秋本葉子 (あきもと ようこ)

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作風概説

 ホラーが得意。
 怖いところは少しぬるっとした、腐りかけた生肉っぽい感じがする。空間イメージの使い方がはっとするほどうまい。
 普段の絵は丸っこい可愛らしさと力強い線の安定感、水の流れのように伸びやかな感じがする整った絵。逆に陰影を生かした恐怖の表情もかなり強い。
 闇の使い方、描かないことによる表現はかなりうまい。体がとてもきれいで説得力があり、首や手、体などに演技させることもうまい。
 愛情の表現もとてもうまい。

 デビュー作では明るめのホラーに見せかけて最後で地獄に突き落とす鮮やかな仕掛けを見せた。単純な一本道ホラーではなく、怖い展開と見せて救われたり逆に救われると見せて背筋を寒くさせたりと技巧を尽くす。


代表作

2007「鏡の中のアリス」
 放課後遅くまで残っていると、血まみれの女の子の幽霊がさらいに来る…学校前の横断歩道で事故にあった少年の霊…そして放課後四時四十四分、大鏡の自分に自分のケータイの番号にかけると…
 こわがりだけど意地っ張りなありすちゃんは、勢いで鏡の噂をためすことに。
 その放課後名前を呼ばれた直後、突然知らない男の子に手をつかまれた。彼、ヒロキは同じく「アリス」と呼ばれる、有子(ゆうこ)という女の子と間違えたらしい。
 そして鏡の噂を試してみたら、本当に鏡の中の自分とつながった。そのオバケはそれほど怖くない雰囲気だが、次の日から友だちが次々と姿を消す。
 そしてヒロキが、友だちをさらった鏡の中の少女に強く話しかける…有子の恋人だった彼は横断歩道で事故にあい、そこにかけつけた有子は階段で転んで死んだ。それは五年も前だが、幽霊の噂を聞いて中学生のふりをして確かめにきたのだ…

2008「桜色奇談」
 バスケ部の田中くんにひとめぼれした林眞夏(まなか)ちゃんはついに告白し、「いいよ」と言われた。
 浮かれている彼女だが、なぜか複数の女の子が一緒。
 それで辛くなったときに、前から話を聞いてくれた天野くんが「つらくなったらいえよ」と励ましてくれる。
 そして男女混合多数でのカラオケ大会になり、そこで失敗して浮いてしまう。
 そのときに学校の怪談を思い出す…「怨霊清女伝説」。人気者の男に恋をし、相手にされず周りの女からも嫌がらせをされて死んだ怨霊の伝説…
 そうはなりたくない、と思っているとき、田中くんが「あそびにきまってるじゃん」と言っているのを聞いてしまった…天野くんが抱きしめてくれ、そしてカツラで変装して怨霊清女のふりをして田中くんに嫌がらせをする。
 その嫌がらせは失敗したけど…

2009〜「蜘蛛女」単行本二巻まで発売中。
 古い洋風家屋に住み、人の頭蓋骨を皿に乗せてナイフとフォークを置く少女…その周囲にいる大型の蜘蛛…少女は微笑を浮かべて「つぎの主演女優はこの子にしようか」と、顔が浮かぶ本を閉じ、出かける…

「悪魔アプリ」単行本発売予定。
 ドジだけど一生懸命な保健委員の古賀布由子ちゃんに、どこか現実ではない世界の、少年が…
 布由子ちゃんは、ふと出会った男の子にまた会いたくて、調べられないか…と思っていたらスマホに入っていた無料アプリ、「悪魔アプリ」を見てしまう。
 そのマスコットキャラは、冒頭の奇妙な少年に似ている…
 そのアプリは、少なすぎる情報をもとに見事に目的の男の子を探し出してくれた。さらに、彼についての情報まで、ネットのコメントどころかメールまでハッキングして伝えてくれる超絶便利ぶり。


今までの実績、現在の地位

 近年では異例のホラーでのデビューで注目される。かなり登場頻度は高く、2009年からセンターカラーで増刊連載。一度連載は完結したが、同作品で再開した。

「地獄少女 閻魔あいセレクション 激こわストーリー 恐」に参加、単行本デビュー。

 その後もホラーオムニバス単行本の中核であり、本誌にもたびたび出てくる。


個人的な感じ、思い出

 デビュー作には見事にしてやられた、さすが、というのが正直なところ。
 甘い絵柄と話の展開に見事にだまされ、血が凍るような思いをした。
 そのデビュー作がその後の作品にも、「叙述トリックの名手」と知られるミステリ作家の作品のように何が来るのか構えてしまうことでうまい味付けになっている。

 愛情の深さがとてもいいと思う。その愛情の怖さも含めて、いろいろな表現を試してほしい。
 深すぎる愛情ゆえに破滅する、やや大人の話にもチャレンジしてほしい。神話伝説のオリジナルで怖いバージョンのコミック化もいいと思う。

 増刊連載はとても嬉しかった。それだけの、いや本誌連載の実力だってあると思う。
 その連載がまた再開されるのは、嬉しいけれどとことん本誌に空きがないのか、と非常に残念。本誌に場所がないのなら、他にもっといい活躍の場があっていいと思う、本誌連載陣以上の実力があることは間違いない作家だ。