Dunk Like Lightning


第一章;桜の下で


 合図と共に、全員がほとんど倒れこむように座った。
「明日、いよいよ新入生勧誘解禁日だ。そっちも抜かるなよ!いいかげんな奴は要らない。気の毒だが、俺達の打倒湘北の夢に協力してくれる奴だけが必要なんだ。」
「おう!」
「よし、全員三分間目を閉じろ。あの試合を思い出せ!」
「おう!」
 大和台高校バスケ部新部長、七緒浩士の合図の元、目を閉じた全員から一種の湯気が立ち昇った。静かな悔しさが全員の体をふくれあがらせている。
 七緒は温厚な顔を修羅のように歪ませて拳を固く握り締め、桜木花道の顔を思い浮かべている。文字通り運動能力とサイズの差に圧倒されたと言ってよい。まだアウトレンジまではない桜木だが、素人っぽさが残るプレーにも関わらずペースを狂わされ、インサイドを完全に押え込まれた。
 二年の高月竜次の、いつも食いしばっている口からかすかな歯ぎしりが漏れる。流川と宮城のスピードと技術に圧倒され、全く自分のスタイルでプレーできなかった。感情を悔しさに集中させ、屈辱を闘志に変える、あれから何度もやってきた。
 同じく二年の河合卓巳は、かすかに童顔が残る顔に凄絶な笑みを浮かべていた。中学時代、竜次とライバルとして出会った時と同じ、自分を高めてくれる壁を感じている。それは彼にとって最大の悦びだ。
「よし、解散!」
 だが、それは休憩の合図でしかない。
「ええか、あの湘北っつうチームは強え。なぜかわかる?
 一番の強みは宮城、流川、桜木のけた外れのスピードと、流川、桜木の高さや。単純なスピードならラン&ガンを徹底的にやっているうちも負けてへんが、高さの差がある。特にゴール下で制空権を完全に握られてたんが致命的や。
 あれで赤木達がいなくてやで。もし今日、あの山王を倒したベストメンバーだったら?まー皆あれからも成長してたからどうか知らんが。
 けどな、うちが唯一勝っているとこがあったで。それが3Pシュートや。三井が抜けた分、今の湘北に3Pが打てるのは流川だけになってたやろ。こっちは七緒と卓巳の二人もピュアシューターがおる。
 もしパスワークとリバウンドがうまくいき、射程の広さを活かした試合運びができていたら?ああはならなかったはずや。宮城と流川にああパスを分断され、桜木にリバウンドを支配されちゃはなしならんがな。
 同じ土俵で張り合っててもかなわへん、自分たちのええとこ伸ばすんや!」
 試合後の、秋頃それまでの監督が事故った代役として招聘された北野監督の言葉からだった。走り込みの強化とパスワークの徹底だけでなく、全員が自発的に練習後、猛烈なシュート練習を始めるようになったのは。

「よくやるわね、男子。」
「あの練習試合よっぽど悔しかったのよ。」
「そう言えば舞、一体なんで七緒くんと別れたの?やっぱりあのチビちゃんの?」
「言わないで、もう昔の事じゃない。」
「でも、やっぱり納得できないんだけどなあ、舞?」
「あたしが納得してるからいいの。ふったのはあたしだし。」
 緑なす黒髪をボブカットにした美人が答えたが、言葉はどこか寂しげだった。
「でも、あたし見ちゃったんだ。あのチビちゃんが・・・あの試合の時、湘北の桜木花道と楽しそうに食事してるのを!」
「まいちゃん、それって本当?」
 ざわめきが女子の間に広がったのは言うまでもない。
「許せないわね。七緒さんと、いくらプレーはすごくてもあのサルとを比べるなんて。」
「そうよ、流川様に夢中になったってならまだわかるけど。」
「そうそう。」
「どうする?」
 と、まいが舞に語りかけた。
「どうもしません。」

 練習がやっと終わる頃、大和台高校体育館の男子更衣室ではざわめきが起きていた。
「聞いたか?「狙撃手」がうちに入るってよ」
「それだけじゃない、女子が騒いでたけど、去年までやってた「デリシャス・タイム」って料理番組があったろ?後半キャスターをしてた、筒井一臣が今年入ってくるって」
「それがなんなんだよ!去年の中学MVP、「狙撃手」武上竜也は知ってるけど」
「その筒井ってさ、麻生の新井って友達の話だとバスケの実力がすごいってよ。いいっつも公式戦直前で事故にあっててあんまり出てないけど。見ろ!最後の試合で3Pシュート9/11で34点、それに4ブロックショット、8リバウンド!すごい実力だよ。」
「フリースロー成功率92%、基本をきっちりやってる証拠だ。」
「使えるかもな。」
「おれも見たけど基本がしっかりしてる。バランス、クイックネス共に中学レベルじゃない。あれで無名とはよほど運がなかったんだな。なあ、卓巳?」
「ああ、いい選手だ。」
「それに流川楓クラスの天才って言われる「狙撃手」だろ?」
「それに俺の後輩、松浦哲太も実力派だぜ。すげえ努力家でな、うちの中学では聞いている限り初めて一年でレギュラーむしり取ったし。二年のときに練習試合だけどさ、都ベスト8の南中相手に予告十本を決めたこともあるんだ。」
「これならいけるかもな。今度の夏」
「おいおい、一年に頼るな!入ってくる一年に負けないように、みんなで頑張ろう。打倒湘北!」
「打倒湘北!」
「うるさいわよ、男バス!」
女子バレー部が壁を叩いてきた。
「すみません!」

 湘北高校入学式。
 その中に、ひときわ目を引く新入生がいた。周囲から頭一つ出ている。
 間違いなく2mはある。
「誰だ?あれ」
「さあ・・・」
 早速バスケ部のメンバーが話題にしていた。
「勧誘する、と言っても桜木と流川にさせるのも無謀だな。」
「全くだ。花道じゃあ新入生が入るより先に廃部になりそうだし、流川じゃ無口すぎて無理だ。二人とも名は売れているから、桜木には麻酔をかけて流川にはテープに吹き込ませて、後ろで仏像みたいに飾っとこう。」
「人間用の麻酔じゃ駄目よ、猛獣用じゃなくちゃ。」
「去年は赤木先輩と小暮先輩が自ら出ていましたよね?」
「他にできるのがいなかったからな。」
「宮城は入院中だったしね。」
「ああ。」
 宮城はその頃、三井らと暴力事件を起こして入院中だった。
「今年は赤木マネージャーと新二年の、あの二人以外でやるしかないな。」
 その直後、体育館の隅で一人の白人男子を見かけた。
「あれは?」
「いや、知らない。どこかで見たような顔だな。」
 その正体がわかったのは入学式の後、バスケ部が集合してからだった。
「ほっほっほっ、一人紹介したい人がいます。」
 と安西監督の合図で、さっき見た白人が入ってきた。
 身長は流川と同じくらいの長身、美形だが鋭い雰囲気。恐ろしい筋肉で、むしろ太くさえ見える。
「アメリカから御両親の都合で日本に留学してきたトーマス=ジョン=キング君です。わたしの選手時代の知り合いのつてでこちらに来てもらうことになりました。」
「っほう、アメリカからかね。」
 桜木が興味津々に目を光らせた。
「思い出した!確か、この前テレビで話題になった、アメリカの天才高校生バスケットマン!」
 潮崎が声を上げ、それに約二人を除いて驚きの声を上げる。
「あん?アメリカの天才バスケットマン?はっはっはっ、それは奇遇だ。日本の誇る天才、桜木花道を擁する湘北に入るとはね!」
 流川は無論無言だが、視線は鋭い。
「HAHAHAHAHAHA!」
 突然大声が上がった。
 高い鼻を反らしたトム、
「ナンダ?テンサイ?HA、スバラシージョークネ!イエロー、スニーキー、リトル、スティンキージャップニテンサイナドイルハズガナイデショー!!コンナバッキッバコウシンコク、コノボクヒトリデユウショウシシャルア!HAHAHAHA・・・」
 全員の顔が凍り付いた。
「てめえ、何て言いやがった?」
「ジジツヲイッテルンダヨ、リトルボーイ?NBAニヒトリデモジャップガイルカイ?ニグロハツヨイカライインダ、イエローハヒヨワダ!ハッ」
 無言で流川がボールを手に取り、すぐに突っ込んだ。
 高慢な笑顔が凍り付く、その横を一気に抜い、いや!そこで止まった。
 空気そのものが凍りつく。
 静かに、正確なリズムでドリブルの音がひびく。
「え、え?」
 皆の声を尻目に、我に返った宮城と桜木が素早く走り出す。
 小さくフェイクを入れ、流川が左へ、そして右に切り返す。
「ジャップニシテハヤルナ、ダガアメリカデハショウガクセイ!」
 フリースローライン近くで激しい攻防。
 流川のドリブルが極端にゆっくりになり、トムはしっかりと腰を落としている。隙が全くない。
 左に抜け、それをトムが押さえた、と思ったらボールがない!
 ボールはもう宮城の手に。それはすぐゴールに向けて飛んでいた桜木の手に吸い込まれ、そのままアリウープ!と思ったら後ろからブロックされる。
 トムを止めようとした流川は抜かれていたのだ。
 そのままリバウンドしたトムが凄まじい速さのドリブルに移る。
「くそう!この天才のダンクを」
 桜木が吠え、ダッシュした。
 抜かれてすぐに下がっていた流川が追いつき、ゴールとの間に立ちふさがる。が、トムは素早くフェイクを左右に入れ、ジャンプして後ろ向きから回転、横から手を上げるようにボールを放った。
「左フックショット!」
 流川の手をすり抜ける、それを桜木の手が止めていた。
「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフン」
 全てのシュートコースを目にも止まらぬ連続ジャンプでふさいでいる。まるで千手観音!
「WHAT!?」
「出た、必殺フンフンフンディフェンス!」
 見物していた水戸が叫ぶ。
「桜木!」
「リョーちん!」
 桜木がタップしたボールが、そのまま宮城の手に。だが、ドリブルに入ろう、としたその瞬間トムがスティールしている。
「ヘイリトルモンキー!」
「なにぃ!」
 宮城が怒りを爆発させる。
 あとはもう、バスケットなどではなかった。
 宮城が飛燕疾風脚を繰り出し、それをトムがダッキングでかわして二発目の蹴りを受けた。ひるまずに繰り出したワンツー、そしてフックを打とうとした肘が流川に当たり、切れた流川が殴りつける。プロボクシングの世界戦か、と思われる戦いの後、巻き込まれた花道が両方に飛びかかった。K-1並の圧倒的な破壊力と、組み合った時に繰り出す、生来体得している力任せの柔道技にトムが圧倒される。
 彩子と晴子が怒鳴りつけるまで、異種格闘技戦は続いた。そして止まるのが遅かったことが、改めて赤木不在を思い知らせる。

 大和台高校男子バスケ部で、新入部員ガイダンスが始まった。
「部長の七緒だ。新入生の皆に言っておく。悪いが、我々部員には今、打倒湘北以外頭にない。そのために使える奴しか要らない。その為に全てを捧げてくれる奴だけがここに残ってくれ。そうでない、楽しい青春とかそんなくだらないことを考えてる奴は、悪いが即帰ってくれ。今は打倒湘北しかないんだ。監督、お願いします」
「ここの練習は基本的に、攻撃8に防御2のラン&ガンや。高校の三年ぐらいで全部マスターできるほど、バスケットは簡単やない。とにかく、部長はああ言ってるが、バスケットボールの楽しさを味わえればええ。攻撃でバスケットの楽しさを知って、好きになることや。」
 といった厳しい声も、ある意味空しかった。
 体育館は黄色い声で満たされてしまっている。
「一臣くん!」
「去年「デリシャス・タイム」見てたわよ!」
「がんばってぇ!!」
「早く練習して!」
「愛してるう!」
 まあ多少顔に縦線が入った状態で、外を無視して
「では新入生、自己紹介してくれ。」
 まず目付きの鋭い、斜に構えた感じの少年が進み出た。身長はかなり高くて185cmくらい、肩と腕、そして大腿部の筋肉が太い。
「おうっ!秀茗学園から来た武上竜也だ。ポジションはシューティングガード。湘北=山王戦は見てたから、あれを破るってのがどんなもんだか、わかる。目標は全国制覇!湘北はその通過点として、ブチ倒してやるよ。」
 次に出てきたのは190cm近い長身に整っているが優しげな童顔。少しやせ気味に見える体は引き締まっており、無駄がない。
「アリスの丘学園卒の筒井一臣です。中学時代のポジションはフォワードです。湘北の強さは、見てわかる限りは知っているつもりです。素晴らしい目標だと思います。全力で頑張りますのでよろしくお願いします!」
「筒井一臣って、お前あの、るかがよく見てた料理番組のキャスター?」
「ああ。名前は聞いてるよ、「狙撃手」。よろしく」
 以下自己紹介が続く。最後に180cmを越えるかどうかだが、太陽のようにエネルギーにあふれた印象の少年が
「東林中から来た松浦哲太です。ポジションはガードです。あの山王戦は見ていました。あの時、嫉妬を感じた事も正直あるので、打倒湘北に全力を尽くします!」
「さて、新入生の自己紹介もすんだことだし、今度はこっちの自己紹介も兼ねて、早速新入生とうちのレギュラーメンバーで試合をしてもらおう。ギャラリーのリクエストもあることだし。早速五人出てきてくれ。」
 麻生学園女子バスケ部恒例、新泣試合を取り入れたのだ。

「お願いします!」
「キャーッ、筒井くーん!がんばってえ!」
 ひときわ大きく声援を上げている華やかな美人に、周囲の注目が集まっている。
「おい筒井、あれ、もしかして「スイート・クッキング」の花森朱菜か?」
「・・・・・・もしかしなくてもそう。始まるよ」
 聞いてきた一年の青山が、うらやましいを通り越して言葉もない表情で離れた。
 ピーッ!
 笛と同時にジャンプボール。
 新入生は一臣、二、三年は七緒。
 ジャンプボールは身長に勝る一臣が競り勝ち、素早く竜也へ。
 竜也が鋭いドリブルで切り込むが、その前にガードの竜次が立ちはだかる。
「そう簡単に行かせるか!」
 左に抜けようとするのを止めた、と思ったらもう後ろに一歩下がり、ダムッと一回ドリブル、と瞬時に柔らかく跳んでいた。
 ラインぎりぎりのスリーポイントが柔らかくリングに吸い込まれ、水滴が水面に落ちて水柱が跳ねるようにネットが跳ねる。
「ヒット!」
 嘆息が上がるくらいきれいなシュートフォームだ。
 そして右手の人差し指を伸ばして拳銃の形にし、左手を添えてライフルに模し、反動で跳ね上げるポーズ。それがびしっと決まる。
「すげえな・・・」
「その前のストップとバランスもな」
「負けてられねえ、行くぞ!」
 竜次がボールを受け取った、と瞬時に恐ろしい速さのドリブル。一臣が守ろうとした瞬間、もう鋭いパスが卓巳に行った。そのまま、身長170台だが見事なバネでダンクに、竜也が鋭いジャンプで止めた、と思ったらパス先を見もせずにバックパス。
「そらよ!」
 七緒が走り込んで受けると、豪快な両手ダンクを決めた。
 ダン!と竜也が足を踏み鳴らした。
「武上くん!」
 哲太の声にはっとして、ボールを受け取った竜也が斬りこむ。
 そして素早くミドルシュート、だが竜次と卓巳のディフェンスでわずかにずれた。
「リバン!」
 一臣が声より早くゴール下に走りこんでいた。
 七緒が彼を押さえ、リバウンドを取った!練習試合で花道にやられて以来、リバウンドを徹底的に鍛えこんでいたのだ。
 すぐパスを受けた竜次はそのまま、凄まじいスピードでドリブル、トップスピードから竜也をかわし、哲太の股からボールを通してふわっとレイアップを決める。
「あいつ、自分でも行けるんだ。」
「中学校時代、俺は出られなかったけど、あのスピードプレイにかき回された。その頃確か、バスケから離れてたろ?」
「ああ。返すぞ!筒井、センター頼む!」
 とまた鋭くドリブル、竜次をかわしざま一臣にパス。一臣は切り込むと見せてその場からスリーポイントを射ち、ボールは大きな弾道を描いてリングへ。
「きれいなシュートフォームだ・・・・」
 七緒が称賛の声を漏らす。
「おもしろい!」
 卓巳が笑顔を残してさっと突っ込み、左から絶妙のパスを入れる。竜次は身を大きく乗り出して片手で受け、ドリブルをフェイクにしてすぐに返し、井上のスクリーンで卓巳が受ける。
「キャッホー!」
 声を上げて斬りこむ、と見せ、逆サイドにいた七緒にロングパス。そして3Pが決まる。
「あのセンターもピュアシューター・・・山王の河田(兄)かよ」
「貸せ!」
 竜也が叫び、そのまま速さを活かしてペネトレイト。が、竜次がもう前をふさいでいる。哲太が左に飛び出したが、竜也からのパスが卓巳にカットされる。竜次が竜也を止めているうちに七緒が突っ込み、一気にドライブして一臣を空中でかわし、レイアップを決めた。
「さすがにやるな!」
 竜也が鋭く切り込み、小さな、視線でのパスフェイクを重ねて、そのまま減速せずに突っ込むと長いジャンプから七緒のディフェンスをすり抜け、横から放るレイアップ。三人抜き!
 そのプレーの切れ味にギャラリーが息をのむ。
「インサイドもいけるのか!」
「本物だな」
「個人プレーに走るなよ、パス回していこうぜ!」
 一臣が声を出したが、興奮気味の竜也には届いていない。
 大きく守っていく一臣がかわされ、そのまま卓巳から竜次へパスが通ってしまった。そのまま竜次が速攻、そして卓巳に。
 その178cmの身長だが、鍛えぬかれたジャンプ力による強烈なダンクは一年の青山には止められなかった。
「よっしゃあ!一年坊に負けるか」
 叫んでおどけたポーズをする卓巳。
 青山がボールを回すが、すぐに七緒が止めてカット、卓巳にロングパス。卓巳はインサイドに、シュートのふりをしてブロックしようと跳んだ一臣を抜き、竜次にバックパス。受けた竜次はそのまま哲太を抜いてシュート、それは竜也がブロックした。
 それを拾った一臣が今度は自分でドリブルし、七緒がそれに手をかけてほんの一瞬押しあったが、うまく竜也に向けて弾いた。竜也が動いている間に哲太が竜次にスクリーンをかけて動きを止め、その隙に二年の黒田を抜いた竜也の3Pがリングを打ち抜く。
「ヒット!」
 この掛け声がリズムをよくしていく。
 それから竜次が速攻をかけ、ミドルレンジから強引にシュート。七緒がリバウンドを取ってパスを受けた三年の井上がシュート。それは外れたが、リバウンドを卓巳が取って竜次、そして外に出ていた七緒がスリーポイント。
 竜也がまたドリブルで動き、鋭くパスをインサイドに。それを取った青山が左からのシュートで決めた。
 そして返そうとした卓巳、そのフェイクを読んだ竜也がボールを奪い、また速攻。シュートは外れたが、一臣がタップして押し込んだ。歓声が上がる。
 竜次の突進を止めるためとパスを回させないため、哲太と竜也がダブルチームでついた。二人の優れたディフェンスで勢いが分断され、竜也がはじいたボールを哲太が拾い、一臣にパスすると見せかけて自分でドリブルし、ディフェンスがかかる前に3Pを決めてしまった。
 それで卓巳が竜次のフォローに出る。そのままパスを使って哲太の抜けた穴から3P。
「キャプテン、リバン!」
 七緒のリバウンドを信頼してだ。

 結局試合はチームの息が合っている二、三年の方が勝った。わずか一点差だったが。
 竜也、一臣、哲太、それに青山を始め一年の技量も素晴らしいものだった。
 リバウンドを七緒と卓巳が押さえていた、それが双方の外からのシュートに影響を与えていた。また、一年の3Pシューターが一臣を除いてどうしても個人技に走りがちだった事も一年の敗因だろう。だがこれで新しいチームのスタイルが見えてきた。
 チームに合計五人の信頼できる3Pシューターでオールラウンドプレイヤーがいる、メンバーチェンジによっては全員が3Pを打てる、そんなとてつもないチームになりそうである。
 その後も残ったメンバーで何試合かしたが、それについては描くまでもあるまい。

 明日は湘北高校の新入生勧誘解禁日。
 夜中だがバスケ部マネージャーの赤木晴子は書類作成などに追われている。
 だからその電話は正直、邪魔だった。
「どうしたの?」
 藤井の声が普通ではなかった。思いつめた、同時に何か悩んでいるような声。さすがに鈍感な晴子にもそれはわかる。
「あの、晴子、あの、あの・・・・・・あの、晴子は、桜木さんの事、なんとも思ってないの?」
 晴子は受話器を取り落とした。
「ごめん、落とした。なんでそうなるの?別になんとも思ってないわよ。」
「じゃあ・・・・・・あたしが桜木さんに、告白してもいい?」
「ええっ!桜木くんが好きだったの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・うん」
 消え入るような声、さすがに本気とわかる。
「告白するんだ。」
 優しい声にするが、内心は好奇心がある。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。無理だと思うけど。でも確かめたいの、あの噂が本当なのか。」
「噂?」
「冬に練習試合があったでしょ?その時に、麻生学園の岡川りえこって娘とつきあい始めたって。」
「うそ!麻生学園ってかなり遠い・・・あ、確かにあの大和台との練習試合で、午後に大和台女子部との練習試合で来てたけど・・・・・・聞いてないわ。背が低いけどかわいい、抜群のジャンプ力があった選手だったわね。でもそんな感じなかったわよ?」
「じゃあ、やっぱり単なる噂かな?」
「そうよう!だからだいじょうぶ。きっと応えてくれるわよ、桜木くんも。」
 そして、その事を直後、連絡のために彩子にかけた電話の中で話したのは言うまでもない。彩子は深くため息を吐き、
「あんたまさか・・・まだ気付いてないの?」
「何がですか?」
「好きにして。明日の集合場所は通学路のコカコーラだから。」
「あ、はい!」

 翌朝、沿道には各部が軒を連ねていた。
 あの2mを超える新入生が注目を集めたのは無論である。
 彼は整っているが優しげな顔で、背と茶髪の割に印象が弱い。体格はややひょろっとした感じの痩せ型だが、無駄なぜい肉はない。
 また、他のところでもちょっとした騒ぎが起きていた。
「風馬くん、なぜ陸上部に入ってくれないんだ?君さえいれば全国も夢じゃないんだ!折角の素質を捨てるのか!?」
「沢山なんッス、ドーピング汚染だけは一人前なくせに前近代的な構造で動いてる陸上の世界は。それに個人競技はもう嫌になったんス。あの孤独にはもう耐えられないッス。」
「そんな!」
 一方、例の2mは既に各部に囲まれていた。
「君、名前は?」
「バレー部は君を歓迎する!内申書を見る限り運動能力も折り紙つきなのに、何で帰宅部なんだい?もったいないと思わないのか?」
「是非柔道部に!今年は去年のベスト8を越え、CD学園に勝ちたいんだ!」
「バスケ部に入りませんか?いっしょに全国優勝の感動を分かち合いましょう!」
「お願いします!いっしょに青春を完全燃焼しましょう!!」
 何人もが取り囲んでいるが、彼にはおびえたような表情がある。
 激しい口論がある中、彼は何も言えずにただ立っていた。
 一人、忘れられて。
 そこに、もう一つ巨大な、赤いものがやってきた。
「桜木花道!」
 その風貌に周囲が引く。
「何をしてるんだ、彩子さん?あれ、ハルコさんは?」
「練習中でしょ!」
「いや、リョータくんが呼んでました。何か書類がどうだか」
「ああもう、全く!桜木花道、代わってこの子、バスケ部に入れといて!」
 彩子は叫んで飛び出した(直後に猛烈に後悔したことはいうまでもない。どうかしていたのだ)。花道は軽くうなずき、
「君、名前は?」
「あの、も・・・元木齢です」
「もっとしゃっきり!」
「は、はい・・・・、、も、も・・・元木齢です!」
 その表情には明らかにおびえがあった。
 それはまあ、花道にすごまれてはたまるまい。そこらのヤクザより迫力がある。
「そうか、ではバスケ部に入り給え!」
「え、あの、でも」
「あ?なら何か、他に入りたい部があるのかね?」
 花道の一方的なペースに、他部の面々は口が出せない。
「ええと、その・・・・」
「はっきりしろ!」
「あの、僕は・・・え、園芸部にはいりたいんですぅ」
 消え入るような声で答えた。
「何を言っているんだ!君みたいな体格と運動能力があってなぜ!」
「君は柔道をするために産まれてきたんだ!それを園芸などとは」
「やかましい!!」
 花道の一喝で沈黙した。
「そうか、バスケットは嫌いかね?」
「ええと、その・・・いえ、どちらでもない」
「なら明日の放課後、見に来たまえ。」
 もう花道の迫力に、他は有無を言えない感じであった。
 花道はすぐ彼らに関心を失い、晴子の姿を探し始めた。
「ハルコさん!」
「あ、桜木くん。勧誘の助っ人?」
「あ、はい!この勧誘の鬼と言われた桜木花道、もうあのゼロくんは見事ゲットしました。」
「あはははは・・・なにそれ、ポケモンじゃないんだから!」
「なんですか?そのポケモンって」
「ゲームよゲーム」
 二人は楽しげに会話しているが、晴子の態度に心持ち不自然さがある。そして、元木の視線が微妙に変化していることに、二人とも気付かなかった。
「でもすごいわ!」
「いや、あいつ根性なしっぽいです。叩き直さないと使えないっす」
「そう、ならこれもマネージャーの使命!頑張るぞ!」
「いや、ハルコさんのお手をわずらわせることはないスよ。この新入部員教育の達人、エミールとスゥエーデンボルクの再来と言われたこの桜木花道がきっちり基礎から叩き直してご覧に入れますよ、はっはっはっ」
 エミールは生徒の名であり、教師ではないし神秘家であると同時に教育者でもあったのはエマヌエル=スゥエーデンボルグではなくルドルフ=シュタイナーであることは晴子は知っていたが、別にどうでもよかった。

「さて、新入部員の皆、自己紹介をしてくれ。」
 言ったのは花道である。宮城が飛翔脚をかけて後を引継ぎ、
「部長の宮城リョータだ。湘北バスケ部にようこそ!出身校と趣味、バスケ経験の有無やポジション希望も言ってくれ。」
 去年全国に出ただけあって、かなりの人数が集まっている。
「あのう、東杜中学から来た元木齢です。趣味は園芸とアロマテラピー、あとお裁縫とお料理です。バスケットボールの経験は小学校時代多少あるだけで、初心者みたいなものです。早く皆さんに追いつけるように精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。」
「・・・・・・・・・女かお前は・・・・・・・・・」
 次に進み出たのは身長184cmの、引き締まった、特に脚の筋肉が発達した男子。少し哀しみと期待を目に湛えている感じだ。
「ウッス、一路台中から来た風馬疾風ッス。趣味は走ること、中学時代は陸上をやってたッス。バスケは初心者ッス。体を動かしてないと退屈でしゃーないんで入部したッス。希望ポジションはミッドフィルダーッス!」
「そのボケ自体「空よりもたかく」に出てたろ!」
 次に出てきた男子は始めから注目を集めていた。身長は182cmほどで、長髪を無数の三つ編みにし、垂らしている。やせているように見えるほど無駄な肉がない。
「高嶺北中学卒の中田翔。趣味はNBA、特にNYニックスのグッズ集めとビデオ観戦、バスケの練習。ポジションはフォワード。全国制覇よろしく!」
「轟中学から来た下村昭です。バスケ経験者で趣味はインターネットと読書。ポジションはガードです。がんばります!」
 以下自己紹介が続く。
「ここからはマネージャーね。ほら、」
 かなり長身の少年が、膝をかばいつつ進み出、
「富が丘中学から来た、水沢イチローです。全国制覇に向けて、マネージャーとして全力を尽くします!」
「おお、中坊くん!来てくれたか。」
「はい!」
 中学時代の先輩、流川は目だけで認めた。
 最後に柔らかな黒髪を綾波カットにした美少女が
「アリスの丘中学卒業、マネージャーの松岡三千代です。趣味はお菓子作りとバスケ観戦です。よろしくお願いします。」
「よし、これで全員か。ここの練習は全国を目標としている以上、半端な厳しさじゃない。覚悟しとけよ!」
「はい!」
「ウッス!」
「は・・・い」
「ゼロ、声が小さい!」
 花道が元木に頭突きをかました。花道ももう204cmだが、元木はそれよりさらに3cmは高いので伸び上がり気味である。

第二章へ

ホームへ