永遠幸(えとう みゆき)

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作風概説

 現在は強い濃淡を活かしながら黒曜石のような輝きを持ち、可愛らしさも意識している。大人っぽい色気のある男性を描くのが好きらしい。

 大胆で冷たい構図のセンスが逆に状況を際立たせる。そのくせ暖かさと輝き、熱い情熱も見られる。恐ろしく感性が鋭く、ちょくちょく背筋がぞくぞくするような色気がある。
 それを邪悪を描くほうに向けると、かなりリアルに人間の悪辣な面や追い詰められる心理も描くことができる。

 初期は無駄を削ぎ落とした感じの、ガラスの切り子細工や研いだ鋼のように鋭利な線が鮮烈なまでに激しく、不思議な質感が印象的だった。雰囲気が濃くなっていき、上質の日本刀を思わせる鋭さに結晶したが、コメディに転換したこともある。

 作中歌が歌詞のみだがとても感動的で、なぜか実際に聞いているような感じになる。
 人物の名前が難しい漢字でちょっと読みにくい反面、その漢字の組み合わせが強い印象を残す。


代表作

98「リラの花言葉」
 花屋の息子、吏羅(りら)くんを名前で呼ぶのは禁句。その店の常連で園芸部員の水彬(みあき)ちゃんは、名前を呼んでいいのは一人だけと知っている。その女性は彼の従兄弟の婚約者で、水彬ちゃんは常に切ない想いを押し殺している彼を優しく見守っている。
 でも、その女性が結婚することになって、そのブーケを彼に頼んできた。切れた水彬ちゃんは縁起の悪い紫のリラを混ぜようと提案するが。
 切ない恋心、暖かく澄んだ描写、とてもいい意味でデビュー作らしい緻密な作品。

99「シオンー夏の翼ー」続編もあるが連載というほどではない。
 学校に泥棒が入った。史遠(しおん)が取られたのは学校の横の教会の石膏像、シオンの薬指の指輪。泣き付いた刑事を目撃し、いきなりトラックに連れ込まれて押し倒されるが。押さえた、激しい情熱を底に隠した巨大な鉄の扉のように激しい冷たさと底知れない熱さが伝わってきた傑作。なんとなく、だが古手川ゆあ「おっとり捜査」にも似たシャープな色香とアクションのバランスだった。

99「Dearest Song」
修学旅行先の広島で、出会ったストリートライブの弾き語り・・・オリジナルの未完成曲。彼とのわずかな会話、もらった羽の形のピック、渡した名前いりのプリクラ、伝え合った名前「沙桐」「ゆたか」。一年後、やっと旅費を貯めたゆたかちゃんは再び広島に向かい、再会を果たす。
 でも、彼は一瞬彼女を思い出さず、そして性格も明るくなっていた。そして、彼の仲間達の夢を聞き、楽しい時を過ごすが、突然彼は告白する。去年ゆたかちゃんが出会ったその人は「彼」の兄で、もう帰らぬ人だと。夢の輝きを強く語った、とてもリズミカルな、音楽に満ちた傑作。作中のオリジナル曲の歌詞に、何とか曲をつけたくなる。

2000「チェリーベラドンナ」
 映像部の来湖(くるみ)ちゃんが見つけたモデルは、妖精と見まごう美少年(実は上作品「リラの花言葉」の吏羅くんの弟)。でも彼は本当はさくらんぼを猛毒のベラドンナだ、と言って食べさせたりとても意地悪!
 そんな、めまいや動悸を引き起こすベラドンナみたいな彼を追うある日、来湖ちゃんの彼氏の浮気を発見して・・・激しく強烈な動悸、つきぬけるような華やかさと心臓を直撃するような表現、そしてのたうち回るようなラスト、本気で猛毒の作品。

2000「少女人魚」
 風の強い日、ストリートライブで歌う逢風(あかざ)・・・吹き飛ばされた楽譜を拾った男が、突然彼女を連れていった。そして唐突に「人魚」と呼び、彼の劇団「セレナ」の新作ミュージカルの人魚訳をしてくれ、と。一度は断ったが、その彼・・・彫(ささら)の真っ直ぐな目に、承知する。
 しかし、舞台経験もない彼女の抜擢に不満の声もあり、それに傷ついて逃げた逢風に、彼からの携帯電話が・・・そのミュージカル、彼の家に伝わる人魚伝説。引き裂かれても、その歌をたどって君を見つける・・・雑踏の中の絶唱に、彼は!
 もう全身がしびれるような、凄まじい情熱を感じさせる最高傑作。この作品で、今までのむき出しの鋭さが深まり、研ぎあげて本当の美しさ・・・深い地金と匂い(上質の日本刀の刃に雲のように浮いて見える細かい合金組織)が出てきたような気さえした。

2001「セレブレイト!」一種のシリーズだが、単行本などにはなっていない。
 翼ちゃんは結婚することになった姉の翔さんが式をしない、というのに大ショック。なんとか結婚式をさせようとするが、めちゃくちゃ金がかかる。
 たまたま見かけたチャペルで、予算応相談とあるブライダルコーディネイト「セレブレイト」の貼紙を見かけて連絡してみるが、いきなり来た車から出てきたのは茶発でピアスいっぱいの十夜&ドレッドの元就の兄ちゃん二人組。とりあえず相談してみて、翼自身も手伝って結婚式をやることに。
 必死で頑張る翼ちゃんだが、頑張りすぎて翔姉さんは余計反対する……
 その後は「セレブレイト」の衣装係としてバイトをする翼ちゃんが色々なカップルのトラブルに巻き込まれつつ幸せにしている。三人とも非常に面白いキャラクター。

2002「コンチキショー!」
 十七夜煌(かのう きら)ちゃんは家が神社で巫女をやっている。千里眼の力を受け継いでいるので大繁盛だが、化け狐の力(興奮すると耳としっぽが出る)を使っていると剣道で有名人の臣稜聖先輩にずるを暴かれる。
 先輩は昔、煌ちゃんの先祖を退治した侍の子孫でその妖刀御巫丸の伝承者でもあり、煌ちゃんを脅迫して無理矢理物怪退治のパートナーにする。迫力と色気が結構ある妖怪退治コメディ。

2005〜13「地獄少女」(原作/地獄少女プロジェクト)単行本10巻まで発売中。
 午前零時にだけアクセスできる、ネット上の都市伝説…「地獄通信」。そこに憎い相手の名前を書き込むと、地獄少女が怨みを晴らしてくれる…
 虐げられ、恨みを抱く者のアクセスが呼ぶ地獄少女、閻魔あい。
 でも、彼女との契約にはもう一つの条件が…人を呪わば穴二つ、依頼する人も死後地獄に落ちる。
 依頼者が追い詰められるまでの描写が吐き気がするほどリアルなホラー。


今までの実績、現在の地位

 投稿歴がとても長かった。
 本誌連載はないが、本誌、増刊とも非常に登場機会が多い。シリーズが多いのも特徴。「ザ・ネクスト」に2000、2001と二年連続で参加。優勝、連載はしていないがそれだけ人気、期待度が高い。
 筆者のサイトなどでも感想などを書きこむファンが多い。

 幸い「地獄少女」プロジェクトの目に留まり、2005年から待望の本誌連載がスタート。十年近い長さにわたり、繰り返しアニメ化され、本誌のある意味中核のひとつとなった。


個人的な感じ、思い出

 デビュー作が正統派のとてもいい作品だったし、待望のデビュー後第一作はアクション仕立ての強烈なラブストーリーで印象に残った。
「チェリーベラドンナ」のラストシーンでは、あまりの興奮に腕立て伏せの自己記録を更新してしまった。この色香をコンスタントに出せれば無敵だと思っている。そして、それを活かせるような作品を創り出して欲しい!

「少女人魚」で色香と鋭さがある意味完成したと思わせ、それから「セレブレイト!」などでコメディーになったのは多少残念だった。今はそれも成長と思っている。ただ、やはり連載版の「少女人魚」も見てみたかったが……

「地獄少女」は、希望のない終わりがあまりにも後味が悪いのだが、人間の邪悪さもさすがによく描けている。
これだけの力を、こういう風にしか使えないのは残念だが本誌連載があるだけ喜ぶべきだろう。
だが、やはりあまりにも作品そのもののコンセプトがひどすぎる。できれば早く「地獄少女」から解放されて、永遠先生らしいポジティブな作品を描いてほしい。…と、十年近く結局祈り続けてしまった。
 この圧倒的な実力が活かされることを、心から願っている。

 これまでの作品を思うと、「トッカン!(高殿円)」なんかぴったりだと本気で思う。