後半

 後半開始。アリスの丘学園28:秀茗学園23、五点差。
 ボールを取った竜也が、一気にゴールを狙って突進する。
「まんなかふさげっ!」
 一臣が叫び、右から追う。
「絶対…勝つ!」
 叫んだ竜也は一瞬緩急をつけて踏み切ると、ブロックする一臣と溝口の手を空中でかわし、リング下をくぐってからふわりと上げた。
 ボールはふわりとリングをくぐる。
「三点差!」
「よっしゃ!」
 竜也がガッツポーズを決めているうちに、もう一臣の長いスローインが真田に渡る。
 一臣は右を指差し、一気にダッシュ。
「待て!」
 竜也と大阪が全速で追う。
 だが、ボールはその間に真田からパスで斉藤、伊庭と手早く回っていた。
「パス!」
 一臣が手を上げると、竜也が素早くパスラインをふさぐ。皆も警戒し、移動する。
「くるぞ」
 ギャラリーの新井先輩が、三千代に話しかけた。
 一臣に向かったと見えた長いパスが外れ、コーナーの溝口に。
「くそ!」
 ドリブルを止めた、と思ったらボールは小さく弾んで、今度こそ一臣…と思ったら伊庭が取って鋭くドリブル。
 伊庭のマークマンが一臣のスクリーンにぶつかる。そのまま伊庭がノーマークでレイアップを決めた。
「料理が始まったな、秀茗も」
 新井先輩の喉が動く。

 秀茗のスローインを、一臣が一瞬妨害した。
 そして放物線を描いて一臣の上を通したボールに目もくれず、今度は竜也を真田と挟むように外に押し出す。
「なんだよー!二人がかりじゃなきゃとめらんねーのか!」
 竜也が怒るが、一臣は無視してむしろボールを持つ羽田に注目し、一瞬インサイドに踏み込んだ。
 その間に竜也はコーナーに逃げ、ボールを受け取る。
 一臣に代わって斉藤が竜也の出口をふさいだ。
「へっ、ふたりがかりかー」
 竜也は不敵な笑みを浮かべ、
「それでもおれは」
 鋭くドライブ…と思ったらフェイク!
「とめらんねえよっ!」
「リバン!」
 フェイクに斎藤が引っかかり、体勢を崩した瞬間一臣が叫んだ。
 そして素早く羽田の横から滑り込み、体を張ってゴール下から閉め出す。
 他の三人も、自分のマークマンをスクリーンアウトしてリバウンドの準備。
 竜也のスリーポイントが、大きな放物線を描いてゴールに向かい、リングに跳ねた。
「カウンター!」
 一臣がボールをつかみ、しっかり確保して着地、伊庭にパスしてダッシュ、後ろから飛んでくるボールをしっかり受けた。
「させるか!」
 追いつく竜也、だが手は空を切る。ボールは横の真田に。
 一臣は一瞬止まる。その間に斉藤が左から走って追いつく。
 真田が中央やや右からフリースローサークルに入ろうとした一臣にパス、同時に中に。
「来い!」
 竜也が厳しくマークする。
 一臣は鋭く右に抜ける、と見せて左にパス、即座にインサイドに走りこむ!竜也に加えて大阪も一臣を追った。
 ボールを取った斉藤が、素早く中に。一臣は取ると同時に左コーナーの伊庭に飛ばした。そちらを見もしないで。
「させるか!」
 渡辺がさっき抜かれたのが悔しいのか、ゴールへのラインを素早くふさいで腰を落とした。
 伊庭がそこで一歩左に動き、フリーで丁寧なシュート。
「リバン!」
 また一臣が叫ぶと、竜也をがっちりとしめだす。
「くそ!」
 竜也が押し返そうとするが、岩のように動かない。
(こんな細っこい体して、なんてパワーだ)
 ボールがリングに弾かれ、溝口ががっちり取る。
 その時、一臣の手が何かを指差した、と思うと一臣が二歩ほど外にバックステップ。
 竜也が慌てて追う、その背中をかすめるようにパスが飛んだ。
 走っていた伊庭が取ると、中に弾ませる。その時には一臣が、右すみに向かってダッシュしていた。
 追う西村がスクリーン体勢の真田にぶつかる。
 だが、竜也が一瞬で一臣の前に回りこんだ!
 斉藤を通じたボールを受けた一臣だが、ターンしたときには竜也の長い手が迫っていた。
 だが一臣は少しも慌てない。右に二度ほどボールを振ると、一気に左に切りこむ!
「くそぉっ!」
 竜也は追うが、跳べない。
(またパスか!)
 手を伸ばしてパスコースをふさいだ、と思ったら一臣は急停止し、素直にボールを放っていた。
 そしてリングに跳ねたボールを自ら高いジャンプで確保し、今度は背中を通して見もせず右へ。
 ちょうどそこで、スクリーンを使ってフリーになった溝口がいた。
 溝口のシュートがきれいに決まる。

「くそ…」
 竜也の焦燥感が強まる。
 別に何が間違っているわけでもない。ダブルチームで守られても抜き去り、あっさりスリーポイントを決めている。
 だが、
「なるほど、そういう手か。どうやって守ってるか、わかる?」
 新井先輩が傍らの三千代に問いかけた。
「さあ…必ず誰かが守っていますね。」
「今秀茗オフェンスで、あのエースがボールを持っていない…こういうときは、ああやってボールと彼の線を封じてる。
 筒井は直接ついていないけど、いつでもフォローできるところにいるよな」
「パスがいかないように、ですか?」
「そう、パスを受けないとどんなすごいプレイヤーでも何もできないからね。」
 西村がインサイドでパスを受けようとするが、一臣のディナイがボールを弾く。
「速攻!」
 一臣のロングパスが斉藤に飛ぶ。
「させるかよっ!」
 凄まじいスピードのダッシュから竜也が追いつき、ボールを鋭く奪い取った。
「カウンター!」
 襲いかかる竜也を、一臣と伊庭がダブルチームで封じる。
 ゴールとの間に伊庭、そして一臣は中央方向をふさぐ=サイドライン側が開いている。
 竜也はわざとゆっくり、二人の間を抜こうと揺さぶる。
 そして…
「うおっ!」
 どよめきが上がる、と同時にもうサイドラインの隙間から、弾丸が飛び出した。
「なんって一歩だ、アイバーソンやコビーなみじゃないか!…でも、それでも」
 新井先輩が呆れつつ、冷静に斉藤を指差した。
 そう、インサイドを守っていた斉藤が竜也の前に立ちふさがった。
 それでもたついている間に、もう伊庭が戻ってダブルチームになる。
「三人がかり?」
「いや、常に二人がついている。三人で守ったら残り四人を二人で守ることになって無理だからね。
 でも、抜かれる方向が決まっていて、そっちに必ずフォローがいるから三人で守っているのと変わらない」
 三千代にはよくわからないが、一臣が頑張っているのは伝わる。
 りんごに告白したい、という思いがそれほど強いのか…そう思うと、割り切ったはずなのに胸にかすかな痛みが走る。
(でも、これからは新井さんの気持ちを受け入れなきゃ)
 そう、静かに新井先輩に微笑みかける。
 もちろん新井先輩は喜びに上気し、
「とにかく中央に近づけない、インサイドに入れない…それが方針らしいね。そして、もし抜かれたら」
 竜也がシュートフェイク、一瞬パスを交換してドライブした。
 あまりのスピードに誰もついていけない、ダンクを期待する観客が息を呑む。
「させるか!」
 一臣が跳びこみ、ボールを弾く。
「ファウルで止める。やられるよりましだからね」
 新井先輩が息をつく。

 フリースローは一本目が入り、二本目が外れた。
「外す腕じゃないはずだけど、集中が乱れてきてるな…敵ながら気の毒に」
「リバン!」
 リバウンドになると、一臣は凄まじい気迫を見せる。いつもの温厚さ、冷静さが嘘のように闘志をむき出しにし、西村を厳しく閉め出してボールを奪う!
「リバウンドを制するものは試合を制す、だ」
 新井先輩がつぶやく中、丁寧にボールを交換しながら前線へ。
「勝負だ!」
 叫んで立ちふさがる竜也に、一臣は攻め込むと…見せて軽くジャンプ、インサイドにパス。
「また逃げるのかよっ!勝負しろよ!」
 一臣は…一瞬唇をかみしめた。
 勝負したい。でも、竜也と一対一を繰り返していたら試合に勝てない。
(勝つにはこれしかないんだ!ごめん)
 一臣はりんごの顔を思い浮かべた。そして、約束を。
 インサイドから戻るボールを受ける。
「オーケー!」
 叫び、素早く立ちふさがる竜也。
一臣は右、左と揺さぶる。一瞬ゴールを見、伸びた竜也の手をかわしてドリブル!
「抜いたっ!」
「いや」
 新井先輩は冷静に見ていた。
「でも、フライパンの上さ」
 竜也が鋭く回り込み、腰を落として立ちふさがった瞬間、ボールは竜也の足の間を通って弾んだ。
 外から走りこむ溝口が一気にレイアップを決める。
「よっしゃあ!」
「くそ、まーた逃げやがって」
 その悔しさからか、竜也のパスに対する反応が一瞬狂った。
 一臣がボールを弾く、竜也は必死でボールを追い、弾き出した。
 転がるボールを追い、もみ合う。上から斉藤がダイブする。
「ヘルドボール!」
 近いセンターサークルでジャンプボールだ。

 竜也の圧倒的なジャンプ力に、また衝撃が走った。
 即座にリターンを受けようとした竜也だが、そのラインはしっかり一臣が抑えている。
 パスラインをふさぎ、誰も中のほうに入れないディフェンス。
 ボールを回すことが思い通りできないため、秀茗のメンバーはストレスが溜まる。
「段取りだ」
 新井先輩がつぶやく。三千代もそれは感じていた。
「オフェンスでは段取りがしっかりできているから、的確に練習通り攻められる。
 ディフェンスでは逆に、相手の段取りを狂わせる。あれじゃ嫌になるよ、そのうち。
 料理がうまい、というのは段取りがうまいって事だからな、バスケでは目立たないけど恐ろしい強みだよ。おれもだけどな」
「そうですね、うちのチームは無駄がなくとてもきれいに動いています。あ!」
 竜也のロングシュートが外れ、一臣がきっちりリバウンドを取った。
「チーム全体で段取りが狂っているからリズムも狂う。リズムが狂うと集中力を失い、余計入らない。さらにリバウンドで負けているから気持ちよくシュートが撃てず、外したら即座にこっちの点になる…」
「シュートだけじゃないんですね、バスケは」
「おれもそういうバスケをやってきたつもりだけど、筒井はその点天才的だったな」
 言いながら、新井先輩の胸にはどうしようもない嫉妬が走る。
 三千代の手を握りしめたい、という…半ば暴力的な衝動が走るが、かろうじて抑えた。

 じわじわと点差が広がる。竜也は今までにない疲労感を感じていた。
 また受けようとしたパスが弾かれる。かろうじて取るが、また二人が立ちふさがってしめだす。
 抜いても抜いても中に入れず、外の苦手な角度に追いつめられる。
「くそ!」
 罵声と共に放つシュートが入るはずはない。
「集中力のない狙撃手なんて、一人ぼっちで単発ライフルしか持たない、無力な歩兵だ」
 玲が静かにつぶやいた。 

 一臣がしっかりリバウンドを奪い、竜也にはばまれた瞬間また死角にパスが飛ぶ。
 そして即座に前線に走り、リターンを受けて
「止める!」
 鋭く切り込んだ一臣に、竜也が襲いかかった…吹き飛ばされるように倒れる一臣、
「筒井くんっ!」
 三千代の悲鳴。
「大丈夫、全部計算済み」
 新井先輩は思わず、三千代の腕を強くつかんでいた。
 一臣は冷静にフリースローを二本とも決める。
「フリースローを外していない…とんでもない気迫と集中力だよ」
「それだけ賭けているんですね、告白に」
 そんな三千代も、りんごがどこかに行ってしまっていることに気がつかなかった。
 それほど試合の熱気に魅せられているのだ。
「武上、クールダウンしろ!筒井にこだわるな!」
 監督の声も聞こえていない…
(くそ、絶対筒井に勝つんだ!俺にはもう、バスケしかないんだ!
 勝負してくれ!勝負だ!約束じゃないか!)
 その気迫が、全て空回りになる。
 そうなると疲労が倍加し、ますますリズムが狂う。
 アリス側はそれを見越し、プレッシャーを強めた。フリーになると思ってボールに食いついたら、そこは袋小路…
「くそっ!」
 罵声を上げながらのプレイは当然乱雑であり、結果は
「オフェンス!チャージング!」
 ――である。
 いつしか、竜也の顔は汗に涙が混じっていた。
 罵声を吐こうとした竜也を、テクニカルファイルを恐れたチームメイトが止めた。
 そんな騒ぎの中、一臣は冷然とフリースローを二本とも決める。
 竜也が激しく手に拳をたたきつけ、口から鮮血を吐き捨てた…唇を噛み切ってしまった。

 だんだんと、雰囲気が異様になることにギャラリーも気がついてきた。
「どうかした?」
 新井先輩が三千代に声をかけた。
「なんだか、よくない空気があります。まるで焦げ臭いような」
 新井先輩は笑うような、驚くような不思議な表情をした。
「確かにそうだな。焦げついている、そのとおりだ」
 自分も三千代も料理が得意だから、その雰囲気はよくわかる。では、なぜ名人である一臣が焦げつかせているのか。
「うちの動きはきれいなのに」
「向こうが、あいつが潰れかかってるからな」
 それ以上言う必要はなかった、二人で竜也を見た。
 スピードはある、だがそれだけだ。リズムが完全に狂っており、チームメイトをまったく見ないで打ったシュート…リングに当たるのがやっとで、あっさり一臣がリバウンドを奪う。
 もちろんそのときには二人ダッシュしており、パスがきれいにつながって余裕を持ったレイアップが決まる。

 竜也の頭はぐるぐる回っていた。疲労とストレスで体がついていかなくなり、ある意味急性の神経衰弱に陥っていた。
 オレは何をしているんだろう。バスケなんて何でやっているんだろう。
 くだらない…殺してやる!
 誰を?あそこを走ってる奴?あの女?怪我を悪化させた前のカントク?敵?
 闇に覆われた目が、ぼんやりとゴールをとらえる。手にはボール。
「シュート!」
 誰の声だろう……それもわからず、まるでロボットが動くのを呆然と見ているように放った。
 ボールはきれいにリングをくぐる…体にかっとエネルギーがあふれるのを感じる。
 見たか!おれは天才だ!無敵だ!
「どんどん決めてやる!」
 と、竜也は荒い息から吼えた。

「決められましたね」
「そりゃ決まるさ、決めさせたんだから」
 新井先輩は肩をすくめた。その目には複雑な表情が宿っている。
「すごく悪質だよ、あれは…できること自体が奇跡だけど」
「え?」
「わざと半ばフリーにして、決めさせたんだ。あのエースを交代させないために。せっかく敵を理解し、操ることができているんだから、交代させてまたやり直すなんて面倒なことはしない。
 それに、外はプレッシャーだけかけて打たせると決めれば、フェイクにもかからない。パスはない…中に抜かれるのだけふさげばいい、より入れにくい外に抜かれるのはいい。楽なもんだ」
 三千代はただ黙って聞いていた。新井先輩の声や表情や竜也の表情から、一臣が友情を裏切り、ルールに書いていないが卑怯すれすれのことをしていることがわかる…それほど告白に真剣なのか、と胸が痛んだ。
 今度は一臣がスクリーンを借りてきれいにスリーポイントを決め、それにハッスルした竜也が血走った目でボールを求める。
 キャッチしてすぐ、かなりスリーポイントラインからも離れた距離から放ったボールは…惜しいところではじけた。
 全員がため息をつく…ついていない者が三人いた。
「なるほどね」
「どうしたの、玲?るかはまだ戻っていないの?」
「いや、なんでもない。まだ大丈夫」
 一臣がまたリバウンドを奪い、基本通りのきれいなチェストパス!
「三千代ちゃん、相手のエースの呼吸に気をつけてごらん」
「呼吸ですか?」
「もう筒井は、相手に入れさせることも外させることもできるよ」
「そんな」
「あのエースは激しく息をついている。その呼吸のリズムに合わせてシュートを打たせれば入るし、リズムを乱せば入らない。こっちにとっては、あのエースがスリーポイントを打ち続けているほうが勝てるからね。もう成功率は二割を切っているもの」
 リバウンドをしっかり取った一臣は、細かくパスを交換して進めると…目をぎらつかせ、息を弾ませた竜也と対峙した。
「来い!」
 新井が三千代に
「よく呼吸を見て」
 竜也の早い息。二度、三度と一臣はドリブルを微調整する。
 竜也が息を吐ききった瞬間、一臣は目線で逆コーナーを見た。
 それにはっと反応した竜也を一臣は抜こうとしたが、一瞬遅れつつ竜也はスピードで追いすがる…一臣はあっさりインサイドにふわっとパスを入れ、斉藤がレイアップを決めた。
「呼吸のリズムを読む、そして操作している」
「でも抜けていませんでした」
「抜けてなくてもこっちが点を取ったんだ、同じことさ。でも向こうのエースは、それを自分が勝ったと勘違いする。それも全て一臣の、まな板の上だな…ぶるる!」

 また竜也のスリーポイント、今度は入った!
「里緒、なぜ向こうが竜也にスリーポイントを打たせているか、わかるか?」
「え?打たせてる?一回のシュートに三点入ったほうが得だから打ってるんじゃない?」
 玲はやれやれ、と
「これは数学の問題だ。ギャンブルと同じ、確率統計の応用なんだ。フリースローは70%で一点。インサイドは40%で二点、スリーポイントは25%で三点とする。どれが一番得だ?単純化のため、分布に偏りはないとする」
「え?えと、えと…」
 里緒はわたわたと指折り数える。
「サイコロ一つで、偶数は二百円の賭けと、1のみ五百円の賭けはどっちが得だ?それぞれ百回やってみて、確率どおりになったと考えるとどうなる?」
 里緒は一瞬一臣のパスに見とれていたが、すばやく暗算し
「あ!フリースローは、70%だから70点、インサイドは40本入って各二点の80点、スリーポイントは75点?」
「そう。まあフリースローはディフェンスに関係がないから、実際にはもっと高くなる。でも三点入ったときの印象の強さは、外すことが多いのを忘れさせる力がある」
「忘れさせる?」
「考えて、競馬やパチンコで客が得するはずがない。客が長い目で見て得をしているとしたら?」
「あ、電気代施設そのもの、働いてる人の給料とか馬のえさ!」
「そう、客は長い目で見ると損をしている。でもギャンブルをする人が多く、国などが収益源とするほど、どんな商売より安定して儲かるのはなぜ?」
 竜也が鋭く切り込み、インサイドに入ろうとしたががっちり阻まれた。
「勝ったとき、特に大穴を当てたときの興奮は万能感をもたらし、負けたときの失望、累積収支や確率を忘れさせる。ギャンブルの店側も、そうなるようにうまく誘導している」
 一歩下がってのスリーポイント…ディフェンスは無理に追わず、腰を落としてプレッシャーをかける…リングに弾かれる…
「リバン!」
 一臣は大声で号令をかけ、率先して飛び込むと払い飛ばすように伊庭にパスした。
「彼は同じことをしている」
 と、玲は一臣を指差した。

 新井はまるで、竜也…秀茗側にいるようにまゆをひそめて三千代に言う、
「何よりゲーム中は、外すことを考えずに前向きに行けって皆言う…正しくはあるよ、後ろ向きじゃ入るものも入らない。でも、それでスリーポイントを打ちすぎると、ギャンブルにはまるのと同様…安定してじわじわと負けていく。」
 パスを短くつなぎ、一臣がミドルシュート、と思ったら竜也の高いブロック!
 弾かれたボールを伊庭が拾い、パスを受けた真田があっさりレイアップを決めた。

 竜也の目は血走り、まるでケンカのようだ。完全に集中している…かのように見える。
 だが、るかは強い違和感を感じていた。違う、全中で勝ち進んでいるときの、調子よくふざけながらプレイを楽しみ、シュートのときだけ冷静な集中力を見せるあの竜也の目じゃない。

「第一、パスがうまくて中も外もいける筒井がボールを持てば、向こうは残り四人へのパス、内、外と六つも警戒しなきゃならない。こっちは一つ警戒すればそれでいい、いつの間にかすごく楽なディフェンスになってる…敵のエースにスリーポイントを打たせ、リバウンドを取るだけでいい」
「でも入ってしまったら?」
 三千代がそっと聞いたが、目はひたすら一臣を追っていた。
「別にかまわないんだ。インサイド、リバウンドを制している限り、流れはこっちのものだから」

「バスケは試合時間の中で、多く点を取ったほうが勝ちだ。どうすれば確実に勝てる?」
 ふと、玲が里緒に話しかけた。
「相手の攻撃を全て防ぎ、こちらの攻撃を全部成功させれば確実に勝てるんじゃない?」
 玲は無表情に首を振った。
「必要ない。
 合計40分で2400秒ある。一番単純な仮定としてその半分の1200秒攻撃でき、成功率25%のスリーポイントだけ、一本に20秒かかるとする。そうすると60回攻撃できるから15回入って45点。
 同じく両方1200秒、一本あたりの時間も同じと仮定したら、成功率が30%のチームと25%のチームが対戦すれば60対45で成功率が高いほうが勝つ。だが、成功率30%でも一本あたり30秒かかってしまえば、36点しか取れずに確率で劣る45点のチームに負けることになる。
 もちろん現実の試合はより複雑でディフェンス、攻守交替に関わるリバウンドやスティール、より短時間高確率で決まるインサイドの攻撃やフリースローも計算に入る。何か例題を作ってみて」
「たとえばさっきの仮定で、普通のシュートが10秒かかって40%として、120×0.4×2=96点!ぜんぜんスリーポイントより有利なんだ!でもそんな複雑な条件、試合しながら計算できっこないよ…玲じゃあるまいし」
 里緒が驚き呆れた。
「今は竜也のバカが派手にスリーポイントを連発してるけど、アリスの丘学園は短い時間で攻撃し、高い確率で点を取っている。しかもディフェンスがうまい、竜也のバカが短い時間で打つシュートはまったく入っていないし、入るシュートは長い時間をかけさせられている。アリス側はどっちにしても損をしない。
 だから点差が開いている。でも秀茗はそれに気づいていない、ただエースのスリーポイントに一喜一憂してる」
「一体なぜ」
「印象を操作され、支配されている」

 また、竜也のスリーポイントが決まった。
 直後、速攻を止められた伊庭が返したボールを受け、一臣もスリーポイントを決める。

 タイムアウト。
 落ち着いた足取りでベンチに戻った一臣が、他のメンバーの影に隠れると同時に口を押さえた。
(うぐっ、見られちゃ…ダメだ、飲みこまなきゃ、吐いちゃダメだ、りんごが作ってくれた…)
 そのままふわっと斉藤の肩につかまる。
「だいじょ」
 声をかけようとしたのを手で制する。
「ぷ、ぐ…ごめん、向こうに気づかれたくない」

 竜也はベンチに崩れ落ち、呆然と天井を見上げていた。
「……! ……!!! ……!」
 怒声が頭を通り過ぎる。ライトがまぶしい。
(なんだ…)
 わけがわからない。ただひたすら疲れきっている。

 三千代が、一臣の異変に気づいた。
「どうしたのかしら」
「…とっくに限界超えててあたりまえだよ。誰よりも走って、数学のテストより頭使って、相手の気持ち読んで操って、味方をくまなく見て、手足のように操って」
 愕然とする。それほどこの試合にかける、一臣の意気込みは強いのか…
 !
「筒井くんもちゃんと自分の気持ち――伝えてね」「―――うん、約束する」
 約束を重く見ているのか。
(筒井くん…)
「勉強もテレビもバスケも全部こなして、考えてみるとよく生きてるよな」
 胸が痛い。見守ることしかできない…

「そろそろ『狙撃手』にとどめを刺そう」
 監督の言葉に、一臣の顔がはっと引きつる。
 疲労以上に、胸が痛い…一臣は湘北=山王戦での、竜也の曇りのない笑顔や涙を思い出した。
 自分がこういう試合運びをしていることが、どれだけ彼を傷つけているか…
 だが、チームメイトの顔を見て決意を固めた。
 皆、必死で自分を支えてくれた。テレビなど変に目立っている、休みがちな自分のわがままを許し、自分の指揮に忠実に従ってくれた。楽しみの少ない、厳しく段取りを積み重ねるバスケをともに作り上げてくれた。
 だからこそ、格上の相手に点差をつけて勝っている…絶対に負けるわけにはいかない!
「おれがやります、一対一で」
 一臣をじっと、皆が見つめた。
 そして、
「よし、頼むぞ」
 と、監督が一臣の肩を叩く。全員が手を重ねる。
「絶対勝つぞ!」
 力に満ちた声で、一臣が叫んだ。
「おう!絶対勝つ、アリス…ファイッ!」

 試合再開。
 パスを受け、切り込む竜也のスピードが目に見えて落ちている。
 疲労だ。
 そこへ、突然…これまでは別の場所を固めていた一臣が、風をまいて襲いかかった。
「つ」
 と、いうまもなくボールを奪い、一気につっこんで…激しいスラムダンクの音が響いた。
 着地した一臣が片ひざをついた。
「かっこつけやがって!」
「あれはかっこつけてるんじゃない、疲れてるんだ」
 竜也の目が爆発した。
「ちくしょう…筒井!」
 今度はセンターサークル付近での一対一。
 一気に強引に、もみこむようにつっこむ!
「リズムが…ばらばらだ」
 あっさり一臣がボールを奪う。奪い返そうと無理につっこんだ竜也がファウル。
 一臣は冷静にフリースローを二本とも決めた。
「武上!何やってるんだ!それでも全中ベスト5か!」
 味方の、罵声に近い声。
「くそ…くそ、くそっ」
 怒りが冷静さを奪い、ボールがいうことをきかない。手足が思うように動かない。呼吸が乱れている。
 あんなに練習したのに、全中でもこんなに疲れることはなかったのに。
 突然攻撃的なディフェンスに変わった一臣に、待望の一対一なのに、リズムが完全に狂う。
 はじかれたボールが放物線を描き、ラインの外に…
「どけぇっ!」
 一臣の叫び。迫力に、三千代が一瞬おびえた。
 ボールを追ってラインから飛び出した一臣が、わずかにボールに触れ…無常にもボールは壁に当たる…そのまま床に叩きつけられるように倒れた。
「筒井!」
 なかなか起き上がらない一臣。
「筒井くん」
「限界…か」
 新井がぎゅっと唇を引きしめた。
 だが、一臣は起き上がった。
 竜也はつい、一臣の背中に触れた。あのときの、山王戦での桜木花道の姿が思い出された。
 そして、わけのわからない、深い敗北感と疲労感に気が遠くなりそうになった。わけもなく涙が出そうになる。
「だいじょうぶだ」
 と、一臣は竜也に、思いのこもった目を一瞬向けた。
 そして即背を向け、スローインを妨害する構えに入る。
 秀茗は、今度は竜也を使わずに攻撃…それはあっさり決まる。結局、地力が違うのだ。
「よっしゃ一本返したぞ!」
「もう一本!」
「でも…くそ、この点差が…」
「何やってるんだ、武上」
「それでもエースか」
 その言葉の中の悪意が、焼けた鉄串のように竜也の心を刺し貫き、煮えたぎったタールを流しこむ。
 復帰し、ここまでチームを支えてきた…全中に連れて行き…
(ちくしょう!)
「いったぞ!」
 竜也に飛んだボールを一臣が奪おうとする。
(わたしてたまるか!うちの)
 必死で守り、鋭いドリブル。
「でも、呼吸自体読まれてる」
 一呼吸置いた一臣が、乱れに乗じてすばやくボールをはじく。
 そのまま伊庭のパスを受け、ロングパスからリターンを受けて
「させるな!」
「止めろ!」
 二枚のブロック。そこで鮮やかにノールックパス、伊庭が受けてシュート…はじけた!
「リバン!」
 一臣が叫び、竜也を押し出してがっちり奪う。
 また、一対一…
(そうだ、これを望んでたんじゃないか…勝負…っ!)
 竜也の目に、半ば復讐のような暗い炎が燃えた。
(くそ、何やってるんだ竜也…おれが追いつめたんだ…でも、勝つんだ!竜也、自力で立ち直ってくれ!)
 一臣は必死で感情を押し殺す。
 そして、背中で押しながら丁寧にドリブルを重ねる。
 目の端にみんなの動きを見る。背中から竜也の、乱れた呼吸を感じる。
 一瞬押し込み、抵抗と呼吸が…乱れた瞬間、一気にターンし、インと見せてアウトサイドに抜けて、スリー!
(はいれっ!)
 美しい放物線を描くボールが、鮮やかにリングを貫いた。
 抜かれた竜也が、呆然となっていた。
 望んでいた一対一でも完敗…もう、なにも残ってはいない、点差は二十点…るかも失い、バスケも…なにも…なにも…

 秀茗ボールで竜也がスローインに…が、その目にはもう、光がなかった。
 そのとき、

ある日出合った ひとすじの道

 突然、どこか遠くから胸を突くような歌声が響いてきた。

ひたすら歩んだ 光めざして
いくたびもころびかけ あきらめかけた

 竜也の手に、秀茗スローインのために一臣がパスしたボールが、吸いこまれるように飛んだ。
 折れた心と裏腹に、体はパスキャッチをする。
 なんという取りやすく、力強く、暖かいパス。竜也の体を、電流が貫いた。

そのとき出合った人の友情 その時ふれた人の愛情

 初めてのキスのように熱い血潮に、すべてを悟った。
 一臣がどれほど勝つことに必死か…それが友情の、約束の証だと。
 あらためて、美しい歌声に気づく。

遠く離れていても 忘れない

 るかの、一臣の想いが胸にしみわたる。
 苦痛と疲労、呪いに満ちた心が瞬時に逆転する。オセロの黒が白に変わるように。夜が朝に変わるように。

迷い 悩み おじけずき 立ちすくんだ夜
真紅に染まる 夜明けが 私に教えた

 強烈な恥ずかしさに襲われる。
 呆然と、ただボールを入れ…目の前を通り過ぎるゲームを、傍観者のように見ていた。
 その目に映るのは、一臣の足がふらついていること…チームメイトがそれぞれ、必死でディフェンスをかいくぐっていること。
 動けない。復帰したときの決意はどこにいったのか、自分は何をやっていたのか。

長い夜もいつかは明ける
たとえ希望 閉ざされた時も
見失う事はない 私だけは

「来い!」
 一臣が、叫んだ…完全にかれた声で。
 体が震える。ぱあっと目の前が明るくなる。
 コートに駆け込み、全力で走る。
「武上!」
 ここまでやられているのに、自分を信じて、まだエースと…パスが竜也の手に飛び込む。
 勝ちたい!絶対勝つ!

ある日出会った ただひとりの人
それはあなた かけがえのない 愛をそそいでくれた 私だけに

 激しく一臣がプレッシャーをかける。
 その目に燃えるものから直感する。自分だけじゃない。
 一人じゃない。
 必ず勝つ!
 そして、山王戦で流川が、パスで味方を生かしたことを思い出した。
 そうだ、自分が筒井に勝てないなら、パスだ!
 ドライブ、ワンドリブルバックしてボールを手に…一臣が飛んだ瞬間、バウンドパスがフリーの西村に。
 一瞬戸惑い、シュート…が、真田がはじいた。
 そのボールを竜也は必死で追った。一臣が並んで走る。
 ラインを超えて跳び、頭から…ドガン!とパイプ椅子が吹き飛ぶ音。
「しゃあああっ!」
 起き上がった竜也が雄たけびを上げる。体が熱い。

ありのままの私は 今ここに立つ
何ものにもとらわれず 自由に生きるの

 秀茗ボールでスローイン、一臣の厳しいマーク。
 が、羽田のスクリーンが一臣をしっかり止め、抜けた瞬間竜也の手に渡辺の鋭いパスが飛びこむ。
(みんな…筒井、るか!)

涙 笑い 悲しみ 苦しみ 長い旅路の果てにつかんだ
決して終わるときなどこない あなたの愛

 歌声に包まれた竜也は、完全に集中していた。
 ゴールリングがまるで、目の前のフラフープのように大きく見える。ディフェンスなど見えない。
 時間が止まり、ただ…

この愛! 

 華麗なフォーム。美しい放物線が描かれ、ボールがすっと音もなく、リングの中心を貫く。
 余韻が全身を浸す…やっと、取り戻した。

 反撃も瞬時に止め、きれいにパスして一臣のディフェンスを抜くと、スクリーンを借りてリターンを受け、的確にもう一発決める。もう味方もちゃんと見えている!
 アリス、最後のタイムアウト。
「連続か、復活したようだな、『狙撃手』が」
 監督がじっと、一臣を見つめる。
「筒井、あいつが決めたらおまえも決めろ」
「え?」
「あんな状態になったシューターは止めようがないことがある、取られたら取り返すしかない。
元々この試合はおまえの試合だ、お前が決め続けろ」
「そうだ、やれよ!筒井の指揮で勝ってるんだ!」
「おれたちもフォローする!パスもスクリーンも」
「落としたって何度でもリバウンドを取ってやる、俺たちを信じろ!」
 一臣は涙が出そうになった。
 つかれきった体の底から、闘志がわきあがってくる。

 それからは、一臣と竜也…二人ともひたすら連続でスリーポイントを決めつづけた。
「すげえ…」
「うそだろ…」
「また決めたよ」
「何本連続だ?」
 一臣も竜也も、自分がこれほどまでに決められるとは…あとから考えると信じられないが、そのときはなにも考えていなかった。ただひたすら楽しかった。幸せだった。

「二人とも、試合しながらどんどん成長してる」
 新井の言葉に、悔しさがにじむ。次元が違う…認めたくはない…

 あっという間に試合終了が迫る。
 アリス53、秀茗46…7点差…
(でも、あきらめるもんか!あきらめたらそこで試合終了って、湘北の安西先生もいってた。
 こんな楽しい試合、終わらせたくない!最後の最後まで、絶対あきらめてたまるか!)
 一臣のディフェンスも、容赦がない…だが、それがなぜかゆっくりに見える。
 時間がゆっくりと流れる。
 大きなリングが、シュートを待っている。
 もう残り時間はない。ハーフライン近くで竜也は微笑むとボールを受け取り、
(やっぱ、るかが、バスケが、好きだ)
 無造作に放った。池にでも放り込むように。
 だが、そのボールに指が触れ…ホイッスル…放物線を描き、リングをそれる。
「テメーなあ、最後の最後まで…っ!」
 一臣が微笑した。何も言うことなんかない。どちらも最後の最後まで、全力で戦った。
「やった、勝ったぁ!」
 三千代が自分のことのように喜ぶ。
 そして整列、そのとき竜也の胸を、これまで感じたことのなかったような喜びと悔しさが貫いた。
 ただただ涙があふれていた。
「ありがとうございましたぁ!」
 深く頭を下げ、感極まって一臣に抱きついた。一臣も固く抱き返す。
「筒井、おれ、大和台に行く。あそこならおまえも来れるだろ、いっしょに来てくれ!いっしょに湘北倒して、全国制覇しようぜ」
「…ああ!」
 あのパスを試合で受けたい。あのゲームコントロールの下でプレイしたい。それなら、流川楓や桜木花道の上からだってアリウープがガンガン決められる!
 竜也の体は、夢に燃え上がっていた。
 一臣も竜也が立ち直ったことが、一回り大きくなってここにいることが、自分のことのようにうれしかった。

 タオルを受け取る。
「おつかれさま、筒井くん」
「応援、どもでした」
 と、一臣は三千代と新井に挨拶し、
「あれ?りんごは?」
「さっきちょっと…っていったきり…どこいったのかな」
「じゃ……そのへんちょっとおれ、見てこよっかな」
「しっかりはたせよ男の約束!」
「約束……?」
「こっちのこと」
 全力を出し切った勝利の満足感に包まれ、りんごを探す一臣は…そこで何を見るか知らない…

 竜也の前に、るかがいた。
 なにもいわず、竜也は激しくるかを抱きしめた。
「竜也」
「離さない、絶対!バスケもおまえも、絶対離さない」
「そんな、わが」
 容赦なくキスが唇をふさぐ。
「どんなことがあっても、もう離さない。見失わない!」
「竜也…竜也っ!」
 そんな二人を見ながら里緒が、
「やれやれ、見てられないね」
 玲は相変わらずの無表情で
「問題消去(デリート)」
 と、軽く里緒の肩に触れて歩き出す。
 里緒はそんな玲の手を握った。玲も拒みはしない…
 四つの影が二つになる。そして、影がぼやけ、水滴にわれに返り、ただ笑い声が響く。

 雨の中四人が帰る途中、竜也はふと…傘もささず、大きなバッグを持った影を見た。
 そう、影。まるで影か死人のように存在感がない。試合中の冷静沈着な大きさも、ルーズボールを追う熱さも、試合終了後見せた笑顔も、微塵もない。
「つ…」
 声をかけることができなかった。
 なにがあったのか。
 負けた自分は大切なものを取り戻した。
 だが、勝った一臣が…その満足感を吹き飛ばすほど、大切なものを失ったというのか。
 いったい…

 一臣がそれから寝込んだのは、試合で火照った体を雨で冷やしたという以前に、試合前の練習から重ねた無理がたたったのかもしれない。
 一臣が、笑顔で竜也と再開する春はまだ遠い。

(「私だけに:一路真輝Album Version」原作詩、作曲/Michael Kunze, Sylvester Levay 訳詩/小池修一郎)


コメント

 ついに完成!ずいぶん遅れてしまいました。
 話自体はとっくにできていたと言っていいでしょう。試合を描き始めてまもなく、「私だけに」を重ねることが浮かびました。あと『マルドゥック・スクランブル(冲方 丁、ハヤカワ文庫、全三巻)』の心理戦も参考になりました。
 自分では一点原作と矛盾した点を除き、すごく満足できる作品です。
 この作品は何とかマンガにもしてみようかな、とも思っています。元々絵が下手なのでひどいものになりそうですが、歌とバスケシーンの重なりはマンガのほうが絶対幅広い表現ができますし。

 一臣、あれだけ頑張って…

 全力を出し切った勝利の満足感に包まれ、りんごを探す一臣は…そこで何を見るか知らない…

 あまりの悲惨さに、「デリシャス!」のコミックス読み返しながら爆笑しました。
 …まあいいか、最後はああなるんだし…

 あゆみゆい&小林深雪先生、えぬえけい先生、ごめんなさい×100&ご満足いただければそれにまさる幸せはないです…

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