パターン分類6-4

んちゃ、講義を始めます。出席カードを回してください。

まず前回の訂正及び補足が少々。前回{先生の好きな人はお姉さん〜青い鳥は近くにいた}パターンの分析でエディプスコンプレックスの名を出しましたが女性の異性親に対する愛着はエレクトラコンプレックスですね。エディプスコンプレックスでも通じるでしょうが、流派によって心理学用語は混乱してますから括弧付きで示しておくべきでした。あとあの説明で当然気付くだろうと思って省略した細かいところを念のため補足します。あのパターンでmつまり年上の女性ライバルが主人公と関係が深く、姉だとか先生だとか上位の存在であるのは言うまでもなく母親を象徴的に表現しています。そして無論年上の思い人は父親の代用でもあるわけです。ま皆さんとっくにお気付きでしょうが、念のため。

さてと本題に入ります。今回は三角関係でもとりわけ重要であった{意地悪役とシンデレラ}のパターンについて心理分析していきます。昔は主流でしたが今はあまり見ません。基本的なモチーフとしては男一人女二人型の三角関係で、男の子は身分(家柄、財産、個人の教養、人格等)や(部活における)才能などが卓越している所謂王子様タイプ。女の子の意地悪役の方は端から見て明らかにその彼と似合いな美人で家柄、才能等もヒーローと同じく極めて高いところにいます。主人公のほうは基本的に特に家柄等で対照的に低いことが多く、部活などにおいてもとろくて大器晩成型です。特に意地悪役のほうが主人公に対し支配関係にある事も強調しておくべきでしょう。話の展開としては

  1. 意地悪役が主人公をいじめている
  2. ヒーローが優しくしてくれ、(そのときに主人公は恋心を持つかもともと好きだったか両方ある)それに怒った意地悪役のいじめはエスカレート
  3. 意地悪役の何らかの陰謀で主人公が窮地に
  4. 第三者もしくはヒーローの活躍で陰謀が暴かれ主人公の立場が回復する
  5. さらに主人公の本当の身分が公開される、秘められた才能が開花するなどして強弱が逆転、意地悪役が懲らしめられて(ようちょうと言う漢字ががこの辞書になかったんです)ヒーローとも結ばれてハッピーエンド:となります。

はっきりしていることはまず主人公は読者の投影です。特に普通、平凡が強調され、さらにドジだったり間が抜けていたりするところが親しみを増すことになります。容姿も比較的平凡に描かれますね。性格としては優しくやや内向的で気弱な娘が多いです。人間関係においてはやや消極的ですが基本的に潔く誠実で友人思いです。そんなところが最近のはやりに合わないのではないでしょうか。部活などで秘められた才能をもっていたり実は高い身分だったりするのものも読者の願望、つまり[自分は実は選ばれた特別な人間なの]の投影です。しばしば後半でヒーロー以外の複数の魅力的な男性に求愛されることもあるのもまた願望でしょう。

意地悪役は元来シンデレラや白雪姫の意地悪継母(話の原形では実母と思われる)の変形であり、深く見れば母親の負の面の元形と考えてよいでしょう(ユング派心理学にはあまり詳しくないもので正しい用語を使えませんが)。身分、容姿、才能などが卓越しているのも[偉大かつ邪悪な母親]の変形と考えられます。何よりの証拠は大体において主人公に対し意地悪役は君臨する支配者であることです。といってもこの分析が全てとは限りません。現実の子供においても支配ー被支配の関係は多く見られます。それが嗜虐ー被虐の関係に転化するのも当然のことです。言いたくないですが人間の本能の一つですね。意地悪役自身の詳しい内面については後回しとします。

ヒーローはもうもろに少女の願望そのままです。容姿端麗、万能高貴でなぜか主人公にも優しく・・もう今では非現実的過ぎるのでしょう。

発達段階について考えますと、主人公はまだ恋愛以前かもしくは恋に恋する頃である事が多いです。でもヒーローに優しくされ、そしてヒーローの事を知っていくにつれて本当の恋に変わっていくことが多いです。虚像に対する恋から抜け切れないケースもありますが。意地悪役も虚像もしくは虚栄、計算でヒーローにくっついているケースが多いですね。でも(これが主人公に対する意地悪がエスカレートする原因だと思います)ヒーローが主人公に惹かれているのを感じとり、傷つけられたプライドと支配関係を守るためでもありますが嫉妬をあらわにします。その中でヒーローに対する思いが本気になることもありますね。ヒーローについては若き(同年代の)王子様か年上のコーチかによって変わります。同年代の男子は大体中学卒業ぐらいまで女子に比べたら餓鬼です。王子様の場合は躾がいいから態度がしっかりしていてそう見えないだけで、発達段階自体が違うなどと言うことはありません。内面についてはまだ未熟で中々はっきりと好きな娘に好きと言うこともできないし、それどころか三角関係そのものまで気付かない脳天気鈍感男の場合も。年上のコーチはもう成熟しきっているように見えますが、そう言いきれないところもあります。態度や台詞は大人なんですが、素直じゃない態度や妙にストイック(これには読者の願望も入った{性を除去されたキャラクター}ですね)すぎるところ等は違和感を感じさせます。どこかちぐはぐな精神ですね。

主人公は唯ひたすらひたむきに前向きに優しく熱心に真面目にやっているだけです。絶望的な状況の中でも希望と愛を捨てず、清く正しく美しく・・。これが現在受けない理由の一つでしょう。現在の子供には希望も愛も(ついでに昔からですが信仰も)全然なく、ただ今日をいじめられる側に回らずに生き延び、また勉強や部活についていく事で精一杯ですから。前に新聞記事にあった、教育に関する講演の時「どうせこの世は弱肉強食なんだ、現実を見ろ」といったことを叫んだ中学生の言葉を思い出しました。昔のヒロインが魂の清浄さ、高潔さを失わずにこの戦場を生き延びるのは至難でしょうね。

意地悪役についてですが、これはむしろ感じたことなのですが基本的に彼女たちは非常に自分を高いところにおいています。そのことは本人にとって内心大きな負担になっていないでしょうか。その高慢さゆえに忘れられがちですが、おそらく自分の美貌、家柄、成績(勉強スポーツとも)、躾のレベル等がなければ自分は受け入れられないと感じている気がします。全人的に受け入れられているわけではない不安感を抱えているのでは?家族に関しても必ずしも正常ではないと言う印象がありますし。取り巻きを形成し、権力にこだわるのもヒロインに辛くあたるのも不安の裏返しなのでしょう。そして恋愛においてもまたスポーツ等でもヒロインが自分のライバルとなり、かつ(ヒーローの助力もあって精神的に成長したことにより)自分の権力支配から離脱しようとすることがいままでがんばって保ってきた素晴らしい自己の崩壊を意味してしまうのでは?彼女にとって。またヒロインが自分の支配から脱しようとすることは前述の変形した母子関係との分析から見て娘の自立を意味し、それへの怯えからなる攻撃に読者&作者の無意識レベルでつながるのでは?つまり意地悪役こそ真に救いを必要とする哀れなガラス人形のように感じられます。それもこのパターンの人気の秘密の一つでしょう。そしてそれが廃れたの理由の一つにその構造を直接描くことができるようになってきたことをあげていいでしょう。ヒロインにはしばしばいい親友がいます。恋を応援し、意地悪からかばい、誤解を解き、意地悪役の陰謀にはまった主人公を助け出すなど大活躍します。これもやはり読者の願望が強いのでしょうね。また、その親友も入ってきて四角関係になることも多いです。

それでは時間ですので。何か質問は?レポートとして好きな三角、四角関係の作品について分析してみてください。御静聴深謝。ちなみに僕は意地悪役に関する再重要作品の一つたる「キャンディキャンディ」をまだ読んでません。るんるんの付録で全部手元にあるのですが、そんな[感情のトライアスロン]に僕のガラスの心臓がもつか自信がなくて。読みたいのですが中々勇気がでないんです。それではこの辺で。

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