新井葉月(あらい はづき)

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作風概説

 詩的で淡く、中学生当時の空気を脂を抜いて切ない感情だけ味わうことができるようだ。絵そのものはしっかりしているが、どこかぼやけたような行書体で真綿の柔らかさや綿菓子のはかなさを感じる。しっとりした簡素な線がとても目に優しい。描写は非常に正確で、弓道シーンの経験者チェックも満点。
 空気そのものに不思議な匂いがあり、それがたまらなく読者を引き付ける。手を使った感情表現は他に比較対象がいないほどうまい。

「なかよし」、否「りぼん」「ちゃお」を合わせても読み切りの上手さは他の追随を許さない。微妙な感情表現、構成の妙、小道具やキーワードの使い方、すべてが素晴らしい。特にモブの会話を中心にしたユーモアも絶妙。セリフに空白を入れるのが特徴で、なんともいえない間になる。
 定番のリボンをつけた女の子の淡い感じはまさしく正統派。鮮やかに、そして自然に親近感とリアリティのある心理を切り取る。

白倉由美の影響がしばしば指摘される。一度発表したホラーは胸の底を崩すような恐怖だったものだ。


代表作

1989「はあと通信」
竹中先輩に憧れるいづみに進くんが双方の憧れの先輩の情報交換を提案。屋上で先輩のことを話しあうのはとても楽しい時間だけど、いつのまにか進と話すことのほうが楽しくなって。

1995「役立たずな神様」
縁結び神社の娘、寿恵と握手すると好きな人と両想いになれる。でも、自分とは握手できないから、細野くんには想いが通じない。その細野くんが頼みがあると。でも彼の恋の手助けなんて!表情がとても優しい。

1997「ひまわりの伝言板」
おさななじみの大介より背が高いのが悩みのつぐみ。庭のひまわりと同じく、いつも目で追いかけているけど、太陽と同じく遠過ぎて手が届かない。閉じ込められたひまわりの檻から何とか抜け出すために。切ない気持ちを見事に描写している。

1998「はちみつ白書」
ちょっぴり太めの琥珀が恋した武藤くん。実は彼も昔太っていて、それで去年のコートが着られないほどだった。ショーウインドーに写った影にダイエットを決意するけど。ラストがのたうち回るほどいい。

1999「水曜日のスケッチ」(原作:影山由美)
登校拒否の明里ちゃんが久しぶりに学校へ行った。声をかける人を拒絶し、図書室にかかる絵を見つめる…突然「けっこー気ぃあうとおもわん?」と話しかける男子。閉ざした心の中に強引に入ってくる彼…だが、彼が別の女性と抱き合っているのを目撃する。
 もう消せない思い。そして彼は無理矢理明里の家に誤解を解きに…明里は彼が難病にかかっていると知らない。言葉にできないような感動が体を包む傑作。

1999「この手をほしがって」怪我ばかりしている化学部の黒岩直樹先輩が好きな保健委員の和ちゃん。
 でも保健室以外に何のつながりもないから、手袋を編んで進学先を聞く決意をする。
 今日は化学部最後の日、最後のチャンス。先輩は何も言わせず、静かにアスピリンの原料、サリチル酸の白い粉末を見せた。彼は卒業後、アスピリンスノーが降る街へ行くことになっている…


今までの実績、現在の地位

 中学生でデビュー、素晴らしい感性で注目される。
 連載経験があるがレギュラーにはならず、本誌や増刊で最高の読み切りを描き続けている。短編集をあまり出さない「なかよし」だが、連載経験があるためか例外的に単行本が出ている。

 特に成人男子に熱狂的な、崇拝に近い固定ファンが多い。
 同人でもちびちび活動している。ホームページはないようだが、専門に近い掲示板はある。

 講談社X文庫ティーンズハート「あたしのエイリアン」シリーズ(津原やすみ)などの挿絵も担当。

 最近「なかよし」系の登場が少なくなり、双葉社が創刊した「COMIC HIGH!」に「少女生理学」で連載開始。「なかよし」から離れるかどうかは不明。


個人的な感じ、思い出

 胸が震えるような、だが男性は決して完全には理解できない圧倒的な深みのある少女の世界に魅せられている。「わたしのシューティングスター」や「はちみつ白書」のラストは自爆ものだった。
 これからも名作を描き続けて欲しいが、「なかよし」にとどまって欲しい思いと制約が少ない外でももっと活躍して欲しい思いが葛藤している。

 今までの読み切りには古典の価値があるので、作品の文庫化を切望している。

 コミックハイで連載で読めるのはとても嬉しいが、「なかよし」が本当に手放すとしたら…あまりに惜しい。