月原早紀(つきはら さき)

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作風概説

 ざっくり編んだセーターのようなラフだがとても柔らかく奇麗で、しかも可愛らしい絵。
 髪が多く、少し重いが綿菓子のようにふんわりとした感じで、それでいてしっとりした優しさと透明感、真珠のような軟らかい輝きがある。服の質感もあり、人の心を暖かくくすぐったい気持ちに包む。

 とてつもなく冒険的なこともできる。心情的にもパターンに囚われず、また登場人物の優しさを独特の口調と合わせて伝えて心を打つものがある。心理ネームが多いが非常にリアルに心理を描くため、感情移入がとても強くなる。

 年下の、小学生ぐらいの女の子と年上の男子のパターンが多く、少女が乙女になる一瞬を鮮やかに描き出す。


代表作

97「星に願う日」
 転校していた幼なじみの聖流が劉王(るのー)の18歳の誕生日に訪ねてくる。告白を決意するけど、彼女はちょっとした事故で記憶喪失に。不器用な気持ちのすれちがい、通い合いが印象に残る。とても可愛い、ちょっと切なくて優しい雰囲気。

98「早春のプロムナード」
 もうすぐ小学校を卒業する美鶴ちゃんに、食いしん坊犬の散歩中に出会った高一の健児くんがいきなり告白してきた!
 毎日散歩の寄り道で逢うようになってきたけど、やっぱりからかわれているんじゃないかと不安で、それから自分の気持ちに気付く。史上最凶の傑作!ページ全体を活かした、それでいて違和感の無い大きな画面、優しくふわっとした描写と漂う梅の香りなど、表現もすごい。また年上からの告白と言うパターン破りもすさまじい。
 なにより、小学校の女の子に恋をする、もう完全にロリコンなのに、それが幸せになってしまう衝撃の作品。

98「夏色写真」
 風景写真家の五十嵐さんに、まだ見ぬ恋をしている写真館の娘、伊吹。ある日、その五十嵐さんが店に来て、伊吹ちゃんは地元の名所の道案内を買って出る。
 でも五十嵐さんは無愛想で不器用、なにしろその名刺には名前と最後の一桁を除いた携帯の番号だけ。何とか仲良くなって、その一桁を聞き出したい。彼は写真に関しては熱心なんだけど、あまりにもそっけない、怒ったような態度で不安になるけど。作品そのものも夏のさわやかな恋を上手く描き出している。写真と見まごう自然描写も素晴らしく、ラストも印象的。
 そして特筆すべきは、伊吹ちゃんと五十嵐さんの髪型を始め容姿や行動、性格等がどう見ても「スレイヤーズ!」のアメリアとゼルガディスにしか見えない点だ。ご丁寧にも伊吹には姉がいて、その髪型が「スレイヤーズ!」のナーガ(注;神坂一「スレイヤーズ!」で、原作には無いのだがファンの噂をアニメが追随する形で、サブキャラクターのアメリアとゼルガディスがくっつく事になってしまった。また、アメリアの姉グレイシアは原作では放浪中としか明らかになっていないが、状況証拠から短編のレギュラー、白竜のナーガに違いないと見られている)そのまま!
 伊吹ちゃんの可愛らしさと、どこか大人っぽい雰囲気がとても素敵。少女の顔と恋する乙女の切ない顔、その両方がころころ変わる。

98「天空(そら)のメロディ」
 小6の史華ちゃんが帰り道に聞いた気になるピアノの音。確かめるため、中学に入って見ると、ピアノを弾いている由望(よしの)くんとその恋人、まゆがいた。由望くんに一目ぼれした史華ちゃんはそのまま通いつめるのだが、ある日、転校するまゆが由望くんに別れ話をするのを立ち聞きする。
 もしかしてチャンス?と思う自分を責める史華ちゃんに、由望くんはまゆのクリスマスプレゼントとして作曲していた曲をくれようとするけど。限りない切なさ、そして限りない優しさで少女が恋を知り、胸の痛みに耐えて乙女になり、悲しみを受け止める強さと優しさが生まれる一瞬を純粋に描き出す。二重になったクライマックスの柔らかい美しさは言葉にならない。

2003「せつな色のぬくもり」
 みんながやってるから、なんとなく…あげる人もいないのに編み物をしている古都ちゃん。彼女の心はどうしてももやもやしている。特にパパの再婚相手で妊娠九か月の奏子さんを見ると…
 赤ちゃんのことに夢中な二人になんともいえない居心地の悪さを感じ、ささいなことからそれがどんどん募っていく。事故死したママの形見の、大事なぬいぐるみが洗濯で痛んでしまい、そして…食事に行かなかったことでもパパは自分を心配するのではなく、「お母さんがこまるからおりてきなさい」と…心が爆発し、公園で泣いているところで幼なじみの大学生、ゆーぞーさんが助けてくれて暖かく受け止め、諭してくれた。
 だが、結局男の家に泊まり込んでしまったことをとがめられ、本当に心配してもらったのがわかる。でも素直になれない…せめて気持ちを編み物にこめようと励むが、つい遅くなってしまって、心配して迎えに来てくれた奏子さんが…事故に!
 臨月姿の生々しさ、そして女の子の微妙な心の動きを大胆に描き出し、愛の深さを伝えた最高傑作。


今までの実績、現在の地位

 なかよし本誌掲載経験があるが、連載や単行本はなく、ここ最近登場していないので心配だったが、2002年冬に待望の復活!とにかく嬉しかった。


個人的な感じ、思い出

 デビュー作からもろにはまった。
 何より「早春のプロムナード」これに何日も眠れなくさせられた。眠ろうとして、つい読んでしまって、布団の中で七転八倒して反り返り、それを朝方まで繰り返す羽目になったものだ。思い出すだけでロリコンが幸せになっていいのかあああっ!と叫びたくなる。

 この作風、特に年齢差のある可愛くて切ない恋は大好きで、本誌連載を切望している。
 思春期に入って初恋を知る瞬間の描写が実に上手いので、小学校高学年から日常を追っていくような作品を期待している。

 再登場は本当に嬉しく、増刊で復帰作を読んだときには夢じゃないんだと感動した。
 最新作にはとことん感動した。一見何でもない話だが、非常に大胆だと思う。