「東京ミュウミュウ」本来闘う相手が違うだろう・・・期待していたエピソード、その一

「おとうさま!」
 みんとの悲鳴は爆音にかき消された。
「まさか……」
 いちごやれたすは、ただ呆然とするだけだった。
 元人間だとはとても思えない姿。
 下半身は「機能するガン細胞」が醜い、イソギンチャクのような無数の触手となって原形を留めぬズボンから吹き出している。
 上体も大半が崩れ、機械化されて肋骨とその下の黒く変貌した肺が一部見えている。見ていて吐き気がする。
 頭を覆う壊れかけたヘルメットから様々なセンサーが突き出ていた。
「あれが、どうしてあのナイスミドルの素敵なおじさま」
 いちごがわずかにつぶやいた。
 幼少の頃から均整の取れた美貌で世界の社交界に知られ、東洋の真珠と称えられた姿は、無惨な傷と機械、改造細胞におきかえられていた。わずかに残るのは声や手の仕種、遺伝子の断片と魂のみ……
 その腕がわずかに動く。埋め込まれたOICWから不可視波長のレーザーがみんとの頭に照準を合わせる。
「みんとのおねえちゃん、よけるのだ!照準レーザーなのだ!」
 歩鈴の声にも石像のように動かないみんと…
「リボーン・ザクロスピュア!」
 ざくろの鞭がみんとの胴にからみ、釣り上げる。その後に数発の弾丸、そしてグレネード弾が襲った。
「みんと、しっかりしなさい!」
 ざくろがみんとを抱きかかえ、強く励ます。
「なぜ、なぜ!いやあああああっ!」
 みんとが叫び、崩れ落ちた。
 最愛の父がなぜこんな無惨に変貌するのか。あれほど愛してくれた自分に銃を向けたのか。
 なぜ、それがすべてだった。

「許せ」
 くぐもった声。だが、紛れもなく愛する父の声。
「従業員のため……『グローバル』に逆らうことはできぬ。私がオマエ達を抹殺すれば、藍沢グループの存続は許される。一人の家族のため、百万の従業員を路頭に迷わせることはできぬ」
「でも、彼らは人間の95%を抹殺する気よ。あなたの従業員も結局、ほとんど殺されるわ!」
 いちごが叫んだ。
「事実上全員よ。有色人種はどの道清掃されるだけ」
 ざくろが付け加える。
「それでも、最後までその生活に責任を持つのが経営者だ。私の父が、祖父が、一族が命を賭けて作り上げたグループを守らねばならぬ。お前一人が地球を守るなどというから、全てが崩れるのだ。私は責任を取らねばならぬ」
「でも、そのために自分の子供を」
 れたすは最後まで言えなかった。涙があふれていた。
「みんとと私、二人だけなら二人で乞食もしよう。『グローバル』とも闘おう。だが、一族や従業員はどうなる…われら藍沢家は父である前に、人である前に経営者だ……ききわけて死んでくれ。私もすぐにいくよ」
 言うと、自ら右腕を引きちぎった。
「痛くないのか」
 歩鈴のつぶやきに、返ってきたのは自嘲の苦笑か…崩れた顔で。
 そして、そのちぎった痕から生えてくる「機能するガン細胞」にネジを差し込み、拾い上げたM2重機関銃を静かに取りつける。重いレバーを引く。
「これまでのようね…やらなきゃやられる」
「みんと…」
 ざくろといちごが、みんとを振り向いた。
「死ぬしかない、私たちがおとうさまを倒したら藍沢グループは潰され、従業員が路頭に…」
「そんなの間違ってるのだ!」
 歩鈴が叫んだ。
「いやなのだ、そんなの違うのだ!」
「そう、だな。狂っている…だが、戦いとは全て狂っているのだよ。どちらもな」
 そして、爆音が空気を引き裂いた。

「リボーン・レタスラッシュ!」
 衝撃波が重い12.5mm弾をそらせ、
「ザクロスピュア!」
 光の鞭が本体を襲う…吹き飛ばされつつ、左手に持ち替えたOICWのグレネードが火を吹く。
「伏せて!」
 ざくろの声に皆が伏せる。
「みんと!」
 いちごが動かないみんとを押し倒した。
「あ〜っ!」
 悲鳴・・・
「いちごさん!ひどい…」
 いちごの背中には無数の破片。
「早く研究所に」
「そのためには…やるしかないのね」
「プリングリング・インフェルノ!」
 歩鈴の叫びと共に、ゼリーが彼…というにはあまりに無惨なみんとの父を包み込んだ。
「とどめよ!」
「リボーン」
 ざくろとれたすが力を集中させる。
「ミントエコー!」
 光の矢が、突然…れたすとざくろを襲った。
「やめて…やめて、おとうさまを殺さないで!」
 血の涙。
「あ、あああああ、わたし、わたし…あああああっ」
 遠くからも見えるほど激しく震える。その美しい脚に、熱い衝撃……
 銃弾、と気がついたときには吹き飛ばされ、倒れていた。
「もう、どうでもいい…このまま…」
「みんと」
 いちごがその手をにぎり、引き起こした。
「いちご!あなた」
「わかるわ。あたしも同じ事をした、おあいこね。信じよう、なんとかなるって!おじさんは、白金と青山くんがきっと元に戻してくれる!グループだってなんとかなるよ!」
「いちご……」
 二人は肩を抱き合うように立ち、その正面に立った。
 吹き上がる銃口炎、耳をかすめる衝撃波、だがその力が生み出す光の壁は直撃弾を許さなかった。
「おとうさま…必ずまた、元の笑顔を取り戻してみせる!リボーン・ミントエコー!」
 光の矢が触手がうごめく体を貫く。
「全てを自然に…リボーン・ストロベリー・サプライズ!」
 光のシャワーが、醜く変貌した体を洗い流していく。
「ミュウアクアの力よ、その傷を癒して……よみがえるときまで」

 光と水の嵐が、いつのまにか氷になる。氷の棺の中にあるのは、まぎれもなく東洋の真珠。
 力尽きて倒れたいちごとみんとに、れたすたちが駆け寄った。
 白金のヘリがもうすぐ駆けつけるはずだ。

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