瀬田ハルヒ (せた はるひ)

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作風概説

 非常に陰影の強い、鋭くくっきりした絵。とても情熱的で極端なデフォルメも多く、壊れた表情や墨があふれたような濃さ、爆発的な感情や墨が垂れるような書き文字など多彩。とにかく表情豊かで、細かく笑いを取るネタが縦横にちりばめられている。最近は柔らかな甘味も出てきた。
 題材も大胆で怖いもの知らず、独特の危険な迫力、スピード感とパワーがある。

 結構未熟な絵も見られたが、きっちりと描くととても迫力があり、服のしわの質感がかなりシャープな印象。
 感情表現力が高く、指だけで想いを描くこともできる。
 異常なテンションの高さが妙に「子供」のリアルを感じさせる。


代表作

2005「圧縮エモーション」
 木染ちゃんの一つ年下のおさななじみ、久弥くんは生徒会長だけどやたらえらそう。
 そんなとき、彼が落とした生徒手帳を拾い、見てみたら、そこには自分への恋心を熱くつづった日記が…
 だがその日記をどうやって返そうかと思うとちょっと顔をあわせづらかったり、さらに昨日の日記には「明日こそ木染に告白する!」と…それは今日告白するということ…パニック状態で寝てしまった彼女に、告白途中で生徒会仲間が割り込んできて、彼がキスをしたことも暴かれてしまった。
 しかも彼はそれを否定して、もう彼の気持ちがわからなくなり…
 どうしようもない想いの激しさを、強烈な題材で情熱的に描いた爆裂デビュー作。

2006「金縛り天国」
  男転校生におおはしゃぎの女子、でも圭都ちゃんは興味なし…七年前、小二の頃からずっと好きな人、物がなくなったときに一緒に探してくれた夏流くんがいるから。
 でも、いじめられっ子だった彼と堂々と仲良くすることはできず、あまつさえ…二人がつきあっているのか、という話になって、つい好きじゃないと悪口を叫んでしまった。それを彼が聞いていたのだ。
 そのまま謝ることができず、数日後彼は転校してしまった…今でも後悔している彼女の前に、今現れた転校生は夏流くんその人!しかもいじめられっ子だった彼は、人の弱みをつかんで復讐するのが実にうまい悪魔になっていた。
 その悪魔におびえる圭都ちゃんもパシリにされるけど、かつてのいじめっ子たちが守ってくれることに…
 心理的などんでん返しと、大量に詰め込まれた豊かな表現力が爆発するいきなり本誌読みきり。

2007「君が好きだよ」
 移動教室で座る机に書かれた恋のポエムが気になるいつかちゃん。その詩を書いていたのは小説家の息子の輝木先輩。
 なんとなく詩にコメントを書き加えたりしていると先輩に話しかけられ、つい彼の恋を応援し始める。
 そして自分でも詩を書いたりしているうちに、先輩は告白する勇気を出すが…
 ありのままの感性を叩きつける、ものすごく勇気に溢れた作品。

2008「桜の咲くまえに」
 ずっと一緒だったアイツと、中学を卒業したらはなればなれになるなんて…いつも柚流くんへの告白を、幼馴染ということで取り持っている紗弓ちゃん。でも別のところではつき合っているという噂もあり。
 本当はずっと前から手紙をしたためているけれど、やはり渡せない…でいたら、その手紙をいつものか、と彼に取られてしまった。差出人を書き忘れていたことに複雑な思いだが…そして彼は、もうとりもちはしなくていい、と。
 そんなとき、もう一度渡したい、という女の子の強い頼みに心を動かされるが、彼は相変わらず冷たく、その手紙も握りつぶしてしまった。
 手紙を託した子に、潰された手紙を見られて非難され、つい偽悪的なことを言ってしまうが…
 正統派のテンプレートでありつつ血が流れる切れ味で描いた、かなり強烈な作品。

2008〜9「こどもじゃないから!」全二巻発売中。
 東京の真ん中の寺の子、乙姫ちゃんが日課の六時の鐘をついていて物音がしたので見に行くと、突然汚らしい男子が彼女にぶつかり「どけ おまえには関係ない!」と一言。そこには犬がいた。
 学級崩壊状態の学校に、突然売り出し中子役の桐谷優河くんが転校してきた…思い出してみたらあのホームレス小学生!
 そして犬の話をしたけれど、彼は冷たく受け流してすっかり周りにもかわいそうな人扱いされる。
 帰ってみたら彼が犬に会いにきていて、散々ケンカして…
 ここでは書かなかった細部が、ものすごい精神的なリアリティを作り出す期待の新連載!

2010〜11「非科学常識ケータイくん!」全二巻発売中。
 携帯電話をトイレに流してしまった。憧れの先輩にアドレスの入った手紙を渡したのに…絶体絶命のピンチに、海外にいる両親から新しい携帯電話が届く。
 それでありがたいと入れたら、まず「ケータイくんモード」と「通常モード」を選択しろといわれ、ケータイくんモードを選択したら電源が落ちてそれっきり。
 翌朝、いきなり妙なイケメンに起こされる…と思ったらその男は「デンワキター」と連呼し、口から友達の声が流れ出した…
 しかも転校生扱いで隣に座るは、髪の毛が変形して答えが出るのが電卓モードだわ、内蔵アプリで雨が降るからと傘を買わせるわ、もうしっちゃかめっちゃか。
 ちなみに面倒だからマナーモードにしようとしたら、至近距離で見詰め合って命令しなくてはならない。
 で、先輩からの連絡は…と思ったら、彼が「異性交遊を察知し着信拒否する」という機能を使っていたことがわかる…

2012〜2017「出口ゼロ」全14巻
 トップアイドル、乙女華澄と同じ「D・A・アカデミー」に合格した赤羽夕日(女)。実は二年前に卒業した天才役者、高城咲良(男)を追ってでもある。
河合ゆみかちゃんと出会い、他にも何人もの同期が集まる。
 そこに、乙女華澄さんが特別講師として出てきた。
 最初の授業。くじ引きで役を割り振られ、二十四時間引き当てた役で生活する。台本のない即興で。
 そして、設定は乙女さんが「おそろしい殺人鬼、はやくにげないと一人残らず殺されてしまう」。
 皆が高い実力を示すが、ふと素を出した河合さんに、乙女先生は罰として足を怪我したという設定を命じ、生徒の一人に竹刀で足を叩かせる…鉛の入った凶器で。
 恐怖に駆られた生徒が逃げようとするが、窓には高圧電流で死亡者が。これは演技ではない、実際の殺人鬼…出口はない。

2018「恋は武装、セーラー服」
 制服に縛られるのが嫌だから私服で来たけど、町田くんという男の子に「かわいいのに」と言われて切ることにした小澤光ちゃん。
 中三になった彼女だが、町田くんが「鈴木はブスじゃねーよ!」などと言っているのを聞いてしまい、いじめてやると襲撃するが…


今までの実績、現在の地位

 デビューしたばかりでいきなり本誌登場と期待大!
 それからも本誌登場を繰り返し、増刊でもカラーと高い人気と実力をアピール、ついに本誌連載に!
 その後、読み切りをそのまま連載にして本誌連載復帰。

 巻頭カラーの野心作で、何年も本誌を支えぬいた。


個人的な感じ、思い出

 デビュー作は題材が見事だったし、男女双方の激しい情熱の描写もすばらしかった。特に日記を見られた事を知った彼の描写には転がりまわりそうだったし、もし自分がそうなったらと思うと背筋が凍った。
 デビュー後第一作が本誌読みきりという異例のプッシュには驚いたが、これだけのパワーがあるなら。もう少し洗練され、個性が強まってもっと心の深いところを描けばいい作家になると思う。

「君が好きだよ」の、その題材をやる勇気にはとことん驚いた。この勇気こそ最大の武器になる。
 それを使いこなして何も恐れず己の道を突っ走って欲しい。

 連載の時にはまだ未熟さのほうが目立ったが、最新作では素晴らしい面白さに洗練されていました。これだけの能力を乗りこなしたらここまでやれるんだ、と感動さえしますね。

 そして「出口ゼロ」。その圧倒的な野心と実力…だが残念ながら「なかよし」に連載されたのが間違いだった。
 あらゆる評論に、そのすさまじさにもかかわらず完全に無視された…
 青年誌であればどれほどの評価を受け、ドラマなどの展開もあったろうに!
 絶叫するほど悔しいこと。

 明らかにこの才能は「なかよし」という器に収まるものではない。