秒以内に決めろ。ファイブ、サウザンド。フォー、サウザンド……』  サウザンド、英語で千を入れるのは米軍のパラシュート。身分を偽装するためであり、盗聴している可能性がある米軍と思われるアーチャー、あるいは想定される各国軍を混乱させる目的もある。 「うわああっ!」  ウェイバーは『ボン太くん』から出て、その通信機に、 「撃たないで」  と叫んでいた。  それを見た宗介機からも、宗介は出た……片足を真っ赤に染め、腿近くで縛ったまま。 「さ、サーヴァントは一度霊体化すれば傷を治せるんだな?なら、頼む、一度」 『許可しない。そのまま武装解除状態を保て』  通信機からの声。  宗介は背中や腰のポウチから、弾倉や手製の爆弾、そこらで買える懐中電灯や何種類かの頑丈なカッターナイフを出し、岸方向に放ってうつ伏せ大の字に寝る。 『遠隔操作の機関銃が複数狙っている。サーヴァントと同じ姿勢を保て』  通信が響く。  激痛と出血に意識が遠くなりながら、宗介は敵が移動していることを察知していた。  真冬の砂浜の寒さが、厚着をしていたのに容赦なく冷えた体温を奪っていく。  ウェイバーは背筋で体をそらし、ぷるぷるして耐えられなくなるまで頑張る。山での訓練で、宗介に教わっていた…… (人間は、体の奥が冷えない限り寒冷地でも生存できます。動けなくても、体幹に力を入れる運動は可能です)  20分ほどして、中型のワゴンがやってきた。  そこからは、あの大型ナイフを使っていた青年が降りてくる。その手にはHK-G3ライフルが握られている。 「一時霊体化していいぜ。変なことは考えるなよ、この弾は霊体にも通じる」  言われた宗介が一瞬消え、すぐ出現する。傷は治り、ズボンや砂浜を染めた血も世界の修正で消えている。  ウェイバーは意識を失いかけるほど魔力を消耗したが。 「宝具を消して乗れよ。もし漏らしたのなら、初の戦場ではよくあることだ、海で」  と、青年は軽自動車の後部座席のドアを開けた。 「やってない!」  ウェイバーはそう怒鳴るのが精いっぱいだった。  まるで、普通の夜中のドライブのようだ。後部座席には、ロックバンドの荷物を偽装して長い荷物がたくさんある。検問があっても疑う警官はいないだろう。 「時計塔のウェイバー・ベルベットとそのサーヴァントだな?」  運転する青年の言葉に、ウェイバーはついうなずいた。 「どういう事情で聖杯戦争なんかに参戦したのか、聞いていいか?」  宗介は、 (隙がないにもほどがある……)  と、相手の技量の高さを冷徹に見極め、それでも反撃を狙い続けていた。 「情報では、聖遺物の誤配に便乗して飛び出した、とあった。でも何かなければ、そこまではしないだろう」  普通の高校三年生ぐらいの口調だが、その隙のなさと……何とも言えない何かは圧倒的だった。 「……先生は、論文を破った」  口に出して、はじめてわかる。  今の自分から見れば……それがどんなにばかげていたか。どれほど自分が幼かったか。  宗介が来て以来、毎日ぼろぼろになるまで運動して熟睡して、武器を勉強して忙しく過ごしていた。屈辱の記憶に浸る暇がなかった。  ケイネスなど、小さい存在でしかない、特に目の前で運転しているサーヴァントに比べれば。そして自分はもっともっと小さく、ケイネスが魔術師としてどれほど優れているかも。  そして、暗示で入り込んだマッケンジー家の夫婦の温かさも、なぜか今、突然実感された。  必死で涙をこらえた。みじめすぎた。  そして、はじめてわかった。  勝利のために、宗介が……サーヴァントが頑張ってくれたこと。でも、臆病な自分がそれを台無しにした……信じて戦い抜けば…… (負けた、自分はこれから死ぬ……)  それが、実感された。  運転するサーヴァントも、ウェイバーの隣で隙をうかがうサーヴァントも、何も言わなかった。三十分ほど。  三十分ほど、ウェイバーは死に続けた。海岸ドライブは続いた。  突然運転する優が口にした。 「オレは、聖杯探しなんてろくなことにならないって確信してる。生前経験があるんだ。せっかく呼ばれたから安全に封印したい。協力してくれるか?」  宗介は発言しない。 「マスターは?」  ウェイバーの言葉に、優は苦笑した。 「参加者にとってはとことん危険な相手だ。どんな手段を使っても、それこそ無辜の人々を巻き添えにしても勝つ気でいる……あいつと同じだ」  宗介は言葉も表情も出さなかったが、とてもよくわかった。彼の生前でもそんなのは見ている。  そして車は、まったく別のところに止まって…… 「また連絡する」  と、優は宗介に暗号水準の高い携帯電話を渡した。  軍とは関係ない、民間で手に入るものだ。  優は、直接見て確信した。ウェイバー・ベルベットは異常な怪物などではない、自分も高校生として共に過ごしたような、平凡に自意識過剰な若い男子学生にすぎない、と。  優れた兵士であろうそのサーヴァントも、信頼できる強敵だとわかる。  そのサーヴァントが、ベテラン軍人にとって最重要の仕事、 (実戦経験のない新任少尉に戦場を見せて教育する軍曹)  役を見事にやっていたことも。  一連のことを、マスターたちに報告するつもりなどかけらもなかった。  ウェイバーは、宗介を責めなかった。謝りもしなかった。  それからむしろ積極的に、必死で宗介の言うように運動をした。  そして本を読んだ。それから、川の水などを調べて魔術で敵を探ろうとした。  驚いたのが、いくつかの霊地での激しい反応。 (自分がふがいないマスターだから負けた……)  その悔しさで押しつぶされそうだった。  でもリタイアして帰る気にはならなかった。  そして、何度か夢を見た。  アフガンの戦場で戦う少年。巨大な戦闘ロボット。  そして、日本の高校での妙な騒動……  ある日、優からウェイバーが持つ携帯に連絡があった。 『冬木ハイアットホテルの爆破解体計画。防止してくれれば、ある程度の量の武器弾薬の隠し場所を教える。そこの陣営にも、脅威があったと教えて貸しを作ってやれ』  ケイネスを助けるため、とわかっても、ウェイバーは素直に協力する気になった。  連絡をくれた相手が、自分をあの時に殺すのが容易だったことはわかっている。  宗介は見事に、ホテルの要所に仕掛けられた爆薬を除去した。それを有髪僧の姿をしたサーヴァントをフロントを通じて呼び出した。直接会うのではなく電話で話し、爆薬の保管場所を教えて受け取らせた。 『爆薬と、ビルの爆破解体については理解していると思われるが』 『ああ。詳しくはないけど。こんなちょっとで?』 『肯定(アファーマティブ)。時限装置はないが、睡眠時に遠隔起爆される可能性がある。マスターに脅威を知らせるように。また伝言が……』 『わかった。ありがとう』  と通話が切られる。孔雀は、どこの陣営が助けたのかは聞かなかった。 >教会に近い病院  冬木の教会に近い病院の看板に、ある時期から文字が加わっていた。 『精神・記憶に関する相談うけたまわります』  アサシンが、魔術で関係者に暗示をかけて居座っているのだ。 (自分がいる短い間に、わずかな人数でも救いたい……)  と。  あたりまえのこと、というよりあんな目にあってこの程度で済んでいるのがありえない。間桐桜は壊れていた。  完全に感情のない人形……それが肉体が癒え、蟲を駆除し、おいしい食物を食べるようになってから、徐々に変化し始めた。  単純に言えば、時々ものすごい魔力を暴走させて暴れるようになった。  雁夜にはどうにもならない。バランがマホトーンとラリホーマでなんとか抑えている。  というわけで、避けなければならないとわかっていても病院に連れて行ってしまった。  背が高すぎてドアの枠に頭をぶつけ、入ってきた、白人の血が混じる若い男性医師が桜の前に座った。  そして、半身麻痺はある程度治ってはいるが、まだ死人のような顔色と雰囲気の雁夜も見る。  診察が始まる……雁夜は無理を言って付き添いをつづけた。医師は穏やかに認めた。  そして突然、桜の口が開いた。 「アサシン、筋力が」  雁夜は衝撃に立ち上がり、絶望した。もはや自分の腕に令呪はない。  桜の無反応な心では、令呪など使えないだろう。  長身の医師……奥森かずいは、静かに言った。 「ここでは医者です。守秘義務も守ります、マスターとの視界共有も切っています」  バランが一瞬出現し、 「殺気はない。だがもしマスターとその家族に危害を加えたら殺す」  と言った。  かずいはうなずき、バランは消えた。 「この子がマスターですか。遠坂家のようですが、ずいぶんと容貌が変わっていますね。深刻な虐待を受けたようです……」  と、雁夜に静かな目を向ける。 「あなたではない。……なるほど、間桐雁夜さん、あなたが急に間桐家に帰ったのは、この子の虐待を止めたくて……少なくともここ数日は身体虐待の形跡はなく栄養状態もよい、虐待者はどうにかしたけれど後遺症がひどすぎる、ということですね」  雁夜は目の前のアサシンの、洞察力と思考の速さに圧倒されていた。  生前、多数の児童虐待を見て、解決してきた医師がそこにいる。 「ボクには、彼女の記憶を一部消すことができます」 「ま、待て、完全に消して廃人にすることも」 「もちろん」  雁夜はぞっとした。 (何という恐ろしいアサシン……)  気配遮断ですぐそばに歩き、一瞬出現して精神を破壊し、また霊体化・気配遮断で立ち去る……たまったものではない。  だが、今の桜を治せるのは、間違いなくその能力だ。 「話していただけますか?それによって、治療方針を考えます」 「私から話す」  と、バランが出現した。もう彼はかずいを信頼しているようだ。 「お前の気は覚えている。銃、を不器用に操作し、監視していたほうだな。普通にではないが戦った。雁夜、彼は信頼できる立派な人間だ」  そしてバランは間桐家でのことを話した。遠坂家とも縁があるかずいは、バランが、雁夜が見ていない局面からも理解した。  話が終わったとき。 「さて、どうしますか、間桐雁夜。ボクは今はサーヴァントではなく医者として、この子とあなたを治したいと思っています。信じますか?」  雁夜はかずいの瞳に、戦慄した。 (誰も、誰も信用できるか!これは戦争なんだ)  だが、雁夜は普通の世界も知っていた。普通に、確かに足の引っ張り合いなどはあるが、基本的には人を信じている日本人。  海外取材では、自分の部族以外信用しないし騙しても平気な人たちも見た。だが逆に、自分の部族の人間は絶対に信用し、惜しみなく助け合っていた。  なんとなく思った。 (桜ちゃんに、幸せになってほしい。どんな人間になってほしいんだ?普通の人間になってほしいんじゃなかったのか?  すべての人を疑い、裏を考え、罠を仕掛ける人間か?一匹狼のスパイのように?それは、魔術師どもとどう違う?)  そのとき、バランが実体化して言った。 「私は生前、人の間で過ごした時はわずかだ……そこでは何も考えず、妻以外に関心を持たず過ごし、結果的に妻を死なせてしまった。  だが、やり直せるとしても、誰も信じない人間にはなりたくない。  むしろ、息子の仲間たちのように……仲間を信じ、人を信じて戦う者になりたい。  無論、聖杯を手に入れてやり直したいなどとは思わん。やり直したらその世界は滅んでしまうからな……息子がああ育ったからこそ、最後には勝てたのだから」  アサシンは共感をこめてうなずいた。  彼も特殊な家に生まれ、国際的な陰謀に巻き込まれながら、人を信じて人間として生きた。  バランは静かに言う。 「雁夜。これがお前の、聖杯戦争だ。マスターとして戦うことはできなくても……彼を信じるかどうか、今決断しろ。それは魔術を使って戦うより、もっと戦いだ」  決断。信じるか否か。  それが自分の、聖杯戦争。 (確かに、この決断に桜ちゃんの人生と生命がかかっている……確かに、蟲で時臣と戦うなどよりずっと、戦いだ)  すさまじいプレッシャーに、雁夜の全身がきしむ。歯を全力で食いしばる。  修行の苦痛など、なんでもなくなる。  全身全霊で考えた。全力で、白人の血が混じった瞳を見つめた。 「……信じる」 「では」  そういったかずいは、耳のピアスを外す。桜の額に触れ、かすかに力を放った。  そして雁夜にも手をさしのべる。  雁夜は、それこそ修行の始まり……地獄の苦痛と近い死をもたらす蟲を受け入れるような恐怖と勇気で、その手を受け入れた。  効果はすさまじかった。桜は眠り、雁夜は……記憶そのものはあるのに、修行の苦痛だけが思い出しても心をさいなまない、おぼろげなものになってしまったのだ。  それだけではない。アサシンは、匿名の手紙を遠坂時臣に出し、雁夜と桜は財産本体、特に書類の類を持って、バンで逃げ回ることも示唆したのだ。  医師の分限は越えているが、患者を死なせ自分も呪われた力を使うよりはましだ、ということは生前もよくあった。  かずいの生前は現代人、日本の法制度も何も熟知している。  雁夜は、自分が間桐家の生きた人間であること……戸籍を取り、失踪届を出すなどができることの強みを改めて知った。  アサシンの力で、桜は間桐家の門をくぐる直前にまで戻っていた。  両親や姉の凛と別れた悲しみはあったが……  とりあえず桜には、 (間桐家に来てすぐに祖父が亡くなり、雁夜も末期がん、さらに聖杯戦争も始まったので逃げ回りながら、引き取ってくれる魔術師を探さなければ……)  と納得させた。 >食事  時系列バラバラ日常会。  遠坂家は、朝からお出かけの支度がある。  今朝はリナ・インバースの食欲を満たすため、冬木市内のバイキング形式モーニングがあるファミレスに、葵・凛・士郎・リナの四人+運転手のアーチャーで出かけた。  時臣は貴族らしく優雅にイングリッシュ・ブレックファストをたしなむのだから、葵は大変だ。  また、リナも家で食べることもある。それはそれで、葵が苦労することになる。 「なんでいつもこんなに食べるの?」  食事中は微妙な話はしてはならない、とさすがに学んだ士郎がリナに聞いた。  リナの独特の美貌が、良家の令嬢の服装だとやや違和感がある。 「いい、あたしはここに、二週間しかいられない。14日。おやつと夜食を入れても70食。  それでこの地球全体に、いくつの店がある?チェーン店は一つとしても、どれだけ?  そして、一つのレストランだけでも、何種類のメニューがある?普通のファミレスのランチでも10以上、グランドメニューとなると30はある。  さらに高級レストランでワインとの組み合わせ、考えてみて?牛、豚、羊、鶏、魚の五つと、ワインリストだけで普通20は軽くあり、それに日本酒や焼酎、ウイスキーなども含めたら、あっというまに1000を超えるのよ。さらに多彩な調理法を入れたら、合わない組み合わせを抜いても万にはなる。  そしてさぁらに、この星には国だけで130以上。国の数だけ料理があり、それぞれ何十もメニューがある。フランスなんか地方ごとに料理もワインも違って別の国も同然。中国だって四大料理がありそれぞれ何百もある。  それからどーやってたった70選べってゆーのよっ!せめてこーゆー形で、いろんな地方や種類のものを食べるしかないじゃない!」 「それより全部入るのがどうなってんの」  と、小食で特に朝はホットミルク程度の凛が嫌味を言う。 「あたしは生前、若いころ長い旅をした。どの町も一期一会、一晩泊まって翌朝旅だったら、二度とそこに行くことはない」  どの町でも二度と来ないでくださいと泣いて拝まれるか、あるいは町ごと滅ぶかしたからである。誰と組んでいた時も、一人でいた時も。 「だから全メニュー制覇で、その店のいろいろな食べ物だけでも全部味わう!それが礼儀ってもんじゃない」 「そうなのか……」 「それは、リナさんが生前も超人だったからですよ。普通の人間が真似をしようなどとしてはいけません。士郎さん、あなたも貴族に近い魔術師になるのですから」  と葵が言うが、彼女は自分の言葉がどれほどずれているか知らない。士郎がどれほど異常で、時臣の頭をさいなんでいるのか……  その士郎は、常に無口で控えめすぎるアーチャーと、どう接していいかわからなかった。 (男の中の男だ……)  とはわかるのに、霊体化していることが多くてほとんど実体で会うこともない。せいぜい運転手として動いているときだ。ほとんど食事もしない。それ以前に巨大すぎてとても会話できない。  リナはすごく親しく接してくれる……というかいつも時臣をバカにしてはそれに怒る凛と口げんかをしていて、怖くて固まって震えているのが正直なところだ。  かりそめの生を最大限に楽しんでいるキャスターの姿と、任務に専念しているアーチャーの対比が、新しい生活に惑う少年の心をかき混ぜていた。  ある意味家族になった三人の人間も。  貴族的で距離が遠い、何かにものすごく心を注いでいる時臣。  優しくよく世話をしてくれる美人だが、しつけには厳しく、何かとても悲しそうな葵。  そして激しく、ものすごい力を常に放っている……近くにいるだけで火傷しそうな、それでいて時々強い悲しみ、触れたら折れそうな脆さも発する凛。  魔術という新しい、奇妙な世界……自分の命が脅かされている、ということは、この年齢の男子にはあまり現実感はない。  遠坂家でも外食でもリナにご相伴して食べられる、実家とは桁が違う豪華な食事も、どちらかというとそれどころではない。何よりも、葵も凛もそれをまともに味わうには、悲しみが大きすぎるのだから……  凛は、突然生活に入ってきた士郎という普通の同学年男子と、どう接していいかわからない。もともと猫が落ちてケンカしていた時に声をかけられたのだし、遠坂家でもリナがいるので猫をかぶっているときなどないに等しい。  この素質がありすぎる、それでいて貴族の礼儀作法をぜんぜん知らない男子に、つい苛立ちと悲しみをぶつけてしまう。なかなか反応がかみ合わない、うまくケンカすることも難しい。  あまりひどいことをして母親や、まして大切な戦いに生命をかけている父親の足を引っ張ってはならない、といくら思っても……  それだけではない。令呪という力、自分の魔力。どちらも父親を守るものであり、今は母親も守っている。重すぎる責任を孤独に、一人で抱えている。  突然家族から離れて、わけのわからない魔術の修行を始めた少年を真に思いやる余裕はなかった。  ある夜から、間桐雁夜と桜は金や書類を持って、大型のバンで冬木市内を逃げ回っている。  かさばる宝物は別のところに送って預けている。  金には不自由はない。バンの後ろ席を畳み、市販のエアマットを敷き寝袋を使えば、寒いが寝られる。風呂などはビジネスホテルなどの休憩を使う。  まだ体調が万全ではない二人、食事には気を遣う。  粥を出してくれる食堂を探すのも大変だし、時には雁夜自身がキャンプのように公園でシリアルなどを煮る。  朝食などはドライブスルーの、シェイクの類で済ませることもある。  麺類も、汁に入ったものを選び少し待って柔らかくすれば何とか食べられる。ヨーグルトも食べられる。  長く固形物も食べられなかった、そして死を見つめている雁夜は、その一食一食がたまらなくうまかった。そして少しでも、桜にもおいしい食事をしてほしかった。  今の雁夜は、マスターではない。彼は知らないことだが、アイリスフィール・フォン・アインツベルンと同じように、偽装マスターである。そして買い物や契約、運転ができない桜に代わって、動き、食事を用意し、市役所や弁護士事務所に通って書類を書く。 (命のすべて、この子のために……)  霊体化して見守っている……銃という危険な飛び道具に警戒するバランも、心は一つだった。  聡い桜はそれを知っているのか。母や姉、父を求めながらそれを寝言以外には出さず、黙って我慢を続けている。  修行の苦痛の記憶は消されたとはいえ、家族から離された苦しみと気丈さが伝わり、いつも雁夜は辛くて仕方がなかった。  ある程度、時臣が桜を手放した事情は理解してきているが……  また、幼稚園や学校に通う子供たちを見る桜を見ても、胸が痛くなる。 (なんとしても、桜ちゃんが学校に行けるように……無事に生きられるように……)  晴れ姿を見ることはかなわぬ身でも。  ケイネス・エルメロイ・アーチボルドも、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリも、きわめて上位の貴族である。  だから実体化して食事したがるサーヴァントのマナーの悪さは、きわめて不快だった。  ともに食事するなど冗談ではない、だが離れていては万一の時に危険だ。  というわけで、基本的には他人のふりをし、近くのテーブルだが別々に食事をしている。  また、貴族として普段食べている食事と、日本で食べられる食事はやはり違う。何よりも紅茶と英国式茶菓子、特にクロテットクリームの質は、冬木市最高級であってもイギリスには大きく劣るのだ。  不快を隠さない表情で、逆に孔雀に器の浅さを見透かされていることを、ケイネスは知らない。ソラウはわかっているが関心がない。  また、ケイネスには気に食わないサーヴァントの事よりも、ソラウの歓心を買うことの方が重要だ。家柄も富もはるかに上、自分の実績ですら大したことと思わない彼女の心を、どうすれば手に入れられるのか……  戦争だけではない。恋も、ケイネスにとっては初めてなのだ。  ウェイバー・ベルベットは目が覚めた時、夢を思い出していた。  爆発に吹き飛ぶ、高校の靴箱。  その中に発見された手紙の残骸を解読し、別の戦いを準備する宗介…… 「愛してるぜカァァァシィィィムゥゥ!!!」  最後の最後まで嫌がらせをしぬき、大切な戦友たちや、学校で関わる人も深く傷つけた敵……  自分のサーヴァントの決してあきらめない闘志、そして敵の底なしの邪悪さと執念。  どちらも圧倒されるものだった。  また、普通の学校でのあまりにとんでもない騒動……  だがそれに浸る暇はない。まず全身の筋肉痛がある。  それから、マッケンジー夫妻に甘やかされ、反発しながらの朝食。  着替えての長いランニングが待っている。今日はどんな目にあわされるのか…… (今日は、少し聞いてみようか)  この骨の髄まで軍人であるサーヴァントが、どんな生活をしてきたのか。  同じように、学生だったのならその思い出話も。ハリセンで殴りつけてきた髪の長い美少女のことも……  そう考えて、ふと気がついた。  おそらく、彼女は別の世界の、しかももう故人なのだろう。  サーヴァントというのがどれほど遠い存在なのか。  そして、はるか遠いイギリスの学生生活が、まるで霧の向こうのように感じる。それがどういうことなのかは、まだわからない。  サーヴァントの宗介は、食事はとらないしマッケンジー夫妻の前にも顔を出していない。  奥森かずいは、夜間の情報収集を終えマスターと情報を突き合わせる。  多くの陣営についての情報を得る。一人一人の心を知り、理解し、それを戦いに生かす。  高い気配遮断スキルを持つ彼でも、危険は小さくない。  特にアインツベルンのセイバーは、自分がプロの工作員ならどこに隠れて見張るかを逆に考える。そこにサーヴァントにも通用する宝具化された銃弾を用いた罠を仕掛けている。  着ぐるみのサーヴァントも、同様のことができる。  だから大抵は、偵察にアーチャーも同行してもらっている。彼ならばあらゆる罠を事前に見抜き、解除できる。  そして朝になれば、なんとかもぐりこんだ病院で医者としての仕事をする。  たくさんの人の愚かしさ、邪悪さに触れる。できるだけマインドアサシンの力を使わず、知恵と現代認められる医学だけで対処する。  それでも、彼の力が必要になることがある。霊体化と気配遮断がある分、調べ、極悪人を闇に葬ることは生前よりも容易になっている……  彼は食事を必要としない。ただ、人間として怪しまれない程度には食事もしている。  結構彼の美貌と長身を注目している女性がいることは、あまり意識していない。  言峰綺礼は、隠れ家で激しい修行を積んでいた。  敵の恐ろしさが見えていくにつれて、死の恐怖が増していく。 (戦うには、以前の何の目的もなく、命惜しさもない、ただ何かを求めている異端者のほうがよかったのか……)  と思うこともある。  多くの普通の人間が戦っている。中には無様に散る者もいるし、運悪く死ぬ者もいる。薬物などに手を染める人もいる。  以前のあの自分と、今の普通の人間、どちらが戦いに向いているのか。生き残れるのか。  もう、衛宮切嗣は眼中にない。いや、今の綺礼ならば、容易に理解できる、 (あまりにも悲しい目にあい、ひたすら、より多くを助ける機械であることを自分に課してきただけ……)  だと。  聖杯戦争に参加した理由も、いくつかの仮説に絞れている。その一つ……少年じみた狂った理想というのは、ばかばかしすぎるが一番可能性が高そうに見える。以前の綺礼には想像もできなかったことだろうが。  むしろ恐ろしいのが、その衛宮切嗣のサーヴァントだ。彼が何を意図しているのか……サーヴァントたちの同盟の気配も、アサシンがつかみつつある。  今は小康状態の戦いも、もうじき動くだろう。そのとき、以前の技術と経験はあっても、ただの人間でしかない自分は生き残れるのか……  迷いと恐怖は、修行で晴らすことしかできない。以前の自分より弱いのかもしれない。アサシンの警告通り、 (人工的な魂でしかない自分が、これほどまで生き残りたいなど、笑止ではないか……)  と思ってしまうこともある。だがそれ以上に、死の恐怖のほうが圧倒的に高いのだ。  一人ではない、と思えるのが救いだ。殺し屋としても経験豊富な自分のサーヴァントは、代行者の自分にとっても優れた参謀なのだから。  腹が減っては戦はできぬ、との参謀の助言に従い、行きつけの中華料理屋で、この好みは以前と変わっていない極上の麻婆豆腐を味わった。今日は葵とキャスターもいたので、最悪店が消し飛ぶかと警戒したが。  二人の子供はまだこの店は早いと、すでに別のところで食事を済ませて車で休んでいる。  久宇舞弥は、機械であり部品である。  だからこそもっとも効率のいいカロリー補給の方法として、菓子を食べる。  この冬木市には、たくさんの素晴らしい菓子屋がある。 (たとえこの大都市を焦土にしても……)  切嗣の悲願を果たすつもりである彼女は、この市のすべての菓子を食べたい。  同じように、すべてを楽しみつくしたいと思っている敵のキャスターとしばしば隣の席になるのは、仕方がないともいえる。  マスターではない舞弥は、魔力も調整している彼女がそんな存在だとは気づかない。ただひたすら、甘いものを食べているだけである。  アイリスフィール・フォン・アインツベルンは、今日も冬木市を楽しんでいる。  エスコートする青年は、どう見ても彼女の高雅な美しさには合わない。なんだかチンピラのような印象なのだ。  だが、彼女はそんなことに頓着していない。リナと同じように、かりそめの短い命を満喫している。リナほど多量の食物を食べることはできないとしても、だからこそ厳選し、考え抜き、選び抜いて。  その都度優は憔悴していくのだが……女性の買い物の荷物持ちよりは、 (生前の体でAMスーツなしに、朧とボーマン教官にしごかれつくすほうがまし……)  なのだ。  時にわがままを言い、高校時代にクラスメートたちと楽しんだファストフードなどにも入る。アイリスフィールはそれにも夢中になり、大口を開けてかぶりつく。  衛宮切嗣は、食事を楽しむ習慣はない。自動車にオイルとガソリンを入れるのと同じ、ただの補給と割り切っている。  だから基本的にはジャンクフードだ。アインツベルン城の豪華な食事も、嫌悪のほうが強かった。  だから、とても嫌なのだ。妻とサーヴァントが買ってくるおみやげは。  ひたすらな高級品ではなく、掘り出し物の駅弁など楽しませようとしてくれるのはわかる。  だが、機械にはそんなのは不要だ……  そう叫びたくなる。  さらに今日何があったのか、楽し気に報告するアイリ……幸せそうであればあるほど切嗣は苦しみに胸がねじれるようだ。  そしていくら無視しても、蛙の面に小便で話しかけてくるサーヴァント……  どれほど馬鹿にされているか、どれほどなめられているか、どれほど差があるのかはいやというほどわかっている。  腹が減っては戦はできぬ。戦士たちは今日も食べ、戦っている。  そしてサーヴァントたちは情報を集め、網を張り巡らせ、牙を研いでいる。  この食事が最後になるかもしれない。一口の粥が心を大きく変える。 >大聖杯  世界有数の霊地である冬木市でも最高なのは、柳洞寺がある円蔵山だ。  そこの反応を調べるよう、優に言われたウェイバーと宗介はある夜中、寺に向かった。 「なんだよこれ」  すさまじいまでの霊力に、ウェイバーは圧倒された。寺の規模も相当大きい。何十人もの僧が修行できるという。  山全体が天然の結界になっている。霊は参道を通る道しか歩けない。  霊力にも圧倒されたが、その中に嫌な予感が混じる。それも怖かった。  そこまでの夜道も、以前と違い心配は少ない。ホテルの爆破解体を防いだ報酬として、セイバーからいろいろともらっている。一見普通だが、装甲が施された自動車も含めて。  それを宗介が運転し、山に向かった。  近代生活の便利さと安さ、食文化の多様さに、ウェイバーは毎日驚いている。驚けるだけの余裕を身につけつつある。  長い長い階段の途中から、魔術で調べながら動いたウェイバーは、横道を発見した。特殊な結界で保護され、参拝客は脇にそれずにまっすぐ寺に向かうようになっている。 「車が入れないところで別のサーヴァントに襲われたら……特に、アサシンが正体不明です。何人もの狙撃手がいることも確かです」 「『ボン太くん』を着れば、ライフル程度なら防げるな」  と、ウェイバーは宗介に宝具を出させ、着用した。  宗介が先行し、罠を警戒しながら進んだ。茂みの下を伝う蛇のように、ほとんど四つ足で。恐ろしい忍耐と体力、また注意力だ。  巨大な洞窟の入り口に着いた時から、ウェイバーは猛烈に嫌な予感がした。感じるのは、ひたすらな邪悪。  そして洞窟の奥……それがあった。  圧倒的な悪と呪い。想像を絶するほど高度な魔術。  ウェイバーの未熟な解析では調べつくすこともできない。 「ど、どうしよう。手に負えないよ」 「自分には魔術知識はありません。マスター自身の魔術では手に負えないのならば、優れた魔術師に頼ることを具申します」  宗介は相変わらずだが、もしこの黒い汚泥が襲ってきたら撃退する構えでいる。 「わ、わかった。あのセイバーにも連絡してくれ。それに、先生に連絡しよう。時計塔にも知らせたほうがいいか」  ウェイバーはもう宗介を信用しており、自分にできないことは他人に任せることも考えられるようになっている。 「今取れる限りの記録や、証拠写真も撮っておきましょう」  危険がない範囲の調査をして、主従は逃げるように山を下りた。  ある病院で、孔雀の携帯電話が振動した。  ウェイバーと少し話し、ケイネスとソラウに知らせに向かう。  衛宮切嗣の『起源弾』で重傷を負ったケイネス・エルメロイ・アーチボルドは入院中だ。なんとか歩けるが、老人のように弱っている。  ランサーが守っているし、恐ろしい宝具もわかっているので、遠坂陣営もアインツベルン陣営も手を出していない。  実は御神苗優は、起源弾までは知らなかった……少々計算が狂っている。だが、修正可能だ。ケイネスの学識・地位・家督・財産・子種はまだ無事、聖杯の封印も桜の保護もまだできるかもしれないのだ。  ウェイバー・ベルベットはサーヴァントと思われる高校生男子を実体化させて、連れてきた。人目がある、ここでは戦えない。どちらも。  怨師ケイネスの無残な姿を、孔雀に案内されたウェイバーは見た。  もう、あの恨みも屈辱も、遠い昔のことのようだった。 「先生。大聖杯、は、恐ろしい悪に、汚染されて、神秘の漏洩の可能性があります。助けてください」  ウェイバーが震えながら言う言葉を、ケイネスは呆然と聞いた。  つまづきの原因となった、ならば制裁を……  自分を逆恨みしているのなら、どれほどこの無残な姿を喜ぶか、屈辱……  だが、ウェイバーが見せたのは驚き、怯え、それ以上の決意。さげすみや喜びではない。  教室でのウェイバー……ほとんど印象はなかったが……とは、まるで別人だった。 「時計塔にも連絡は、送りました。ですが、僕からの、連絡では、信用されないかもしれない。先生からの連絡なら耳を傾けるでしょう。こちら」  と、魔術を用いて情報を渡してくる。  ウェイバーのつたない解析結果。とてつもない、大霊地の地脈そのものを使う大魔術と、その奥の深い汚染。 「……どういうこと?この子、貴方の触媒を盗んだ子でしょ?何かうらみでもあったんじゃない?ならこの姿を見て大笑いでも」  ソラウの言葉に、ウェイバーは強い怒りをぶつけた。 「戦ったんだからどうなっても当たり前だ!生きているだけでもすごいんだよっ、僕だって負けたけど生きてるんだ!」  宗介も、 「戦った指揮官を安全圏から批判してはなりません。戦場では常に予想外のことが起きます。常に情報も限られている。判断する時間もない。優秀な者でも愚行をするのは当たり前、マスター、それを知らない士官はいい士官ではない」 「うん」  その言葉が。  同じく戦った者の共感と尊敬が。  ウェイバーと宗介の信頼関係が。  笑われさげすまれることよりはるかに、ケイネスを深く打ちのめした。 「……神秘の秘匿は魔術師の義務だ」  魔術回路は寸断され、令呪も起動できない。それでも、学識はある。  できることはある。 「手紙を書いてから、円蔵山に向かおう」 「はい!」 >殺人機械  間桐邸から帰ろうとしている遠坂時臣……魔術師の要塞というべき工房から出た魔術師は、魔術師殺しである衛宮切嗣にとって絶好のカモである。  切嗣は以前も、遠坂邸を狙ってみたことはある。  魔術的な罠ばかり……と思って侵入しようとしたとき、自分の髪をかすった銃弾が目の前の花壇に当たった。やや強く頭を殴られたような衝撃、外れた弾の衝撃波だ。  伏せて狙撃点を振り返る。かなり遠くの高層デパート、アイリと出かけていた自分のサーヴァントがサプレッサーつきライフルを抱えて手を振っている……怒りを抱いたが、伏せた手の感触の異常に気づいた。土が崩れてその下の、木と穴の感触。  セイバーからの警告がなくもう一歩半、犬の糞をよけて歩いたら後下から割れたガラスの槍先に股間を貫かれていた。魔術も金属も皆無、どんなボディーアーマーでも絶対に防護できない。  伏せたまま周囲を見回す。低い目線から見てはじめてわかる悪夢。兵士に対する罠がいやというほど置かれていた。近代兵器によるものもあり、もっとたちの悪い原始的なものもある。  起き上がるために手をついた、何気なく置かれたプランターは小ゆるぎもしない。太い鉄骨の深い根があり、燃料満載タンクローリーの体当たりも無効化する。  トップクラスの特殊部隊でも、現実的な任務時間では突破できない。  突破しようと罠に挑んだら、今撃たれたデパートをはじめ三つの高層ビルの屋上からとても狙いやすい的になる。  全力で逃げた。逃げられたのが不思議だった。  今の冬木市は、いたるところに銃が隠されている。セイバーも、アイリのエスコートからちょっとトイレに行き、隠された銃を素早く整備して撃って、またしまっただけ。  もう、おもちゃ屋などの銃の10挺に1挺は本物にすり替えられている。弾薬と発射に必要な部品は別に隠されているのでほとんど実害はない。  デパートや駅などの目につくところに、いつのまにかディスプレイされた銃が飾られている。心理の裏を突かれ、誰も撤去したり通報したりしない。  ほかにも売り物のカバンの中、街路樹の茂みの中、スーパーの棚のシリアル箱、そこらの民家の物置など思いがけないところにとんでもない兵器がある。  さらにその銃にはトラップがついている……転がっている銃を拾ったり、味方の負傷者を抱き起したりしたらドカン、は常識に属する。  敵の銃の隠し場所を見つけ、持ち主が手に取ろうとしたら死ぬように罠。巡回した持ち主がその罠を解除し、戦果を確認するのに都合がいい場所に地雷を埋める。さらに別のサーヴァントが、その上の……  凄腕同士の見えない腕比べが、際限なくエスカレートしている。  切嗣などは泣き出しそうにその高みを見ている。  遠坂時臣がある日、間桐邸を襲った。かなり大型の自動車……おそらくあの凄腕のアーチャーが運転している。  切嗣たちは時臣の妻と娘、情報がない少年が中が見えない自動車でレストランなどに行くのはたびたび見ている。毎回別のところに行くので捕捉しにくい。  偽装装甲車なのは見ればわかる。調達経路を調べようとしたが、すぐに危険すぎる相手だとわかって手を引いた。  たまたまその車が監視カメラに引っかかったので、久宇舞弥が襲おうと急行、隠れた……ところに足をはさむ普通の狩猟用罠があり、かなりの傷を負った。ご丁寧にタバコ・キョウチクトウ・エンジェルズトランペットの毒まで塗ってあり、治癒魔術で治せたのは運がよかった。  とにかくどの陣営でも、下手に待ち伏せや狙撃を狙ったら、そこには罠があるかいい的になるだけだ。  間桐邸に時臣は丸一日いた。  切嗣は間桐邸の住人が二日前にそれまでなかった大型のバンで出かけていることを知っている。そのバンを追跡しようともしたが、使い魔はすべて撃墜された。また同じ種類が多数あるバンであり、ナンバープレートも頻繁に変えるので、機械的な追跡も現実的ではない。  切嗣は、雁夜の評価を一段上げた。魔術師としては三流以下、普通の人間として暮らしてきたとしか情報がない……普通人だからこそ、監視カメラというものが存在していることはわかるし、その対策も考えられる。  結果、遠坂時臣の帰途を待って襲撃すると決意した。  待ち伏せはしない、どうせ待ち伏せの適地には罠があるに決まっている。  時臣の姿を見て襲撃しようとした切嗣。だが一瞬直感がはたらき、身をかわす。  黒い法服をまとった巨体が襲ってきた。 「言峰綺礼」 「衛宮切嗣」  宿敵……だった。今は、一方の中身が事実上別人。  そのことを知るのは、アサシンと綺礼自身のみだ。  瞬、すさまじい戦いの応酬。  消音器入りのH&K-MP5SDの一連射、通常弾は呪符とケブラーに守られた法服がはじき返し、強烈な打撃も鍛え抜かれた筋骨が受け止める。  弾倉最後の一発は、セイバーにもらった宝具。それが放たれる前に、長身が深く沈みすさまじい打撃が放たれる。 (八極拳)  切嗣の体が反応する。銃を手放し、致命打を避けることに専念する。  ダメージは無視する。殺人機械に、ダメージはない。  見事な自然体に立つ綺礼の口が開く。 「殺人機械か」  切嗣に、その言葉は奇妙なほど衝撃になる。 「殺人機械……そう、以前は私もそうだった。そうであるしかなかったのだ、人でない者が人のふりをして、戦いで何かが見つかるかも、と戦いの技術を追求していたのだから。  だが、あなたを求めていた以前の、同じ殺人機械である言峰綺礼と、今の私は違う。私はただの人間だ……死ぬのが怖い。勝ちたい。戦いに興奮する。敵が憎い……」  そう言った綺礼は、切嗣に立ち向かった。すさまじい気迫と突進。  綺礼の拳は、二倍速、いや三倍速の切嗣すら正確に追随し、とらえる。 「そうか……こちらに感情があるからこそ、相手の心に共感し、動きを読むことができる。痛いのが怖い、それは計算をこえたセンサーになる。機械よりも、以前の私よりもずっと強いのか!」  綺礼はすさまじい強さで切嗣を追い詰め、とどめを刺そうとしたとき飛び離れた。 「そちらのプレッシャー、サーヴァントだな。凄腕の兵士……こちらのアーチャーとアサシンが、高く評価していた」  綺礼の評を受けて飛び下りた優は、静かにおのがマスターを見下ろした。そして言う。 「それが殺人機械の末路だ。殺人機械は99.999%までしか力は出ない」  動けない切嗣は、衝撃に震えている。  優は言葉を続ける。 「部品と話す趣味はない、か。自分も部下も機械、兵器でしかない……だがな、そんなのは軍人として、指揮官として二流だ。生前、何人も見てるんだ、部下を道具としか考えないクソとか、自分すら道具としか考えてないバカとか。  見せてやるよ、本物の殺人機械(キリングマシーン)ってやつを。そっちにもいるだろ!聞いてるだろう」  優は英語に切り替える。 『COSMOS...Children Of Soldier Machine Organic System, No.43. ***************』  後半の言葉は暗号。ランボーは反応した。 『その部隊名は知らされていない。秘密部隊、暗号で見当はつく……アメリカが、国家が……守ろうとした国民が、何をするかは知っている』  直後から、すさまじい銃撃戦が始まった。  殺人機械同士の、正確無比な移動と射撃。空中で銃弾と銃弾がかみ合うほどの。人間を、サーヴァントの枠すら超えた動き。  M60を片手で操るランボーと、H&K-G3で精密な射撃を繰り返す優。  どちらも、完全に機械だった。  いつしか、銃撃戦から接近戦に切り替わる。両方が長大なナイフを抜き、切り結ぶ。優はAMスーツでさらに力を増している。  殺人機械。完璧な。  ふたりとも同じ鋳型、プレス機で生産されたことがわかる。米軍という名のプレス機だと、切嗣にはわかる。  しばらくそのすさまじい戦いを、切嗣も綺礼も、時臣も見つめていた。  す、と申し合わせたように両方が引き下がる。  優の体からAMスーツが消え、薄着になった。  ランボーもうなずく。 「あんたも、ただの殺人機械でしかないなら、英霊になんてなれなかったはずだ。死んでいたはずだ。それ以上を出せる、守るべき人のために戦える人間だから、もっと強くなって生きのびたんだろう」  ランボーは黙ってうなずく。  それから、また戦いが始まった。  どちらも精密機械の戦いとはまったく違う。豪放で、切れがある。獣のような激しさがあるが、人間の理性と心を失ってはいない。  AMスーツを脱ぎ薄着になった優は、皮膚で風を感じる。敵と、空と、大地と、すべてと一体になっている。何手も先に、相手の気の動きを悟って動く。  八卦掌の、相手の裏にすっと入る歩みと強い足腰から正しく伝わる力。敵の攻撃を受け流し、すべての歩みが蹴りにつながり、相手を崩し、大地からすさまじい力をくみ出す。  ランボーも負けていない。すさまじい執念と闘志を技に変え、力で優の絶技を切り破る。  サーヴァントの枠から見ても桁外れのスピード、ありえない回避と反撃。  魂をぶつけ合う美しさがそこにはあった。守るべきもののため、信念のため……人間と人間が戦っていた。正しく自分を愛し、人を愛し、敵を認めつつ戦う人間が。  何度も、優もランボーも深い傷を負いながら戦い続ける。  どのぐらいの時間、戦ったか……  ふたりとも素早く飛び離れ、優は傷ついた切嗣を抱えて逃げた。  遠くから、二人の子供が走ってくる。黒髪の少女と赤毛の少年。  そして一人の女が出現し、とんでもない呪文を唱え始めた。 「止めなさい」  時臣の命令で少女と少年は、 「やめなさい」 「やめてくれ」  そうリナに言った。  彼女は詠唱をやめ、 「そろそろあたしも、ぱーっと派手に呪文使いたいんだけど……ここの連中は神秘の秘匿とか、マナがないからっていじましいことしてるわよねえ」  と、肩をすくめた。  優はもう、アイリが運転する車に飛び乗っている。切嗣が放り込まれた後部座席には、重傷を負い治癒魔術を受けた舞弥もいた。  遠坂時臣も、はずれと思っていた自らのサーヴァントの力を改めて知った。武術の素養もあったからこそ、敵もランボーも、どちらもどれほど優れているかわかる。  そして子供たちのサーヴァントの危険性も……神秘の秘匿どころか、冬木市が消し飛びかねないほどの威力が予想できた。 >試し  聖堂教会本体、冬木教会、時計塔のロードたちなど多くの人に手紙を送った、ライダー・ランサー連合陣営は円蔵山に向かった。 「あんたはなぜ聖杯戦争にかかわり続けるんだ?帰った方が安全だろう?何かかなえたい願いでもあるのか?」  孔雀がソラウに聞いた。 「……そのとおりだ」  絞り出すようにケイネスは言った。ほとんど力を失った今、ソラウを守ることができない。  衛宮切嗣の礼装と思われる弾にやられてからもずっと現実を見ていなかった。が、ウェイバーが訪れマスターを変更する、という話になって、初めて考えてしまう。 (ソラウを失うことは、耐えられない……)  だから、安全なイギリスに帰ってほしい。あんな外道の魔術師がいるのだから。 「……何か、見つかるかもしれないから」  ソラウは、何か悲しげな眼をしていった。 「戦場では……」  宗介が言いかけて、やめた。  戦場はひたすらむなしく悲しい。だが戦友との交情は、平和な世界では到底味わえぬものがある。  戦場に何か見つかるか、と戦場に来るものもいる。やっと戦場から帰れたのに、平和に順応できず戦場に戻る者もいる。自分は平和の中、短かったが生きられたが…… 「それに、神秘の秘匿は魔術師の義務。私も魔術師の端くれよ」  そう言われては、ケイネスもウェイバーも反論できなかった。  途中の人目がなくなったあたりで、突然バンが追い越しをかけ道をふさいだ。 「警戒を」  ライダーが言って運転しながら宝具のドラグノフを構える。場合によっては装甲車で体当たりの構え。 「誰だ」  ウェイバーが車を盾にして聞く。  止まったバンをかばうように、鎧を着た男が実体化した。  ごくり。人は皆つばを呑む。  この聖杯戦争で唯一、サーヴァントらしいサーヴァント。見れば神話級の英雄だとわかる。そしてマスターたちは、すさまじいステイタスも知っている。  走る車の真正面に立ったまま背の剣を抜く。鋼でできていれば普通の人間では振るのが無理な重さになろうほど、長く広く厚い剛剣だ。  宗介は思い切りアクセルを踏み、偽装装甲車を加速させる。  ウェイバーは覚悟を決めたように、令呪を手で覆っていた。  ケイネスは『月髄霊液』に命令しようとして、今や力がほとんどないことに気がついた。老人のように鈍くしか動かぬ手でソラウを抱きしめた。  ソラウはそれなりに優れた呪文を使おうとする。  孔雀は、リラックスしている。見る者が見ればわかる、宗介を信じつつ、いつでも主を守れる実力を持ってのことだと。  全速で激突、と見せて宗介はブレーキとハンドルを複雑に操った。  縁石に乗り上げ、ガードレールにぶつかった装甲車は、すさまじい勢いでバランをかわして横滑りする。  ワイヤーガードレールにぶつかって急停止しつつ、鋭く宗介はウェイバーをつかんだまま車から滑り降り、ドラグノフを構えバンに向かって走った。  バランの剛剣は振り下ろされ、道路を深く斬っている。瞬時に横薙ぎが加わり、剣圧は爆風として吹き荒れている。  はねようとしたら、車ごと斬り飛ばされていたろう。  突進し、しかもぎりぎりでよけたことで、一瞬だけでもバランを束縛したのだ。 「メラミ」 「ナウマクサンマンダ・バザラダン・カン!」  火球がぶつかり合う。  炎が爆発的に巻きあがった、その隙にバランは車から降りたケイネスとソラウを襲う。  ケイネスは必死でソラウをかばった。  だが、バランは途中で引き返す。バンの主人を宗介の射撃と手榴弾から守ったのだ。  宝具であるドラグノフの弾は神秘を帯び、サーヴァントにも通じるが、竜闘気はそれも弾いていた。また手榴弾の爆風も、握った手でやすやすと封じてしまう。痛みすら感じていないようだ。 「魔術師、でも女を愛することはあるんだな」  そう、バンから出てきた男が言う。その腕には少女が抱えられていた。 「なぜここで。僕たちには用事があるんだ」  ウェイバーが言うのにバランは、 「そちらのマスターとサーヴァントを見極めておきたい」  とウェイバーに答えつつ、孔雀の独鈷を切り払った。 「問答無用のようです、マスター」  宗介がドラグノフに銃剣をつける。ちょっとした槍になる。 「先生、それにランサー、早く円蔵山に。中腹から道が隠されていて、洞窟につながっています。ここで食い止める」  ウェイバーが決意の目で立ちふさがる。  ケイネス一人では素早い移動はできない。孔雀がケイネスを連れて行けば、誰がソラウを守るのか、またケイネスは令呪も使えない。  逆にケイネス陣営が足止めをしても、ウェイバー陣営は聖杯をどうにもできない。  できればケイネスの学識もあったほうがいい。孔雀一人でもどうにかなるかもしれないが、強力なマスターのフォローが必要だ。 「……逃がしていればよかったのだ、安全なイギリスに。だが……」  ケイネスは嘆き、サーヴァントをソラウに移す儀式を始める。  令呪は使えないのだから、ソラウしかいない。ウェイバーが二人支えるなど無理なのは明白だ。  絶体絶命、それもソラウの生命がおびやかされ、やっと決断ができた。 「我に従え。ならばこの命運、汝が槍に預けよう……」  ソラウの美しい唇が美しい声をつむぐ。 「ランサーの名に懸け誓いを受ける……貴方を我が主として認めよう、ソラウ。  世界が破壊されないために戦う、前世ではずっとそうしてきたし、今回もそのために来たのだから」  孔雀がソラウに手をさしのべ、ケイネスはその程度の魔術にも疲れてくずおれた。ソラウが彼を支える。 「頼む」 「ああ」  宗介は振り返りもしないで、バランの猛攻を銃剣でしのいでいる。  孔雀は両手にケイネスとソラウを抱え、真言を唱え始める。 「オン・マユキラテイ・ソバカ ノウモボタヤ・ノウモタラマヤ・ノウモソウキャ・タニヤタ……」  守護神である孔雀明王呪。光の翼が広がり、飾り羽が舞う。 「魔術師としての使命感、誇りはある。そして女のほうは、ただ求める思いがある……」  雁夜が静かに言った。ルポライターとしての洞察と表現。 「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリといえば、ケイネス先生以上の、世界でも有数の名家のひとだ。  高い魔力を持ちながら、政略結婚以外の人生がない、自分の意志がない……自分の望み、自分の人生を生きたい、だから逃げなかったのか」  ウェイバーが分析する。 「それも一子相伝などと馬鹿なことをしているからだ。さらにそこから聖杯戦争なんて正気じゃない。もしかしたら一子相伝も嘘で、どこかの家が一子相伝という空気を作って、滅んでいくライバルを尻目に大家族でウハウハしてるかもしれないだろう」  雁夜の、魔術にわずかに触れていながら普通人だから言えた言葉は、魔術師への道を歩みつつあるウェイバーには衝撃だった。  雁夜の腕の中で、桜が悲痛な表情をしていた。魔力消費は耐えられる。だが自分のために雁夜が命をかけ、試すためと人が傷付けられている……優しい少女の、幼い心には負担になる。 「見極めてどうするんだ!もう聖杯戦争なんて意味がないんだ、聖杯は汚れている!」  ウェイバーの叫びに、雁夜が答える。 「もとより聖杯など興味はない。信頼できる魔術師を探したい。戦いで見極めたい」 「勝手なことを……それどころじゃないんだ。あっちには大変なものがあるんだぞ」 (もう、決断の遅れで負けたりしない。間違っていても後悔したくない!) 「令呪をもって命じる、ライダー、宝具を使え!」  ウェイバーの手から光がほとばしり、令呪の一角が消える。  莫大な魔力を注がれた宗介の姿が薄れる、その周囲に何かが生じる。  まるでとんでもない巨人に変身したような。  いや、それは硬い素材でできた、ロボット。  赤と白。ところどころの黒。長い白髪をポニーテールになびかせているようだ。  全高は9メートル近く、四階建ての校舎に近い。 「ARX-8レーバテイン。信頼性を考えればM9ガーンズパックのほうが」  言いかけた宗介を、 「またともに戦えてうれしいです」  とAIの声がさえぎる。 「おまえもいたのか、アル」  宗介は少し憮然とするが、嬉しそうでもある。  ウェイバーも雁夜もアームスレイブの巨体に度肝を抜かれていた。  使い魔についたカメラを通じて見ている衛宮切嗣などは、冷汗にぬれつくしている。弱いと見てうかつに襲っていたら……  明らかにEX、規格外の対城・対軍宝具。  異界の、現在より圧倒的に上のテクノロジーによる超近代兵器。  そしてこの陣営の戦略もわかった。脅威ではないと見せ、つぶし合いで人数が減るか、バトルロイヤルの定石として最弱を全員でつぶそうと集まったところを、まとめて殲滅する……近代兵器・監視を操る手腕も高い。完敗だったかもしれない。  マスターは毎日のように長距離ランニングをしていたが、それも大半では人目があり、森に入ったら逆に何を出してくるかわからないのでうかつに攻められなかった。  慎重で正しかったと痛感する。 「ふ……昔巨人族と戦った竜の騎士の戦闘経験は、ある!」  バランが大喜びに闘志を燃やす。  その彼に、突然すさまじい弾幕が襲った。頭部の12.7ミリガトリング2門、腰の20ミリガトリング、通称バルカン砲2門。  一秒に400発の弾。よけても動きの速い頭が正確に追随する。 「ぬうううっ!全開、竜闘気(ドラゴニックオーラ)!」  バランの体が猛烈な光に包まれ、戦車すら破壊する弾幕に耐える。  だが、それだけではない。レーバテインはバランにもフットワークで追いつき、巨体に似合わぬ精密な動きで巨大なナイフで切りつけてくる。 「ただの巨人ではない、剣士としても一級か!おもしろい!」  バランは笑い、強烈な一撃を受け流す。彼でさえもまともに切り結べる力ではない。重量が違いすぎる。  バンを盾にするマスターたちをかばいながら後退したバランは、静かに剣を上段に構えた。 「ギガデイン」  闇夜が明るく輝くほど強大な雷。  それが大剣に吸収され、光の剣となる。 「受けてみよ竜の騎士の最大奥義。ギガブレイク!」  すさまじい突進、恐ろしい一撃。どんな怪物でも断つであろう美しい一刀両断。  見えぬ壁に阻まれる。ラムダ・ドライバ、レーバテインなどの特殊世代ASに装備されたブラックテクノロジー。  もし万全のケイネスがここにいれば、どれほどの衝撃か。これは本質的に、精神世界からの物質世界の書き換え、魔法の領域に迫る技術なのだ。もしそれが普及すれば、神秘の衰退がもっとひどくなるだろう。もちろん、軍事民生で実用化されればその価値ははかりしれない。 「ぬうううっ」  硬い壁を切ろうとするように、バランはすさまじい力をこめる。  激しい稲妻の余波が周囲を焼き焦がす。 「ああああっ!」  叫びとともに、両者が離れ……同時にマスターたちを守った。  雁夜の頭を精密に狙撃した弾を、バランが防いだ。  同時にウェイバーを狙った炎の矢を工業素材の巨人が受け止め、より強い神秘で上書きして消す。 「間桐雁夜!桜を返せ!」 「カリヤおじさん、桜を返して!」  遠坂時臣と凛の絶叫。  車から赤毛の少年が降りて、ふたりの激しい感情に戸惑っている。そして目の前の巨大ロボットに驚愕し、憧れの目を輝かせて食い入るように見つめていた。 「汚らわしい蟲め、間桐の血を引くだけでも八つ裂きにしても飽き足らん……」  時臣の言葉に雁夜は叫んだ。 「大いに同感だあっ!」  時臣は虚を突かれた。  雁夜はウェイバーを向いて説明を始める。 「ウェイバーと呼ばれていたな……説明しておく。  この子、桜はあっちの遠坂時臣の娘だが、魔術は一子相伝だからと、間桐家の養子とされた。でもその間桐家の当主は怪物になっており、まともに子を育てられなかった。調べもしなかったんだよそこのバカは!八つ裂きにしても飽き足らない虫野郎に、娘を渡したあいつは何なんだ!  うちの当主はサーヴァントが潰してくれたが、絶対に死んだとは言いきれない。おれももうじき死ぬ。  普通の家で育てるには、この子の素質が高すぎるそうだ。子を人間らしく育てられる魔術師を探しているんだ」  時臣にとっては、これはどんな復讐よりも痛かった。  聞いている桜もすさまじい辛さ哀しさをこらえている。記憶を消された桜にとってはつい数日前に覚悟を決めて別れたばかりの家族との再会でもある。そして雁夜が自分のために命を捨てていることもわかってしまった。  雁夜は、時臣たちが匿名の手紙を受けて間桐家に殴りこんだのを監視カメラで見ている。それで、時臣が冷酷非道ではなくただのバカだとわかって、復讐心はほぼ消えた。 「お父さま……これが遠坂のうっかりなのね。……私も同罪よ。どんな償いでもする」  凛が、その名の通り凛と背を張った。幼い心身で、すさまじい激情を抑えて。 「だから、今はそれどころじゃないんだ!」  ウェイバーが絶叫する。 「あっちの柳洞寺の地下に、大聖杯がある。あれはよくわからないけど、すごく汚染されているんだ!先生が先に向かったけど……神秘の漏洩を防ぐのが魔術師だろ!」 >鏡  ウェイバーが時臣たちを説得している中、時臣に言峰璃正神父より別の、綺礼経由で魔術を用いた連絡も入った。  教会が、ケイネスの手紙を受け取った。しかも聖堂教会上層部も、魔術協会上層部も同文の手紙を受け取っているという。  これではとても聖杯戦争は継続できない。  一時停戦に応じ、聖杯を浄化し、浄化されたことを教会・協会両上層部に納得させて再開する以外にない。  そう伝えられた時臣は、他に思いつけなかった。 (委託令呪を受け取った言峰綺礼も柳堂寺に急行し、同時に寺の住人を避難させる……)  そこまで動いてくれるという。  先頭を行く孔雀がケイネスをおんぶし、多数の魔術用具を持つソラウが後から山の横道を歩く。 「あ……」  ソラウはすぐに気がついた。孔雀はとっくにわかっており、足を速める。  多数の車が寺から走り出る。  それから、バンと高級車が走ってきた。洞窟の入口から見える。  また、ウェイバーから、遠坂陣営も一時停戦に応じたと知らせが入る。  洞窟の奥にたどり着こうとしたとき、孔雀が素早く印を組んだ。 「臨兵闘者皆陣列在前!破ァアァ……」  すさまじい光を帯びた気流のようなものがほとばしり、泥の尖兵を吹き飛ばす。  ソラウは孔雀の力に瞠目していた。  そしてケイネスは、汚染された聖杯に眉をひそめつつ、残されたわずかな力で超絶な魔術を解析し、汚れを分析していった。 「く、小聖杯がここにあれば」  ともつぶやく。  無人となった大寺、山の地下にある洞窟に、三々五々魔術師とサーヴァントが集まっていく。  衛宮切嗣は、あちこちに仕掛けた監視装置で当然それを見た。  最大の機会。実力は及ばなくとも、乱戦で勝利を拾うことはできるかもしれない。  また、ライダーの巨大宝具は、洞窟などでは使えまい。令呪もあるので残り一度の札を切るのもきついだろう。爆発物も危険だ。  銃は魔術より、瞬間火力は劣る。だがそれなら、口径を上げればいい。30-06スプリングフィールド弾が、起源弾でなくてもケイネスの礼装を貫いたように。  大口径火器は、セイバーが多数調達している。  それ以外に勝てる可能性は感じられなかった。  自分と、傷を癒した舞弥だけで攻めるつもりだった。  だが、円蔵山のふもとに着いた時。  大型トラックの運転席にセイバーと、その隣にアイリスフィールもいた。 「アイリ」 「私も戦えるわ。あなただけ死なせるなんてできない」  平然と、セイバーは重火器をいくつも背負う。  切嗣は歯を食いしばる。 「……状況を確認しよう」  舞弥が監視機器を再生してモニターを見、確認する。 「洞窟に、まずランサー陣営の三人。それから、車と巨大人型機械で……山のふもとまで移動し、ウェイバー・ベルベットとライダー、間桐雁夜・間桐桜と男サーヴァント、遠坂時臣・凛・素性不明の男児と女サーヴァントも洞窟に入りました。あとから教会の言峰綺礼も入っています」 「全員がそろっている、しかも洞窟。実力差を無視できる機会だ」  セイバーはうなずくだけだった。 「舞弥、先頭で突っこめ」  蜂の巣になって機会を作れ。 「はい」  舞弥は、機械は当然のようにうなずいた。 「僕が敵の、銃使いのアーチャーを引き出す。できればライダーも。足止めをしてくれ、アイリ」  主にセイバーが。  アイリとセイバーがうなずく。 「時計を合わせろ。いくぞ」  切嗣は、起源弾を30-06に合わせて銃砲店で手に入れ銃身を切り詰めたブローニング自動小銃に装填し、H&K-MP5と、セミオート超大口径のシモノフPTRS1941対戦車ライフルを持っている。どちらもセイバーが調達してきたもので、弾薬は宝具化されている。  確かな技術。気配を消し、草や木の間の地雷やワイヤートラップを警戒しながら洞窟に迫る。  罠は最大限に警戒している。罠地獄と化した遠坂邸のことは忘れていない。また、マッケンジー家を狙えるポジションを、前の失敗を省みて警戒しながら探ったらしっかり、竹と糸だけで作った凶悪な罠が仕掛けてあった……ライダーも同等の腕だ。  山に登る前に、舞弥にも言っている。何度も重傷を負っている彼女は身にしみてわかっているが。 「ここはゲリラ戦の戦場だ」  不用意な一歩が、首筋に毒矢、削いで鋭くした竹を埋めた丸太、足に糞尿を塗った削ぎ竹や銃弾一発の罠、地雷を解除したと思って動かせばその下の地雷にワイヤー…… (死ねれば幸運というもの……)  である。  それどころか、想定には宝具による毒ガス攻撃などすら入れた。  サーヴァントであるセイバーは道を通ってしか歩けないので、アイリとともに小走りに先行している。アインツベルン城で体力を調整したアイリは、セイバーの足についていっている。  そして洞窟。  驚くほど、何の罠も待ち伏せもない。  だからこそ、先は地獄だと覚悟できる。  舞弥一人の犠牲で状況を動かせるか、自信がないほど。  そして舞弥が宝具化された弾を装填したH&K-HK21を乱射しながら突入し、切嗣も一人でもマスターを殺し、敵を引きずり出すことを前提に援護……  音を出しても走り出す。 (五秒後に突撃開始)  と舞弥のハンドサイン。 (了解、グッドラック)  確実に死ぬとしても。  4、3、2……じりじりと動きながら。切嗣は三倍速呪文を唱え始める。  突然だった。  切嗣の全身に電撃が走る。 (スタンガン……)  背後から。考える余裕もなく意識が薄れる。  薄れていく目に映る。舞弥の隣に高校生ぐらいの青年、ライダーが霊体化から出現し、正確な関節技で彼女を制圧していた。  舞弥も、切嗣もくずおれる。  目が覚めた衛宮切嗣の目に、恐ろしい汚染の黒い泥沼が見えた。  目の前では、苦しむアイリスフィール。  わからざるを得ない。  聖杯は汚染されていた。そして自分のセイバーは、敵のサーヴァントと通牒して、自分たちを制圧した……  目を向けると、舞弥も縛られてはいるが生きている。完璧な待ち伏せ、しかも敵を裏切らせている……それができて当然の手腕の敵だとは、わかっていた。  衛宮切嗣は、 (自分のサーヴァントが、何を考えているのか……)  考えることからは必死で逃げていた。 (理解してしまったら、すべてが終わる……)  そう、確信していた。  思考停止がどれほど、特に戦場では致命的かはわかっている。戦術はできても、戦略には盲目になるのだ。  まさに致命的だった。最後の最後で裏切られた……いや、裏切りではない。 (これを止めるためだ)  わからざるを得ない。  洞窟に広がる、穢れのきわみ、呪いのかたまり……切嗣は悟った。  自分が妻を犠牲にし、娘も人質にし、部下も道具として使い捨て、どんなことでもする覚悟を固めて追及してきた……その結末はこれだと。  決してあってはならない破滅。  最悪を超えた最悪。  その絶望は、無理に暗示をかけて封印してきた、ある晩の夢をよみがえらせた。  自らのサーヴァント、御神苗優が生前戦った敵。  優は、全人類の心を思い通りにできる力を持つ古代遺跡を巡り、恐ろしい黒魔術師ヘウンリー・バレスと戦った。その遺跡の鍵を持つ少女を守って。  殴り合いでも優をしのぐ黒魔術師やその使い魔、遺跡そのものの罠と激しく戦い、敗れ、また戦い……ついに勝利した。  死を前にした黒魔術師は言った。  自分はアウシュビッツの生存者、あれこそ人間の真の姿そのもの。おまえが守りたいという友人たちも、一皮むけばああなる。  だから全人類の心そのものを作り変える。争いのない世界を作る…… (同じだ)  ヘウンリー・バレスと、衛宮切嗣。  多数の、罪のない女子供を含む犠牲を出してもいい。  世界の全人類を作り変えてやる。  争いのない世界を作るために。もう誰も、泣き叫びながら死んでいくことがないように。誰も、悪鬼と化して殺し犯し奪うことがないように。  今生きている、この現実の人類が許せないから。人類が今後よくなっていく、という希望も持てないから。 (同じだ)  殺戮に狂奔する男の姿が、死を前にした悲痛すぎるうめきが心の鏡に映る。 『人間がどんなものか』  切嗣も知っている。嫌というほど。優も知っている。舞弥も知っている。アイリにも教えた。まだ知らないのはイリヤだけ…… 『私が、なんとかしなければ……』  同じだ。  だが、優は別の道を選んだ。前回は、『スプリガン』としてバレスを殺し遺跡を破壊させた。今回は、自分を殺そうとはしない。自分の手からすべての人を……無辜の人も、敵すらも守っている。  優は、切嗣たちが人殺しをするのを邪魔してきた。聖杯が大惨事を起こすのを防ごうとしてきた。  また、ふとかなり遠いことを思い浮かべ、悟った。言峰綺礼は、自分は別人だと言った。  戦ったからこそ、それが真実だとわかった。ではどうやって?……サーヴァント。  その力で、自らの人格を変えたのか。よほどのことがあったと思えるが、 (ばかな……)  そう、愚かなことだ。  犬が言うことを聞かず悪さをする。だから皮をはいで中身を捨て、処理した毛皮を犬ロボットにかぶせてかわいがる。  人の性格が気に入らない。だから皮をはいで体温を保つロボットにかぶせる。  犬を殺したことには違いない。その人を殺すにほかならない。 (ただの自殺だ、ばか……)  ……衛宮切嗣は、ヘウンリー・バレスは、全人類にそれをしようとしたのだ。 (ばかは、バレスだ。僕だ。同じだ)  そして優は。 「この、僕も救おうとしている、今回は」 (前は力がなかった、殺すしかなかった。だが今回は……)  優の、生前何度も、 (甘い……)  と言われたこころが流れこむ。 「あ、ああああああ、あああああああああああああああああああああ、あああああああああああああ」  切嗣の心がついに崩れた。頭を抱え、泣き叫んだ。  その事件で優が守った、一人の少女の夢幻にも打ちひしがれた。鍵として拉致され、黒魔術師の絶望を聞き……それでも信仰を……希望を、愛を失わなかった。遺跡を破壊した。  それから戦い続ける将兵の前に身を投げ出し、戦いをやめることを願った、聖職者。  彼女の祈りは、彼女を殺そうとした黒魔術師……別世界の衛宮切嗣を含むすべての人に向けられていることがわかったから。 (あなたはひとりではありません。わたしがあなたを愛しています)  と。  転げまわる切嗣の手を、そっとサーヴァントと妻の手がとった。 「あんたの間違いは……ひとりになってしまったことだ。仲間がいなかった。仲間になれる舞弥も、道具扱いした。  世界から戦火をなくそう、でも、仲間はいるはずだ。同じことを考えている人はたくさんいるんだから。まあ間違ったやつかもしれないが、それを見ればそれはそれで自分がどれほど偏ってるかわかるきっかけになる。  オレには、仲間がいたんだ。今回も、もう仲間がいる」  孔雀が。バランが。相良宗介が。  ランボーが。奥森かずいが。リナ・インバースが。  間桐雁夜が。ウェイバー・ベルベットが。  遠坂時臣が。遠坂凛が、赤い髪の少年が、二人と手をつないだ間桐桜が。ケイネスとソラウが。言峰綺礼が。  優のかたわらに並び、聖杯に対峙した。  そのときだった。  聖杯から泥が吹き上がる。  それが七つの魔法陣を形作り、瞬時にすさまじい魔力が七つ光の炎柱となる。  気がついた時には、七人がいた。  サーヴァントの、追加召喚。すべてのサーヴァントが一つの陣営に統一されたとき、聖杯そのものが聖杯戦争を続けさせるためにおこなう非常措置。  清冽な青い衣に白銀の鎧をまとう、金髪の美少女。  長い髪、全身を青い身体にぴっちり張りついた服に包み、赤い槍をかついだ美青年。  黄金の鎧に身を包んだ、恐ろしいほど美しく残忍な雰囲気の金髪の青年。  鉛の肌、人間の身長記録以上の巨体。ボディビルダーを相似拡大したような筋骨に巨大な石剣を握った男。  堂々と王気をまとう、男臭さあふれる壮漢。  和服に身の丈より長そうな刀を背にした、柔らかな感じのする青年。  魚のような目を突き出させ、狂ったような印象を示す長身の男。  すべて黒い雰囲気を漂わせている。 *追加召喚についてはにわかというか話に都合よく。 この正規鯖じゃろくに争わないので聖杯戦争になりませんが、こうすれば全力で戦わせることができます。 全力で戦ったら西日本がクレーターになりますが都合のよい人もいますし。 >王の軍勢 「……場所を変えないか?」  優が言い出した。 「ここで七対七をやったら、冬木どころか西日本が消し飛ぶよ」  ウェイバーも時臣もうなずく。冗談抜きにそれができるサーヴァントの戦いを見たばかりだ。 「ならば……場所を用意しようではないか」  聖杯側の、王気に満ちた巨漢が前に出た。 「ここでは悪しき気が強くてやりにくいな。皆出よう!余は、ライダーのクラスを得たイスカンダルである!」  いきなり真名をぶちまけたどあほうに、どちらの陣営も、マスターもサーヴァントも呆然とした。 「イスカンダル?」 「アレクサンダーのアラビア語読みよ、バカ」  凛が士郎に言った。一年ぶりに桜と手をつなぐことができて高揚している。  山から下りたイスカンダルは、両手を広げて叫んだ。 「見よ、そして震えるがいい……これこそ我が至高の法具、我が王道。『王の軍勢(アントニオン・ヘタイロイ)』!!!」  真夜中のふもと、寺を見上げる山の下。森のはざまの寒風が、突然熱風に変わる。  見る間に景色が塗り替えられる。地平線。荒野。わずかな木々と熱された岩や砂。 「こ、これは……」 「固有結界!!」  遠坂時臣が衝撃に叫ぶ。夢のまた夢、桁外れの大魔術。 「イスカンダル、アレキサンダーに魔術の逸話はなかったはずだが」 「見ろ!」  遠くに位置するライダー・イスカンダルのかたわらに、次々と人が出てくる。  何千、何万。そのような数の人を見ること自体がまれだ。  テレビで、また実際に行って、元旦の明治神宮や成田山など初詣。皇室一般参賀。コミックマーケット。大人気アーティストの大規模野外ライブ。それぐらいのものだ。  圧倒的な人数。その一人一人に、高い霊格を感じる。 「さ、サーヴァント、全部!」  時臣が愕然とする。ほかの魔術師たちも。 「死してのちもわが招集に応じる、忠実なる朋友たちよ!聖杯ごときのためとはいえ勝てば報酬は思いのまま、そして敵は皆相手にとって不足なし!」 「然り!然り!」  万の絶叫が荒野を、熱風より激しく吹き渡る。 「あのサーヴァント、かなりすごいのがいるぞ!」  ウェイバーが叫んだ。 「イスカンダルの部下であれば……世界史の高校教科書に出た、セレウコス朝シリア、プトレマイオス朝エジプト、アンティゴノス朝マケドニア……」  宗介がうめくのに、耳ざとく聞いた男が三人前に出る。 「我だ!」 「俺だ!」 「この雄姿を見よぉおおおっ!」  世界史教科書に太字で出る水準の大国を築いた、大英雄のサーヴァントが胸を張る。マスターの目で見ても高ステイタス、普通に召喚しても優勝を狙えたろう。 「ここは平行世界か……聖杯の追加召喚とはな、ファック!いや、先生もソラウさんもまだ生きているか……ファック、なんだあのサーヴァントたちは、反則にもほどがある!」  文官と思える長髪の青年がウェイバーを見つめてつぶやく。 「ウェイバー君?」  ケイネスが弱った声で、それでも鋭く言った。  長髪の文官は、思わず身をすくませる。 「せ……先生……」 「そうか。平行世界では予定通りイスカンダル大王を召喚して臣下の一人となり、この私を出し抜いて優勝し、英霊と認められた……聖杯が汚れていなかったか……」 「ち、ちがいます!敗退して生き残っただけです、でも、でもその、教師として運がよくて、あと汚れた聖杯を解体した功績で……」 「え……ぼく?」  子どものほうのウェイバーがびっくりした。大人のほうは嫌悪感を込めておのれの若いころを見、そして師の視線に肩をすくませる。 「で、私は……」  大人ウェイバーの反応に、ケイネスは屈辱に震えていた。平行世界の自分は無残に敗退したのだ。  大人となった生徒の視線を追うと、拘束を解かれた衛宮切嗣の姿があった。 「あとで調べましたが……ほんっとうにド外道だったそうで……」 「……どんなことでもする覚悟だった」  切嗣は落ちこんでいる。 「って、あーっ遠坂凛までなんで……マスターか……どうなってるんだ……  大人になった遠坂凛が、聖杯の解体で協力してくれた。彼女とかかわりがあった衛宮切嗣の養子を通じて、世界平和、正義の味方って理想は聞いてる」  大人ウェイバーが、怒りをこめて言いきった。 「それが、その結果もわかって止めようとしたのか?」  孔雀が優に言う。 「まあそういうこと。生前に似たような奴を殺したし」 「こっちも聖杯でえらく苦労したからなあ……」  苦笑しつつうなずき合う。 「わはははははは!小物が大それた望みを抱いて自滅するのは楽しいものだ!」  と、黄金の鎧を着て、いつの間にか一番高い岩の上に立っていた美青年が笑い叫んだ。 「……ナーガの同類がいる」  と、リナ・インバースが辟易としてつぶやく。 「ふん、雑種どもの殺し合いをひとときの娯楽としよう。もし我が認める英雄あれば直々に誅してやってもよい」  と、どこかから豪華な玉座を出した黄金の男は座ってふんぞり返った。 「ふ、ふはははは!」  今度は魚のような目の男が大声で笑い出す。聖杯側の、金髪の少女の足元にひざまずいて。 「ジャンヌ、ジャンヌよわが聖女よ!ご命令を、貴女とともに再び戦えるのは喜びの極み!おお、聖杯はわが祈りに応えたのだ!」  などとやっている。 (バーサーカーが別だったら、即刻首をはねられていたかもしれない……)  とは、知る由もない。 「さて、戦の定石、弱い側から仕留めて……」  ジルの手に不気味な本が出現した。 「水が必要なのか?気まぐれだ」  と、黄金王がぽい、と細長い杖を投げた。  一滴の水もない荒野、そのひときわ大きい岩に杖がぶつかると、岩がぱくりと二つに割れた。  数秒地が震え、そしてすさまじい量の水が噴き出す。モーセや空海らの、岩を叩いて泉を吹き出した杖の原典だ。  みるみるうちに、荒野の涸れ谷が、未遠川ぐらいの川と化す。 「は、ははははは、水さえあれば!」  とジルが叫ぶと、無数の怪物が、マスターたちに襲いかかった。 「マスターたちの護衛を最優先しろ!」  優が叫び、大きなトラックの荷室を開けた。素早く三脚と、M2重機関銃を取り出す。  ランボーは三脚とM60歩兵機関銃を即座に準備し、正確な射撃を始める。  宗介も、衛宮切嗣も久宇舞弥もアイリスフィールさえ、それを見て素早く動いた。  ごくわずかな間に、三脚に乗った重機関銃がずらりと並び、替え銃身も積まれる。宝具化された弾薬がうずたかく積み上げられる。 「マスター、弾を運んでください」  宗介に言われたウェイバーが、『ボン太くん』を着てそのパワーで弾薬を運ぶ。  すさまじい音が響く。何百という重機関銃弾、一発ごとに空気が揺れるほどのエネルギーがほとばしる。銃身が過熱して射撃に支障が出れば、即座に銃身を交換する。アイリスフィールだけは練習はしてきたがまだ不慣れ、それも切嗣が素早く手伝い、硝煙と砂埃に汚れた顔で夫婦が微笑を交わす。  何人かは重機関銃の射撃と平行して、14.5ミリライフルを連射している。 「防衛力に優れた自分がマスターたちを守ります!」  ふたたびウェイバーの令呪が輝き、アームスレイブが巨大な砲や機関砲を構えて陣取る。  霊的存在にも通用する弾に削られつつ突撃したひときわ大きな海魔が、アームスレイブの巨大砲に吹き飛ばされ、その陰から飛んできたライダーの軍勢が放つ矢や投げ槍の嵐をラムダ・ドライバが阻む。  そして突撃する聖杯側の、黄金の美少女、青い槍兵、鉛の巨漢、和服の青年。  イスカンダルは、 「余と、この軍勢が斃れればこの結界も消えて全力で戦えなくなるのう。下がって、ふさわしい敵と楽しめるのを待つか……」  と軍勢を連れて、荒野の遠くに引っ込んでしまった。 「さーて、やあっと全力が出せる!」  リナ・インバースが群がる海魔の前に立ち、呪文を唱え始めた。 『黄昏よりも暗きもの、血の流れよりも赤きもの、ときの流れにうずもれし偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん。  我らが前に立ちふさがりしすべての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを……』 「すさまじい魔力が!」  時臣がおののく。 「世界の壁を破って、異界から……第二魔法、いやそれ以上……」  ケイネスにとっては衝撃を通り越している。  リナは、魔法の魔力そのものは異界の魔王からもらえるが、そのために自分を制御するのに魔力を使う。二人の幼いマスターは容赦なく体力を奪われる。 「そんなかわいい子を守るんだから、気ぃ張りなさい!」  凛が桜を見て、士郎に叫んだ。そして膨大な魔力を叩き出す。 「ああ!」  士郎は単純にうめき、桜にVサインをしてふんばった。 『竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!!!!!!』  リナの呪文が完成し、赤い光が超巨大海魔を一閃した。  そして、すさまじい爆発が起きる。  衝撃波と爆風が吹き荒れ、そして吹き戻しの爆風が荒野を席巻する。きのこ雲が立ち昇る。 (核兵器かよ……) (よかった、冬木市で使われなくて) (もしやられていたら、隠蔽工作が核テロとかの話になってた、いや教会の人員も全滅) (消し去られていたな、冬木というか日本が……)  神秘の秘匿に関係がある人たちは、ただただ青ざめていた。  だが、そこから切りこんでくる剣士たち。  その前に、竜の騎士が真魔剛竜剣を抜き、立ちふさがる。  優と孔雀も加わった。  それだけではない。この荒野に来た直後、優は一度出したAMスーツを脱ぎ、言峰綺礼に手渡していた。 「着古しで汚いが、使えよ。あんたの八極拳もちょっとしたもんだったぜ。みんなでガチガチに強化をかければ、なんとか全Dサーヴァントぐらいにはなるだろ」 「宝具を……ありがたい」  黒いダウン防寒具上下のような、古代技術・オリハルコンを用いた筋肉装甲服を着た綺礼は、軽く大八極の動きをする。すさまじいパワーの振脚が大地を揺るがす。 「慣れたようだな。前に、人間になって強くなったって言ってたが……」  優が照れたように頬をかいた。 「オレも確かに、人間になって強くなった。人間だからこそ、中国武術の神髄、天地と一体になって戦えるんだ。オレの師は、ちょっと行き過ぎたから負けた、なんて言ってたけどな。源のヤツは、後で別の……まあいい、戦えるな?」  と背を押された綺礼は、青いランサーに立ち向かった。  優は見えぬ剣を持つ金髪の美少女に、バランは石の斧剣をふりかぶる鉛の巨人に、孔雀は長い刀を抜いた和服の青年に。  聖杯戦争が始まる。 >激闘 *面倒なので地の文では以後、全員、基本的に真名にします*  まず誰もが目を奪われたのが、バランとヘラクレスの激しい戦いだった。  両方が桁外れのパワーとスピード、そして技量。小細工も何もない全体重を乗せた正剣が激しくぶつかり合う。  アルトリアが、魔力放出で背にジェットをつけたように加速し、見えぬ剣が袈裟に優の身体を両断しようとする……ふ、と優の姿がぶれた。異様なまでの速さと、絶妙なタイミング。呼吸を読み切っている。  彼女には、実際の何倍の速さにも感じられた。優の姿が消えたかと思うと、優がいたところから矢が飛んでくる。完全にタイミングとしてはとらえていたが、直感で読み魔力放出だけでかわす。 「貴様!騎士道はないのか!」 「そんなもんねーよ、ボーじゃあるまいし。よかったら聖杯に聞いてみろ、『第一次世界大戦、機関銃、鉄条網、塹壕、無差別爆撃』」  と言いながら優が鋭く斬りかかる。  ランボーが次々と矢を射放ち、正確に味方の剣士たちを援護する。タイミングは完全だ。  同時に聖杯から膨大な知識を得たアルトリアは、戦士ではなく兵士、すなわち蛮族以下の怪物としか言いようがないものに人間をなり下がらせた、近代戦のおぞましさに心を揺るがされた。  小次郎の背の長い刀が抜き放たれ、孔雀の独鈷杵が二度、三度と受け流す。  そこに突然、羽織の腰がひねられ、三つの斬撃が同時に首を狙う。 「ランサー!」  誰もが首が飛ぶのを確信したが、長い槍が三つとも防ぎ、刀が三本折れて飛んでいた。 「槍じゃなかったら死んでたな……」 「ランサーを、さげよ。彼は死んではならない」  ケイネスの言葉を聞き取ったランボーが弓を置き、宝具となったナイフを両手に出した。柄に物入れがない、柄頭が板状のボウイナイフと、実用性の高い鉈。(3,4) 「かわる、後方支援を」  そう言ったランボーに、孔雀は素直に引き下がる。  折れた刀で戦い続けようとする小次郎の前に、ひとふりの長刀が突き立った。 「これで終わっては興がないのでな」  と、ギルガメッシュが玉座で嗤う。  ク・フリンが槍を投げようとした、そこにすさまじい速度で飛びこんだ綺礼の掌から光がほとばしる。対霊体用の精神波装置、霊的存在にも通用する。 「ほう、人間だが……悪くねえな」  構えを変え、瞬時。一息に五発、鉄骨すら貫く威力の突きが放たれた。  綺礼はそのすべてを、螺旋を大きく描く剛腕で受け流す。 「八極拳は、槍の操法を素手で行う武術。槍の使い方は知り尽くしている」 「そうかよっ!楽しませてくれよ!」  楽し気に放たれる槍、圧倒的なステイタスと技を誇る最速の槍兵相手に、鍛えぬいた八極拳と、宝具や何重もの魔術による強化、さらに強化の魔術を委託令呪で底上げした拳士が立ち向かう。  人間として、相手の感情に共感し、恐怖をセンサーに考えるより早くよける……それだけでは、ケルトの大英雄が放つ圧倒的な気迫に対抗できない。だが、空虚だった自分が修練した八極拳は、別の力も与えてくれた。天地の力、肉体の奥底からの力を。 (以前の自分は、この幸福も感じられなかったのか……)  考えを押し殺し、綺礼は戦いに集中する。  背後から孔雀の雷電呪文、また銃弾の援護が届く。銃弾は優が宝具化し、貫通力も増しているし、さらにリナが魔力付与でランクを上げている。  それにより、不利になれば出直すこともできるし、横にかわせば背後から弾が飛んできてくれるのでとてもやりやすい。綺礼が大英雄相手に持ちこたえているのは、それも大きい。  切嗣を中心にマスターたちがきっちりと海魔を処理しているのは、実に助かる。  アルトリアは攻めあぐねていた。魔力放出がある、力ははるかに上。それでも攻めきれない。 (まるで、ランスロット卿と稽古しているような……)  技を超えた技。  殺気を読み切り、無拍子で正確に合わせている。ナイフだけでなく、拳や蹴りも強力に放たれる。  ナイフ使いの組み立てが巧妙で、 (もらった!)  と思ったら受け流され、関節を壊されそうになる……そこに銃弾が飛んでくる。 〈直感〉で回避するが、それにも限度がある。  ヘラクレスの圧倒的なパワー、それもしっかりと受け流され、確実な攻撃を受けている。 「バーサーカー……」  大量の魔力を消耗する桜がうめき、心配している。 「だいじょうぶだ。あの人は強い、とんでもなく強い竜を倒したことがある……」  雁夜が、自分の無力を呪いながら励ます。 「竜の騎士は最強生物。また戦いの遺伝子と経験がある。そして、己より強い相手と戦うことなど慣れている!」  バランは叫んで竜闘気を倍増させ、激しく切り結びながら呪文を詠唱し、剣にまとわせて叩きこむ。 「ぬ……ある程度より弱い攻撃は無効化か。ならば……」  バランはつばぜり合いから激しく押した。  小次郎の皮をかぶった剣士……彼は、剣技だけならばあらゆる英霊でも最上級だろう。  だからこそ、ランボーは天敵そのものだった。  剣の間合いを見切ったら逃げ回り、M60歩兵機関銃を取り出そうとする。また隙を作って、マスターたちが放つ銃の射線に入れようとする。 「ほう、これもまた実戦というものか。生前戦ったことがなかったが……」  小次郎は怒りを見せず、平然と受け入れている。  そして、正規に召喚されたサーヴァントで、一人姿も見えない者もいた。 「ぬ!」  アルトリアが一瞬、ナイフに右腕を深く斬られながらも身をひるがえして虚空を斬ろうとした、だが優はその彼女を突き飛ばした。 「〈直感〉か、それも最上級」  優が舌打ちをする。 「アサシンが、霊体化して迫っていたのか……いや、そちらの飛び道具は」騎士王の戦い慣れた目が、瞬時に地形と敵陣を把握する。「あちらの馬頭岩と枯れ木の間は、絶対に撃たないようにしていたのか!そして私をそこに押し詰めていた」 「よくわかったな!アサシン、指揮して敵のバーサーカーを仕留めろ!」  叫んだ優が、一転して激しい攻撃に移り、アルトリアを拘束する。 「させるかあっ!」  アルトリアも魔力を激しく放出して加速する。だが密着して攻め続ける優を斬ることも離れることもできず、宝具も使えない。  見えない伝令にして指揮官。銃を使うマスターたちは遮蔽物に身を隠している、その遮蔽物に隠れて実体化して話すので、敵には影もとらえられない。  ふ、ふ、と戦うサーヴァントたちのそばにほんのわずかだけ出現し、一言ささやいて消える。  押し飛ばされた鉛の巨人を、横から銃弾が襲う。小次郎は切嗣が制圧射撃、その一瞬の間だ。さらに機関銃の弾幕を海魔に回す。  ランクは低いが、それでも一瞬の隙は作れた。  リナ・インバースの首・腰・両手首に輝きが出現する。  生前、ある思惑で上位魔族が与えた至宝、「魔血玉(デモン・ブラッド・タリスマン)」。魔王のかけらの一つとの戦いで失われたが、今は宝具化されている。 「あの宝具は……魔力の器自体を増しているのか!それで生身の人間には使えぬ術を」  遠坂時臣が驚愕する。まさにあらゆる魔術師の夢のまた夢だ。 「100V電源では使えない器具を、200V電源にするようなものか」  マッケンジー家で、電気関係の修理も少しし、電気の基礎もライダーに教わったウェイバーがうめいた。  四つの世界の魔王から力を得る宝玉が輝き、リナの力が爆発的に増す。 「うううっ」 「ぐうううっ!ボクのこの手が真っ赤に燃える、女の子を守れと轟き叫ぶ!」 「ちゃんとやってくれるならいいわよっ!桜、がんばって」  凛と士郎は、ひたすら頑張っていた。桜も膨大な魔力要求に耐え続ける。 「『凍れる森の奥深く、荒ぶるものを統べるもの  滅びをいざなうなんじの牙で 我らが前をふさぎしものに…… 獣王牙操弾(ゼラス・ブリッド)!!』」  力ある言葉がつむがれ、生身の人間では決して使えぬ呪文が発動する。  ほぼ同時に、遠坂時臣の傍らに長身の男が出現した。  その指示で時臣は宝石を投じ、杖を舞わす。 「娘たちが頑張っているのに……」  リナの手から放たれた光弾が、鉛の巨体を貫き、そのまま大きく曲がって海魔たちを切り刻み、さらにランサーとセイバーを襲う……だが矢除けの加護でかわされ、さらにセイバーに直撃したが耐魔力で相殺された。 「ちっ、キャスターを狙ってればよかった」  リナが舌打ちをする。  その一瞬。戦闘経験豊富な竜の騎士は、どう見ても致命の一撃を受けた敵にも油断しない。 「ギガブレイク!」  極大の雷光を帯びた剣が、最大限の竜闘気とともに超巨体を袈裟切りにする。 「見ておけ凛」  時臣の大魔術が発動し、バーサーカーを炎の槍が貫く。 「遠坂の宝石魔術か」  ケイネスが目を見張った。 「おそらくはヘラクレス、12の試練が宝具となっているなら、高い攻撃でなければ通じない上に12回蘇生するぞ」  魔術はほとんど使えないが、ケイネスには知識がある。 (なんだそりゃ)  が、実際に次々と回復し続ける巨体を見る者の正直な感想だろう。 「敵を足止めして、でかいのいくわ!」  リナが叫び、ふたたびデモン・ブラッド・タリスマンを輝かせる。  一瞬、凛と士郎を見て呪文を切り替えた。 「『そらの戒めとき離れし、凍れる黒き虚ろの刃、我が力我が身となりてともに滅びの道を歩まん。神々の魂すらも打ち砕き……  神威斬(ラグナ・ブレード)!!』」  リナの手に出現した、恐ろしいほど黒い不定形の棒。 「あ、あああ」  ケイネスや時臣が失神しそうになる。 「こ、根源?」  とすら声が漏れる。  超高密度の、異界……さらにその深い深い何かからくみ出された力。それがそのまま刃となる。不完全版ではあるが……  バーサーカーは先の打撃から回復し、巨大な石の斧剣をふるって撃退しようとする。  が、切嗣が投げた閃光手榴弾がほんの一瞬を稼ぐ。  立ち直りリナと斬り結ぶ斧剣も、鉛の巨体も、手ごたえがないように黒い剣は断ち切っていく。 「戦士たちよ……頼む……子どもたちを、守ってくれ」  最後に正気に戻ったバーサーカーの声が、虚空に消えた。 伏字解放: リナ・インバース 宝具 「魔血玉(デモン・ブラッド・タリスマン)」ランクA+ 魔力の器を増強し、普通なら絶対不可能な魔術を成功させる。生前ある戦いで失われたが、宝具となったことで持てるようになった。 *ギガブレイクで3、獣王牙操弾で2、時臣が1、神滅斬で6、ぐらいでしょうか。完全版が当たれば一発で12持って行けると思いますが。 *AUOがそんなに協力的なはずがないのはわかってます *士郎の元の人格がひどすぎるというのもわかってます >死闘  バーサーカーが斃れた、アルトリアとク・フリンはむしろそれをチャンスと見た。  優と戦うアルトリア。ヘラクレスを下したバランも加わる。  絶望的と思えたが、それを彼女は戦機ととらえた。 「気をつけろ、逆に危険だ」 「おうよ」  バランの忠告に優が応える。 「技に優れている、ならばこそ……」 「くるぞ!」  優は薄着の全身で、確実に相手の気を察知する。動く瞬間は、テレホンパンチのようにわかっている、だからこそ力では及ばず敏捷がやっと対等な、魔力放出がある強敵と戦い続けられた。  腰だめに見えぬ剣を構えたまま、体のどこも微動だにさせずにセイバーは後退した。  魔力放出と風王結界(インビジブル・エア)のみを用いる。剣士とはまったく違う動きだが、だからこそ効果的だった。同時に風王結界を収束させ、優とバランを牽制し、銃弾をそらす。  振りかぶられた剣、風の鞘が消えて黄金の刀身があらわになり、すさまじい魔力が集中する。 「ここだな」  切嗣とアイリスフィール、舞弥の重機関銃の弾幕、だがそれを海魔がはばんだ。 「ジャンヌよ、お守りいたします!」  ジル・ド・レエが駆け寄ってくる。 「かたじけない……勘違いは許せんが、今は戦場!」  アルトリアに魔力が充満する。 「勝利すべき(エクス)……」  バランはよけられない。よけたら、後ろにはマスターたち……レーバテインが守るとはいえ、絶対とは言い切れない。 「竜闘気(ドラゴニックオーラ)!」  強烈に光をまとい、壁になろうとする。 「セイバーから、『ヴァジュラ』と」  念話を受けた切嗣の言葉を聞いたアイリスフィールが背の長い荷物から、二つの長いものを取り出す。  三つ入っていた……ひとつは以前も使った軽機関銃。  もうひとつ、鞘。  もうひとつ、中間にふくらみのある奇妙な棒。仏像が持つような。 「う……ヴァジュラ、いってえっ!」  叫びとともに、魔術師としても優れるアイリスフィールが複雑な魔術を行使する。ふくらみのある棒から強烈な稲妻が、宝具の真名を解放しようとためを作るアルトリアを襲った。 「ぐううっ」  ダメージが通っている。 「そ、それは……あの耐魔力を貫通するとは、魔術だけの武器ではない?」 「宝具級概念礼装……」  ケイネスと時臣が驚きに目を見張った。 「ああ。ヒトラーのコレクションだ。生前と同じところで見つけた。  生前の話だが……厳重な封印があって、ネオナチがヒトラーのクローンを作ってそれに聖杯を通じて本人の魂を突っこんで、それで封印を解いた。  今回召喚されてからも、似たようなネオナチの組織があって、同じ洞窟に転がってたんだ」  優が説明した。 「いいおじさんの墓参り、って……まさか、ヒトラー!?」  アイリが呆れた。 「オレたちが会ったヒトラーは、二重人格の政治家の側だった。そっちは本当に善人だったよ。命の恩人なんだ……  だから、聖杯探しなんてろくなことにならない、ってよくわかってたんだ!バカヤロウ!!」  優の絶叫に、切嗣が胸を痛める。優でなければ、 (穢れた聖杯を解放して多数の罪のない人を、無意味に死なせていたかもしれない。世界が滅んでいたかも……)  と、痛感したのだ。 「こっちの生前の聖杯騒ぎはもっとひどかった……姉さんが魔王状態になって、世界人口半分いったんじゃないか?」  孔雀がぼやく。ケイネスがぞっとした。真実だと…… (そう言えるということは、魔王から世界を救った救世主。道理で、神霊かと思うほどの英霊だったわけだ……)  このことである。 「だ、だが、聖杯が、祖国を」  傷つきながら起き上がり、再び剣を構えようとするアルトリアをバランが襲った。  バランの剛剣を受けたアルトリアは、反則じみたパワーに眉をひそめた。バランは竜の因子と竜殺し、両方を持っていることを直感する。 「おおおおっ!」  今度は技の限りを尽くし、バランを突き放す。 (宝具の真名解放さえできれば……)  ここで、マスターがいないことを呪う。マスターの牽制があれば、戦局を動かせるのに。  だが、今ここにある触媒の主に召喚されていれば、それ以上の呪いに苦しむ羽目になることを彼女は幸い知らない。 「祖国か。今思えば、アルキード王も……娘を切り捨ててでも、国の面子を立てようとしたのだろう。顔で怒って心では泣いていたのかもしれない。娘を侮辱してでも、王の裁きは正しい、王は人を守り魔と戦う、と。  人間が最悪に愚かで残酷になるのは、国家に妄執と言うべきほどにとらわれ、犠牲を払うときだ!」 「国家を侮辱するな痴れ者が!人は国家がなければ生きられず、国家のためにすべてを捧げねば人ではない!」  激しい怒りをぶつけあい、バランとアルトリアが切り結ぶ。  ク・フリンは、人間のマスターなのに自分に挑んだ男に戸惑っていた。過剰な、狂気じみた鍛錬で作られたと見える技と肉体に、平凡すぎる魂が合わないのだ。 (ま、何か変な魔術を使ったんだな)  そう割り切る。  確かに、人間であることは恐ろしい。いびつであることも、人間なら誰しもだ。  ついでに、実感はないが座の記録はこの男を、なぜかとても憎んでいる。 「いいかげんにくたばれやぁ!」  槍で肩を貫き、それでも踏みこんで密着してくるのを長い脚で蹴り飛ばす。  綺礼は、恐怖の命じるままにわずかに動いたことで、槍が急所をそれたことを知っていた。戦闘経験と修練が命じたように踏みこんだことで、蹴りが10センチずれ、それで威力が半減したことを知っていた。  恐怖を感じる。戦闘経験がある。技がある。 (これが戦闘機械ではない、人間の強さ)  それで動き続け、八極拳ならではの密着して掌を当てただけからの、モーションのないすさまじい打撃力がランサーの青い身体に当たる。AMスーツで力が増幅され、対霊体兵器の精神波と八極拳の『気』が絡み合って耐久を貫通する。 「ベホマ」  ヘラクレスを下し、海魔と戦うバランが、背後で何か荷物を抱えるアイリスフィール・フォン・アインツベルンが治癒魔術をかける。綺礼自身も治癒魔術はうまい。 「なんかなあ……人間じゃねーって修練した奴の身体を、普通の人間がのっとった?」  不満そうに吐き捨てたク・フリンは、巧妙に牽制してすり抜けると、ルーン文字を描いた。  綺礼の動きが止まる。 「人間ってのはな、確かに時に全力の何倍も力を出すこともあるさ。だが、自分のためじゃそんな力は出やしねえ。誰かのために戦うんでなきゃ、人の皮をかぶったバケモンのほうがずっと安定してっぜ」  そう言って、容赦なくとどめを刺しにいく……そして瞬時に飛びのいた。  ふっと実体化したかずいが、ランサーの頭に手を差し伸べようとしていた。 「ちいっ!」  かずいを無理に殺そうとしたら相打ちのリスクが大きい。飛びのいて精神を破壊する能力から逃れたク・フリンは、そこがまずい場所だと気づく。  アイリスフィールとレーバテインの十字砲火。  さらにその弾幕の隙間を縫って優が切りこんできた。 「よっしゃあ、最高の技と戦える!あんたを倒したら次はあのすげーのだ!」  ク・フリンはあくまで強敵との戦いだけを求めている。  ……時臣は知らない。ク・フリンか李書文、情報的に困難だが佐々木小次郎を召喚し、最初から正直に生贄にすることを伝えていれば、問題なく戦えたのだ。 「オレは卑怯なこともするぞ?朧やボー、源とは違うんだ」 「上等、戦争じゃ当たり前だろ!」  小次郎はマイペースに、ランボーの猛攻を浴びながら生き抜いていた。傷つきながら、魔法の域に達した剣技をふるい続けて。  ギルガメッシュにもらった『妖刀村正』の原典も、すさまじい力でそれを助けている。 『切れ味』そのものの極致は、銃弾も矢もすべてを切断する。  ランボーはひたすら間合いを読み、致命傷を免れながら戦い続ける。また背中で友軍を指揮し、切嗣が撃ちやすいところに誘導してやる。  分隊指揮官としても、ランボーがどれだけ優れているか……レーバテインから見る宗介は感動するほどだった。  小次郎を突如、アイリスフィールが手にしたヴァジュラの稲妻と、時臣の宝石魔術が襲った。 「ふ……これが実戦か。よし生前に機会があったとしても、鉄砲で終わったかもしれぬのか……」  つぶやきながら、小次郎が消えていく。 「あ、ああ……」  アイリスフィールは、苦しみながら回復し続けている。彼女が手にする鞘が、主が同じ空間にいることで本来の効果を発揮している。それでも、ヘラクレスの、そして小次郎の魂を受け入れた器である彼女は、人としての機能を失おうとしている。  それだけではなく、ヴァジュラはヒトラーにも制御しきれず自爆につながった、人の身には強力すぎる古代兵器でもあるのだ。  大量の銃弾と、リナの呪文や孔雀の真言に倒されながら海魔たちは増えていく。倒されれば倒されるほど増えるのだ。  その肉壁が、本体への攻撃を阻んでいる。 「凛、士郎!力を」  リナの叫びに、 「ええ!」 「ああ!」  叫びとともにふたりの幼い魔術師が力を振り絞る。 『大地の底に眠りある、凍える魂持ちたる覇王…… 覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)!!』  リナの呪文とともに、強烈な冷気が海魔たちを包む。 (倒せば増えるのだから、凍らせてしまえばいい……)  と、いうわけだ。 *伏字解放 『ヴァジュラ』 サーヴァントの宝具ではなく、アーサー王の鞘と同じく遺跡から発掘された概念礼装。  アドルフ・ヒトラーが世界征服のため収集していた魔術関係の品の一つで、彼の魂を鍵として封じられたある洞窟に納められていた。探検家もネオナチも、その鍵を解けず手が出せなかった。  優の生前、ネオナチが封印を解いたが、ヒトラーの二重人格の一方、景気回復を成功させた政治家面(善人)が自爆した。  サーヴァントとして召喚された優が探索し、ネオナチも壊滅させてクローンとは別の方法で封印を解いた。  潜在的には核兵器級の神の雷を使うことができる、超級宝具。 *先生とトッキーって、解説役としてとっても便利ですねえ。おかげで簡単に殺せない。 *この聖杯は本物=イエスの聖遺物じゃないよ、と言ってやればよかったんですが、ケリィも先生もサーヴァントとはコミュ障ですから。ひどいことにはなりますし。 >犠牲  海魔が凍りついた直後、ランボーが放った矢がジル・ド・レエの喉を貫いた。  歴戦の武人は矢を免れないと知るや、迷わずおのが心臓をえぐり、魔書に叩きつけた。  今回の生では罪を犯すことなく、尽くす武人としてジルは消えていった。  その最後の祈り、サーヴァントの巨大な力、命そのものが魔書に集約される。  散ったサーヴァントのあとに、名状しがたき泥がたゆたい、うごめく。  ギルガメッシュが哄笑した。彼にとっては限りない邪悪・醜さもまた、最高の美しさと変わらない。  穢れた聖杯も動いた。  優との戦いを楽しみ続けるク・フリンと、バランと思想を賭けて切り結ぶアルトリア……ふたりの身体に黒闇の触手がまとわりつく。 「く、てめえっ!」  ク・フリンの激しい怒りと恨みをこめた悲鳴。  優が素早く拳銃を向け発砲するが、額の直前で弾は泥触手に阻まれる。  バランも泥に呑まれたかに見えたが、竜闘気を全開にして逃れた。その泥にサーヴァントが触れたら致命的、そのことは即座にわかる。  同時に令呪に等しい力がギルガメッシュと、遠くに退避したイスカンダルを襲った。それぞれの前後左右上下すべての至近距離、さらに内側からも黒闇の触手が襲う。 「ぬ……この我(オレ)に命令するか、わが宝、ただの盃の分際で……」  さらに、ジルの生命と魔書が融合した架空の邪神が現実と化し、力を得てふくれあがる。  ギルガメシュの背後からいくつも波紋が生じ、泥に襲われてもだえ苦しむイスカンダルの軍勢に向けて武器が飛び、何人かの将の前に突き立つ。それは明らかに、ギルガメシュ本人の制御に従ってではない。  凍った海魔に切嗣らの手から銃弾が注がれ、次々と粉砕される。が、その凍った破片の周囲から黒い泥が沸く。泥と融合した破片は、小さい人間の子供のような姿となる。ただ、黒く醜悪で、邪悪そのものの……  とてつもない存在があった。  幼さを残した姿から大きく成長し、胸の豊かさが目立つ、黒き女王。手には槍を握っている。  獣と化した槍使い。全身は筋肉が倍近くに膨張している。  何人もの、アレクサンドロスの部下たちがおぞましい邪神と融合し、伝説級の宝具の原点を与えられてそびえたっている。 「穢れた聖杯の直接支配だ!手ごわいぞ……先生、凛……世界を、神秘の秘匿を……」泥に飲みこまれながら、成長したウェイバーが必死で叫び続る。「ギルガメッシュ王よ、諫言をお許しください!このまま激しく戦えば結界が破れる!そうなれば時計塔や教会が神秘の秘匿のために日本ごと滅ぼす。この戦いを楽しめない!」  最後にそう、黒に呑みこまれようとする黄金王に叫んで泥に消えた。 「ぐぬ……我に命令するとは……神であろうが人であろうが魔であろうが何であろうが、我に命令はさせん!」  叫んだギルガメシュは泥を振り払い、体内に侵入したものを吐き出した。  プール一杯分の黒泥が噴出される。  そして別の矛を取り出し、大地に突き刺した。 「国造りの柄つき武器の原典だ、これで数時間はこの偽の世界は何が起きても崩れぬ……存分に戦えい!」  聖杯の、令呪の支配に抗い続けるギルガメシュ。かれもまた、神にもっとも近い英雄王である。 「やるしかねーのは同じだ」 「ああ」  優とバランが武器を構えなおす。アイリスフィールや綺礼の治癒呪文が二人を癒す。  大きく下がったアルトリアが槍を軽く振る、それが対城宝具、光の奔流がマスターたちを襲う…… 「おおおおっ!」  竜闘気を全開にしたバランと、ラムダ・ドライバを全開にしたレーバテインが飛び出し、防ぎきる。  無情にもアルトリアは連打しようとする!穢れた聖杯の魔力は無尽蔵だ。  そこに、正確な狙撃が次々と着弾した。  ランボーの矢が。切嗣の14.5ミリ対戦車ライフルが……弾薬は優が宝具化し、さらにリナが魔力付与している。高い神秘を持つサーヴァントにも通用する。  襲いかかる、名状しがたき怪物と化し宝具の原点を手にしたディアドコイたち……アレクサンダー大王とともに当時の既知世界の半分を制し、大王の死後覇権をかけて戦い抜き、あるいは果て、あるいは世界史教科書に太字で書かれるにふさわしい大国を築いた英霊たち。それが別の神話の、すさまじい神々である怪物と融合している。  無数の触手を口から生やす、半ば夢の世界にある深海の夢王。  形ある風のごとく、巨大な牙を持つ蜥蜴のごとく、名状しがたきもの。  大きい臓器のような不気味な塊から何本もハサミを伸ばすもの。  数多くの超怪物。  アレクサンダーは、愛する部下の無残すぎる姿に激しく怒りつつ泥の支配に抗っている。  数の暴力を、弾幕が阻止している。  投槍、あるいは名状しがたき攻撃を、ラムダ・ドライバや竜闘気が阻止している。  特に無力で、かつ大戦力のサーヴァントのマスターである凛・士郎・桜を守るために。  アームスレイブの、ラムダ・ドライバで維持される巨砲や、20ミリバルカン。  優がネオナチから奪って持ち込んだ、大型トラック一杯の兵器。  ランボーの分隊指揮が冴えわたる。宗介も、舞弥も、アイリスフィールすら、考える必要なく従っていればよかった。 (これこそ、まさに最優……)  切嗣は感動すらしていた。この上なく優れた近代兵器使いの指揮に。  優はその銃撃を信じきって動いている。  柔らかな気。緩急のついた、人間を越えた超速度。完全に戦場全体を読み切る。  アルトリアの憎悪に満ちたすさまじい強さを、鮮やかに受け流し続け、必要なところに宝具化された銃弾を送り続ける。  だが、敵は多い。強い。 「もう、もう一手必要だ」  かずいのうめき。必死で妹をかばう凛、士郎が強く桜の手を握った。  そのとき、令呪が輝く。強大な魔術が顕現した。  大半の平行世界での士郎は、幼いころからアーサー王の鞘を埋め込まれ、属性が『剣』になっていた。  だがそれがない。本来の素質が、ねじ曲げられずに出ている。  また間桐桜。彼女は『修行』が完成していないうちに解放された。属性をねじ曲げられる最中だった。 「わかる……できる」 「出ろ、ロボット!すごい剣!」  桜がつぶやき、士郎が叫んだ。  そこには、レーバテインがもう一機立っていた。しかも、輝かしい剣を手にして。 「あ、あれはあっ!」 「え……」  ウェイバーとソラウが驚き叫んだ。 「あ、あれは再現型の固有……」  ケイネスが歯を食いしばる。 「知っておられるのですか、ロード・エルメロイ?」  時臣が聞いた。 「うむ……解析してみるがいい、遠坂」 「……はりぼてではない、真にEX級宝具。劣化すらしていない。中身は……桜か」  解析した時臣が、家訓などどこかに捨てた表情でうめいた。  それは、魔術の世界では前例のないむちゃくちゃだった。  二人の素の実力ではそれだけの魔術は困難だったろう。だが、令呪によって膨大な魔力が与えられている。 「別の世界の機械を宝具化した、それを中身ごと……封印指定なんてものではないな、国ごと滅ぼしても……」  ケイネスが頭を抱える。 「し、士郎、桜、なにやってんのよっ!」  凛があきれかえった。 「い、いや、この子を守れって言ったろ!」 「やっていいことと悪いことがあんのよ!あ、ご、ごめん桜……」 「叱って、もらえた……だいじょうぶ、守るから。お姉ちゃんも、お父さんも」 「……遠坂時臣、その娘の属性は?」  ケイネスが、少年少女の前で湧き上がる魔力の気配を感じ、ぞっとしたように時臣に聞いた。 「……『架空属性:虚数』でした。間桐は水……」 「聞いたことがあるのだ。属性を変化させる最中に修行を中断したら」 「……少しだけ聞いたことはあります。サマルカンド滅亡の……」  虚数から実数にねじまげようとしたらどうなるか。虚数を含む数学、複素数は平面座標で表現できる。虚数はy軸、実数はx軸。アナログ時計を複素数座標平面に重ねれば、12時から9時に針をねじ曲げる途中は10時半。 「もう一人の少年は?」 「……まさかと思っていたのですが……私の魔術の知識では名前をつけられない、『解析』の能力が異様に高く、初代のわりに魔力量が多い」 「遠坂時臣といえば、それなりの魔術師として知られていた……楽しみにしていたが」 「まさしく力不足、汗顔の至り、ロード・エルメロイ。私も楽しみにしておりました」  時臣とケイネスがどちらも雑魚は相手にせず、最初から正々堂々と全力で戦っていれば、少なくとも楽しめはしただろう。漁夫の利をさらわれていただろうが。 「これで物量に対抗できる」  宗介が判断し、アルに命じてもう一機のレーバテインのコクピットを開かせた。  桜と士郎がぐらつく。 「魔力不足だ」  時臣があわてた。 「なら、預かっている令呪を」  綺礼が、桜と士郎にいくつか令呪を渡す。以前の戦いであまり教会で保管されている……ここに来る前に父親からもらったものだ。ついでに凛とウェイバーにも渡す。  士郎が桜の手を引いてロボットに飛び乗ろうとする。  その瞬間、怪物と化しているク・フリンオルタが槍を放った。  AIのリンク構築に必要な、一瞬の間。レーバテインは対応できない。 「抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイボルグ)……」  狙いは、コクピットに乗ろうとしている桜! 「桜ああっ!」  同時に、時臣の最大級の魔術が発動した。時臣の胸から棒が生える。  因果をねじ曲げて心臓を貫く魔槍。その命中先を、自分に変更したのだ。 「さ、桜……」 「お、おとうさま!」  駆け寄ろうとする桜を、凛が抱き止めた。 「まだ、戦闘中よ!早くあれに乗りなさい!」 「凛。見事だ……ああ」  時臣は凛がどれほどの傷心とともに、そうしたのかもわかっている。 「桜。すまなかった……すまなかった」  刻印のおかげで生命は長らえているが、それほど長くはあるまい。心臓全体に呪いがかけられ、アイリスフィールの治癒魔術も届かない。 「アーチャー……単独行動で戦い抜け」令呪ひとつ。「凛と桜を守れ」ふたつ。「神秘の秘匿を!」みっつ。  時臣の手から三つの令呪がはじけ消え、ランボーにすさまじい力がそそがれる。  M60歩兵用機関銃が、M2重機関銃に変貌する。それがすさまじい弾幕を構成する……一発一発が狙撃銃の精度。さらに膨大な魔力が注がれ、一発の威力も高い。  銃身が焼け、瞬時に交換されて撃ち続けられる。宝具の原点を持つ、旧支配者と融合したサーヴァントたちが次々と撃ち抜かれ、倒れていく。  時臣が力尽き、死んだ。 「戦い続けろ、神秘の、秘匿」  ケイネスの冷静な言葉に魔術師たちは従う。 「うわああああっ!」  凛の絶叫とともに、士郎と共有している令呪がはじけ、リナにすさまじい魔力が注がれる。 「士郎、桜、戦って!おとうさまの仇を取って!」  凛の叫びに、衝撃に打たれていた士郎が目の光を取り戻す。現実感がなかった、アニメの延長だった戦い……それが突然、何日も共に暮らし、いろいろ教わった大人が、死んだ。 本当の戦いに直面してしまったのだ。  だが、凛の叫びで取り戻したことが一つある。少女を守るという…… 『アルツーと呼んでください。アルワンとのリンク構成済み』  コクピットから声がする。 「アル、アルツーに力を貸し、制御を補助せよ」  宗介が自機のAIに命じる。 『了解しました』  宗介のレーバテインが前線に出、ク・フリンと激しく切り結ぶ。  人間たちは士郎と桜のレーバテインがラムダ・ドライバで守る。さらに孔雀が結界をつくる。  かずいが気配を消した霊体で動き、ランボーの命令を伝達する。  まず、ク・フリンオルタを潰す。  綺礼がふたたび飛び出し、八極拳で牽制する。  令呪で力を増したランボーが鉈のようなナイフで目を斬りつけ、一撃離脱。バランのバギクロスが放たれ、動きを妨害する。 「ぐあああああっ!」  獣の破壊衝動、桁外れの力と速度で攻撃や足止めを無視して突撃する重戦車。 「『紅蓮の炎に眠る暗黒の竜よ……その咆哮もて我が敵を焼きつくせ』」  リナが大呪文を唱える。彼女の生前に、その力の元である魔竜王ガーブは滅びており、それ以降使用不能になっていたが…… 「『魔竜烈火咆(ガーブ・フレア)』」  正面からの攻撃、魔獣の槍がすさまじい威力で対抗し続ける。  腹に大穴をあけながら、まだ暴れ続けている。  その巨体の、絶妙な位置に綺礼がとびこんだ。攻撃するのではなく、手首が輝く。  綺礼のかたわらに長身の男が瞬間移動すると、手を差しだした。おのがサーヴァント、かずいを令呪を用いて瞬間移動させたのだ。  そして令呪で増幅させた精神破壊。  うつろな眼のまま巨体がくずおれていく。 *「なにいっ?」「あれは…」「知っているのか雷電」「うむ…」をちょっとやってみたくて。 >黄金  ランサーが倒れるのを見て、自分で出した玉座に座し観戦していた黄金の王が、ついに立ち上がった。 「我(オレ)を楽しませる栄光を与えるにふさわしきものどものようだな」  遠くに退避していたアレクサンダーも、愛馬に乗る。 「悔しいが、このままでは我が愛する全軍が闇に奪われる……その前に敵を滅ぼし、それから部下を助ける方法を探すぞ!」  孔雀はそれと遠坂時臣の死を見て、ひとつ決断した。  浮き彫りの刻まれた穂先の長い槍を掲げ、かつての主ケイネス・エルメロイ・アーチボルドのところに向かったのだ。 「なにを……そうか」  ケイネスは即座に受け入れた。  槍の先端から垂れる血液。  一滴の血を垂らされたケイネスの傷つき崩れかけた体を、すさまじい光が覆う。  それを見たアイリスフィール・フォン・アインツベルンは、背負った鞘をケイネスに向けた。  遠く暴れ続ける、半ば魔物と化した闇のアルトリアが訳の分からない絶叫を上げ、槍を掲げて打ちかかる……それをバランが食い止め、優のライフルとランボーの矢が膝を貫く。  鞘からもすさまじい光があふれ、ケイネスを包む。 「お……おおおお!」  完全に、『起源弾』にずたずたにされた魔術刻印すら癒されたケイネスが立つ。桁外れの喜びに満ちている。  ロンギヌスの槍には絶対治癒の伝承がある。またアーサー王の鞘も、本人が現界しているときには無制限の癒しとなる。 「ふ、癒すがよい。最大の力で挑むがよい。喜べ、我が自ら誅してやろうというのだ!」  立ったギルガメシュの背から、何十も波紋が浮かぶ。  その間に、二重の絶対治癒は間桐雁夜も癒しきっていた。  黄金の青年が放った無数の強力な宝具。  かなりの数が黒い泥に呑まれ怪物と化したとはいえ、まだまだ数のいるアレキサンダー軍。  その怪物たち。  暗黒に囚われた騎士王。  それぞれにサーヴァントたちと魔術師たちは立ち上がる。  士郎がガワを、桜が中身を入れたレーバテインは敵が一度放った聖剣を複製し、握って宝具の嵐に立ち向かう。  宝具の弾幕を切り払ったバランは、わが身に雷を落とさせた。全身から流れる血が青く変わる。  優とリナは一瞬の猶予をもらい、優がトレーラーで持ちこんだ膨大な弾薬に宝具の力を付与する。  宗介のレーバテインは魔力を付与された弾薬を手に、軍勢に立ち向かう。  ランボーと切嗣は20ミリ機関砲を手早く組み上げ、弾薬を装填した。  孔雀が一体の、旧神の姿を与えられた泥魔を独鈷杵で貫き滅ぼした。  強化の魔術とアーマードマッスルスーツで疑似サーヴァントとなった言峰綺礼も拳で敵に立ち向かう。  完全復活したケイネスが長文の呪文を唱え始め、凛・ソラウ・ウェイバーも未熟ながらも協力させられる。  アイリは人が扱うには強大すぎるヴァジュラを連打し始めた。アインツベルン家の魔術は戦闘には向かないが、魔術師としての技術や魔力量は低くはない。それをヴァジュラの制御だけにつぎこんだ……独裁者の人格になった、魔術師ではなかったヒトラーは暴走させたが、彼女なら制御できる。使いこなせば世界を破壊できるほどの力を。 「よせ!理性を失うな」  優が、姿を変えていくバランに叫んだ。優の前世では仲間に、獣人であるジャン・ジャックモンドがいた。傷つき獣化すると桁外れの身体能力向上がある、だが判断力を失うため、朧に助かったのが奇跡以上である敗北を喫した。それ以来彼は二度と獣人化せず、十分に卓越した身体能力と技術と知性で戦い抜き、獣人よりよほど強大な存在となった。 「心配はない……この力、戦うに必要な理性までは奪われぬ。敵をすべて滅ぼすまで戻れぬが……竜魔人」  バランの姿が人ならぬものに変じていく。竜の力、魔族の魔力、人の心……人の心を捨てたマックスバトルフォーム。  咆哮とともに多数の宝具を叩き落とし、綺礼を貫こうとしていたアルトリアを蹴り飛ばし、さらに海魔と古代の英雄を呑んだ泥魔を数体粉砕した。  ギルガメッシュが放った宝具の嵐は、敵味方お構いなしだ。ついに集中攻撃がアルトリアの背を貫いた。裏切られたような表情で霧散した彼女、直後綺礼に集中する攻撃を宗介のレーバテインがかばう。  アイリスフィールのヴァジュラと、ケイネスたちの長文呪文で威力を増されたランボーの矢がギルガメッシュを襲い、牽制する。  膨大な軍勢が襲いかかる、そこにバランが立ちはだかる。 『マスター、令呪三角とも』  戦闘に狂った心から、戦いのために言葉が絞り出され、念話として伝わる。  桜は即座にサーヴァントの指示に従った。令呪が三角とも消し飛び、すさまじい魔力がバランに供給される。  竜魔人と化したバランの両手が組まれ、指が竜の牙をかたどる。  すさまじい魔力が凝集し、巨砲が姿をあらわす。 「核兵器か……」  切嗣が震えあがった。  桜が怯えすくむ。 「どうした?」  士郎が背後の少女に問いかけた。 「あの、光……夢で、ひとつの国を滅ぼしたの。死んだ女の人を抱きしめて」  士郎が、通信がつながっている宗介が息を呑む。  そして宗介の素早い操作と命令、二機のレーバテインが弱い人々をかばう。  最大出力、二重のラムダ・ドライバ。  すさまじい閃光がほとばしり、核実験映像を思わせる爆発が王の軍勢を呑みこんだ。  竜闘気砲呪文(ドルオーラ)……一国を滅ぼした、核兵器に匹敵する最大呪文。 「ははははははは!」  呵々大笑したギルガメッシュの背後から、何かが出る。  解析しようとした士郎が気絶し、宝具であるASが霧散する。高いところから落ちようとする士郎と桜を、凛が魔術で受け止めた。  誰もがそれどころではない。とてつもない魔力が、黄金の青年を中心に渦巻いている。 「エアよ」 「う、うあ……」  ケイネスが、孔雀が青くなる。 「天地乖離す(エヌマ)……」  ギルガメシュの手に握られた、剣というには異形のもの。すさまじい回転とともに開闢に比すべき力を集めている。  リナが叫んだ。 「ふたりとも、ありったけの令呪!」  綺礼が凛のところに重傷を押して駆け戻り、預託令呪をどっと与える。アイリが慌てて治癒魔術を唱える。  残り二角すべて、さらに多数の令呪が一気にはじける。リナがすさまじい魔力を受け止め、両手を伸ばす。 「四界の闇を統べる王、なんじの欠片の縁に従い、なんじらすべての力もて、我に更なる魔力を与えよ」  四つの赤い宝玉が激しく輝き、膨大な魔力を放ってリナの存在自体を塗り替える。 「夜よりもなお深きもの、闇よりもなお暗きもの」  リナの周囲に桁外れの魔力が凝縮する。ケイネスが目を見張った。 「たゆたいしもの、混沌の海」  リナの呪文は、完全版だ。リナの故郷を含む幾多の世界、すべて『それ』……金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)、たゆたう海に浮かぶ泡に過ぎない。  この世界の根源とどの程度関わるのか、それを人が知ることはないだろう。いや、知ることができてしまえば、その人の心は大きすぎる智に、 (張り裂けるに違いない……)  のだ。 「我ここに汝に願う、我ここに汝に誓う、我らが前に立ちふさがりしすべての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを」  リナの口から恐ろしい呪文が紡がれる。  回転と、何か。開闢と、すべての闇。  言葉にできぬ膨大な魔力が、ふたつたちのぼる。 「ああああああっ!」  別の者も悲鳴を上げている。  宗介が最後の令呪を受け取り、アルに怒鳴ってラムダ・ドライバを最大以上に上げている。  ケイネスが、ソラウが、かなう限りの魔力で防壁を張る。 「重破斬(ギガ・スレイブ)」 「開闢の星(エリシュ)」  ギルガメシュの真名解放とともに放たれる、天地を作り変える力。  数多の異界の根源そのもの。  もはや何が起きたかわからぬほどの力の嵐。  リナの身体が黄金に染まる。召喚された異界の、根源そのものにも等しい大魔王が自らに対する攻撃に容赦なく反撃を加えた。  桜たちが気がついた時。何かを振りぬいた形のギルガメッシュと、金色に染まったリナがにらみあう。  そして言葉もなく、二人とも消えていった。 >解脱  英雄王の宝具で補強された『王の軍勢』固有結界も、桁外れの力のぶつかり合い、また固有結界を維持していたイスカンダルはじめ多数のサーヴァントの死によって消えた。  残った、海魔と泥とサーヴァントの融合体も余波で消し飛んでいた。  そこは大きい寺がある山の中腹、霊地中の霊地。  多くのサーヴァントの生命で満たされた穢れた聖杯は、顕現しようとしていた。  そのためには、小聖杯の器であるアイリスフィール・フォン・アインツベルンが犠牲になることは避けられなかった……  穢れた聖杯が振りまく悪意に、未熟な魔術師たちや一般人はおびえるばかりだった。  ケイネスなら、時間があれば処理できたろう。  優も危険な遺跡の封印はお手の物だ。  だがこれは、退魔師の仕事だ。  戦いの中温存されぬき、令呪三角の力を帯びた孔雀が、静かに巨大な黒い穴の前に立つ。  忍者がその変形をやることで知られる、左手は拳から人差し指を伸ばしその先を右拳で握る印……智拳印を結び、孔雀明王呪を唱え続ける。  慈愛をこめて。光の大天使でありながら闇を哀れみ闇に落ちた魔神、孔雀王の魂が世界すべてを音楽で満たす。あまりの力に、人間の魔術師は魂消(たまげ)そうになる。核実験を近くで見てしまったように。  すさまじい勢いで流れ出した泥と闇が、見えない漏斗で集められたように孔雀の口に流れこむ。  間違いなく腹が破裂する、と見えたが、孔雀はすべてを飲みつくしていく。  巨大すぎる闇にとりこまれたかに見える……だが、孔雀の智拳印は保たれている。  印の周囲に、四体の仏が見える。  チリ、チリ……音が響く。  金剛薩た(土へん・垂)。金剛法。金剛宝。金剛業。  金剛界曼荼羅四印会で大日如来を囲む四菩薩が、孔雀の印を結んだ手、そして『この世すべての悪』を囲んでいる。  いつしか、巨大な穴は変わっていた。真っ黒な、目鼻のない幼子に。  その幼子の周囲を、四菩薩が囲む。 『彼』は見ていた。  憎まれ、生贄として殺される自分を。その時に抱いた、自分を迫害するすべての人たち、そして世界に対する強烈な憎悪と、無限の悲しみを。  そして再び呼び出された、『この世すべての悪』として、サーヴァントとして。  先の聖杯戦争では戦闘力がなかったために殺され、聖杯の中で願った。 「誰もが自分をこの世すべての悪にしたいのなら……この、すべてを呪う呪いを……」  聖杯はその願いをかなえた。  世界のあらゆる悪を集め、究極の悪をつくった。聖杯そのものが汚染された。  だが、四菩薩に囲まれた『彼』は、別の夢を見た。  貧しい、技術水準も低い、麦10粒をまいて30粒得られればいいほう、乳幼児も10人産んで2人育てばいいほうの村で。  一人の女が、父親も知れぬ子をはらんだ。  苦しい、腹が醜く膨らむ……おろせ、とも言われる。  だが、断った。何としてもこの子を産みたい……殴られ蹴られても。  時に子を憎むこともあった、人なのだから。だが、圧倒的にそこにあったのは、愛だった。  その母は、産褥で死んだ……  それから、子は迫害された。だが少年の姿をとれるほどに、ヤギの乳を与え体を包む者もいたのだ。 「……おかあさん」 『彼』の、黒いのっぺらぼうの顔に口が生じ、小さな言葉が出た。  顔も知らぬ母。だが…… 『彼』は一人の男と、一人の少女を見た。  鳳凰。孔雀の元同僚で、闇に落ちた男。ある意味狂った、裏高野を追放された退魔師の父親に幼いころから残忍な修行を強いられ、ついに力をつけて父親を殺した。裏高野で働きながら裏で闇とつながり、すべての破壊を願い殺戮にふけった。  朋子。孔雀の双子の姉。孔雀の父は子を守るため世界中追われ、魔王級の存在に騙されて彼女を捨ててしまった……朋子は闇のさしがねでそれを思い出して深すぎる傷に狂い、闇の天蛇王として世界を滅ぼそうと孔雀と裏高野と戦った。  鳳凰は、孔雀との戦いの末に……食べきれないほどの力を手に入れ、世界を滅ぼしつつ腹がはちきれて自滅する自分を目の当たりにし……地位を捨てて自分を産み育てようとした母の胸に戻り、生まれたばかりの幼子……さらに受精卵まで戻り消えていった。  朋子も、敗れ殺される覚悟をしたとき……孔雀は手をさしのべた。俗名『明』はすべての闇を抱きとめ、朋子の苦しみを分かち合い、 (すべてをはじまりに、光と闇をひとつに……)  還った。  朋子はすべての記憶を失って人に戻り、孔雀の戦友と結婚した。  今、『彼』、アベンジャー・アンリマユも孔雀に抱きとられていく。  その深い傷と憎悪を孔雀に分け、孔雀からは大慈大悲を与えられて。  すべてが生まれる根源に。愛にかえってゆく。 『彼』が引き寄せた、この世すべての悪……飢え、病み、残忍に殺された、人類の始まり以来の何億という死者やその家族の呪い……人類の犠牲になった生命も含む……あらゆる呪いが、すべて母の胎に戻っていく。愛に溶けていく。  衛宮切嗣の、父を殺し、師を殺し、それからひたすら天秤の少ない側を殺し続けた……殺された者の呪い、殺した切嗣の罪悪感も。  魔術師たちが、残忍な家訓に従って殺してきた者の恨みも、押し殺してきた罪悪感や憎悪も。 「これでは、イエス・キリストの死と復活によるすべての罪の救済ではないか……」  綺礼がつぶやく。 「いや、そこまでではない。みんな、少しだけ罪悪感や恨みが薄れるだけだ。  でも……」  ケイネスもつぶやき、深い深い息をついた。  孔雀と、彼に抱かれた『彼』は、ともに姿を薄れさせていく。  日の出に闇が払われるように。無数に舞う、孔雀の羽に包まれながら。  孔雀はもういない。そして、生き残ったサーヴァントたちも消えていくのだろう。聖杯戦争はもう終わった。  第五次聖杯戦争はありえない。孔雀は大聖杯そのものを抱きとっていった。もう永遠に終わった……三人の子供たち、そして遠くにいるもう三人の子供たち(イリヤ・慎二・バゼット)が戦うことはない。  遠坂は、才能に恵まれた凛が別の方法で根源「」への道を追求する。呪縛から解放された間桐は、桜を守るためだけに魔術の師を求める。何も知らず魔術回路もない慎二も、暮らせるだけの財産は与えられるだろう。アインツベルンは……もう滅びているも同然だ。 *鳳凰の解脱は、何度読み返しても泣きます。 >戦後 *今回、原作完結後の独自解釈があります。  終わった。  誰もが虚脱していた。あまりにも美しいものを見た。あまりの邪悪に触れた。あまりにも深い淵をのぞいた。  父を失った凛と桜が、抱き合って泣き始めた。  ランボーがケイネスとソラウに、突然声をかけた。 「あんたがもっとも地位が高い魔術師だな?なら、この三人の子を保護しろ。今すぐ魔術を用いて、破れない契約をしろ。さもなくば消える前、今殺す」  時臣の最期の命令は残っている。  ケイネスが驚いて見回すと、バランも素早くランボーの側に立った。彼にとって何よりも大切なことは桜を守ること……生前はわが子を、赤子のときには荒海に漂流させ、長じては殺そうとし、和解しても命を守ったとはいえ一人で戦わせてしまったのだ。  子を守る。ヘラクレスと同じようにその望みのためにサーヴァントとなったのだ。  かずいも、優も宗介もそれを肯定するように動いている。  詰みだ。  セルフ・ギアス・スクロール……魂レベルで束縛する絶対の契約。  常識的な魔術師としてのケイネスやソラウから見れば、桜と士郎は個別でも、まして二人まとまれば、封印指定以外にないのは知れている。  だが、ソラウの生命のため……自らを守ってくれるサーヴァント、孔雀はいないのだから。  そして、報酬も大きかった。間桐家の財産と魔術の秘儀実質すべてが手に入る。  また、傲慢の塊であるケイネスとはいえ、さすがにあの戦いは魂を砕くものがあった……リナ・インバースや孔雀の、異世界や仏=インド神話の神々と深くかかわる超級魔術、いや魔法の域に達する、それについて膨大な情報を得ている。 (降霊科の神童……)  だからこそ、見てしまったものを学問の俎上に載せれば成果は大きいだろう。  またケイネスの、時計塔での地位も揺るぎはない。確かに勝利、武勲とは違うが、神秘の漏洩を防いで大災害を防ぎ、冬木聖杯戦争の術式の詳細を手に入れているのだ。  とどめに……  凛が士郎と桜に耳打ちした。二人が手に、四つの赤い宝石のはまったアクセサリーを差しだしたのだ。  ケイネスが叫ぶことは、めったにない。それが起きた。  リナ・インバースの宝具、魔血玉(デモン・ブラッド・タリスマン)。  魔力そのものを底上げする、それこそウェイバーがつければケイネス以上の魔力を使える、あらゆる魔術師にとって夢のまた夢と言える宝具だ。  ケイネスもソラウも、首を縦に振った。  ウェイバー・ベルベットや健康体となった間桐雁夜も交え、様々な財産の配分の相談が始まった。  間桐家は魔道の家としては解体するが、法律処理のため、また生活上の親として魔術師ではない雁夜も必要とされる。  雁夜も、桜の素質が高すぎることは見ている……目の前で巨大なロボットと光り輝く聖剣を出して見せたのだから。  しかるべき師、財産、彼女を狙うであろう多くの邪悪な魔術師からの保護……ケイネス・エルメロイ・アーチボルドのアーチボルド家、それ以上の名門であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリのソフィアリ家も巻きこむ。  士郎も重大な素質があり、正しい魔術の教導が必要となる。今は彼の家族は魔術で暗示をかけられて海外旅行中だが、帰ってきたら新しい暗示を刻み、士郎がちゃんと修行できるようにしなければならない。  それに必要な資金。師。  母が無事であり、詳細な遺言と遺産相続の準備があり、父時臣の魔術刻印も無事回収された遠坂凛も、母は魔術回路がないので魔術の指導者が必要になろう。  言峰家も協力してくれるだろうが、魔術に関しては別の伝手が必要だ。  ウェイバーにも大きい可能性があることが判明した。それも認めざるを得ない。  資金は間桐家の資産もあり、さらに桜と士郎は本物の宝具を量産できる。ギルガメッシュが大量に出した、そのすべてを士郎は目に焼き付けているのだ。  正統派の魔術師とは違う衛宮切嗣は、その話し合いからは一歩引いていた。  もう、すべてを失った。悲願を。希望を。アイリスフィールを。あるのは命と、舞弥と、イリヤだけ……  だが、意外な助けがあった……優が、 「頼みがある。協力して、マスターの娘を助けてほしい。アインツベルン家に、人質になっている」  と頼んだのだ。 (なぜ残忍な方法で自分たちを殺そうとした切嗣を……)  とも思う者も多かったが、とんでもない報酬があった。  この戦いでも活躍した、上級宝具級概念礼装『ヴァジュラ』、アインツベルンが入手していたアーサー王の鞘。  莫大な価値がある。士郎と桜なら劣化版でなく量産できるかもしれないとはいえ、オリジナルはまた別だ。  衛宮切嗣自身、莫大な資金と兵器を手にしている。  それだけではない。 「衛宮切嗣さん。あなたの願いも、ある程度はかないそうですよ」  と、かずいが言った。 「この雨宮士郎という少年は、あの巨大ロボットを再現できた。解析に優れているとも聞いています。  あのロボットの大きさと運動は、化石燃料と電磁回転モーターでは無理でしょう……違いますか?」  話を振られた宗介はうなずいて言う。 「パラジウム・リアクターと人工筋肉」 「核融合炉、ちょうどいい。その設計図を士郎くんが書き、世界中の研究者に送れば、争いを減らすことはできるのでは?」 「そ、それは神秘の隠匿」  止めようとした魔術師に、 「この機械に、魔術は使われていましたか?」  アサシンに問われた士郎は首を振る。  正確には、ウィスパードがもたらしたブラックテクノロジーが神秘かどうかは知らないが、使う側である宗介は気にしないだけだ。 「なら問題はないですね。この聖杯戦争がらみだとばれないよう、少し間を置いた方がいいでしょう」 「ルポライターとして、あちこちの研究者や研究所の連絡先も知っている。ルポライター仲間から聞くこともできる」  と雁夜が名乗り出た。 「問題は、そんな技術を人間に与えたら争いがひどくなるだけ、という意見ですが……」  そう、アサシンがセイバーを見る。 「ああ、オレは生前、『アーカム』という組織にいた。古代超技術文明からの、使いこなしてほしい、無理なら悪用されないよう封印してくれ、ってメッセージを実行する組織。あっちこっちの軍や犯罪組織が超技術を手に入れるのを防いでた。 『アーカム』自体も信用できなくなってったから、すごい叡智の入った遺跡を深海に投げたこともある。  だが……まあ『アーカム』内で変な理想で暴走した会長が追われてから何年かして……少し方針が変わったんだ。オレとティアとジャンと……いろいろ話して。  人は決して変わらない存在じゃない。遺伝子さえも、乳糖不耐症とか鎌型赤血球とか、けっこう進化する。1880年と1980年でも、戦争で死ぬ人数とか全人口と餓死者の比とかは結構違う。熊や猫を残酷に殺す娯楽なんて、今は考えられないだろ。  ああ、簡単に言えば、衣食足りて礼節を知る、ってやつだ。  腹がいっぱいなら、少しマシになる。戦争や紛争も腹が減ったから、水がないから、が結構多いんだ」 「苦痛で食事もとれず眠ることもできなかった時は、復讐で狂っていた。  体を治され、熟睡して重湯をすすっただけで、かなり違った」  雁夜が静かに言った。  優がうなずく。宗介が何か思いついたように、 「軍が兵士を作り上げるのも、まず寝不足で極端に運動させる。生前の自分もラグビー部をそうやって鍛え、はたかれた……それで今回マスターを鍛えるとき、睡眠は十分にとらせた」  と言い、ウェイバーが辛そうにうなずいた。 「まあ、みんなが満腹できる方向の技術は、民間研究所に出していこう、ってなった。戦いがゼロになるわけはないし軍隊もなくならなかったさ。でも、オレが生まれた時と死んだときじゃ、百分の一ぐらいにはなってたと思う」 「だ、だが、この世界では魔術師どもが」  切嗣の文句に、優が答える。 「それも社会全体の流れってものがあるだろ?  もともと、オレはそのつもりだった。ネオナチが封じてた洞窟のヒトラーの遺産には、今回使ったヴァジュラだけじゃなく古代の魔術文明の遺産もたっぷりあった。  中には、めちゃくちゃ安く作れるビニールみたいなのの作り方もな。オレの前世も別のところで手に入れたそれで、食料生産量を百倍にした」 「どうやって?」  雁夜が聞く。 「この地球にはアマゾンとかニジェールとか、熱帯雨林のものすごくでかい川がある。その淡水を、河口の沖の海に浮かべた、大陸規模の面積のビニールプールで受け止めるんだ。  淡水は海水より軽いから、ビニールプールは浮く。栄養豊富な淡水がたっぷり日光を浴びれば、浮く水草がたくさん育つ。空中の窒素を固定して肥料を作る浮草もあるから肥料もいらない。  それをとんでもない量育てて飼料にすれば、全人類が満腹できる……ってわけだ。  あと、すごく強い糸を作る変な生き物もあったな。それで軌道エレベーターを作れば、アフリカで戦争をしなくてもレアメタルは小惑星から手に入った」  科学や政治に無関心な魔術師はちんぷんかんぷんだが、切嗣や雁夜は驚いている。 「それで、世界中の軍隊とかがクーデター起こして、おなかいっぱいを防ごうとしたら……それこそあんたの出番だ。一番偉いくそったれどもを暗殺していけばいい」  セイバーが切嗣に言う。  雁夜が気の毒そうに声をかけた。 「まず、温かく消化のいい食事をして、眠れるだけ熟睡したほうがいい。薬とかなしに。  俺も、固形物も食えず苦痛で眠れない日々を過ごしてたら、思考がいかれてた。  体を治し、熟睡して粥を食ったらだいぶましになった。  いや、ははは……魔術師たちがいかれた思考をしてるのは、痛くてよく眠ってないからじゃないか?」  切嗣は崩れ落ちた。  士郎が巨大なアーム・スレイブを見上げ、雁夜とうなずきあう。 「さて……オレたちはそろそろ消えるだろう。なら」  優が、宗介とランボーに目をやった。 「トラップの詳細地図、あるよな?」 「肯定(アファーマティブ)」 「軍人なら当然だ」  と、三人ともノートを取り出し、切嗣の前に置いた。  正規軍の軍人は、地雷などを仕掛けるときには詳細な地図を作り、全部解除できるようにしておくものだ。  それを見た言峰綺礼が切嗣に、重々しく命じた。 「聖堂教会、聖杯戦争の監視役の関係者として命じます。……冬木じゅうにばらまかれた膨大な武器と罠を全部解除してください」  切嗣と舞弥は鉄面皮を崩さず、精神的に参っている。  あまりにも膨大な、危険すぎる罠の数々……  だがまあ、ケイネスとソラウの協力があり、大量の兵器があればイリヤを取り戻すこともできるだろう。母の死について説明し恨まれることも含まれるが。  そして唐突に、朝日とともにサーヴァントは姿を薄れさせていった。  マスターたちは、はじめて気がついた。  しっかり別れを惜しむ暇がない…… 「あ、ありがとう」  桜が叫び、何人もが感謝を叫んだ。消えていく英霊たちにも、すでに消えた英霊たちにも。  そのような俗なことを軽蔑するケイネスも、目を伏せている。  切嗣は、感情が強すぎて何も言葉が出なかった。ただ顔を伏せている。 「病院と患者たちをお願いします」  かずいが綺礼に言う。彼はある病院に、関係者に暗示をかけてもらって勤めていた。短期間だがかなりの人数を救っている。暗示を駆使してそのあたりをどうにかしなければならない。 「……任せてくれ」  綺礼はそれだけ言った。 「少尉どのを生きて帰らせることができたこと、軍曹として最大の誉です。これからの人生に幸運あらんことを」  宗介がウェイバーに敬礼した。ウェイバーが号泣する。 「子供たちを、守り抜いてくれ」  バランの言葉に、何人も強くうなずく。  ランボーと凛は、言葉もない。  時臣を守り抜けなかったランボー。だが、彼がどれほど戦い抜いてくれたか、凛はよく知っている。 「……安全圏から批判してはいけない、でしょう?よくやってくれたわ」  ランボーは無言で敬礼し、凛がさしのべる手を握った。  優は背を向ける切嗣を見て苦笑し、仲間たちの背を叩いて回り、真っ先に消えた。  そしてランボーが、宗介が、かずいが、バランが消えていく。  生き残った人間たちは、これから忙しい一日が始まるのだ。しかも徹夜明け、激戦……何人かは重い重機関銃を運び組み立て操作する重労働、そうでなくても莫大な魔力の行使で、フルマラソンをしたよりも疲れた状態で。  遠坂葵がどれほど嘆くことか……それでも凛と桜の無事に、どれほどほっとすることか。  イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの怒りと悲しみがどれほどか。彼女の救出がどれほど困難か。  凛と桜も、悲しみの本番はこれからだろう。  だが、冬木市は無事だ。神秘の漏洩も避けられた。優しいサーヴァントたちの奮戦のおかげで。  遅い朝日が円蔵山を照らす。冬山を冴えた光が照らす。朝の早い僧の気配も生じる。  泣いている暇はない。生きているのだから、すべきことをするだけだ。 *だからライダー候補は、「白兵戦が強い」かつ「核融合炉」から考えたのです。 士郎の解析を使い、全員の腹を満たすことを通じて、恒久的世界平和に半歩でも近い世界を。 …『アーカム』、特にティアは絶対にそれは許さない、という読者も多いでしょうが、ここはあえて。 コルヌコピアンという非難は喜んで受けます。 銅や燐が有限というだけでも、科学技術が進歩しなければ人類が存続できないことは自明ですし。 何よりも、僕は希望がなければ生きられません。少しでも人類がよくなる。少しでも科学技術が進歩する。 一夜にして全部を求めたら共産主義の地獄、ならば現実の人間性を理解して、一歩でも。少しでも。 >その後  その後はさしたることもない。それでいて、深いところから変化はあった。  とある連続殺人犯は、警察発表では被害者の少年に刺殺され、被疑者死亡の扱いとなった。  衛宮切嗣は、ケイネスの助けもあり愛娘イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの奪回に成功した。  母の死を嘆く娘に謝り倒し、そして優が示してくれたようにヒトラーが集めた古代技術コレクションを用いて、少しでも世界から飢餓・水不足を減らすための活動をじっくりと続けた。  ラムダ・ドライバは神秘、いや魔法の領域に深く食い込むため外されたが、それを除いた人型兵器もあちこちの研究所に提供された。  人型機そのものはこの世界での軍事では使い道が少なかった。  だがその人工筋肉と小型大出力のリアクターは、昆虫を模した多脚重機として土木工事・災害救助など広く活躍したという。高度なコンピュータも有用だった。  巨大な魔法の素質があるイリヤも、アーチボルド閥として、無事に生きるための修行をした。  間桐桜もアーチボルド閥として、主にソフィアリ家の教導を受けた。間桐家の魔術そのものは当主の消滅で使用不能になっており、それとは別の魔術を学び、のちには時計塔で凛をはじめこの世代に妙に多い天才たちと競い合った。  間桐慎二は最低限の財産を受け継ぎ、魔術とは関係のない生活をすることができた。  雁夜は桜の法律上の、また家庭的・精神的な養父としての役割を果たし、またジャーナリストとして、普通の人間としての生涯を送った。のちに別の、魔術とはまったく関係ない女性と結婚した。  遠坂家も正式にアーチボルド閥に入り、凛と士郎もそれぞれ教導を受けることになる。  遠坂葵は独身を貫き、遠坂家を、ふたりの娘を支えた。  士郎と桜が組めば出せる宝具も魔術の世界を、最初はひそかに、のちには大きく揺るがした。  ウェイバー・ベルベットも目の色を変えて修行に取り組み、後に教育者としての素質を開花させ、ケイネス閥の重鎮として活躍することになる。  ケイネスとソラウは子にも恵まれ、その子はのちに密教の魔術的解析で大きな業績を上げた。  ただ、ケイネスは老いを感じた頃、きわめて危険な、とても遠い異世界の魔力を借りる大魔術を行おうとして失敗し死亡した。  言峰綺礼……彼の生涯は数奇とも言えたし、平凡とも言えた。  彼を治療、いや作り変えた、殺して別人にしたアサシンの予言どおり。凡人が、桁外れの力と地位、神秘と近すぎる立場で生きる……しかも、 (自分は人工的な魂だ……)  という劣等感も背負って。  たいへんなことだった。  凡人らしくいろいろな過ちを犯した。  父にも娘にも迷惑をかけまた支え合って、葛藤と愛憎に満ちた、凡人の生を生きた。 〈完〉 サーヴァント 御神苗優 『SPRIGGAN』 マスター:衛宮切嗣 クラス:セイバー 秩序・善 筋力:C(AMスーツ時B) 耐久:B 敏捷:A 魔力:D 幸運:B 宝具:B クラス別スキル 対魔力:B 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。 騎乗:B' 生物だとCだが機械ならA。 固有スキル 中国武術:A+++ 中華の合理。宇宙と一体となることを目的とした武術をどれだけ極めたかを表す。 師の朧より伝えられた八卦掌。仙人に限りなく迫っていた朧を超え、さらに長い生涯にわたり修行を積んだ。 射撃:A++ 本来なら銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術だが、彼らの場合は兵士としての、あらゆる銃器を使いこなす技術および狙撃技術。 SAS数十人を一人で殲滅できる、人類最高峰に属する。 心眼(真):A 修行・鍛錬によって培った洞察力。 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す『戦闘論理』。 逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。 気配遮断:A サーヴァントとしての気配を絶つ。 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。 戦闘続行:A 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。 備考 原作終了後、アーカムの有力者にもなって天寿を全うしている。 朧の武術も師以上にマスターしている。 宝具 「AM(アーマード・マッスル)スーツ」ランクC 筋力を格段に引き上げ、銃弾を防ぐオリハルコン合金の鎧。筋力はBとなり、宝具化されたライフル弾も防ぐ。手には増幅精神波放射装置があり、霊的存在にも通用する。 「オリハルコンナイフ」ランクB 生前愛用した大型のハンドガード付きボウイナイフ。これによりセイバークラスを得た。 「アーカム製セラミック徹甲弾」ランクD 14.5ミリ以下の、入手した弾薬を変化させることができる。貫通力が高く、霊的存在にも通じる。 *「*****」ランク*級**** ___________________ 孔雀 『孔雀王』 マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルド クラス:ランサー 中立 善 筋力:C 耐久:B 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:B 宝具:EX クラス別能力 対魔力:A Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。 固有スキル 神性:A 母親は地蔵菩薩、魂は魔神孔雀王、ラゴ星の呪いも帯びている。 単独行動:B 心眼(真):A 魔術:A 密教を用いた術で、多くの神仏を身に降臨させその力を用いることができる。 備考 裏高野の退魔師(高野聖の拝み屋)。本名(俗名)は明。 バーサーカー適正も持っている。 また特殊な素手武術も使いこなす。 ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリも魔力供給に参加している。 宝具 「*****の槍」ランクEX ***** 「独鈷」ランクD 生前愛用していた武宝具。 ___________________ ジョン・ランボー 『ランボー』シリーズ マスター:遠坂時臣 クラス:アーチャー 秩序 中庸 筋力:B 耐久:A 敏捷:C 魔力:C 幸運:C 宝具:C クラス別能力 対魔力:D 単独行動:A 陣地作成:C 騎乗:A(近代機械限定) 固有スキル 射撃:A++ 心眼(真):A 気配遮断:A+ 戦闘続行:A 破壊工作:A 備考 名誉勲章を生前受賞した特殊部隊員。 捕虜となり拷問され、そのPTSDと退役後の帰還兵迫害で暴走したこともある(バーサーカー適正、ライダー適正、セイバー適正も高くある)。 その後は中央・東南アジアで様々な活躍をした。 宝具 「ナイフ」ランクC ランボーの代名詞というべきナイフ。柄にはさまざまな、サーヴァントにも有効なトラップワイヤなどが仕込まれている。 「弓」ランクB 爆薬を含め多様な威力がある。サーヴァントにも通用する。 「M60」ランクC 生前の逸話で宝具化された機関銃。7.62ミリNATO弾の大威力。弾薬も無限で、宝具化された弾はサーヴァントにも通用する。 ___________________ 相良宗介 『フルメタル・パニック!』 マスター:ウェイバー・ベルベット クラス:ライダー 中立 中庸 筋力:D 耐久:B 敏捷:D 魔力:B 幸運:D 宝具:EX クラス別能力 騎乗:A 対魔力:B 単独行動:B 固有スキル 射撃:A- 兵士・狙撃兵としては高水準だが超一流ではない。 心眼(真):B 気配遮断:B 戦闘続行:A+ 生前、完全に骨になっても敵を刺す、とまで評価されている。 備考 日本人の普通人〜暗殺者養成所〜アフガンゲリラの孤児〜『ミスリル』軍曹〜逃亡犯罪者。 銃器を用いる戦闘、ASを用いる格闘戦の双方で高い能力を持つ。 宝具: 「ドラグノフ」ランクB 幼少期に愛用していた狙撃銃。宝具化によりサーヴァントにも通用する。着剣可能で銃剣も宝具化している。 「ボン太くん」ランクB 自ら設計した個人戦闘用スーツ。着ぐるみの姿でボイスチェンジャーに異常があるが、防御・力増幅ともAMスーツに迫る。宝具化された散弾銃が付属している。 「******」ランクEX ****。要令呪。 ___________________ 奥森かずい 『MIND ASSASSIN』 マスター:言峰綺礼 クラス:アサシン 中立 善 筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:B 幸運:B 宝具:B クラス別能力 気配遮断:A 対魔力:C 単独行動:A 抑制:A 固有スキル 備考 制御装置であるピアスを外して人の頭に触れれば、人の心・記憶を破壊できる超能力者。 サーヴァントとしては最弱。人の心を操ることも魔術でできる。 だが、「魔術師ならだれでもできることが、人間には絶対に不可能な水準でできる」こと、普通の医師として市井で生きた人間経験が優位。 宝具: 「精神破壊」ランクB 兵器として作られた超能力。人間の精神・記憶を、ピアスを外して手で頭を触れただけで破壊できる。 ___________________ バラン 『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』 マスター:間桐雁夜→間桐桜 クラス:バーサーカー 秩序 中庸 筋力:A 耐久:A 敏捷:A 魔力:A+(竜の因子) 幸運:D 宝具:A クラス別能力 狂化:E(竜闘気でレジストしてしまったため事実上狂っていない) 対魔力:A 単独行動:A 騎乗:A 神性:C 固有スキル 心眼(真):A 魔術:A その世界で知られるすべての呪文を契約。多数の超短文詠唱魔術を使用可能。 竜殺し:A+ 竜種を仕留めた者に備わる特殊スキルの一つ。竜種に対する攻撃力、防御力の大幅向上。 バランが殺した相手は神々に等しい存在、冥竜王ヴェルザーである。 備考 三種族の神々が抑止のために作った兵器だが、傷ついて人の世界に関わり、一国を滅ぼしているためバーサーカーとして召喚された。 竜の紋章と剣は死後息子に譲ったが、宝具化されて持っている。 宝具 「竜の紋章」ランクB 準常時発動。身体強化、竜闘気による魔法・物理両面の防御。全状態異常レジスト(狂化も含む)。 「真魔剛竜剣」ランクA+ 宝具化されてはいるが、最強ランクの神造武器。 「***」ランクA *****ただし狂化Bで、会話は****。 「******」ランクA++ **を消滅させた逸話を持つ。***** ___________________ リナ・インバース 『スレイヤーズ!』 マスター:雨生龍之介→遠坂凛・あまみや士郎(実家は雨生龍之介と遠い親戚、赤毛つながりと魔力…本作独自設定) クラス:キャスター 混沌 中庸 筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:A 宝具:A クラス別能力 対魔力:A 単独行動:A 固有スキル 魔術:A++ 別世界の魔術体系に精通、その知はいくつもの世界の根源に至っている。 備考 生前は別の世界で最強クラスの魔術師。魔王のかけらを二体以上討伐、『デモン・スレイヤー』の異称を得る。また『盗賊殺し』『ドラまた(ドラゴンもまたいで通る)リナ』など…… 宝具 「***」ランクA+ ****を増強し、普通なら絶対*****を成功させる。人間が作ったものではなく、上位魔族から買ったもの。 **** 御神苗優 マスター:衛宮切嗣 クラス:セイバー 秩序・善 筋力:C(AMスーツ時B) 耐久:B 敏捷:A 魔力:D 幸運:B 宝具:B クラス別スキル 対魔力:B 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。 騎乗:B' 生物だとCだが機械ならA。 固有スキル 中国武術:A+++ 中華の合理。宇宙と一体となることを目的とした武術をどれだけ極めたかを表す。 師の朧より伝えられた八卦掌。仙人に限りなく迫っていた朧を超え、さらに長い生涯にわたり修行を積んだ。 射撃:A++ 本来なら銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術だが、彼らの場合は兵士としての、あらゆる銃器を使いこなす技術および狙撃技術。 SAS数十人を一人で殲滅できる、人類最高峰に属する。 心眼(真):A 修行・鍛錬によって培った洞察力。 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す『戦闘論理』。 逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。 気配遮断:A サーヴァントとしての気配を絶つ。 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。 戦闘続行:A 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。 備考 「SPRIGGAN」主人公。 原作終了後、アーカムの有力者にもなって天寿を全うしている。 朧の武術も師以上にマスターしている。 宝具 「AM(アーマード・マッスル)スーツ」ランクC 筋力を格段に引き上げ、銃弾を防ぐオリハルコン合金の鎧。筋力はBとなり、宝具化されたライフル弾も防ぐ。手には増幅精神波放射装置があり、霊的存在にも通用する。 「オリハルコンナイフ」ランクB 生前愛用した大型のハンドガード付きボウイナイフ。これによりセイバークラスを得た。 「アーカム製セラミック徹甲弾」ランクD 14.5ミリ以下の、入手した弾薬を変化させることができる。貫通力が高く、霊的存在にも通じる。 *「ヴァジュラ」ランクA 対陣宝具 レンジ20 対象人数1〜10000 サーヴァントとして現界してから、ネオナチから奪った宝具級礼装。重砲級の威力を持つ雷を放つ。 孔雀 マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルド クラス:ランサー 中立 善 筋力:C 耐久:B 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:B 宝具:EX クラス別能力 対魔力:A Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。 固有スキル 神性:A+(母親は地蔵菩薩、魂は魔神孔雀王、ラゴ星の呪いも帯びている) 単独行動:B 心眼(真):A 備考 裏高野の退魔師(高野聖の拝み屋)。 本来バーサーカー適正も持っている。 密教の力を用い、短文詠唱で古代インドの神々を召喚融合してその力を使う、型月世界から見れば非常識な魔力。 また特殊な素手武術も使いこなす。 宝具 「ロンギヌスの槍」ランクEX イエス・キリストの磔刑で、ロンギヌスがイエスを刺した槍。 神をも殺し、ふさわしからぬ者が触れれば癒えぬ傷をつけ、また癒すことができる。 「独鈷」ランクD 生前愛用していた武宝具。 ジョン・ランボー マスター:遠坂時臣 クラス:アーチャー 秩序 中庸 筋力:B 耐久:A 敏捷:C 魔力:C 幸運:C 宝具:C クラス別能力 対魔力:D 単独行動:A 陣地作成:C 騎乗:A(近代機械限定) 固有スキル 射撃:A++ 心眼(真):A 気配遮断:A+ 戦闘続行:A 破壊工作:A 備考 名誉勲章を生前受賞した特殊部隊員。 捕虜となり拷問され、そのPTSDと退役後の帰還兵迫害で暴走したこともある(バーサーカー適正、ライダー適正、セイバー適正も高くある)。 その後は中央・東南アジアで様々な活躍をした。 宝具 「ナイフ」ランクC ランボーの代名詞というべきナイフ。柄にはさまざまな、サーヴァントにも有効なトラップワイヤなどが仕込まれている。 「弓」ランクB 爆薬を含め多様な威力がある。サーヴァントにも通用する。 「M60」ランクC 生前の逸話で宝具化された機関銃。7.62ミリNATO弾の大威力。弾薬も無限で、宝具化された弾はサーヴァントにも通用する。 相良宗介 マスター:ウェイバー・ベルベット クラス:ライダー 中立 中庸 筋力:D 耐久:B 敏捷:D 魔力:B 幸運:D 宝具:EX クラス別能力 騎乗:A 対魔力:B 単独行動:B 固有スキル 射撃:B+ 兵士・狙撃兵としては高水準だが超一流ではない。 心眼(真):B 気配遮断:B 戦闘続行:A 生前、完全に骨になっても敵を刺す、とまで評価されている。 備考 アフガンゲリラの孤児〜『ミスリル』軍曹〜逃亡犯罪者。 銃器を用いる戦闘、ASを用いる格闘戦の双方で高い能力を持つ。 宝具: 「ドラグノフ」ランクB 幼少期に愛用していた狙撃銃。宝具化によりサーヴァントにも通用する。着剣可能で銃剣も宝具化している。 「ボン太くん」ランクB 自ら設計した個人戦闘用スーツ。着ぐるみの姿でボイスチェンジャーに異常があるが、防御・力増幅ともAMスーツに迫る。宝具化された散弾銃が付属している。 「レーバテイン」ランクEX AS。番号はARX-8。強力なラムダ・ドライバもあるが兵器としては欠陥が多い。要令呪。 奥森かずい マスター:言峰綺礼 クラス:アサシン 中立 善 筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:B 幸運:B 宝具:B クラス別能力 気配遮断:A 対魔力:C 単独行動:A 抑制:A 固有スキル 備考 「MIND ASSASIN」主人公。制御装置であるピアスを外して人の頭に触れれば、人の心・記憶を破壊できる超能力者。 サーヴァントとしては最弱。人の心を操ることも魔術でできる。 だが、「魔術師ならだれでもできることが、人間には絶対に不可能な水準でできる」こと、普通の医師として市井で寿命まで生きた人間経験が優位。 宝具: 「精神破壊」ランクB 兵器として作られた超能力。人間の精神・記憶を、ピアスを外して手で頭を触れただけで破壊できる。 バラン マスター:間桐雁夜→間桐桜 クラス:バーサーカー 秩序 中庸 筋力:A 耐久:A 敏捷:A 魔力:A+(竜の因子) 幸運:D 宝具:A クラス別能力 狂化:E(竜闘気でレジストしてしまったため事実上狂っていない) 対魔力:A 単独行動:A 騎乗:A 神性:C 固有スキル 心眼(真):A 魔術:A その世界で知られるすべての呪文を契約。多数の超短文詠唱魔術を使用可能。 竜殺し:A+ 竜種を仕留めた者に備わる特殊スキルの一つ。竜種に対する攻撃力、防御力の大幅向上。 バランが殺した相手は神々に等しい存在、冥竜王ヴェルザーである。 備考 『ダイの大冒険』より。 三種族の神々が抑止のために作った兵器だが、傷ついて人の世界に関わり、一国を滅ぼしているためバーサーカーとして召喚された。 竜の紋章と剣は死後息子に譲ったが、宝具化されて持っている。 宝具 「竜の紋章」ランクB 準常時発動。身体強化、竜闘気による魔法・物理両面の防御。全状態異常レジスト(狂化も含む)。 「真魔剛竜剣」ランクA 宝具化されてはいるが、最強ランクの神造武器。 「竜魔神」ランクA 極端な身体強化、ただし狂化Bで、会話はある程度可能だが戦闘を止められない。 「竜闘気砲呪文(ドルオーラ)」ランクA++ 一国を消滅させた逸話を持つ。竜魔神状態でなければ使用不能。 リナ・インバース マスター:雨生龍之介→遠坂凛・あまみや士郎(実家は雨生龍之介と遠い親戚、赤毛つながりと魔力…本作独自設定) クラス:キャスター 混沌 中庸 筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:A 宝具:A クラス別能力 対魔力:A 単独行動:A 固有スキル 魔術:A++ 別世界の魔術体系に精通、その知はいくつもの世界の根源に至っている。 備考 生前は別の世界で最強クラスの魔術師。魔王のかけらを二体以上討伐、『デモン・スレイヤー』の異称を得る。また『盗賊殺し』『ドラまた(ドラゴンもまたいで通る)リナ』など…… 宝具 「魔血玉(デモン・ブラッド・タリスマン)」ランクA+ 魔力の器を増強し、普通なら絶対不可能な魔術を成功させる。生前ある戦いで失われたが、宝具となったことで持てるようになった。 *「完全版重破斬(ギガ・スレイブ)」EX級対界・対神宝具に匹敵する超大呪文。魔血玉なしでは発動できず、制御できたこともない。別の、多数の世界の、さらに根源を超える存在を召喚降臨させる。