なかよし2005年秋ラブリー感想

やはり感動ものはいいですね。
ちょっと死やいじめが多すぎましたが、家族やペットなどバリエーションも広くてとても感動しました。
でも恋愛という枷を取って感動としたのですから、広がりはもっとあるはずです。

この作家陣には、本誌連載陣以上に実力がある作家も多くいると僕は正直思っています。
それが本誌に出られない状況…明らかに本誌連載自体があふれているし、本誌の路線とはまったく違う…を考えると、感動路線+正統派恋愛の姉妹誌があってもいいような気さえしています。
「Chu-girl」が隔月刊になるとして、その受け皿になるかどうか…今の「なかよし」本誌が乳尻脚とにかく華麗、「Chu-girl」はお姉さま雑誌の影響があっていまどきの少女らしい虚無感に汚染されてエロも強め…エロなし純粋正統派+感動路線はラブリー以外居場所がないですね。
「るんるん」のような正統派中心の低年齢姉妹誌があるといいのですが、二つも姉妹誌を作る余裕はないでしょう…まあラブリーを本誌と同じサイズの隔月刊にし、連載と読みきり半々にすれば…それも無理ですね。
まあ、そのラブリーが一つ増えて単行本が出るだけ昔よりましなのですが。
そう考えるとため息が出ます、ラブリーはこんな素敵な作品がたくさんあるのに、本屋であまり見かけないんですよ。

キッチンのお姫さま番外編(安藤なつみ/小林深雪)シュガシュガルーン(安野モヨコ)お父さんなんて大キライ(おおうちえいこ)ティアラ(山田デイジー)夢のチカラ(水沢友希)ダンス!ダンス!ダンス!(水上航)ココア!(柏木志保)大切な約束(高上優里子/Hikari)おまえは世界で一番イカしたスーパーヒーロー(咲良あさみ/カヨ)ロング・ハーフタイム(有沢遼)My Little Girl(大石あきら)押し花ノート(山名沢湖)私立ヤバスギ学園(恵月ひまわり)pp ff(水無月真)地獄少女(永遠幸/地獄少女プロジェクト)チャリンコ・デイズ(ひのもとめぐ)Fall inラブソング(さくや一歩)お金にまつわるエトセトラ(原田侑果)乙女乱々(茶匡)Sweetダーリン(みやび鈴)

キッチンのお姫さま番外編
冒頭の思いつめた雰囲気から、弟子入りを頼むところは一転して明るく、そして「ふくしゅーしたいんです」ところころ変わるギャップがすごい。
彼女の正体もわかりませんでした。
ドジも見ていて楽しいですね。
フジタさんのヘルプも相変わらず鮮やかです。
やっとできて、「告白しないの?」といわれてふっと寂しげな目をして首を振る、ここも読み返すと情感がこもっていていいです。
そして、その拒絶が単に怒りだと思ったら…この真相はうっと胸を打ちました。
「バーカ」と現われるシーンの自然な優しさも実にすばらしいです。
落ち葉とともに現われ、去っていくのもいい演出です。
すごく切なくなる、暖かな話でした。

シュガシュガルーン番外編
これはこれで楽しいです。
まあ、魔法で眠らせればいいというツッコミは置いておいて…
魔界の様々なイメージもすばらしいです。雲がお菓子でできている、というのも子供の典型的な空想ですね。
大きい声をうまく出せない、というテーマもしっかりしていていいですね。
証拠隠滅といっても、そんな大声を出したのですからばれると思いますが…

お父さんなんて大キライ
田原つぐみちゃんは父親が大嫌い。父が仕事で失敗したせいで転校する羽目になり、それでいじめられているのだから…倉山くんという男の子が声をかけてくれたけれど、さらにそれでいじめはエスカレートする。
そして、年下の営業相手に頭を下げている父親の姿を見てしまって、嫌悪感はますます募る。やり場のない怒りが爆発し、家を飛び出したところを倉山くんに助けてもらって…

すばらしい!デビュー作以来父娘の心のすれ違いを何度も描いていましたが、またすごい傑作が生まれました。
僕にとってはこの父親の姿が最高にカッコよく思えるのですが、読者もこの娘と同じような感情を持つものなのでしょうか…
いきなりの、父親のなよっとした感じは同年代の読者にはすごく、その嫌悪感がわかるのではないでしょうか。
失敗で家族にも辛い思いをさせてしまった、というのは父親本人にとってとても強い痛みでしょう。でもまあ、職を失わなかっただけましなのですが…。いや、家があるだけでも、いや父親が生きているだけでも…
いじめのシーンは、やはりマンガだとわかっていても見るのが辛いです。
父親の仕事をこうして見ることができる、というのは貴重な機会ですね。この情けない態度を、将来の自分や自分の夫もしなくてすむと思っているのでしょうか?
家でのわがまま…これが仕事で頭を下げたくない人に下げざるを得なかったストレスの反動であることがよくわかります。ここは実にうまい。
「いじめられてるんじゃないだろうな」と軽くいい、否定のときに手が震えているのに気がつかなかったのは鈍感ですが…気づく親がどれだけいたのでしょう。いや、読み返してみると、もしかしたら父親はここで気づいていたのかも。
母親がひっぱたくのはわかります。でも言葉でもちゃんと伝えるべきでは、今は耳に入らなくても…あ、それこそ携帯電話にメールすればよかったのに。
倉山くんの優しさはすごく胸が熱くなります。すごく純粋な優しさですね。
父親の働いている姿を、わずかでも見ることができるのは幸せだと思いますが…今はサラリーマンが多数ですから、親が働いている姿は見ること自体が困難で、見たとしたら何をしているのかわかりにくくカッコいい印象はないのが現代の難しいところですね。昔のように職住一体であれば自然に子供は働く親の背中を見て育つことができましたし、農林水産業や大工など肉体労働は見てカッコいいのですが。
「あんまなりたくねーけど」と、そういう一歩先を見る視点があるのはすごい。そして「〜のためならがんばれる」というのも、ちゃんと客観的に見ているいい視点です…それがしぜんにつぐみちゃんに移っていて、それがあとで効いてくるんですよね…うまい!
「ムス〜としてておれこえーって思ってた」というのも、今のいじめ自体態度の悪さもきっかけだったのかな、と思えます。
父親がこうして探しに来てくれた、そして「そんな友達は…おらん!」ここはしびれました。殴られても殴り返さないのも、それがまた大人の強さですよね。
父娘がかばいあう、そして「キモいっていっていいのは」という…ちょっと外れた感じの決め台詞もなんとも言えずカッコいいです。
二人の肩を借りて帰る、ヒーローになりきれていないのも…もう涙出そうになりました。最高にカッコいい父親です。
ものすごく重さのある、すばらしい作品です。
というか最近のおおうち先生の作品は本当に傑作ぞろいなので、その単行本も出してほしいですし…せっかく連載で成長し、これだけの作品を書ける力もあるのに、本誌連載がないのが不思議ですよ。

ティアラ
高校デビューした楓。男子にも女子にも大人気、文化祭人気投票一位でティアラがもらえるプリンセスの有力候補でもある。中学時代の同級生で、当時一番人気だった美鈴ちゃんにも絶対勝っている!
でも一人だけ彼女をちやほやしない久保くんの嫌味な言葉が妙に気になるし、他校のいじめを目にしただけで激しいフラッシュバックに苦しむこともある…
ふと久保くんの前で出てしまった涙、泣いたら弱いのがばれてしまう…でも彼はそれを優しく受け止めて…

さらに化けた感じがあります。絵もぐっと見やすくなり、メリハリが出ていますし扉など体の柔らかな線になんともいえない色気も出ています。
話も本当にすばらしい。
中学時代の単純化された絵の表現もわかりやすいです。
いきなり本音をえぐりまくりの、久保くんのツッコミは見ていて楽しいです。久保くんがこうして彼女の本性を知り、びしばし指摘する動機は何でしょう…他の子に対してもそうするのでしょうか?精神分析は刃物のようなもので、治すメスにもなりますが刺す凶器にもなるのですが…
学校に出た瞬間、うげっという顔からつーん、そしてきゃるーんと表情がどんどん変わるのもいいですね。
「ホントの自分をかくしてだれかと付き合うなんて」だから男の子とは付き合わない…それはそれで、誠実というか寂しいというか。ホントの自分が今いる自分とは違うことも自覚している、というのが興味深いです。嘘の自分のまま誰かと付き合うのは負担が重過ぎる、ホントの自分がばれてしまうおそれもある…
ここで美鈴ちゃんの後ろ姿、そして彼女のことが語られるのも、美鈴ちゃんがこれからどう話に関わるのか楽しみにさせてくれました。なぜ高校になってすごく地味になったのか…
いじめのフラッシュバックは非常に鋭い表現で、隠した結果癒えず膿んでいる傷の深さがよくわかります。
その恐怖がストレスになって倒れてしまうのも、なんだか胸に迫るようです。
美鈴ちゃんを無視しているのがなぜ負担になるのか…あ、楓ちゃんからみれば、美鈴ちゃんがプリンセスを取られる嫉妬から昔のことをばらすかもしれない、と被害妄想を感じている、というわけですね。
全部理解して…美鈴ちゃんがどうしてそうなったのかもすごく気になります。
思わず叫んで、そこを…あ、「こっちは勉強が手につかなくて」って、ひょっとして大声とかじゃなくて心配して?うわ。
やりたいことという言葉を意識した瞬間、やっと自分を見失っていることに気づいて…ここの涙も胸が痛くなりました。そして、陰ですごく自分を見出そうと考え続けていた…
久保くんの言葉もすごく暖かいですね。思わず泣いてしまうのもわかります。
これで一気に変わって勇気が出た楓ちゃんのカッコよさがまたすばらしい。手が震えていても、すべきことをきちんとできれば十分強いですよ。
そしてこの演説のすばらしさ!美鈴ちゃんがなぜ高校で、逆に変わったのかが詳しく語られなかったのは惜しいですが、壇上の楓ちゃんに理解の目を注いでいることからなんとなく伝わってきます。
久保くんの優しさもすごくいいです…胸がいっぱいになります。
自分の弱さと向き合い、受け入れる強さ…本当は一人で、伝統や宗教、集団なしにそれができるのかは難しい気もしますが…すごくよく描かれていました。
これだけの力、どんな連載でうまく出せるのでしょう。

夢のチカラ
小さいころ、イルカショーを見てその調教師になると夢みたレナと、親友の春奈。それが水泳の練習中、レナが脚の痛みを訴えたことで暗転した…脚を切断するほかない。
それでも夢を失わず、リハビリに励むレナを励まそうと、なんとか彼女をイルカに会わせるためボランティア団体と連絡を取る。

二転三転、どうなるかすごくはらはらしました。何度も死んだかとだまされました。
絵も、以前から気になっていましたが最近また登場するようになってみると、ぐっと単純になって…昔のような美しさより、むしろ表現力を優先しているようですね。他での仕事がいい影響になっているのでしょうか。
冒頭の、夢を純粋に信じている二人の姿は読み返してみると感慨深いです。二人のまっすぐな目が、試練にあっても決して変わらないことがなんともいえず嬉しいです。
脚を切断…あまりに恐ろしい宣告に、体が凍りました。たとえ夢が勉強方面であっても辛いはずなのに…
歩くことも泳ぐこともできる、というのはせめてもの慰めですが。
春奈ちゃんに初めに見せたいつもどおりの笑顔、その向こう側にあるものがわからなくなる明るさです。
明るい手紙の陰の治療の苦しさも、僕にはとてもよくわかります。
ここで「これまでの薬が効いてない」はきついですね。というか、化学療法の有効性は細菌に対する抗生物質とは違い、疑わしい部分も多いです…でもそれでもやるしかないのですが。
心が折れてしまったシーンの描写は胸に迫りました。
死にきれなかったのか…これだけの思い、受け止める春奈ちゃんのほうも辛かったでしょう。
春奈ちゃんの苦闘もよく描かれていてすごくいいです。
「脚をもとにもどして」という言葉はすごく深く突き刺さりました。
そして…動き出した嬉しさは格別でした。
南海の美しさもよく伝わって、イルカと触れ合うシーンはもう涙が出そうでした。
夢の力が生きる力になる、というのもすごく素敵な言葉です。
で、そこで転移という言葉…絶妙のミスリード…辛すぎました。
だからこそ、元気な姿が涙がこみ上げるほど嬉しかったです。
ボランティア団体(メイク・ア・ウイッシュオブジャパンなど)の紹介もいいですね。読者の視野を広げてくれればいいのですが…僕が今の教育制度を知らないことが残念です。

ダンス!ダンス!ダンス!
文化祭が大ピンチ!企画は却下され、クラスの皆はフォークダンスのことで頭がいっぱいでぜんぜん協力してくれない。
そこで思いがけない力を見出した実行委員の捺緒ちゃん。なんと裏番の鮫島くんを無理やり引きずり込んだのだ…

重い話が多かったので、軽めの話が舌を洗ってくれます。やはり水上先生の読みきりはうまい!
冒頭の不機嫌な感じとか、怖いもの知らずな気の強さとか捺緒ちゃんのキャラもとても魅力的です。鮫島くんはここではちょっと軽い感じで、別に怖くないです。
ここからの会話の軽妙さもいいです。「あんたけっこー失礼だね」とか。
まともには協力せず、少し角度が違うのも面白いです。そのずれが後にどうなるか、楽しみになりました。
塾を言い訳にしている女子を見ると、やはりこういうのは例外を認めるべきではないと思います。
捺緒ちゃんの正論に「ちょっろーい」とバカにしている彼女たちに反発を感じ、そしてまた一生懸命な捺緒ちゃんに好感を抱く、と鮫島くんの気持ちの変化がうまく描けているのもさすが。
本人はひたすら太平楽で優しくってマイペース…この二人を包む雰囲気は本当に素敵です。
ぎりぎりの局面で事故、それが全部捺緒ちゃんのせいにされる…ここの展開は、捺緒ちゃんの笑顔が逆に胸が痛かったです。
ここで鮫島くんの迫力!これはしびれるカッコよさです。
泣いているのを、少し距離をとって受け止める鮫島くんと…なぜか鮫島くんには一番弱いところも見せている捺緒ちゃん…いいな。
この「反省してます」って、どれぐらい脅されたんでしょう。ここでは鮫島くんの怖さがぜんぜん描かれていないから余計怖いです。
そして、文化祭本番で成功に向かって、やっとフォークダンスを意識したとき…「つかれちゃう」という言葉にびくっとしました。彼女のショックがそのままわかります。
そして…ここで彼がクラスをまとめてくれたこと、彼の言葉の真意が理解できて…一気に「おどってください!」と、この悪魔で直球がすばらしい!
そして通じ合う二人の心、ずっと続くダンス…もうじーんとして胸がいっぱいになります。
すごく後味がいい、おいしい作品でした。

ココア!
お疲れ様でした。やはり連載での成長はめざましいものがあります。特に服の、少し辛味のある質感から感じる独特のさわやかな色気とか。
ぼーちゃんがあまり出てこなかったのが残念といえば残念。
いきなりさらってキスはドキッとします。ココアじゃなくてコークハイのような感じですね。
上杉さんのお茶目も強烈です。確かにこれは恥ずかしい。
ぼーちゃんとの仕事があっさり流されたのは、話の意図を絞るためとはいえ少し残念です。彼の個性からモデルとして学ぶものもあればよかったのに。
リーシャの仕掛けもスパイシーでうまい。
これで地緒くんの気持ちを疑って…絶望の瞬間の彼の行動にはびっくりしました。男を見せましたね。
つばめちゃんの不満が爆発してしまったところは辛さが伝わってきました…ここからの、不思議な色気のあるラブシーンも強烈でした。
ココアからふっと思いがほぐれて結ばれていくのはじーんとしました。ここはセックスしたのでしょうが、自然なことですよね。
地緒くんの意外と純情な面、子供みたいな二人のじゃれあいも見ていてほっとします。
そして翌朝の二人の笑顔…息を奪われる記者団の気持ちがわかります。
次回作、そして本誌連載が楽しみですね。鋭くスパイシーな色気など魅力があるからこそ、それにおぼれて本誌の過剰色気方針に流されることのない、まっすぐいい作品を期待しています。

大切な約束
川嶋あいさんの実話を基にした作品。
歌が大好きなつばさちゃんは、応援してくれる母親と歌手になる約束を交わした。
だが、父の死で経済は悪化する。だが二人とも夢をあきらめず、貧困に耐えてあくまで歌のレッスンを続け、無理を重ねてつばさちゃんは上京した。
母の励ましで上京し困難を乗り越え、ついにデビューが決まったつばさちゃんだが…

ただただ嘆息。
近年少女漫画で生老病死、そして貧を本気で描くことはなかったのですが…それを真正面から描いたのもすごいです。考えてみると二極化が言われる昨今、貧とそれに負けない努力、家族の絆と夢というテーマはまた大切なものになるかもしれません。
感情描写も本当にすばらしく、特に母親の大きな愛情がすごく深く伝わってきます。
カラーも、強すぎる色使いが目立った前の別冊付録とは違ってすごく自然でみやすくなっています。
小さい子供の表情豊かなかわいらしさもうまく使われています。
冒頭の幸福、そしてたわいもない小さい子の夢、幼い約束が…まさかここまでして果たされるなんて。
貧苦が強烈に伝わってくるアパートや食卓の描写はショックさえ伝わってきます。
それでも夢を本気で追い続ける…母親の執念にも似た、あの約束にかける意思の強さが伝わってきます。正直、前半は母親の意志のほうが強いのではないかと思うこともありますが…それも愛情ゆえですね。
その母親の頑張りを自分の意思に変えて、レッスンにいっそう励むつばさちゃん自身の成長もうまく描かれています。
母親がいてくれるだけで満足、そしてこの餃子には胸が痛みました。もう、そういう貧苦は過去のものであり、身近なこととして感じることはまずないのですから…正直言って慣れていない苦しさでした。
母親の「本場の餃子は白菜が中心」という嘘も…そしてつばさちゃんの惑い、そして必死の決断に、この手を翼にするシーンはすごく感動します。
東京へ、というのはびっくりしました。でも…確かに母親の言うとおりです。少し母親が、自分の夢を押しつけすぎていないか危惧を感じることもあるのですが、それはちゃんと母親の思いを自分の力、意思にしているシーンがはさまれています。
決心して願書をゴミ箱に放り込むシーン、そして翼の輝き…鳥との対照…もすごく強い印象です。
「だけど実際にこの街で夢開くのはほんのひとにぎりの人間だけ」という現実もしっかり書いているのがいいです。
ここからの苦闘も、まるで激しい運動をしているときのように胸に迫ってきました。
絶望に打ちひしがれそうになる、そして嘘さえ…もう見ていられなくなりそうです。
嘘をごまかすため、ストリートライブというのは面白いチャレンジでした。本当に夢を追うため、何かしたいともがいて…こうして意外な行動に出られるのは実にすごい。
しかも、それさえ初めは打開ではなく新たな苦闘でしかない…っ!
ここで歌うこと、それがわずかな人にでも伝わることの喜びになって…この笑顔もすごく素敵です。
それが成功への入り口につながり、希望だけでこんなにも世界が輝くなんて…
そんな時の、この母親のこけた頬があまりにもショックです。この知らせ、叫び…ここでは言葉にできません。
そして道を見失ったとき、こうして音楽を愛する想いを共有する人がいたことから自分を、夢を取り戻す…ここの感動もすごかったです。
そして、ファーストライブでの約束…二枚の遺影に、もう涙がこぼれてきました。
たくさんの人と響きあう翼、重なる心…そして暖かく切ない呼びかけ、もう…ただ涙。
よくもこれだけの作品を、時代に流されることなく受け止めて描ききったものです。
これだけ、他人の人生を受け止めて描ききることができるなら伝記系の作品やノンフィクションでの本誌連載も期待できそうですね。

おまえは世界で一番イカしたスーパーヒーロー
いきなり子犬のココがやってきてパニック!正直犬が苦手で、いろいろ大変。
そんなとき、お隣同士の慎矢くんと仲がいいのがきっかけで、彼を狙っていた理乃を中心にしたいじめが始まる。
彼にいじめのことを知られたくなくて学校にも行かず、家に閉じこもって、自殺さえ考えたとき、今叩いた子犬に励まされて一歩一歩立ち直っていくが、突然ココが交通事故で死んだ…

もう、二重三重に心をえぐりまわされるようでした。
絵もいいですね。冒頭部の気合の入った絵と、ギャグパートの絵のギャップがかなり大きいのが気になりますが、すごく印象が強く表現力があります。
犬が来たシーンには…死んだ僕の愛犬が家に来たときのことを思い出してしまいます。あの子はこんないたずらっ子ではなかったと思いますが…初めは目が覚めたら二階にまで上ってきたりしましたね。室内犬はいろいろ大変でしょう。
なかなか犬が好きになれない、迷惑のほうが大きい、でも毎日待っていてくれることに気づく、と気持ちの微妙な揺れもわかります。
それに慎矢くんがかまってくることから、まさかいじめになるとは…憎悪の強さと、人間的な圧迫感が非常に強くて抵抗できない、蛇ににらまれたカエルのような感じが伝わってきます。
それで不登校にさえ、死ぬことさえ…死のうとする思いもすごく強烈に伝わってきて、手が冷たくなります。
犬がこうして助けてくれたことは胸が痛くて…僕も、もし犬がいなかったら死んでいたかもしれないと思うと涙が出そうになります。犬の無条件の愛に胸が痛くなります。
そして、学校にはまだ行けないけど少しずつ立ち直っていく姿もうまく描かれています。絆の深さも…
だからこそ、この…過失ではないけど油断…事故のショックに凍りつきました。描かれ方も強烈にショッキングで…
もし僕の愛犬が…考えたくない、運転手を殺したかも…逆に僕が運転手だったら、そっちのほうが想像したら恐ろしい…現実にはトラックに仕事で乗っている以上、運転中は携帯電話に触れないというのは無理…
だからその強さを思って学校に行く、という決意と春風のシーンには胸が痛くなります。
本当に強くなった彼女に、ただ体から力が抜けるような感じです。
これが体験談だというのがすごいですよ。こうして文字にするのがどんなに辛かったでしょう…。

ロング・ハーフタイム
レギュラーになったそのときに骨折して入院した亜矢ちゃんは、もうサッカーもやめるつもり。病院で出合った元気な病人でサッカー小僧の斗真くんが強引に心に入り、サッカーを再開させようとするのが実に迷惑。そんなある日、彼が元気に話しながら倒れた…絶望的な難病…
これもまた何度も角を曲がるようでした。
冒頭の、もうやる気がないというのも素直にわかります。別の楽しいことも見つけられない、と…
とっさのトラップから出会いというのもかっこいい。斗真くんの軽さも、有沢先生ならではの好感が持てるキャラです。読み返すと辛いですが。
病人たちとの交流も見ていてすごく楽しいです。
夜中に男の個室に行くなんて、本当はかなりまずいと思うのですが…意識してしまうまではサッカーに夢中になってしまう、で…意識してすぐ寝てしまうのはちょっと苦笑気味に呆れました。
でも少しずつ元気になっていく、というか彼のペースに巻き込まれているのはわかります。
それで、うれしいはずの見舞いから…自分のポジションが取られてしまったことで余計に落ち込み、やめたいという気持ちが強まる…亜矢ちゃんの気持ちばかり伝わってきますが、こうして読み返すと斗真くんの想いが痛いほど伝わってきます。まるで目立たないけど激しい重低音。
「たった三か月」という言葉がどんなに重いか、亜矢ちゃんにはそれがわからない、単なる地雷でしかない…このすれ違いは強烈です。
これで感情的にならず、ただ残酷なまでに鋭く嫌味をいう…その寛大さも、死を前にしていることを思うと見ていてたまらないです。
病気の真相には呆然としました。
ひなたぼっこでほっとして…この静かで暖かな会話は、読み返してみると…言葉になりません。助かると思っていたのに…
家族や病院側もよく、こうすることを許したものです。
「サッカーできるだけで幸せ」…いや、生きているだけで幸せ…それが痛いほど伝わって、胸が苦しくなります。
やはりすごい作家ですね。今のポジションがもったいないです。

My Little Girl
父娘家庭の悠希ちゃんは、ある日父の「会ってほしい人がいるんだ」にショック。しかも親友のけーたとナナカも、頼りになる味方だと思って頼ろうとしたら…キスしてるし…みんなに見捨てられたように感じて家を飛び出した彼女に小さい女の子がしがみついてきた。しばらく一緒にいたけど、結局振り切って街をさまようが、危険も多いし孤独感が増すだけ…そんな時、補導員を連れてだけどあの女の子がまた頼ってきた。
すごい!とんでもない最高傑作です。
よく考えてみれば、悠希ちゃんが一方的に勝手なのだとわかります。でも初読時は悠希ちゃんに感情移入し、その頃の気持ちに戻っていますから、その怒りを共有して余裕がないまま読んでしまいました。
読み返すと悠希ちゃんの自分勝手な感じ方はよくわかります…「あたしのことだけ見ててくれたんじゃなかったの」は父親もバツ一コブつきですが一人の独身男性で社会人ですからありえないことですし、いつかこの時が来るのも当然のことです。
友達も、頼るつもりが二人がキスしていることにショックを受けてしまう…この心理がまたすごい。客観的にはすごく勝手な話ですが、なぜか悠希ちゃんの身になって考えるとよくわかってしまうのです。
街で男に声をかけられた時は胸が潰れそうな恐怖がありました。というか、父子家庭が長いのになぜお金も持っていないし、こうなにも知らないのか…まあ家事の配分やお金の管理も色々あるのでしょう。主婦代理でしっかりしているとは限りますまい。
こうして小さい子がしがみついてきた、それで悠希ちゃんは助かったというのがまずうまいですね。
そして、何を言われてもあまりしゃべらない、そして…リコちゃんが耳が聞こえていないことも、結構重要なんですよね。言葉が使えないから肝心の情報は入らず、ただ態度と表情、感情だけの交流になり、純粋で無償の愛情だけが伝わってくる、と。
このクレーンゲームのぬいぐるみがいいキーアイテムになるのもいいです。
そして、プリクラシートを見返してしまったことで…忘れかけていた家出の理由と、主観だけですが強烈な孤独感が戻ってきてリコちゃんを突き放してしまう…この過ちがずきっとします。
その孤独感をリコちゃんに、結果的にはぶつけてしまっているのも見ていて痛々しいまでです。
そして、次々と誘われる街の恐ろしさもしっかり描いているのがすごい。子供は家出をしばしば想像しますが、その後のことは少年少女誌ではタブーに近いです…こういうことです。
恐怖に声が出なくても…足が出たのは幸運というか、強いところもありますね。
でもそれにも気がついていなくて、ただ「人はこんなに〜見てくれないの」という思い…複雑です、すごく強く共感できる部分があり、同時にそれが身勝手な思い込み、自意識過剰なのもよくわかっている…
孤独感が迫って泣いているのもよくわかります。それで「姉妹」という言葉も…初読時、ここで気づいているべきでしたがわかりませんでした。
やっと純粋な思いに気づいて、ぎゅっと抱き返すことができた…その安心感が直接伝わってくるようです。
この補導員の人もここまで…「だれも見てくれない」なんてことないじゃないです。
ひっぱたくのではなくつねる、というのが少し意外でした。でもみんな心配してくれていた、父も親友の二人も本当に彼女のことを思ってくれていたのに…彼女の目にそれが入っていなかった…もうそれがわかると泣きそうになってしまいます。
リコちゃんとその母親が手話で話しているのは、あらためてぐっときます。そしてその母親が…これは、うまいやられた、としか言いようがないです。
「ケータイの待ち受け娘の写真?さむっ」「親の愛情「さむっ」でかたづけんな」で、あらためてテーマがすごく強く伝わってきて…胸がいっぱいになりました。
なんてすごい作品でしょう。少しでも目があれば…この目を開くのがどんなに難しいことか。
しかし、これだけの力がある作家が埋もれているとは…もったいないというかなんというか。

押し花ノート
すごく柔らかい感じでいいですね。
サッカー選手で植物学者…なんかすごい夢ですね。確かに壮大で地味。現実にはプロサッカー選手がフィールドワークと大学の授業もこなすのは難しいですが、文武両道のプロスポーツ選手は外国には結構います。
寝押しというのは面白いです。僕は押し花は百科事典などを使うと思っていました。
ひっそり咲いているのが…ドクダミというのも面白い趣味…というかここまで…
お互い壮大で地味、でも素敵な夢です。二人の仲のよさもいいです。

私立ヤバスギ学園
絵がかなり変わってきました。この作品に馴染んででしょうか。
「レディを大切にするのはわれら男子の義務ではないか」というのは当たり前すぎるぐらい当たり前のことです。でも結局本当は敵なのでは、とばかり思っていました。

pp ff
南海荘で壊れ荘なボロ旧校舎のピアノで伴奏の練習をすることになった夕美ちゃん。でもやっぱりそのピアノは鳴らな…かったけれど、クラスで一人だけ帰宅部の川原くんが掃除して試し弾きしたらちゃんと音が出た。彼がピアノをやっていたことを聞き出した夕美ちゃんは、彼がそれを隠していることをネタに練習を見てもらう。でもそのピアノ、なぜか鳴らなくなることも…
うまいおもしろい。ものすごく。
絵も少し無駄がなくなり、目が深くなってすごくやわらかな感じです。
受験生がいるとピアノ禁止、というのも懐かしい話です。
旧校舎の雰囲気もよく出ています。背景のリアリティは相変わらずすごい。
この埃はすごいですね。よくそんなところにたまったものです。あ、読み返すとグランドピアノの開け方を知っていることや音で切れているかわかる、というのも彼がピアノに詳しいことを示していますね。
試し弾きの迫力と雰囲気のすばらしさは、引く音域を一気に滑らせた音が聞こえるようです。
そして、「なんか弾いて」「やだよめんどい」この言葉が見事!すごく軽く巧妙で、すごく楽しい気分になりました。
ここでぐいぐい押していく夕美ちゃんの態度もすごく可愛いです。
しかし…なぜここで、バイエルはさすがにわざとらしいですからチェルニー程度か、ショパンの夜想曲二番変ホ長調作品9-2などゆっくり弾けば最初は簡単に聞こえる曲を弾くことを思いつかなかったのでしょう、彼。
妙に技術のすごさが伝わってきて、「ピアノな人」というのがすごくよくわかります。
閉めるときにしっかりハンカチを使って汚さないようにしているのもしびれますね。
半分冗談といっても結構悪質な脅しです。というか、川原くん…前から夕美ちゃんが好きだったんじゃ…
あ、ここで根本的なツッコミ…ピアニストになるための練習をしている人が、古く長いこと調律されていないピアノを弾くのは危険では?
はっきりヘタはひどい。でもいつも弾いているなら技術はわかるのでは?
みてた、という言葉にドキッとするのもいいですね。二人ともちょっと赤くなって、微妙に意識しているのも…そうしてみると、指導しているときにピアノの背に手をかけているのがドキドキ。
音楽の成績が悪いのは…わざと?普通は理論も習うのでは。
旧校舎のことでうれしそうな表情をするのに、友達が怪しいと思うのもわかります。
「先生がいいからで」で楽譜で殴るとか、この二人の仲のよさは見ていてすごく気持ちいいです…それが「家じゃ川原いないし」と、つい素直にぽろっと言ってしまって二人で意識するの、もう転げまわりそうです。
チャイムに救われてここでもう一曲サービス、夕美ちゃんの想いの変化も丁寧に描いて、「あのさ」の一言…期待通り友達が邪魔しに来て、もうこの展開は…期待通りです、はい。
先生呼ばわりされ、秘密をばらされた川原の切ない表情ときたら!というかその前に、みんなにきゃあきゃあ言われて自分から夕美ちゃんをかばうためにピアノを教えていた、という覚悟ができていた、その時に…タイミングも絶妙。
それで突然ピアノが鳴らなくなる、というのも面白い展開です。
掃除中やはり口をきいてくれない、この雰囲気の重さもすごいです。
ピアノを引き取ってもらうことに、となって、その悲しさが必死で呼び止める行動につながる…ここも彼女の、そして左手でppに彼の思いが描かれていて、すごくもどかしい想いです。
「二人してあそこいくと」というのも…彼女には気がない、という誤解からですが、当然の配慮なんですよね。それをさらに誤解してしまう…。
足と足音、それに後姿の寂しさがすごい。
楽しかった、それであの時間が終わってしまった…その悲しみから、夕美ちゃんの想いが強まって悲しくて…外の川原くんの思いも強烈です。
本当に直そうとするとは。そして本当はピアノが嫌い、というのもドキッとしました。それが自然に告白に結びついて、それが同時に音になるというのがすごい。
そして、後ろから抱くように手を握るシーンが妙な色気もあって、二人の胸の熱さが強烈に伝わってきて頭がくらくらしています。
そっと抱き寄せて「好きだからだ」のふわっとした感じも、もうしびれてたまりません。
二人の幸せな音楽にもすごくほっとします。
でもこのピアノ、二人が卒業したらまた鳴らなくなるのでしょうか…いや、今度は好きな人が引っ越してしまった子が、夏休みの作曲の課題に想いをぶつけようとしたらまた鳴り出す…なんてね。
本当にすごい実力です。早いとこ本誌連載を…。

地獄少女
なんというか…被害者の親戚にディック・フランシスのヒーローがいないのが実に残念です。
このケースは単に縁を切って河岸を変えて出直せばいいのです。向こうの権力が強いといっても、例えば中国で出直しても追いかけてきて潰しにかかるでしょうか?中国の急速に近代化されている大都市で、中国人に合わせたラインナップと日本人観光客にあわせたラインナップを平行させる器用さがあれば、言葉や法律などに対応する根性さえあれば成功する可能性はありますよ。
まあ、この程度ことをはねのけられないようではどこに行っても成功は難しいですが。
まあ中国が崩壊したら最後ですが、そうなったら世界的に経済が崩壊してケーキなど贅沢品は商売にならなくなるでしょうから同じようなものです。それが怖いならフランスに逆に殴りこむか、アメリカなどでもいいでしょう。
といっても、そういう冷静な見方を失わせる力が、この作品の加害者にはあるんですよね…逆にどんな状況でも冷静さを失わない競馬シリーズの主人公のほうが人間離れしたヒーローなのかも。
だから救いがないのが正直なところです。
最後に「きっともうだいじょうぶね」と言っていますが、地獄落ち確定では大丈夫ではないような…

チャリンコ・デイズ
みらいちゃんは塾で、親友のもえちゃんの事を聞きに来た男の子、樫山くんの一途な瞳に惚れてしまった…でももえちゃんの好みはあくまで大人で、貧乏同世代は眼中になし。
いつももえちゃんの話をしながら帰るようになったのが、なんだかくすぐったいけど幸せな日々。
自転車で二人乗りなんてもえちゃんには論外だけど、事故をきっかけに二人乗りしたのはすごくドキドキした…でもそれは、もえちゃんがうらやましい…。

すごくあったかくて、情熱が伝わってくる話でした。この世代の新人は多すぎてほとんど出てこないのが寂しいです。
冒頭は…やはり思い切って言ってしまったほうがいいのでしょうね、いつまでもうじうじして気持ち悪がられるより。
この三角関係は面白いです。
もえちゃんも楽しいというか…夢見がち、といっていいのでしょうか…面白い子です。
あ、自転車だとカバンを持ってもらう意味がない気がしますが…
ぽっと赤くなるところが可愛い、というみらいちゃんの気持ちもうまく伝わってきますね。
性格がいいかどうかは…まあ、誰も人のことは言えません。
荷台を外したら、二人乗りで座る場所がなくなる気がするのですが…後輪の軸を左右に延長し、そこに立つ形でしょうか。そのほうが今は標準なのでしょうか。
事故では大したことなくてよかったです。こういうときのために、多少大きいお金も予備に持っていたほうがいいのですが…あとサドルに軍手を一双詰め、最低限の工具も持って。
二人乗りで二人とも照れてしまうのはちょっとびっくりしました。
予行演習というのは、こういう形で言われるとちょっとドキドキする言葉です。
楽しそうな、ダイナミックな感じもよく出ていてこの二人乗りのシーンはすごくいいです。
頭をつかんでハンドル、というのも楽しそう。
手を握ってつかまらせるのもドキドキしました。
僕は一度も二人乗りはしたことがないですね…初めに友達に乗せてもらったとき、落ちて転んでひざをすりむいたもので。
男の子の背中に意識して、もっと思いが強まって…ここもいいです。
もえちゃんにあっさりばれてしまったのは苦笑しました。でも、なら彼が全く対象外だということはすぐわかるのでは?
運命だ、と告白を決める…まだ、というか絶対無理なのですが…彼もうすうすわかっていたのかもしれません。
このいくじなしという言葉はなんだかぐさっと刺さりました。
もえちゃんがぱっと抱きついて、でも…別にもえちゃんも、悪い子というわけではないんですよね。それは伝わってきます…単に夢を見ているというか、大人の恋…そして富…に恋しているだけで。
それが理不尽にさえ感じるみらいちゃんの思いもよく伝わってきます。「知ろうともしないで」というほうがもっと大人ですよね…まあ、その知るというのが難しいのですが。
塾でなにもいえない授業中の辛さが、描かれていない分伝わってきて…少し痛いです。
帰りの二人の会話もいいですね。あ、考えてみたら…もうこの二人が話す必要も、一緒に帰る理由もない…
想いが破裂したように泣き出すのがまた胸が痛いです。
そしてみんなが出てきたときに、泣いているみらいちゃんを守って逃げる樫山くん、それで告白しようとしたのを迷惑だと抑えるみらいちゃん、どちらもすごく相手のことを思いやっているのがわかっていいですね。
「うしろのりたいっ」というのは事実上告白ですよね…「意味わかって」ということはそういうことですし…
ぎゅっと抱きついて、樫山くんもそのぬくもりがすごく安心できて…この二人がどうなるかはわかりません。もしかしたら、本当の恋人になるのは難しいかもしれない…樫山くんはみらいちゃんのことを愛することはできても恋することはできないかも、という気も少しします。でもそれでもいいのかも…
切なさいっぱいですごくいい作品でした。次も楽しみです。

Fall in ラブソング
なかよし幼なじみの初音ちゃんと楽太郎くん。共通点は音楽、違うのは楽太郎くんが料理部だということ。
でも、二人の進路希望校が違った!彼は作詞に進みたいからと、音楽化がある学校を志望したのだ。理由は納得したけどやはりさびしい、そんな中彼はコンクールで歌った、作詞は生徒から募集したフレーズを組み合わせ、作曲は合唱部顧問がやった意欲作を演奏し始めてくれた…

すごく繊細なタッチになっていて、そして細かな表現がすごく多いですね。
冒頭は正直に言えば絵柄の変化にちょっとびっくりしました。すぐ落としかけた楽譜を受け止めてくれる楽太郎くんの優しさが、冒頭からなんともいえない優しい雰囲気をつくりあげてくれて、すぐそれに没入できました。
作詞って確かにどう始めていいかわかりにくいですね。さくらももこ先生のエッセイに、作詞家になるのが夢だったけどどうしていいかわからなかった…結果的には大ヒット曲を作詞してしまいましたが…というのを思い出しました。
すごく平和な会話と繊細な暖かさ、何より「いとおしいのだ」という言葉に胸がきゅんとしました。すごい。
で、音楽化があるなら初音ちゃんのほうがN校にすればいいのでは?音楽科はどうせ一クラスでしょうから、確実に一緒にいられるでしょうし…
すごく感情的になっている、そこをまず誕生日ケーキでなだめて…ケーキのおいしさで涙があふれて、それで気持ちが落ち着いて、ちゃんと理性的に諭す楽太郎くんの言葉が耳に入る、ここの流れもじーんとします。
でもやはり寂しい…ここで、コップで演奏するというのは考えたものです。
これで一気に笑顔になるのがうれしいです。楽太郎くんの笑顔もすごく素敵ですし、歌っている初音ちゃんもきれいです。すごく思いも伝わってきます。
オリジナル曲、というのは高校時代もありました。隣の、音楽の先生が担任のクラスでもちろんダントツ優勝でした。すごい名曲でしたよ…
よく読んでみると、楽太郎くんのキャラがすごくいいんですよね。ちょっとのんきな感じがあって、彼女が感情的になっても冷静で、静かだけどすごく想いが深くて。
「ナカヨシのトモダチのまま」といわれて、ショックなのにすぐ押し殺していつもの微笑みになる…ここもしっかり描かれています。
ここで他のキャラが出てくるのもドキッとします。ずいぶん親しいようですね。
ケーキを口止め料にしたことでずきっとしたのもいい伏線です。
それで伊東さんを意識するようになって、あらためてつきあってはいないことも意識して…それでこれを目撃するのは辛かったです。
歌うこともできない辛さもぐっと胸に迫りました。
楽太郎くんが今回は素早く、しっかりつなぎとめて迫力で黙らせてしっかり説明した、ここもカッコイイです。
そして「おれのこと好き?」と言ったのはびっくりしましたが、あの逃げる反応を思えば当然わかることですし…ちょっとムードのない告白かな、とも感じますが、その歌の話が一気に飛んで、うわ〜これは恥ずかしい。
そして歌詞に合わせて暖かく心が通い合って、「すべてつつみこむように」はもうしびれました。
すごくいい雰囲気でしびれるような作品です。今度はどんな作風になるのか、楽しみですね。

お金にまつわるエトセトラ
服がほしいけど金がない。
そんなとき、久しぶりに話した智宏くんがネットオークションで稼いでいるのを見て(彼は未成年だが、ネットがわからない親の代理としてやっている)、やってみることにした。
でも思ったより稼げない…それに彼のぶっきらぼうでビジネスライクな態度、なんで一緒に遊んでいた初恋の彼がああ変わってしまったのだろう。
で、自作したものを出品するようになり、少しは軌道に乗ったけど彼の態度はわからない…

やはりすごくすっきりしてわかりやすい絵です。
「世の中金よね」には頭を抱えるのが正直なところです。こういう会話を聞いていると、同じレベルの金がないと(親に収入があっても子供に金を渡さない厳しい家庭だと)友達でいるのも難しいような…
会った瞬間、なんか複雑な関係だなと思う間もなくネットオークション。
しかしなぜわざわざ外でネット…そこが無線のスポットなのでしょうか。
このネタは子供に見せていいのかな、とも思いましたが、まず未成年は参加できないとか親の承諾がいるとか、ちゃんとやっているのでいいです。
初めての時の返品や手数料などは智宏くんのしっかりしたところが強調されて、キャラがよくわかります。
突然疎遠になった、という二人の関係と、親の指輪を持ち出してみたり失敗をしながら、手作りで改良すると成長して…こう二つの筋が絡み合うのは実にいい。
なぜ智宏くんがそこまでしてお金をためるのか、という問題は少し唐突に出てきましたね。
力になろうとして断られ、お金も返そうとして…ここはちょっと切ない感じもします。
それで、ちょっと治療費の話も唐突に出てきました…そういうことでしたか。
謎が全て解け…「責任とる」はびくうっとなりました。その前の段階って何でしょうね。
あ、その治療は本来親がやるべきでは…それを言ったらおしまいですが。
すごく軽妙な作品でした。完成度が高いので、これからが楽しみです。

乙女乱々
知夏ちゃんは今日大好きな及川くんに告白する、と宣言し続けてはや三カ月。特に占いが悪いので。
でも友達に励まされて告白しようとするけれど、やはり間が悪くて話すこともできない。
テスト結果(自分は26点、及川くんは95点)をネタに話しかけられるけど、プレッシャーが強すぎて気絶。
そして、突然友達が「わたしじつはネーひそかに及川っちのコトねらってたんだぁ…v」と!

ギャグなのか何なのかよくわからない、視野を広げれば結構みる絵柄だけど「なかよし」では珍しい、面白い作風です。
占いをあてにしているならたまにはいいこともあるのでは?
及川くんと話したこともないとか、友達が呆れるのもわかります。
「いまの及川くんとの関係こわしたくない」「なんのカンケーにもなっとらん」がすごく面白いです。
及川くん、すごく目つきが悪いというか怖い第一印象が…さりげなく及川くんがジュースを落として蹴飛ばして、と動いているのがいい。
ぼろぼろの描写もすごいです。
そして友達が、「狙ってたんだぁ」宣言で後押しするのはなんかうまい。まあ結果オーライですね。
運ぶって、普通こういうときはお姫様抱っこが基本でしょう…まあこの運び方でも悪くはないのですが。
パニくって話せないのを筆談とは、優しいですね。で、いきなりチャック…指摘された及川くんの表情もすごい。
う〜ん、うまくいった…と思ったらこれとは。
さてデビュー後第一作はどんな作風になっているでしょう。

Sweetダーリン
彼氏の冬馬くんの手作りお菓子を食べるのが大好きな美里ちゃん。
彼がおうちのカフェを継ぐ修行に協力しなければ。
そして、彼の家のカフェに行ってみると、彼の姉妹も母もめちゃくちゃ細い超美人ばかり!
それに刺激されてダイエットを始めるけれど、彼のお菓子は食べているのだから無意味…
繊細なのにしっかりしていますね。なんだかくっきりした感じです。男女の描き分けがしっかりできているのはいいです。
このラブラブ、見ていて気持ちいいです。
確かにこのお姉さん、すごい美人ですね。毎日ケーキを十個食べてこれ、というのは体質なのでしょう。
彼氏もちょっと無神経かもしれません、普通の女ならこんなにケーキを食べたら太る、ということに気がつかないのは。
というか冬馬くん本人が細いのもやはりそういう体質?
確かにこの食事は体を壊しますね。
友達の「本気でダイエットする気があるんなら」というのはどうしようもなく事実です。
運動とかで頑張っているのはいいですが、やはり主食がないというのはよくないですよ。三日で減っていないことで慌てるのも、ダイエットの知識がない証拠ですし。
冬馬くんが強く叩いて、ふらっとしていることで不調に気づかない鈍さには正直反感さえ感じます。
これだけ彼女の好みがわかっているのに…肝心なことには気づかないとは。
まだお菓子を渡して、それで気にしているのに頬を触ってくる…愛情があるのに肝心なことにだけは気づかない、というのがもうみていてうわーっとなります。
しかも、お菓子を拒まれたのが、自分を拒まれたのだと思い込んでしまって…ただ単に、美里ちゃんが太りたくないというか、冬馬くんが察すればいいんですよ!
美里ちゃんもやっと気づいたようです。こうして行動に移るシーンはいいです。
でもエプロンが着たかったの、とまず相手に通じない言葉にしかならなくて、言葉にならない思いを少しずつ言葉につむいでいく…このもどかしさはたまらないものがあります。
のぞいている母姉がちょっと面白いです。
あ、お嫁さんとまで…でも男冥利ですよこれは。
あくまで頬に触りたがるの、好きなんですね。
「うちの女どもと」はちょっと笑いました。だから気がつかなかったんですね、ダイエットという文字がこの家になかったから…
ふわっとエプロンをかぶせて「もうイヤだっていってもはなさないからな」は電流は知りました。キスをしなかったのも自然でいいです…オチも。

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