武内直子(たけうち なおこ)

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作風概説

最近の作風は、まるでジェリービーンズとビー玉とスーパーボールと宝石をトン単位でダンプカーからなだれ落とされるような膨大な言葉、華やかな絵のラッシュ。

昔はまるでサファイヤと金を糸にし、極上の絹と混ぜ透けるほど薄く織ってダイヤをちりばめたような透明感としなやかさ、限りない薄さが独特の華麗さと深い色香になったものだ。
ガラスの脆さと蛍のはかなさ、そして口元や鼻の線にはダイヤのような媚びとつんと尖った誇り高さがあり、気品と風格を感じさせた。
中でもコマで顔の下だけを切り取って口元を浮かばせる技術は歯に触れただけで砕けて淡雪のように消え失せ、かすかな甘味を残す菓子のようだった。

女体がまた素晴らしく、胸や腰が豊かでありながら、すらりと長い足に媚びよりもスーパーモデルのような誇り高い美しさがある。アクションシーンも、バレエに似て肉体で表現する独特のやりかたをもつ。誰にも真似できない。

ストーリーも感情表現も凄い。心が光に混じって飛び交い、読者を引き込んで自身意識していなかった急所を捉え、圧倒的な感動につなげる。

どんなチャンネルを無意識から持っているのかと思わされる、宗教画のような象徴表現の密度も特色。


代表作

89「ミス・レイン」
 ラストワルツが流れ、カップルが踊り出す中、雨に打たれ走る少女…有名な雨女のミス・レインこと倉満れな。その姿に魅せられたもて男Kは遊び部を作って彼女を誘う。
 失恋していた彼女の心に静かに入ってくる彼を、一度は拒んだが……優しい雨が心身を包む、上質のワインのような香り高い傑作。

92〜97「美少女戦士セーラームーン」説明不要。全十八巻、アニメは伝説的な大人気、コミックマーケット単独ジャンルコードを長年維持、ミュージカルはいまだに続いている。第十七回講談社漫画賞受賞作。
 ちまたで噂の美少女戦士、セーラーVに憧れるどじで普通の少女、月野うさぎがしゃべるネコのルナに出会って、突然悪と戦う美少女戦士セーラームーンに…「幻の銀水晶」と「プリンセス・セレニティ」をめぐって次々と仲間を探し、タキシード仮面との恋も織り混ぜて戦い続けるが、この戦いには太古の昔滅びた月の王国につながる前世の複雑な因縁が絡んでいた。
 それからも地球が何度も滅びるほど苦しく哀しい時空を超えた戦いは続き、ついでに受験勉強をはじめ普通の女の子としての生活も続き、未来の娘、ちびうさを始め新しい仲間も増えていく。
 圧倒的なスケールと迫力、美しさの少女マンガ史上屈指の最高傑作。

2002〜?「ラブ V ウイッチ」
 女系家族の安珠愛ちゃんは双子の弟、勇と13歳の誕生日を迎える。
 昨日の朝死んだおばあちゃんからの話で、愛珠家の女性…卵子を通じて女系でしか受け継がれないミトコンドリアのDNAに「ウイッチの配列」と呼ばれる特別な配列がある。つまりラブちゃんは魔女の卵!魔法を見せて、と求める勇の頼みに答えようとするが、「最愛のものを捧げる」という儀式はなんだか怖い…そして勇が倒れた。
 本格的な魔女術の怖さとドキドキを織り交ぜ、複雑な香りがある傑作の予感…がしていたが、いつのまにか休載になってどうやらそれっきり。

2005〜?「とき☆めか!」
以前の読み切りをベースにした新連載。
七年前、アメリカにいってしまう星子ちゃんは、美々依ちゃんに「ミミィちゃんのピンチに飛んできてくれる頼れる友だちをあたしが作って送ってあげる」と約束。
そして時は流れ、十三歳の誕生日…また大ピンチ!友達が出ているファッションショーに誘われるけれど、自分はおしゃれを何も知らないから…そこにハイテンションで、お姫さまみたいに可愛くて華麗な女の子が登場!
強引に友だちになってくる彼女とその左右のお付きは美々依ちゃんをうまくコーディネイトし、輝かせてくれるけど…なんだかこの子、変?
やたらとハイテンションでパワフルな新連載。


今までの実績、現在の地位

「セーラームーン」でなかよしを二百万部に押し上げた、二十年に一人の大天才。少女マンガの概念自体を学園恋愛中心からアクションファンタジーに変え、無数の作品に影響を与えた。

「セーラームーン」の次の連載を中断して突然「なかよし」から去ったが、時たま登場し、連載を始めることもあるがすぐまた休載してそれっきり、また復活と不安定。


個人的な感じ、思い出

 僕は「美少女戦士セーラームーン」の第一回を生で見ている数少ない男だ。
 特に熱心なセーラームーンファンではなかったが、図像学を学ぶにつれて分かってくる表現の深さにはびっくりしていた。また、「セーラースターズ」でレイと美奈子が「オトコなんておよびじゃない」と恋愛したい思いを捨ててうさぎを守る、と使命に身も心も捧げる決意を表明したときには恋愛至上主義を少女マンガの中で破るとは、と驚いた。
 他にも肉体を一度否定して、違う角度から肯定するなど色々驚かされる表現があった。

 ただ、筆者はむしろ初期短編など正統派ストーリーに本気で震えている。できることなら、正統派恋愛もので実力を出して欲しかった。