藤村香純(ふじむら かずみ)

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作風概説

 優しい感じ(デビュー当初のあゆみゆいや新井葉月を思わせることも)。
 押し付けがましくない、控えめで地味で平凡な印象があるがそれだけすごく親しめる、柔らかで暖かい雰囲気の正統派。

 寝起きの体になじんだ布団のような、独特の優しいリズムを感じる。男の子の性格設定が理想的なまでに優しい。


代表作

97「歩きだそうここから」
 内気な依子ちゃんは古賀くんにケーキを差し入れしたけど、手紙を入れ忘れた上に古賀くんはおなかを壊して欠席。実は卵アレルギーなのに、誰かわからない差し入れた人の気持ちを無駄にしたくないからと食べてくれた。そんな古賀くんに勇気づけられ、押し付けられた体育祭の長距離を頑張ろうとするけど。
 だんだん不器用に強くなっていくところを静かに優しく語っている。また、無責任に依子ちゃんに面倒なことを押し付けるクラスメートの勝手さ、そして古賀くんがそれを咎めるシーンも印象的。

98「きっとね」
 昔、花火でやけどした時に責任とって結婚の口約束をした菜々夏の幼なじみ、亮太が引っ越すことに。
 でもつい意地を張ってしまって、喧嘩友達に近い状態になっている。告白の決意もなかなかつかなくて、送別会で告白しようとしたけど風邪をひいてしまう。風邪を押して出かけるけど連れ戻され、一本だけ花火を。
 とても暖かく、優しい雰囲気の傑作。花火の時の柔らかい感じ、切なさが高まっていく描写など空気そのものが言葉で言い表せないほど素敵。

98「スノーコンチェルト」
 腱鞘炎で音大付属高校の受験を諦めた透子はピアノさえもやめようとし、学校にも行かなくなるほど気力を失う。
 そこをクラスメートの縣くんがしつこくちょっかいを出して励まし、ついに荒療治で本来の気持ち、ピアノが好きという原点を思い出させる。
 言葉では表現できないほど簡潔なのに優しく柔らかく暖かい描写、ベートーベンWo.123「Ich liebe dich」の柔らかい調べとそれを巧みに利用した展開、縣くんの励ましの巧みさ、透子ちゃんの気持ちの変化、思わずどきっとした告白シーンなど、何箇月も毎日読み返し、なお飽きさせない最高傑作。インターネットでも多くのコメントをされているし、少なくともある程度その魅力には普遍性があるはず。


今までの実績、現在の地位

97年組でデビューしてすぐ出てこなくなったメンバーの一人。


個人的な感じ、思い出

 もう10年前からずっと応援していたような、信じられないほどの親しみを感じている。いつしか、問答無用に夢中になってしまっていた。

「スノーコンチェルト」の時など、作中に使われた曲「Ich liebe dich」のCDや楽譜を二ヶ月もかかって探し回り、入手したら入手したで一日に二度は聴きながら読み返すなど、中毒としか思えないぐらいにはまっている。

 冷静に、客観的な評価をしようとするとなぜここまで好きなのかどうしてもわからないが、論理ではなく、もうどうにもならないほど好き。平凡で典型的な、地味な表現がはまるとたまらない魅力になる。それこそが少女マンガのとことん精製された精油ではないか、とさえ思えるほど。

 絵も含めて今後どんなふうに成長するか、想像もできない。意外と、シリアスな作品もできるかもしれないし、「水色時代」のような等身大の青春群像も期待できる。

 もう一度、胸が痛いほどどんな形でも作品を見たい作家。